Mizumizuのライフスタイル・ブログ

2008/12/31(水)13:11

もはや女子フィギュアは「ダウングレードの数」を競う競技

Figure Skating(2008-2009)(90)

<きのうから続く> フジテレビは中野選手の昨季の世界選手権のフリーに関して、「ノーミスで滑って、スタンディングオベーションをもらった」と放送した。これは後半は正しいが、前半は正しくない。世界選手権の中野選手は、確かに見た目ノーミスで、会場は大感激した。ヨーロッパの観客が立ち上がって中野選手をたたえたのだ。だが、出てきた点数は、解説のジュンジュンが「あれ~?」と思わず言ってしまうほど低かった。理由はもちろん、ダウングレード判定。 ノーミスどころか、中野選手はトリプルアクセルと3フリップを回転不足判定でダウングレードされてしまった。つまり、中野選手はトリプルアクセルを跳んでダブルアクセルの失敗、3フリップを跳んでダブルフリップの失敗と判断された、大きな失敗が2つもあったのだ。これは「ノーミス」ところではない。点数上は、「回りきっての転倒」より低い点になる大失敗なのだ(回転不足判定されての転倒は、もっと低い。ジャンプによってはマイナス点)。 だから、中野選手はフリーで順位を落としてしまって表彰台に立てなかった。中野選手の世界選手権のフリーに言及するなら、このカラクリを説明しなければいけないのではないだろうか? 女子のフィギュア・スケートは、もはや回転不足判定によるダウングレードの数を競う競技になったと言ってもいい。しかも、微妙なものを認定する・認定しないは少人数のジャッジ次第。全日本女子フリーの順位は、トリプルアクセルどころか、3回転+3回転もなく、3回転エッジジャンプも跳べず、後半の連続ジャンプで肉眼でもはっきりわかる回転不足とセカンド着氷でオーバーターンし、個人としてのジャンプの力量も衰えている村主選手が1位(しかも121.27点という驚異的な点数)。女子では世界で他に誰もできないトリプルアクセルを2度跳び、3フリップ+3ループの連続ジャンプを跳んだ浅田選手が2位。 ファンの方から、「今回の奇妙なダウングレード判定を言うなら、村主選手と中野選手のトリプルフリップ+2トゥループに触れないのはおかしい」とご指摘をいただいた。そのとおりでした。 全日本のビデオを録画している方は、再度見ていただきたいのだが、村主選手の後半の3フリップ+2トゥループと次に滑った中野選手の後半の3フリップ+2トゥループ。 これほどわかりやすいものはない。何といっても同じ連続ジャンプだ。村主選手は明らかに回転不足で降りてきたから、エッジがグルンと弧を描き、セカンドをつけるのが「やっと」になった。ジュンジュンが「2トゥループ、なんとかつけましたね」と言っている。ところがこのジャンプ、認定されたので、基礎点は7.48点のまま(セカンドで乱れたため、GOEでは減点されて6.08点)。 そして次の滑走の中野選手。後半に根性で3フリップ+2トゥループをつけた。こちらはスムーズにおりた(ように見え)、すぐにセカンドジャンプに移っている。ところがこの3フリップはダウングレードされて、フリップにも「!」がつき、基礎点は3.3点、さらにGOEで減点されて3点。 どうして、村主選手がセカンドの2トゥループをつけるのが大変だったのか? 簡単な話だ。ファーストジャンプが回転不足だから。一方の中野選手は、たしかにスローでみたら少し回転が足りなかったようだが、その回転不足の度合いが少ないからすぐにセカンドジャンプをつけることができた。 ジャッジだって、人間だから見逃しはあるかもしれない。だが、特定の選手へのあからさまなエッジ違反への甘い判定、回転不足の3フリップ認定、バランスを欠いたジャンプ構成のプログラムへの演技構成点の高得点――ここまでそろうと、むしろ「採点による順位操作はこうやるんです」の見本に見える。もちろん、色眼鏡かもしれない。だが色眼鏡をかけると妙に辻褄のあうところが気分が悪いのだ。 キム選手の「エッジ違反見逃し疑惑」「回転不足のジャンプ認定疑惑」「進化しないジャンプ構成」について日本人は批判しているファンが多い。なのに、その日本で、ジャッジはこの3つを見事に兼ね備えた選手をフリーで1位にしたのだ。今回の村主選手のルッツのエッジ違反はキム選手の微妙なフリップなんてもんじゃなく、あからさまにインに入っていた。回転不足もあからさま、中野選手の同じ連続ジャンプと比べればよくわかる。ジャンプ構成はキム選手の比ではなくレベルが低く、「いつも同じ」どころではなく、「ジャンプの衰えを如実に示すもの」だった。 村主選手が今回「ファンをなめたジャンプ構成」にしたのは、実のところある程度仕方がないとMizumizuは内心思っている。というより、本音を言ってしまえば、「すぐりんは3サルコウぐらいまだ跳べるのでは」と思いたいのかもしれない。モロゾフの村主選手のフリーのもともとのジャンプ構成の構想は、今回2A2回の部分に3Sを入れ、最後に2Aを連続させるというものだ。これなら、ジャンプ構成のバランスもよくなり、点ももっと稼げる。だが最大の鬼門後半の3F+2Tを決めるには、やはり3Sは今の村主選手の実力ではあまりに負担なのだろう。ロシア大会では、この構成をやろうとして自爆したのが伺える。そうなると3S回避にダブルアクセル3つの「ファンなめ」構成になるというわけ。このようにシーズン中でも選手の調子に合わせて、ジャンプ構成を比較的容易に入れ替えて組みなおせるようにするところが、実はモロゾフマジックの秘密でもある。選手にとっても比較的覚えやすく、しかもジャンプを入れ替えても点数をできるだけ失くさないようにする。その構成の組み方がうまい(これについては、また後日)。モロゾフは常にその選手にとって「どのジャンプを決めることが一番大切か」を見失わない。それが村主選手の場合は後半の3F+2T。そのために省かなければいけないものを省いたのだ。 過去の村主選手の名プログラムといえば、何と言ってもベートーベンの「月光」が思い浮かぶ。浅田選手の「月の光」も素晴らしいが、村主選手の「月光」の表現もそれに負けない。彼女が胸に手を当てて天井を仰ぐと、それだけで氷の上に青白い月の光がさしてくるのが見えるようだった。まさしく村主選手にしか作れない世界。ピアノの音の1つ1つを大切にした繊細で情感のこもった動作。ああした静謐で透明感あふれる世界を作るには、技術も必要だが、年齢、そして本人のもっている雰囲気も大切だ。あまりに少女ではいけなし、といってあまりに大人でもうまくいかない。少女めいた可憐さをもちながら、幼くてはダメ。セクシーな肉体美をもった成熟しきった女性でもダメ。そうした条件に見事にハマった村主ワールドは確かに世界を魅了したのだ。だがそれも、ずいぶん過去の話になってしまった。モロゾフの振付はワンパタに陥っていて、村主選手の誰にも負けない個性を作るまでには至っていない。もっとも今はエレメンツでの点数稼ぎが何より大事なので、プログラムの雰囲気は必ずしも重要な要素ではないが。 あまりに露骨な点数稼ぎと偏ったジャンプ構成は、それはそれとして批判されるべきだが、だからといって跳べなくなった3サルコウを入れて失敗してしまっては、現在のルールのもと、この厳しい全日本で勝ち抜ける確率は低くなる。村主選手の目的は、世界で一番層の厚い全日本でトップ3の一角を崩すことだった。全盛期のようなジャンプが跳べなくなった村主選手にとっては、あの戦略しかなかったかもしれない。だが、最大の問題はそれに対する今回のジャッジの評価なのだ。国際基準で判定せず、カナダのパトリック・チャン選手もびっくりの「無理あげ」したのでは、オリンピック直前の全日本選手権の再現でしかない。あのときも全日本で1位だった村主選手が3位だった荒川選手よりオリンピックでは演技構成点を含めたすべての評価で下だった。そうなることはわかっていたのだ。 こういう、見たくなくてもそう見えてしまう「無理あげ」をしてる一方、「安藤・浅田には勝たせないぞ」ルールには見事に追随し、浅田選手の微妙だったセカンドの3ループは認定しなかった。中野選手の隠れた「失敗のお約束」、3F+2Tの3Fの回転不足もちゃんとダウングレードだ。中国大会で、キム選手のショートのフリップに「E」がついたとき、韓国でジャッジ資格をもつ人物が、「あれは、つけるとしても!で十分。自分がその場にいたら抗議する」と発言した。フィギュアの採点とは、そうしたものだ。 繰り返しになるが、厳しく判定するなら、同じ試合で、少なくとも誰に対しても公平に厳しくなくてはならない。ところが、今回は明らかに回転不足のジャンプが堂々と認定されている。 村主選手以外だと鈴木選手。鈴木選手のダウングレードはセカンドの3Tと最後の3Sの2つだったが、後半の2Aに続ける3ループもスローで見たら回転が足りていなかった。ところが3ループは認定。ダウングレードが3つか2つかで、点は大違いだ。こういうふうに同じ選手に対しても「取ったり取らなかったりできるんですよ」とバラしてしまったようなジャッジングだ。 フリップへの認定に一貫性がない一方で、セカンド以降のループ(安藤選手の2ループさえダウングレード)とトリプルアクセルへのダウングレード判定は容赦がなかった。浅田選手に対しては、 1) トリプルアクセル+ダブルトゥループ→ダブルアクセルの失敗にダブルトゥループをつけたものです。 2) 単独のトリプルアクセル→ダブルアクセルの失敗です。 3) 後半のトリプルフリップ+トリプルループ→トリプルフリップにダブルループをつけてダブルループを失敗しました。 という評価が下されたのだ。 こんなに失敗ばかりしているから、浅田選手の技術点は、54.67点と、3フリップも3ルッツも跳べない武田選手の54.59点とどっこいどっこになってしまった。 会場のファンが見ていたのは、女子では世界で他に誰もできない、これまで誰もやったことのない、フリーで3Aを2つ決め、3F+3Loの難しい連続ジャンプを決めた姿だったのに。 常識ではまったく理解できない判定でしょ。 怒りをとおりこして脱力感しか感じない。何のためにファンは高いチケット代を払って会場に観戦に行くのだろう? リンクサイドのコーチですらわからず、プロの解説者がビデオで見ていてもわからないような回転不足を、回りきっての転倒やお手つきやステップアウトやオーバーターンといった、誰でもハッキリわかる失敗より大きく減点するなど、クレイジーだし、まさしく会場まで足を運んでくれるファンをあざ笑っているかのようなルールだ。 <続く>

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