みかんのすじ恋は みかんを食べるときと似ている。 ひっくり返して 中心から外側に向かって なかの実に爪を立てて傷つけないように 丁寧に皮をむく。 そして 皮をむくよりもずっと馬鹿丁寧に 白いスジをはがしていく。 そんなに真剣に そこまで取らなくてもいいのに、 というほどに。 だんだんと スジごと食べたほうが躰にいいことを知り、 あまりに真っ白でないかぎり、 皮をむいたままで食べるようになる。 恋は みかんを食べるときと似ている。 ***** 私が独りでも 十分にちゃんと生きていることを あなたに伝えるのは 伝えるあなたがいるから 私が独りでも 十分にちゃんと生きていられるから ***** キッチンのお湯がわいて あなたのことを想い出す。 おかしいでしょう。 なぜか あなたが急いで火を止めに立ち上がってくる気がする。 私は あなたがそばに立って、 ガスの火を止めてくれるのを しばらく待っている。 沸騰したお湯の底から 大きなマグマのような泡が 次々と浮かび上がってきて、 あなたの不在を私に知らせる。 そこで初めて 私ははっとしてあきらめの微笑みをこぼす。 そして 自分の手で火を止める。 ねえ。 火を止めても すぐには泡が消えないのを知ってる? 保ったままの熱が 余韻にしては強すぎる勢いで 沸騰を続けるの。 おかしいでしょう。 やっと火の熱さから解放されたはずなのに、 まだ沸騰したがってるみたい。 キッチンで 私は泣きそうになる。 ジャンル別一覧
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