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さてさてため息をついたあとは、ダウングレード判定に話を戻そう。キム選手のセカンドの3Tについては、よく回転不足が「見逃されている」と非難される。今季だと、You TUBEで槍玉にあげられているキム選手のアメリカ大会でのショートとフリーの3F+3T(最初の連続ジャンプ)の3T。もし録画している方がいたら、再度見ていただきたいのだが、このときのキム選手の3Tはちょっとだけ回転不足だ。ことにフリーのほうはアメリカの放送局が足元を何度も何度もスロー再生してる(わざと?・苦笑)から、よ~くわかる。明らかに「着氷したあと氷の上でエッジが回っている」のだ。
このときのキム選手は回転不足判定されなかったため、GOEでも加点され(つまり3Tの回転不足気味の着氷にはGOEジャッジは目が行かなかったということだ)、大きな得点を稼ぎ出した。 「ちょっとでも不足したらダウングレード」だというなら、中野選手の3ルッツ、キム選手のセカンドの3トゥループはこの判定は不正もしくは見逃しということになる。 だが、そうとも断定できないのだ。 なぜか? Mizumizuブログをお読みの方ならわかると思う。「4分の1回転以上足りない場合にダウングレード」というルールの基本は実はずっと変わっていないからだ。 ダウングレードするかどうかを判定するジャッジは、スペシャリストを中心として基本的に3人、GOEで加点したり減点したりするジャッジはこの3人とは別に10人以上(試合によってかわる)。これだけの人数がかかわっているのだが、ダウングレード判定自体は基本的にスペシャリスト次第だということになる。 そしてこの少人数で行われるダウングレード判定こそが、選手にとって致命的になってしまうのだ。回転不足になる可能性は、難しいジャンプにチャレンジする選手のほうが高い。その典型が、安藤選手・浅田選手が強力な武器にしてきたセカンドのトリプルループ。これが「回転不足判定」されると、 3ループ基礎点5.0→2ループ基礎点1.5 と、いきなり4点も下がってしまう。ここからGOEでの減点がくるから、ほとんど点がなくなってしまうのだ。ルッツより基礎点が低い分、ダメージも大きい。 そして、この回転不足認定が、試合により、ジャッジにより、同じ選手に対してもバラバラ。たとえば、グランプリ・ファイナルの中野選手のショートの3ルッツにはえらく寛容だったが、フリーの3フリップその他には容赦がなかった。 そして、アメリカ大会のキム選手のセカンドの3トゥループ。実はMizumizuはグランプリ・ファイナルのキム選手の3Tも少し疑っている。特にフリーの2A+3Tの3Tは、角度を変えたカメラでスロー再生したら、実はちょっとだけ氷上でエッジが回っていたのが見えたかもしれないと思う。一瞬完璧に「ピタッ」とはエッジが止まっていなかったからだ。スロー再生は一方向からしか出なかったので、正確にはわからない。キム選手のフリーの3F+3Tのカメラの角度も、一番wrong edgeがわかりにくい左後方からだった。もっと真後ろか、あるいは左前方からだと、キム選手のフリップの踏み切りはちょっとだけアウトに入って見えることが多い。回転不足も角度によってそう見えたり見えなかったりするのだ。解説者がよく、「角度によっては足りなく見えるかも」といっているが、あれは正しい。それだけ微妙なものなのだ。もちろん、疑いようもなくピタッとおりれば文句ない。男子の織田選手や小塚選手はこのタイプだ。 だが! 3Tに関して言えば、実は昨季までの試合での認定具合を見ると、「肝心な試合で不足気味のセカンドの3トゥループを認定してもらって命拾いした」のは、明らかに浅田選手のほうなのだ。確かにグランプリ・シリーズではキム選手の3Tはちょっと足りてなくても認定され、浅田選手の3Tはダウングレードされることが多かった(で? グランプリ・シリーズの責任者って国際スケート連盟の誰よ? 調べてみるといい)。だが、昨季までの(あくまで昨季までだ)グランプリ・シリーズ以外のここ一番の大事な試合では、浅田選手の「ちょっと回転が足りてないかな」と思う3Tが認定されて助かっているのが、Mizumizuの見るところ、少なくとも2度はあった。 「セカンドの3ループに比べて、3トゥループのほうが認定されやすいのでは」とMizumizuが書いた根拠はここにある。セカンドに3ループをもっているのは、アメリカのフラット選手、日本の安藤・浅田選手だけといっていいが、セカンドに3トゥループをもっているのは、キム・コストナーを始め、ヨーロッパにもまだいる。だから3トゥループの認定が少し甘くても、「お互いさま」の部分があったのだ。 だが、今季浅田選手はセカンドに3トゥループを入れていない。自分にとって得意で、基礎点も高い3ループだけで勝負に来ている。これがアブナイ、とMizumizuは思うのだ。明らかに国際スケート連盟は、安藤・浅田選手のセカンドの3ループを「角度をかえたスロー再生で執拗に見て、回転不足判定で認定せず」の態度できている。そして、セカンドの3ループをどこからスロー再生で見ても不足なく完璧におりることは、非常に難しい。トリプルアクセル以上に難しいだろう。安藤・浅田陣営は、練習中に四方八方からカメラで撮り、それを再生してみて、完璧におりきる割合を冷静に分析してみなければいけないと思う。肉眼では不可能だ。なにせ、肉眼で回転不足に見えないジャンプまで回転不足判定されているのだから。 さて話をグランプリ・ファイナルに戻すが、中野選手のショートの3ルッツに対する寛容な認定。疑い深い色眼鏡で見れば、あれは次にすべるコストナー選手と地元のキム選手へのエールだったのではないかと思えてくる。 なぜか? 実はキム選手は、公式練習でジャンプの調子がいまひとつだったのだ。3F+3Tは決めてはいても、3Tが回転不足で上体が傾いてしまっている映像が流れた。韓国紙によれば、3Fで転倒もしていたという。そして3ルッツも同様。一応おりてはいるが、詳しい人間が見れば「回転不足だな」というジャンプがあった。その映像につけたナレーションで、「キム・ヨナ選手は見事にジャンプを決めていました」なんて日本のテレビが言っていたので笑ってしまった。オイオイ、明らかに回転不足ジャン。あのジャンプじゃ、最悪のダウングレード判定はどうしたって免れないよ。 つまり、キム選手は連続ジャンプと3ルッツの調子がいまひとつだったのだ。試合直前の練習でも、キム選手はさかんにルッツを気にしていた。そんなルッツと連続ジャンプがいまいちのキム選手だったが、韓国開催のファイナルで、彼女に花を持たせたいという意思はどこかで働いていたのではないか。キム選手のショートの前に滑った中野選手の回転が足りない3ルッツの認定には、どうもそんな気配がある。ところが、そのあと滑ったキム選手は3ルッツを跳ぶどころか、みずから自爆の1ルッツになってしまった。あれでは認定してあげようがない。 コストナー選手も今季はジャンプの調子は全般的に悪い。案の定中野選手のあとに登場したグランプリ・ファイナルのショートでは、大きな武器である3+3の連続ジャンプで転倒、3ルッツも着氷時に上体が傾いていて、回転もちょっとだけ足りないようにも見えた。だが、コストナー選手の3ルッツもちゃんと認定され、GOEだけの減点に留まったのだ。まったくできすぎている。 中野選手のショートの3ルッツ(そして、続いて滑ったコストナー選手の3ルッツも同様)の寛大な認定から考えると、フリーでの中野選手や安藤選手に対するダウングレード攻撃は、これが同じスペシャリスト(P. UNIMONEN氏)かと疑いたくなるくらい、まったく容赦がなかった。とくにショートで3位だった中野選手を、「誰かのために」よっぽど「さげ」たかったのだろう。カナダ大会のライザチェック選手(VSチャン選手)のパターンと同じ。小さな欠点を大きな減点にされ、ビックリするような低得点に留まった。 さて、そこまでルール改正(というより、ルールの運用改悪)に助けられたキム選手、それにカナダのチャン選手なのだが、肝心のファイナルで、みずからのジャンプミスで自爆した。普通に3回転を跳びさえすれば、手をつこうが、着氷でふっとぼうが、回りきっているから認定してもらえるのがこの2人(とロシェット選手)だ。だが、自分からコケたり、すっぽ抜けジャンプにしてしまったのでは、アゲてあげようがない。 チャン選手はもともと、4回転を入れていないのに3Aをフリーで2度どうしてもきれいにまとめることができない。まだ17歳だし、ジャンプの実力はその程度なのだ。ショートでは強かったが、ファイナルではそのショートから自爆してしまった(ライザチェックの呪い?)。アボット選手はチャン選手にとって怖い存在ではなかった。4回転を入れないこの2人は、表現力でチャン選手のほうがまさっているので、ノーミスで滑ればチャン選手に軍配が上がるのだ。ライザチェックはチャン選手にとってもっと怖い選手だ。だが、カナダ大会での厳しいダウングレード判定と、なにより、露骨ともいえる演技構成点での「さげさげ」ジャッジで、ファイナルへの道は完全に絶たれた。 キム選手のほうは、昨シーズンから浅田選手に対してルッツのエッジ問題で優位に立った。この2人がルッツを跳んだ場合、キム選手の場合は大盤振る舞いの加点、浅田選手のほうはエッジでの減点。だから、必ず1回のルッツで3点もの差がつくことになってしまった。世界選手権の前のエントリーで、Mizumizuは、「この点差はどうやっても埋めることができない。だから、浅田選手が勝つためには、キム選手にルッツで失敗してもらうしかない」と書いたのだ。すると、まさしくそのとおりになった。 そして、今回のファイナル。「3ループ認定しないよ」攻撃で、浅田選手は非常に不利な立場だった。事実、ショートの3ループは認定されず、結果、2人のショートでのジャンプの得点はまったくの同点になってしまった。キム選手は見た目にはっきりわかるジャンプミスし、浅田選手はノーミスだったのに、キム選手が僅差でトップに立ったのは、「ジャンプミスを補うほどキム選手の芸術性が高かった」からではない。浅田選手のほうが、肉眼ではまったくミスしてるように見えないジャンプを回転不足判定でミスにされてしまった(それも大きなミス。2回転の失敗ジャンプ)ことが大きいのだ。だが、逆にこの僅差で2位というのも幸いだった。キム選手のフリーのあと、リンクに投げ込まれた異常ともいえるプレゼントの数。あれには本当に呆れ果てた。グランプリ・ファイナルは、キム選手のソロコンサートの場ではない。 もし、浅田選手がショートで順当にトップに立ち、キム選手のあとの滑走だったら、あのプレゼントで汚されたリンクをきれいにするのに、おそろしく時間がかかっただろう。待たされる時間が長くなると選手には微妙に精神的に影響する。あの気違いじみた応援が始まる前に滑れたのは幸いだったのだ。 そしてフリー。浅田選手には「是非跳んで」と書いた後半の3フリップ+3ループだったが、3フリップでの転倒でもう1つのジャンプを入れることができなかった。つまり、浅田選手のジャンプの失敗は、1つではなく2つなのだ。キム選手も同じくルッツとサルコウで失敗し、失敗ジャンプの数が同じになった。その結果、浅田選手が勝ったのだ。まるで、神風が吹いてキム選手のサルコウを倒してしまったようだった。昨シーズンの世界選手権と同じだ。普通にルッツをおりていれば、浅田選手はキム選手に勝てなかった。ところがショートでもフリーでもそのルッツがキム選手から取り上げられてしまったのだ。2回も神風が吹いたのだ。ルール基準を次々変えてなんとか浅田選手に勝たせまいとしてる人が地上にいるのに、2回続けてこの結果。今回はカナダ大会でライザチェックを「無理さげ」して優勝したチャン選手にも同じようなことが起こった。これを見て、Mizumizuは思っている。 「天上のフィギュアの神様が怒っている」。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.12.26 22:23:17
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