065052 ランダム
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ネオリアヤの言葉

ネオリアヤの言葉

幸せな朝に



朝方、まだ浅い眠りの淵に漂う二人。
私は、あなたの背中に躰を寄せて、
眼を深く閉じる。
手を、あなたの躰にまわして、
朝を安心して迎える準備をする。
天井を向きなおったあなたの左手に、
私は、自分の左手を重ね、指と指を絡めた。
あなたの指が少しだけ動いて、
私の手の温もりを迎え入れてくれる。
私は瞼をとじたまま、そっと微笑んで、
あなたの腕の、まだ暖かい体温に鼻をくっつける。
いつかまた目覚めたとき、
あなたは私を頭ごと抱き寄せた。
そしてまた目覚めたとき、
あなたは私の胸に、まるで子供のように顔をうずめた。
躰をブランケットの下で丸めて。
小さな、いろいろな呼吸が私の心に届く。
私は、幸せな朝に、
瞼を閉じていられるだけの勇気を残して、
少しだけ苦しくなる。
あなたの冷たい髪を両手で抱きしめて、
私はあなたの頭のてっぺんに静かに何度も
唇を寄せる。
悲しくなんかないのに、
胸がつまりそうになる。
私が朝方、タオルケットの下でだけ指を絡ませるのは、
心が本当は弱いから。
そして、私がその弱さを初めて露呈した朝以来、
あなたは私の躰にしがみつくようにして息をひそめ、
朝を迎える。
わたしたちは、愚かにも、
その朝の短い、眠りの淵で意識を浅くさせたままの時間にだけ、
まぼろしか夢のように、弱さを見せあう。
外見のかっこよさも、見せかけの大人な態度も纏わずに、
ただ無言で、刹那さだけを行為にして表す。
もしかすると、
わたしたちが似ているのは、そこのところなのかもしれない。
わたしたちは、とても愚かな人間なのかもしれない。
人の弱さも欲望も、素直さも全て受け容れたふりをして、
わかったふりをして、その実際、
真実は怯えている。
けれど、そんな朝の行為を、
二人はベッドを出た瞬間に忘れてしまう。
再び装いの下に潜ませ、
まぼろしか夢のせいにして、
優しく微笑みあう。
それも嘘ではない。
わたしたちは、装う外見も言葉も似ているかわりに、
露呈する弱さもそのタイミングも、
悲しいほど似ている。
私は、自分で想像しているよりも、
あなたのことを愛しているのかもしれない。
意識のもっとずっと奥底で、
悲しみも愚かさも、全て抱えたあなたを。
自分を慈しむのと同じように。
その幸せな朝に。




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