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ケーブル比叡駅舎には、千日回峰行を二度満行した酒井雄哉大阿闍梨の写真が展示してあった。『一日一生』(朝日新書)という本は、氏の慈雨の言葉集である。この本を読む前は、厳しい行を二度も満行された方だから、頂点に登りつめた武道家同様、心身とも鋼と化しているのだろうと勝手に想像していたが、本から窺える氏の人柄が想像とあまりに違っていたので驚いた。
自然体の境地であろうか、角がなくとても優しい。難しくしているのは人間で、本来この世に難しいことは何もないのだと思えてくる。
『一日一生』の中にこんな内容のお話があった。 「常行三昧」は、九十日もの間、一度も横たわらずに、念仏を唱えながらお堂の中を回るという厳しい行である。始めて二日目で、立ち詰めのために血が下がり脚がむくんで、体が動かなくなった。九十日の僅か二日目にしてこうだから、絶望のあまりパニックに陥った。『山の中に逃げて、首吊って死ぬか……』とまで追い込まれた。
その時、師匠のミャンマーでの体験談がふと思い出された。
ミャンマーの「歩行禅」は「常行三昧」に似た行で、師匠たち一団はこの行で脱落者を続出させた。師匠はむこうの大僧正に助けを求めた。「呼吸だ」と大僧正。そして、呼吸と体の動きをあわせることでスムーズな動きになり、行を満行することができたという。
試してみる。息を吸う、吐く。呼吸に意識を集中し、姿勢を保ち、発声を行う。そうすることで、気持ちが静まり、声に生気が取り戻され、心が落ち着いてきた。なにかしらんが、もしかして自分の体の中に仏様がいるんじゃないかという気持ちにさえなった。それが呼吸の大きな力を知った瞬間だった。 長距離を走るときにも当てはまるりそうだ。つらくなってもうこれ以上走れないというとき、呼吸に意識を集中させて全体のリズムを取り戻す、という試みのあることを忘れないでおこう。
試走したとき、比叡山につけば、自販機や土産物屋があちこちにあり、エネルギー補給できるだろうと思った。しかし、期待は大きく外れた。京都一周トレイルのコース上には、この最初のケーブル比叡駅を除いて、自販機は全くない。お堂が建ち並ぶだけの、遊び心のない所である。ただし、少し外れた奥比叡山ドライブウェイの沿道にはレストランがあるらしい。
大原まで降りるとコンビニ(ファミリーマート大原三千院店)がある。
▼北山セクションその1(比叡山→大原)
延暦寺のなかを抜けるルートは、折れて曲がって分かれているので、トレイルの標識を見落とさないように特に注意したい。
一般に「比叡山延暦寺」と言われるが、「比叡山」という山の頂に「延暦寺」という寺があるのではない。まず比叡山は、大比叡(848m)、四明ヶ岳(838m)、三石岳(676m)といった峰々の総称である。延暦寺は、比叡山山域を境内とする山岳寺院で、「三塔十六谷」に散在する寺院堂宇の総称である。「三塔」とは、東塔、西塔、横川の三区域のことで、「十六谷」とは塔内の堂宇の集まる場所を指す。
京都一周トレイルは、西塔の傍らを抜けていく。
長い石段を降りて、突き当たった所が浄土院。この奥に最澄御廟がある。浄土院を回り込んでしばらく行くと、道からそれて小さなお堂の前に出たら、それが椿堂だ。
行き止まりに見えるが、手前左の細い道がルート。
▲9:46 常坐三昧の修行の場である椿堂
上に書いた「常行三昧」が九十日間ひたすら歩き続ける行なのに対し、座禅して座り続ける行が「常坐三昧」で、椿堂はその修行の場である。九十日間ひたすら、と言っても、食事とトイレと少しの仮眠は許される。
マグロやカツオなど赤身の魚は泳ぎ続けていないと死ぬことから、しょっちゅう走っている人を指して、彼はマグロだカツオだと揶揄するが、もし「常走三昧」という行があれば、人間に可能だろうか。
以前、瀬古利彦さんの本かなにかで、瀬古さんが「水と食べ物さえ与えられたら、いつまでも走り続けることができる」と書かれていたのを読んだ記憶がある。あそこまで鍛え上げた方なら可能なようである。また「間寛平アースマラソン」も、一日に占める走る時間は短いだろうけど、二年半におよぶ挑戦だというからこれも相当な難行に違いない。
奥比叡ドライブウェイに沿って、比較的なだらかな峯道が続く。躓かせるトラップのように路面に木の根が出ているので、転びやすいところ。しばらく進むと「玉体杉」という場所に出る。
▲10:09 見晴らしの良い玉体杉
右にある石は、どうぞ座ってくださいとばかりに置かれているが、遠慮すべきところ。展望のよいこの場所に置かれたこの蓮台は、回峰行者が京都御所にむかって遥拝する神聖な場所なのである。
この先、きつい登りの2連発に見舞われる。横高山(767m)と水井山(794m)である。高低差でみると、さほどきつそうには見えないのは距離が短いから。でも傾斜は急できつい。渡されたマップにも、ここがコース一の急登と書かれてある。
膝に手を立て喘ぎつつ、足の置き場を探し求めて、一歩一歩と登りつめ、横高山の山頂に辿り着いた。
▲10:15 横高山への急登
続いて水井山への登りが容赦なく襲いかかる。このあたりが前半の正念場。くじけると大原の中間地点で気持ちが切れてしまうので、無心で乗り越えないといけない。
仰木峠を越してその先、大会コースは、19番標識を真っ直ぐに進んで、京都一周トレイルと別れて東海自然歩道のコースを取る。
周囲が開けて畑が見えた。大原に辿り着いた。 <つづく>
▲11:07 同会自然歩道から大原の山里へ
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Last updated
2010.09.24 09:46:28
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