2004/12/09(木)13:52
本質とは何か
いつもの中華屋へ昼ご飯を食べにでかける。
ボスは例によって、その日のランチメニューに無い料理を無理矢理に注文しようとする。
「これしか食えるもんがねぇんだよ!」
と言い切るボス。
いや、一応普通の料理店なんだから、食えないものは出してないと思うが・・・。
「中国人は普通食わないものも平気で食うからな!何でも食うだろ、あいつら!」
いや、他のメニューもごく普通の料理だしw
確かに中国料理はありとあらゆるものを食材に使うという点はわかるが、この店で出している料理には飛び抜けてゲテモノ的な料理はないはずだ。
だがここでつまらん議論をしても始まらない。
「確かに、なんでも食いますねェ」
と軽く賛同をあらわしておいた。
ボスは満足気に、
「牛も食うだろ、豚も食うだろ・・・」
それは日本人も普通に食ってるぢゃん・・・。
まあ、深く突っ込むのはやめておこう。
「毒があるもんじゃなければ、だいたい食いますよねェ」
そう言って流してしまおうとしたところ、
「いや!毒のあるものも食う!」
断固としてボスはそう主張。
まあ、考えてみれば日本だって毒のあるフグを食べたりするわけで、危険な部位を取り除いて食材とするものも多々あることだろう。
毒のあるものでも、毒さえ取り除けば美味しかったりするわけで・・・。
しかしボスの言ってることはそんなことではなかった。
「毒を食った後、漢方で解毒するんだ!やつらは!」
何のためにそんなことをするんだ、中国人(><;
つーか、そんなことしねーだろw
それ以上言うと差別的発言で一層対日感情が悪化しますぜ、ボス・・・。
むしろ生で魚を平気で食っちまう日本人のほうがスゴイ気もしないでもないし。
そんなわけで、ボスは今日もメニューにない定食を注文した。
だが中国人の店員は差別的発言に頭に来ていたのか、
「今日のメニュー違いますね」
果敢に言い返したのである!
いまだかつてボスの強引な注文に逆らった店員はいない。
どうなることかとヒヤヒヤしながら見守っていると、
「でも作れるんだろ?!」
ボスは畳み掛けるように問い掛けた。
店員は、
「は、はい。できます・・・」
無残にも一撃で迎撃されてしまった。
最後にせめて一太刀なりとも与えようと思ったのか、店員は足を止め、
「でも、時間かかりますよ?」
そう言ってメニュー取り下げを画策したが、
「かまわぬ!」
ボスのきっぱりとした返答に、すごすごと厨房に引き下がるしかなかった。
いつものことながら恐るべし、ボス。
ちなみに俺はきちんとその日のメニューにのっとり、中華風焼肉、とやらを注文。
同僚は同じく、タマネギと豚肉炒め、を注文した。
待つことしばし。
お昼の混雑で、少々料理の到着が遅い。
「これは俺の料理じゃなくても時間かかりそうだな!」
とボス。
ましてや“時間がかかります”と宣言されてしまったボスの料理は、一番最後に回されてしまう運命にあるのだろうか。
いつまで経っても料理が出てこなかったら、そのときボスの怒りのパンチはどこに飛ぶだろうか。
ドキドキしながら待っていると、
「お待たせしました」
店員が料理を運んできた。
(とりあえずゆっくり食って、ボスの料理が来るまで食事を引き伸ばすか・・・)
と、俺と同僚は心の中で考えた。
しかし、そんな心配は無用だったのである。
店員が持ってきた料理は、なんとボスの頼んだ料理だったからだ。
“時間がかかります”と言ってたくせに、誰よりも早く作ってくるとは・・・。
ボスの強引なオーダーは、厨房の料理人までをも震え上がらせ、他の注文をそこのけにしてまで優先して作らせるに至ったのか・・・。
あるいは単にこの店の料理順がいい加減なだけなのかw
・・・おそらく後者であろう。
そして次に来た料理は・・・。
「お待たせしました、中華風焼肉の方」
俺の注文した料理だ。
店員は俺の前に料理を置いていった。
中華風焼肉・・・タマネギと豚肉が炒めてあって、わきにキャベツの千切りが盛り付けてある。
焼肉っていうか、炒めもののよ~な気が・・・。
と思ってハッと気付く。
(同僚の注文した料理は、“タマネギと豚肉炒め”ではなかったか!)
今目の前にあるこの料理は、まさにタマネギと豚肉炒め!
店員め、中華風焼肉とタマネギと豚肉炒めを間違って持ってきやがったな!
料理を同僚に渡し、俺は焼肉の到着を待つか・・・。
と、そのとき、
「お待たせしました、タマネギと豚肉炒めです」
店員がやってきた。
そしてテーブルに置かれた料理は・・・。
タマネギと豚肉が炒められたもの・・・。
まさに“タマネギと豚肉炒め”であった!!
“中華風焼肉”との違いは、キャベツの千切りが付いているかいないかの点に尽きていた。
それはつまり、焼肉の焼肉たるゆえんはキャベツが有るか無いかがポイントであるということだ。
中華風焼肉からキャベツを取り除くと、それはもはや焼肉ではなく、ただのタマネギと豚肉炒めに過ぎなくなる。
たとえ肉が残っていても、だ。
焼肉のアイデンティティーはキャベツに凝縮されているという、わけのわからぬパラドックスがそこにあった。
「だから言っただろ、やつらは何でも食うって!」
勝ち誇ったようにボスが言ったその言葉の意味が、俺にはさっぱりわからなくなっていた。