テーマ:試写会で観た映画の感想(680)
カテゴリ:観た映画のこと
試写会で『崖っぷちの男』を観てきた。
『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』から印象に残る面白いシーンを余さず抽出し、その面白さを言葉で分析し、同じ言葉でいい表せる面白いであろうシーンを創り、つなぎあわせて一編の映画にしたら、ちょうどこんな作品になるんじゃなかろうかと思える映画だった。 しかし、公園の一画に絵になる風景を創るため水車小屋を配置しても、なんら情緒を感じさせないばかりか、とってつけたような納まりの悪さが鼻につくだけなのと同様に、ただはめ込んだだけの面白いシーンでは、着映えのしない借り着の感が否めない。個は全体と、全体は個と密接に関わり合って互いの表現を成す。水車小屋の周囲には、一面のそば畑が必要なのであり、背景には清水を集めてくる尾根筋と谷筋の際立った山が必要でなのであり、そして全体的には、それ以外になにもないというほっちらかしの寂しさが一帯に広く漂っていないと、水車小屋は引き立たないのである。 ストーリーとそのシーンの必然性が弱いから、面白いシーンがどれもがいまひとつ精彩を欠いている。 事件の発端でもあるダイヤの偽装強奪事件。この過去の事件は、最後まで明るみに映されることなく、ほぼ最後まで不透明なままにされる。観客は、崖っぷちの男がなぜ煮え切らない態度しか見せないかの理由を半分知って、半分はよく分からない。この半分欠けた感じは、リッジに立つニック(サム・ワーシントン)の足元の危うさに重なって、関心をラストまで導いてくれた。 登場人物の誰をも魅力的に描けていないにもかかわらず、最後まで緊張感を失わせなかったのは、謎を少しずつ明らかにしていくプロットの巧さのおかげだと思われる。ひとりひとりをもっと丁寧に描ける原作は、きっと素晴らしいに違いない、という感じはする。 登場人物に魅力がないと書いたが、なかでも一番魅力に欠けていると思うのは、主人公ニックのサム・ワーシントンである。代表作はアバターとされているが、アバターでは、身動きできないカプセルに入っていたのが主な役だった。今回も身動きできないリッジに立っていたのが主な役だ。自殺志願者らしい憂さを名演していたのかもしれないが、見ていてどうも冴えない。突入されてから決死のダイブにいたるまでのアクションで少しは巻き返すが、積み重なったマイナスイメージの方が大きいので、少なくともヒーローらしくない鈍重な感じが最後まで抜けきらなかった。 それと、気になるのはダイヤ王の顛末である。金の力で、権力も友情も捻じ曲げてしまうあの奴が、その後やすやすとお縄にかかるとは思えない。買収の手腕も相当のものと予想される。 続編の布石のために、あんな中途半端な決着にとどめたのだとしたら、星はゼロ個だ。 と書いて見直したら、けちょんけちょんである。まぁ本作はそれなりに楽しめるので、自分がいかに辛口かがよくわかった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.06.22 12:36:39
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