Mizumizuのライフスタイル・ブログ

2009/05/16(土)22:42

追悼:パスティッチェリア アベ

Gourmet(荻窪)(13)

ブログの私書箱に今日、読者の方から届いた1通のメール。 「パスティッチェリア アベさんに昨日行ってみました。お店の前には行列が出来ていて、『閉店につき全品30%引き』の張り紙が。午前中だったにも拘らず、抹茶ロールもおぎくぼのチーズケーキも売り切れ…」 へ、閉店!? 晴天の霹靂とは、まさにこのこと。 GWに寄ったとき、「都合によりしばらく休みます」の張り紙があり、シャッターが下りていたのだが、これまでも定休日以外に休むことはたまにあったし、GWにまとまった休暇でも取っているのかな? と思っていた。 実はMizumizuも昨日も通りかかったのだが(なにせ、自宅から2つ角を曲がるだけ。徒歩2分、いや1分かな)、人だかりができていて、「あれま、今日はヤケに混んでる」と思ってそのまま通り過ぎた。 閉店など、ありえない話だ。一時的なものか、店舗の移転だろうか? さっそく店に行ってみると、シャッターは半分以上下りていたが、中にはいつも応対してくれる女性の姿が。 こちらに気づくと、出てきて応対してくださった。 お話を聞いて、さらに目の前が真っ暗に… なんとオーナー・パティシエ、つまりお店のご主人が、4月末に急逝されたというのだ。まだ57歳。仕事を終えたあと、突然倒れ、そのまま亡くなったのだとか。死因はくも膜下出血。救急車が来たときは、すでに心肺停止状態で、まったく手の施しようもなかったそうだ。多忙で疲れ気味だったとはいえ、亡くなる前に、特に前兆のような体調不良もなかったという。 できたての「おぎくぼのチーズケーキ」を、店のショーケースの上において粗熱を取っていた、アットホームな情景がきのうのことのように思い浮かぶ。奥を見ると、いつもオーナーが、数人のお弟子さんと一緒に働いている姿があった。 抹茶ロールは稀有な絶品スイーツだったし、ショートケーキも好きだった。 そして、隠れた名品、リモーネ。 リモーネとは、イタリア語でレモンのこと。厚手のクッキーにレモンクリームをタップリのせたシンプルな焼き菓子なのだが、作るのには数日かかるというお話だった。 手間のかかったクッキーは、甘みも酸味も上品でしつこさがなく、食べるとなるとあっという間。気がつくと、もう1枚口に運んでいる、ある意味おそろし~いお菓子だった。 買うとすぐに食べきってしまうので、買うのを控えていたくらいだ。 すぐ近くの店なので、いつまでも、いつでも、買えると思っていた。 いや、閉店と聞いた今でも、もう「アベの抹茶ロール」は食べられなくなったという現実が、どうにもうまくのみこめない。 読者の方からのメールの通り、抹茶ロールもおぎくぼのチーズケーキもなかったが、他のケーキはまだ何種類か売られていて、Mizumizuのためにシャッターを上げてたら、さっそく数人のお客さんが入ってきて、また閉店できなくなっていた。あらためて、アベ人気の根強さを感じた瞬間。 身体を使って表現する芸術、たとえばバレエだとかオペラだとかは、パフォーマーが亡くなれば、そこで終わる。録画することはできるが、生で見ることはできなくなる。すぐれた味を作り出す職人も同じことなのだ。レシピがあれば、抹茶ロールもリモーネも作れるだろうけれど、それはしょせんはコピー、録画された身体芸術と同じ。結局のところ、もうあの味は帰ってこない。 同じように、ご主人個人の職人としての腕だけで、お客を集めている店が荻窪には何軒かある。ご近所なので、当たり前のように、その味を堪能させてもらっているが、それがいかに有り難いことか、身にしみた。

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