Mizumizuのライフスタイル・ブログ

2009/02/05(木)16:31

四大陸選手権、浅田選手の一番の懸念は、やはりセカンドのトリプルループ(続き)

Figure Skating(2008-2009)(90)

<きのうのエントリーから続く> アメリカの新聞は逆に、ジャンプの技術の低いシズニー選手の優勝を驚きをもって伝え、「この全米女王では、浅田選手やキム選手には勝てないのでは? これほどアメリカの女子選手の技術が後退したことはない。フィギュア王国の危機だ」と伝えた。だが、本当は、アメリカの女子選手の技術が後退したのではない。高い技術をもつ選手のちょっとした不完全さを苛烈に減点するから、技術の低い選手が勝ってしまい、全体として後退したように見えただけだ。 シズニー選手が浅田選手やキム選手に勝てない――というのは、常識的には正しい。だが、全日本での浅田選手のフリーは、ルッツもフリップも跳べない武田選手とどっこいどっこいだった。トリプルアクセルやセカンドのトリプルループがどんどんダウングレードされ、エッジ矯正で調子のあがらないルッツで失敗し、今のところ試合での成功率が半々のサルコウがすっぽ抜けてくれれば、シズニー選手だって浅田選手に勝てるかもしれないのだ。 「でも真央ちゃんは、勝っている」と、ファンの人は言うかもしれない。そう、世界選手権でもグランプリ・ファイナルでも浅田選手は勝った。だが、もともとの実力から言えば、圧倒的な「浅田真央時代」を築いてもおかしくない才能の持ち主なのだ。たとえば、プルシェンコのように。だが、浅田選手は女プルシェンコにはなれていない。それどころか、セカンドには3トゥループだけ、トリプルアクセルは跳べず、3ループはどうにも苦手で回避ばかりしているキム選手――つまり、ふつ~に考えれば、明らかに実力では格下――がミスしてくれないと勝てないような状況だ。 なぜか? もちろん、過去に繰り返し述べたように、それは浅田選手の小さな欠点を狙い撃ちにされているからだ。 昨季はエッジ違反。今季はとくにセカンドの3ループに対する容赦ないダウングレード。エッジは昨季までは、減点されながらも極力失敗をしないという方針で切り抜けた。そして、世界選手権ではライバルのキム選手が得点源のルッツで失敗するという、神風が吹いた。 今季はルッツのエッジをきちんと矯正した――のだが、ルッツを跳ぶのは今のところショートだけで、フリーには入れていない。ルッツはアクセルに次ぐ基礎点の高いジャンプだ。この「フリーになかなかルッツが入れられない」というのも、点が伸びない一因になっている。 加えて、昨季までは、きちんと跳べばほぼ認定されていた強い武器であるセカンドのトリプルループがまったく認定されない。これは簡単なことで、もともと浅田選手(安藤選手も)のセカンドのトリプルループは、本当の意味で「完璧に」3回回りきっていないからだ。ジャンプというのは、基本的にまず空中にあがり、回転し、回転を終わって降りてきて着氷するのが基本だ。肉眼では安藤選手も浅田選手もセカンドのトリプルループをちゃんと回りきって降りてきているようにも見える。だが、スローで再生してみるとそうではないことがわかる。これは、昔からそうだ。今に始まったことではない。では、厳密に4分の1回転以上の不足なのかと問われると、実際のところはよくわからない。 キム選手のコーチのオーサーは、わざわざ「プレローテーションで4分の1回転稼いでいる」という意味のことを言って、安藤選手のセカンドの3ループを批判したが、安藤選手が着氷を決めるために、空中にあがる前に上体から先に回ろうとするのは事実だ。だが、それで本当に「4分の1回転ズルしてる」かどうかまでは、いくらスローで見ても厳密にはわからないはずだ。 だが、それはあくまで「ジャッジの判断」。野球のボールとストライクの判定をジャッジにまかせているのと同じなのだ。セカンドに3ループを跳ぶのは、フラット選手・安藤選手・浅田選手だけ。連続ジャンプに3トゥループをもってくるのは、キム選手、コストナー選手、レピスト選手、ロシェット選手。だから、3トゥループの認定を甘くする理由は十分にある。もうすでにバラしてしまったことだが、昨季の世界選手権のフリーの浅田選手の3F+3Tの3Tはちょっとだけ足りないのを認定してもらい、加点ももらって命拾いした。3トゥループはあくまで、「お互いさま」なのだ。一方、少し足りない3ループを認定してあげる理由はまったくないのだ。 たとえば、前回のグランプリ・ファイナルでも、中野選手のショートの3ルッツは足りなくても認定された。そのあとにコストナー選手、キム選手が控えていたからだと考えると、変に辻褄が合う。しかも、フリーのロシェット選手のルッツもやはり、ちょっと足りなかったが認定されている。このように「お互いさまの」ジャンプは奇妙に認定されやすいのだ。 トップ選手では安藤選手と浅田選手しか跳ばないセカンドの3ループは、だから認定される可能性は非常に低い。スローで見て、ちょっとでも足りないと判断されれば、容赦ないだろう。そして、その正面突破は、トリプルアクセルを完璧に着氷するより遥かに困難だ。 「セカンドの3ループから3トゥループにシフトすべきだと思いますか?」という質問を多く受けるが、Mizumizuの見解は完全に「イエス」だ。 もともとトップ選手はセカンドに3トゥループを跳ぶことができる。たとえば、日本男子のトップ選手、織田選手にせよ、小塚選手にせよ、ルッツのあとだろうが、フリップのあとだろうが、サルコウのあとだろうが、ほぼ自在に3トゥループをつけることができるのだ。これが本来のトップ選手の姿だ。女子でも、伊藤みどりやクリスティ・ヤマグチは3ルッツ+3トゥループの連続ジャンプを跳ぶことができた。 一方で、浅田選手はセカンドに3トゥループを跳ぶことはできるが、やっぱり回転不足になりやすいのだ。また、浅田選手には「ルッツからの連続ジャンプがない」という欠点もある。安藤選手やキム選手は2回転とはいえ、ルッツを連続にすることができる。だからフリーに基礎点の高いルッツが2つ入る。 浅田選手はルッツに不安があり、かつ連続ジャンプにできないので、トリプルアクセル2度に頼らなければいけなくなる(3回転ジャンプはフリーでは2回跳べるのは2種類まで。かつそのうちの1回は連続ジャンプにしなければいけない)。ところがトリプルアクセルはハンパじゃなく、体力を消耗するらしい。 これは今季、浅田選手のフリー後半での3フリップ+3ループがなかなか入らないことで、わかった。昨季の浅田選手は後半に3フリップ+3ループを軽々と入れ、かつ高率で認定されていた。今季は全日本まで来て、やっと1度入った。しかも3ループはお約束のダウングレード判定。 浅田選手がセカンドの3ループを跳び続けるということは、非常に確率の悪い博打を続けるということ。今回は認定されるジャンプが、「もしかしたら」跳べるかもしれない。だが次は…? セカンドに3ループをもってくるということは、常に「2ループの失敗にされる」危険性と隣り合わせの一か八か。いや、むしろほとんど、わざわざ「2ループの失敗にされる」ために跳ぶようなものだ。 3トゥループのほうが一般的に簡単だし、完璧に跳べる選手はいくらでもいる。3ループをセカンドにもってきて完璧に跳べた選手は歴史上ほとんどいないのだ。男子のトップ選手はセカンドの3ループなど、はなっからやらない。安藤選手と浅田選手にとっては、個人的には3ループのが跳びやすかったのだろう。しかも、跳べば強い武器だった。だが、もうその強い武器は奪われていると思ったほうがいい。 浅田選手がセカンドの3ループに固執し、3トゥループをやめてしまったことが、今季最大の誤算だと思う。だが、これは仕方がない。予想もつかないことだったからだ。安藤陣営も同じ。モロゾフは4サルコウ、セカンドの3ループ、それに得意のルッツを活用したジャンプ構成を組んで、安藤美姫絶対勝利の方程式を書いた。一方のタラソワは3アクセル2度と3F+3Lで浅田真央絶対勝利の方程式を書いた。 ところが、試合が始まったら、安藤選手の3ループは認定されない。3フリップはことごとく狙われて、ダウングレードもしくはGOE減点(解説の荒川静香が「流れのあるいいジャンプ」と言ったフリップさえ、実はGOEで減点されていた)。モロゾフは大幅な戦略の見直しを余儀なくされた。浅田選手にも3Aとセカンドの3Lに対する厳しいジャッジの目が待っていた。 今季の異常な採点には、男子のトップ選手、特にアメリカのライザチェック選手とウィアー選手も非常に苦しめられた。ライザチェックはプログラム密度を濃くすることで自分自身をグレードアップしようとした。ウィアー選手は4回転の高さを獲得することに時間を割いた。ところがシーズンが始まってみると、ロングエッジは範囲が広がって厳しく取られ、回転不足も思わぬところで狙われてダウングレードされる。2人の戦略は完全に裏目に出て、点がのびなくなった。2人の戦略と採点の流れが完全に逆に行ってしまったのだ。 ウィアー選手は、トリプルアクセルまで不調になり、全米では台にものぼれず、四大陸にも世界選手権にも行けなくなった。日本では中野選手が全日本のフリーで、これまでにない自爆をやってしまって代表の切符を逃したが、この2人に共通していたのは、「疲労の蓄積」だ。ウィアー選手は全米前にショーで海外に出ている。 ライザチェック&ウィアーが負けて、アボット選手が勝ったことで、「男子は世代交代」などというのは的が外れている。この3人は全員同世代だ。アボット選手は過去2年連続全米で4位だった選手。今季は4回転を捨てて、急に強くなった。それは本人にとっても予想外だったはずだ。彼はもともと世界トップを目指せる器ではなかった。ライザチェック&ウィアーのような華やかさもないから、人気もない。年齢的にももう若くはない。むしろ崖ッぷちの選手だったのだ。だから、本当は跳べる4回転を捨てて他のジャンプをきれいにまとめ、せめて全米で3位以内に入ろうとしたのだ。そしたら、なんとグランプリ・ファイナルでも全米でも優勝してしまった。 ライザチェック&ウィアーは逆に世界トップを狙う選手だった。彼らは、プログラムの密度を上げる、4回転の精度を上げる、という高い目標をかかげてシーズンインした。ところが、試合をやってみると、ロングエッジで減点されるわ、思いもかけないところでダウングレードされるわ。演技・構成点はまったく思惑だけで出てるような「テキトー点」になりさがり、試合によって派手に上がったり下がったりする。カナダ大会なんて、無理アゲされたチャン選手自身が恐縮するありさま。この異常な採点が選手にかけた精神的負担は非常に大きい。シーズンが進むにしたがって、どの選手もミスが増え、精彩を欠いた演技が多くなった。 ウィアー選手同様、浅田選手も当然、疲労していることは間違いない。韓国の国内大会さえパスしてるキム選手とは大違いだ(これはいくらなんでも問題だろう)。年末のハードな全日本のあと、ショーやらイベント試合やら、CM撮影やら、まったく落ち着いてルール対策できる時間はない。 四大陸はロシェット選手のホーム、キム選手の準ホームだし、浅田選手を大きな大会で連勝させてあげたいと思うジャッジはまずいない。 つまりは、その程度のイベントだということ。 ファンの皆さんも、あまり熱くならないで見ましょう。浅田選手に怪我のないことを祈っています。

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