2007/09/12(水)09:04
松本に「おきな堂」あり!?
サイトウ・キネン・フェスティバルのあと、せっかくだから松本の街もちょっと歩いてみようと思った。松本城など見て(それについては明日)、ぶらぶら歩いていたら、由緒ありそうな喫茶店風のお店が目に留まった。
ものすご~くレトロな雰囲気で、「時代おくれの洋食屋 おきな堂」とある。「洋食屋」というだけでそもそも十分に時代おくれ感に満ちているが、さらにそれに「時代おくれ」とみずからくっつけているのがスゴイ。ただ、メニューを見ると、「手打ちパスタのカルボナーラ」なんかがあるらしい。他にも洋食メニューがあるなか、カルボナーラのためだけに手打ちパスタを作るのはかなり大変だと思う。そんな効率の悪い(?)ことをやってるというのに興味を惹かれて、夕食はここでとることにした。
店内に入って、ビックリ。相当趣味がいい! 白壁に古い写真が飾られ、天井からスポットライトで照らしている。古い洋館を思わせるような高い天井のメダイヨンから真鍮のシーリングファンが下がり、ペンダントライトの傘は時代がかった銅色。ウェイターさんたちは蝶ネクタイ。わざわざチャップリンのビデオをテレビで流している。シートはモスグリーンのレザー風で、ゆったりくつろげる。
ここまで徹底した上質のレトロ空間を演出してる店というのは、東京でもめったにお目にかかれない。「いいじゃない~、このお店~」とすっかり気に入って、ふと壁に目をやるとなんといまどき、お客が書き込める落書帳がある!
めずらし~とさっそくペラペラめくってみる。走り書きのようなのが多いが、中にはイラスト付きの本格的(?)なものも。
カワイくて、思わずカメラにおさめてしまった。イラストつきのメッセージの最後に添えられた、「コーヒーと一緒に出たビスケットは、口直しですか?」という質問にお店の人が、鉛筆で「クッキです。手作り」と答えて書いているのがなんともほのぼのとした雰囲気。
間もなく水が運ばれてきた。おお~、なんだ、このヨーロッパの静物画に出てくるような水差しは。またまた気に入って写真をパチリ。
これで優雅に、好きなだけお水をいただける。お水だけでこれだけの贅沢感を出すところが… ここのオーナーはタダモノではないな、という予感。
ところが、残念なことに、カルボナーラは「売り切れ」だという。ガ~ン! 午後6時半ですでにないということは、ランチでしか食べられなかったということだろう。夕食時にすでに看板(?)メニューがなくなるなんて… トホホな気分で、カレーに変更。
ヒレカツカレーにしてみたのだけれど、これがことのほか(なんて言ったら失礼か)美味しくて、またまたビックリ! カツにまぶされた細かなパン粉の衣がサクサクで感動した。カレーはさらっとしたルーにスパイスがよく効いている。マッシュルームの大きさは特筆モノだ。そして硬めに炊いた上質の日本米。安っぽさが全然ない味だ。あとで気づいたのだが、「手作り」「化学調味料等ゼロ」だと書いてあった。確かにそんな味だ。しっかり丁寧に作った王道の洋食。これならきっとカルボナーラもオーソドックスで飽きのこない、レベルの高い一皿だっただろう。カルボナーラは別に高級なものではない。どちらかというと家庭のパスタだが、シンプルなだけに、実は安定して上手に作るのは難しいのだ。う~ん、残念、次に松本にきたら、ソバではなくて、ここのカルボナーラを試してみよう。
食後にコーヒーを頼んでみて、またまたまたビックリ。お、おいし~じゃないの! これは相当のレベルだ。チェーンのコーヒーショップの資本力に押されて、本当に美味しいコーヒーを出す個人レベルの店を探すのが難しくなっている東京の現状を考えると、こんな素敵な雰囲気で、本格的なコーヒーの楽しめる店がある松本市民は実は恵まれているのかもしれない。
いや、松本市民のレベルが高いのかも。地方のハイレベル味の店というのは、「値段が高い」といわれて案外やっていくのが難しくなる。個人経営の店はなおさらだ。東京に比べて地方の人は値段に非常にシビアだ(もっと率直にいえば、みんなビンボーだ)。「おきな堂」は昭和8年からやっているという。地元では「ぼっちゃんが来たがる店」という話もあるようだ。オーナーのコダワリはもちろん大切だが、それを理解して、それに見合う対価を払ってくれるお客がいなければ、よい店が長く生き残っていくのは不可能だ。よいモノを支持してくれる客層のない土地は、結局個性のないチェーン店や安いだけの店ばかりになってしまう。
コーヒー豆は「ジャン・ネット氏の畑の無農薬珈琲豆(ブラジル産)」だという。もともとブラジルは好みだが、それにしても、せっかく冷やして出してくれた生クリームを使う気になれないぐらいストレートの味がよかった。
エスプレッソもすこし焦げたような独特の風味のある個性的な味。シナモンクッキーがついてくる。強く効かせたシナモンの風味と硬い歯ごたえはドイツを思わせるクッキーだった。これも本格的なクッキーだ。すべてに手抜きがない。本当に素晴しい店だと思う。「たまたま」入っただけに、感動も大きかったのだろう。すっかりファンになってしまった。カツカレーagainかカルボナーラか、問題はそれだけだ。