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<きのうから続く>
このとき、ちょっと不思議だったんですよね。メディアというのは、日本の記者の無知加減を例にあげるまでもなく、普通はフィギュアについては何もわかっちゃいません。かなりマニアな日本のファンだってそもそも、「安藤選手のフリップの質がキム選手のフリップより劣る」とは思っていないと思います。ところが、韓国メディアは、ジャンプの「質」を強調し、映像を見ると、エッジについてもかなり「わかって」放送してるんです。 メディアにエッジのことや、ジャンプの質(あくまで現在の基準でGOEがたくさんもらえるかどうかで言っている)についてレクチャーしてる人間がいるんです。やはり、それは、どう考えたってオーサーでしょう。安藤選手のフリップのエッジがやや中立に近いことや、村主選手のルッツが今季、かなり曖昧でも最初はマークがついていなかったことに気づくなんて、オーサー以外に考えられません。 世界選手権の結果を見て、キム+オーサー陣営がなぜあれほどまでに、安藤選手を叩いたのかわかりました。ループが入れられなくなり、サルコウもスッポ抜けてしまったキム選手に対し、安藤選手はすべてのジャンプをちゃんと降りた、ただ1人のトップ選手なんですね。ロシェット選手もかなりよかったですが、3ループを2ループにしてました。安藤選手は3ループをダウングレードされましたが、肉眼で見た出来では着氷に問題はありませんでした。フリーで3回転+3回転こそありませんでしたが、2A+3Tの3Tの回転は文句つけようもなく完璧。完全に回りきって降りてきてました。浅田選手のような、突然のスッポ抜けもない選手です。本当に彼女はすごいです。ジャンプの難度と精度(降りたかどうか)のバランスで見たら、キム選手、ロシェット選手、浅田選手を抑えてトップでしょう。 しかも、このエレメンツ重視のルールの中で、表現に新境地を切り拓いたのは特筆すべきことですね。世界選手権でのショートは特に、涙が出そうになりました。ああやってどんどん音楽に入っていければ、ファンも感動できますね。これからはもっと自分の世界に自信をもって、投げキスするときは、「本気で誘惑するつもりで」やることです。 チャン選手やキム選手の態度を見ると、常識的なスポーツマンシップなどかなぐり捨てて、メディアぐるみ(使うメディアはさすがに自国メディアですが)で、世論を誘導し、あちこちに圧力をかけていると考えるべきだと思います。で、クレームされると、「一種のハプニング。本人の発言とは違う話が広まった。このようなことは二度と起こらないことを望む」なんて、北朝鮮の言い草みたいなことを言って責任逃れをするんでしょう。チャンは今シーズン最初は、まだ謙虚でしたが、今は「オレがゴールド、ゴールド」ですからね。 つくづくバトルは素晴らしい選手だったと思いますね。彼はエレメンツは正確にこなせますが、ジャンプが弱かった。4回転はダメで、ルッツも苦手。この欠点のために何度もチャンスを逃しましたが、不遜なことは言ったことがありません。常に勝者を讃えてきましたね。そして、自分のジャンプのレベルを向上させ、ジャンプでも他のトップ選手に並べるように努力しました(それは、結局は成功しませんでしたが)。今は「回避策」を取った選手が勝つようなルールです。難度の高いジャンプは足りなくなりがちだし、ちょっとでも足りないといつダウングレードされるかわからない。それに難しいジャンプを跳ぶと他のジャンプが低くなりがちです。これまたどこでダウングレードされるかわからない。 世界有数のジャンパーが自信を失い、そもそも難度の高いジャンプ跳べない選手が「フィギュアはトータル・パッケージ」と自信満々になる… 異常としかいいようがありません。ジュベールは世界選手権で最後にダブルアクセルからの連続ジャンプをやろうとしてモロコケしましたが(カナディアンプレスは「3Aで失敗」と書いてましたが、それは違います。ジュベールは前半に3Aを2つ集めて、今回跳んでます)、あそこで2Aだけでも跳んでおけば、たとえスピンが1つレベル1で、あとはレベル3でも、チャン(スピンはオールレベル4)より上に行ったんですよね。 チャンがどんなにスピンでレベル4を並べても、やはり難度の高いジャンプを跳べる選手は強いんです。ジュベールのレベル1のFSSpの点が1.94でチャンのレベル4のFSSpは3.4。たったの1.46点の差にしかなりません。スピンのレベル取りを捨ててもジャンプを決めれば、技術点はもっと出ます(後半の2Aは基礎点だけで3.85点)。だから、さかんに「ブライアンもスピンがよければね」だの「演技・構成点をオレ様に出せ」だの言っているんです。 少なくとも、「これは意図的な挑発」と考えて、感情的にならないよう注意すべきです。義憤にかりたてられて、我を忘れ、ファンが相手方と同じレベルに落ちたり、選手が動揺して自分の演技ができなくなったら、相手の思う壺です。ただし、理不尽な言いがかりをつけられたら、きちんと抗議する姿勢は忘れずに。黙っているのは、相手の言ってることが正しいと認めたということです。少なくとも、日本の外ではそれが常識です。 点数が低いと思ったときにブーイングするのは、お金を払って見に来たファンの当然の権利です。NHKの『情熱大陸』では、デニス・ビールマンの芸術性を評価しないジャッジに対して、観客がブーイングしている様子が映っていましたね。ときに素人の観客のほうが、専門家のジャッジよりも芸術性を直感的に高く評価できるものなのです。 非常識な態度を取る選手に対しては、「沈黙の抗議」をしましょう。ブーイングは、たとえばワザとあたりに来てたとか、よっぽどの場合のみに。ブーイングや演技中の大声ではなく、観戦拒否(演技が始まる前に席を立つ)や拍手なしで不快感を伝えましょう。無礼な人間にまで礼節をもって接しようとして、最終的にはブチ切れて感情を爆発させ、返って周囲から非難を浴びてしまうのは、日本人の悪いクセです。 日本スケート連盟もファンに抗議されて腰をあげるのではなく、強い態度で外部に対峙してほしいものですね。連盟のやってることといえば、相変わらず人気選手をダシに商売することばかり。意味不明の点差をつけられたら、選手のせいですか? なぜ説明を求めないのでしょう? キム選手の回転不足気味のジャンプにGOE加点されるのは、おかしくないですか? ダウングレード判定されなくても着氷乱れがあるなら、減点とするのが正しい判断では? ジャッジはメキシコだとか、台湾だとか、フィギュア後進国のジャッジも混ざっています。正しくないジャッジングがあったら指摘し、議論し、より公平なジャッジングを促す必要があるのでは? これからもファンは連盟を監視しましょう。 そもそもカナダ陣営が、ここまで何もかもかなぐり捨ててチャンに金メダルを獲らせたいのは、カナダの男子スケーターがオリンピックで常に不運だったということがあると思います。 まずはキム選手のコーチであるオーサー(2009年殿堂入り)。最初のオリンピックでアメリカ人のハミルトン(1990年殿堂入り)に敗れて銀。次のオリンピックでは、OP史上初となる3Aを決めたにもかからわらず、ボイタノ(1996年殿堂入り)に負けて銀。 それから、フィギュア史上もっとも優れたスケーターの1人であるカート・ブラウニング。ブラウニングは世界選手権で初めて4回転を成功させたスケーターでもあり、ステップも最高に巧み。もちろんすべりも滑らか。世界最高峰の技法派スケーターでした。ライバルにロシアのペトレンコがいましたが、世界選手権の実績では圧倒にブラウニングのが上。ところがブラウニングは、アルベールビルOPでは、腰を痛めて本来の力を出せませんでした。2年後に行われたリレハンメルOPに復帰したときは、ハミルトンをして、「カートのプログラムはもっとも難しく、振付も凝っている。本当に素晴らしい」という、レベル違いのプログラムを用意して、金を狙ったんですが、ふつうはなんでもなく跳べるジャンプでまさかの転倒。インタビュー(日本では放送されませんでしたが)で、「どうして、オリンピックはボクを好きになってくれないんだろう」と泣いていて、インタビュアーもほとんどもらい泣きしてましたね。 そして、カナダの生んだ最高のジャンパーの1人であるストイコ。長野OPでのライバルはなんとまぁ、タラソワの育てたクーリックでした。下馬評ではストイコ有利。前年の世界選手権では4回転ジャンプの安定度でクーリックを圧倒していたストイコだったんですが、本番のオリンピックの直前練習で負傷してしまい、根性で滑りきったものの銀でした。クーリックのほうは、それまでさんざん失敗してきた4回転決めちゃって(ちょ~豪華な毛皮をまとったマリー、じゃねぇ、タラソワ、このとき全身でガッツポーズ)、大きなミスもなく無難に滑って金。 このときのクーリックのフリーは、「ラプソディーインブルー」でしたが、ハッキリ言ってプログラムはかなりスカスカでした。おまけに、途中で「考えこむポーズ」まで入れちゃって、つまりはフリーの途中で、「お休み」して疲労を取っていたんですね(苦笑)。あれはスタイルのいい美青年のクーリックだからサマになるんです。テクニック的には難しいことをしなくても、氷上で「走ったり」、両手を広げて片足をあげ、ゆったりカーブを描いて滑ったりするだけで、美しくて絵になるんですよね。一方のストイコは、「氷の上でカラテをやってる」などと批判されました。ストイコの男性的な振付は、密度が高く、彼にしか出せない個性的な魅力があったと思いますが、芸術性では評価はされなかったんですね。 カナダの男子スケーターは伝統的に、ジャンプの技術で世界の頂点に君臨してきたんですが、オリンピックでは不運。そもそも伊藤みどりもそうですが、難しいジャンプを跳ぶ選手はそれだけでリスクを引き受けているということ。これについては日本が生んだ最高のジャンパーである本田武史も言ってますね。極度の緊張の中で転倒の危険の高い大技に挑むのは、それだけで勇気がいるし、大変なんです。今季のような異常なダウングレード判定がなくても、です。 今のバンクーバーのカナダの星はチャン。ジャンプに弱い選手です。そして、昨今、ルールと判定両方からジャンパーにかかる異常なプレッシャー。大技を入れると他のジャンプが低くなるので(安藤選手のファイナルがそうですね)、他のジャンプで減点される確率も高くなってしまう。 さらに、ジャンプを決めると、今度は「ジャンプばかりに集中してる」かなんか言って、演技・構成点を出さない手だってあるんです。しかも、演技・構成点の点差はジャッジの自由裁量で広げることができる。世界トップ選手の5つのコンポーネンツの点が8.5だろうと9だろうと9.5だろうと、どれが「適切か」なんて誰も言えないですから。今回は、あの出来のコストナーにあの演技・構成点ですからね。 バトルは引退してしまいましたが、ここまで汚い思惑があからさまになってきた世界から身を引いたのは、今となっては潔く見えますね。 <いよいよ、フィギュアねたも明日で終わりです> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.04.12 01:21:29
[Figure Skating(2008-2009)] カテゴリの最新記事
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