Mizumizuのライフスタイル・ブログ

2008/12/24(水)14:32

「安藤・浅田選手には勝たせないぞ」ルールは、いかにして作られたか

Figure Skating(2008-2009)(90)

素人のファンにまで採点の異常性が知れ渡った今季のフィギュアスケート。お手つきしたり、着氷したあとオーバーターンしたり、目立ったミスをした選手の点が案外高かったり、特に目立ったミスのない選手の点が異様に低かったりする。 Mizumizuブログを辛抱強くお読みの読者ならもうわかったと思うが、諸悪の根源は「回転不足判定によるダウングレード」にある。これが今季から乱用ともいえる厳しさで猛威をふるい、見た目にまったくわからないちょっとだけ回転が不足しているジャンプまでジャンジャン引かれている。 いうまでもなく、ダウングレード判定が怖いのは、その減点が苛烈なことにある。お手つきや着氷時のオーバーターンはGOEだけの減点になる。ところが回転不足判定されると、基礎点がその下のジャンプの点に下げられたうえで、GOEでも引かれてしまうから、ダメージが大きくなるのだ。3回転ジャンプの点が大きい現状では、ダウングレード判定は選手にとって致命傷となりかねない。 解説者は思わず、「ちょっとでも足りないとすぐダウングレードされますから」と言っている。ここに誤解が生まれる。では、「ちょっとでも足りないジャンプは本当に全部ダングレードされているのだろうか?」。 実は、違う。 たとえば、グランプリ・ファイナルの中野選手のショートの3ルッツ。あれは肉眼でもわかるほど、回転が足りずにおりてきていた。スロー再生ではもっとハッキリわかった。ところが、ダウングレード(3回転ジャンプの基礎点が2回転ジャンプの基礎点に下げられること)されずに、GOEでの減点のみに留まった。あれでダウングレードされていたら60点にのせることはできなかった。 3ルッツがダウングレードされると 3ルッツ基礎点6.0点→2ルッツ基礎点1.9点 と、なんと4.1点も失うことになる。ここからさらにGOEで引かれるから、せっかく3ルッツを跳んでも、1点ちょっとの点にしかならないのだ。中国大会のキム選手のショートはこれをやられた。「とても気分が悪かった」とキム選手が韓国国内向けのプレスに語っていたが、ダウングレード判定はショックが大きいのだ。転倒したわけでもなく、着氷で目だって乱れたわけでもない、もちろん2回転になったわけでもない――それなのに、減点が大きすぎるからだ。 浅田選手は昨シーズンからセカンドの3ループをみずから失敗することが多くなり、今季の初戦でも1ループにすっぽぬけてしまった。それを浅田選手は、「失敗したくないという気持ちに負けた」と自分の弱さのせいにしたが、なぜそんなに「失敗が怖く」なったのか? 回転不足判定が厳しくなった時期と浅田選手のセカンドの3ループ自爆の時期はぴったりと重なる。今季の浅田選手の初戦は遅かった。フランス大会の時点ですでに安藤選手のセカンド3ループが4回のうち1度しか認定されず、昨季よりさらに認定が厳しくなったのは浅田選手も気づいていたはずだ。 そして、キム選手。中国大会でほとんど決めたはずの3ルッツがダウングレードされた次の試合は、グランプリ・ファイナル。ここで彼女はショートでもフリーでも同じような3ルッツの1ルッツへのすっぽぬけを2回もやった。まさしく、浅田選手のセカンドの3ループと同じパターンだ。 「キム選手は精神力が強く、浅田選手は弱い」などと言う人がいる。だが、それが多分にルール改正とかかわっていることを指摘する人はほとんどいない。浅田選手自身、「これまでと基準が全然違う、イジワルとしか思えない厳しい判定をいきなりされて、ショックでした」なんてことは、決していわない。そこが彼女の凄いところだ。実際には、その前のシーズンまでは何も言われなかった彼女の武器(それがちょっとキズのあるものだったのは、確かだ)に、どんどんイチャモンがつき、ジャンジャン減点されていたのだ。昨季はエッジ、今季は3ループ(昨季も厳しかったが、今季はもっと厳しい)。 選手が何もいえないからこそ、周囲が理解してあげるのが当然なんじゃないんですか? ところが、日本のメディアときたら、浅田選手や安藤選手でさんざん商売しているくせに、この2季にわたって彼女たちがどれほど不利な状況に追い込まれたか見ようともしない。ルールが変わって、ジュニア時代から同じジャンプばっかりしてるキム選手が突然、異様なほど強くなってしまった。なのに、マスコミは「完成度のキム・ヨナ」ともちあげ(本当は、ジュニア時代から毎年毎年、毎試合毎試合、同じジャンプ構成できてるのに、ほとんど1度もジャンプミスなくショート&フリーともまとめたことがない)、浅田選手との「ライバル対決」で煽り、キム選手は「表現力が浅田選手より優れている」などといまだにいう「識者」も多い。グランプリ・ファイナルではたまたま、演技構成点がちょっとだけキム選手のほうが高かった。日本で日本選手がこれなら「地元へのサービス」などと自国の選手を貶めるようなことを書くのが日本のマスコミだ。ところが韓国開催で演技構成点がちょっとだけ高く出たキム選手に対して同じことを言ってるメディアはほとんどいなかった。それどころか、このわずかな差をとらえて、「浅田真央は表現力に課題」説(←完全にこれが間違いだということは、昨シーズンから拙ブログで実際の点をあげて説明してる)がまた復活するありさま(呆)。 キム選手のホームだったのに、演技構成点はわずかな差しかなかった。ならば、「地元開催で圧倒的にキム選手が有利だったにもかかわらず、演技構成点での得点は僅差に留まった。それほど浅田選手の表現力の高さが認められているということだろう。しかも、ファイナルまでの時間があき、調整の時間がたっぷりあったキム選手に比べ、2週間に1度のペースで試合を3回続けなければいけない浅田選手は体力面でも不利な状況におかれていた。にもかかわらず、トリプルアクセル2回という女子では超絶技巧のプログラムを見事に演じきった」と書くのが本来じゃないのか。ライザチェックの点をみてもわかるとおり、演技構成点など、一番どうにでもなるテキトー点なのだ。ホームなら高く出やすい。ライバルの本拠地なら下げられやすいそれだけのことだ。ちなみにキム選手、浅田選手のこれまでのフリーの演技構成点はキム選手=60.00点、61.68点、60.72点(ファイナル)浅田選手=58.88点、62.24点、59.60点(ファイナル)いずれも、点の拾われ方の誤差程度の僅差なのだ。最初の58.88点というのは、フランス大会での「凄すぎる自爆」のとき。ジャンプを次々失敗し、それでも59点近い点をもらっている。いかに表現力の評価が高いかこれだけでもわかろうというもの。ファイナルではキム選手がホームだったのに、2人の差は1.12点しかない。これをもって「表現力ではキム選手のほうが上」などというのは完全に間違っている。もっとも格式の高い昨季の世界選手権でのフリーの演技構成点は浅田選手60.57点、キム選手58.56点で浅田選手のほうが高かったのだ。トリプルアクセルで大コケし、技術点でキム選手に負けた浅田選手が、ショートとの合計点でキム選手を上回ったのは、この演技構成点の評価のおかげなんですよ。これはMizumizuの印象でもなんでもない。数字が示す事実だ。それをまだ自分の好みや思い込みで、「キム選手は浅田選手より表現力が優れている」などとテレビでさかんに宣伝する人がいる。いいかげん、事実に反することを放言するのはやめてください。 日本で出版されているフィギュア関連の雑誌は、こぞって浅田選手のスパイラルを表紙の写真に使う。韓国紙も浅田選手のスパイラルの写真を記事に載せていた。浅田選手のスパイラルは本当に、世界一美しい。単に柔軟性だけならジャン選手のほうがまさっているかもしれない。だが、すらりとした脚の長さを含めた総合的な美しさなら浅田選手にかなう人はいない。一方キム選手のほうは、ポーズを決めて一瞬静止したときの写真が多い。彼女が顔の表情や腕の表現を含めたポーズに美しさがある選手だからだ。だが、どちらがフィギュアにしかない表現ですか? よく考えてください。 まったく信じられない。繰り返すが、キム選手は非常に素晴らしい選手だ。だが、浅田選手はもっと素晴らしい選手だ。ルッツ、セカンドの3トゥループまでは跳べる選手はこれまでもしばしば出ていた。だがセカンドに3ループを跳び、かつ3アクセルまで跳べる選手は伊藤みどりしかいなかった。さらに伊藤みどりにはない長所も兼ね備えているのが浅田真央という天才スケーターなのだ。キム選手が強いのは、そのトップ選手なら跳べるジャンプに過剰ともいえる加点がついているから。つまり「加点制度」というルールが彼女に味方しているのだ。さらに2年越しで、ルールは「難しいジャンプに挑戦しないキム選手」に有利になった。それでもなお浅田選手はキム選手に勝っている。ほとんど奇跡みたいなことだ。今回は完全アウェイの敵地でトリプルアクセルを2度完璧におりた。新聞は「最後は暖かな声援」なんて、むりやり韓国をヨイショするが、あのキム選手オンリーマンセーの雰囲気がそんなものでしたか? あそこまで異常な雰囲気の中で戦い、勝利した自国の選手をなぜ手放しで賞賛しないのだろう?  現実問題として、「安藤選手が世界女王になったとたんに、wrong edge違反を取って安藤選手のジャンプをボロボロにし(安藤選手も明白なフリップの不正エッジをもっていた。ルール改正が安藤つぶしだと見抜いたモロゾフはすぐに矯正に入ったのだが、間に合わなかったのだ)、浅田選手のルッツを減点しまくり」、さらに翌年これらの逆境をはねのけて浅田選手が世界女王になると、さっそく「回転不足判定を異常に厳しく」してきたのだ。これで安藤・浅田選手のセカンドのトリプルループは武器どころか足を引っ張るものになり、安藤選手が情熱をかたむけた4サルコウもほぼ認定は無理になった。実際、浅田選手はNHK杯、グランプリ・ファイナルのショートと、2回非常に完成度の高いセカンドの3ループを跳んだが、角度をかえたカメラのスローモーションで回転不足が発見され、いずれも認定されなかった。 これが意図的な「安藤・浅田には勝たせないぞ」ルール作りでなくてなんだろう?  こんな露骨なことをしてくる国際スケート連盟は、だが日本のフィギュア人気に目をつけた商売には余念がない。オリンピックシーズンに入ってからの「団体戦」なんて、本気ですか? 本来ならメディアの取材もシャットアウトして、静かに調整に入る時期を試合で乱すことに何の意味があるだろう? バンクーバーで勝たせたくない日本の選手を余計な試合で疲れさせたうえ(うまくいけば怪我をしてくれるかもしれない)、カネ儲けもできる。まさに一石二鳥。こういうのに加担してるのが、カネ儲けに目がくらんだ日本人自身だというのが、また情けない。そして、「オリンピックの正式種目になることも期待されます」なんて、意味もないことをさも意味ありげに言われて、真央ちゃんが見られると盛り上がって押しかけるファン。「バンクーバーの前哨戦です」とかなんとか、的外れなウソをまことしやかに叫んで視聴率を稼ごうとする(であろう)テレビ局。 ため息。 <ため息をついたあとは、ダウングレード判定に話を戻します。続きは明日>

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