Mizumizuのライフスタイル・ブログ

2009/06/29(月)12:28

必見! フリック・コレクション美術館

Travel(ハワイ・NY)(36)

フリック・コレクション美術館は、鉄鋼王ヘンリー・クレイ・フリック氏(1849-1919)の邸宅を改築し、同氏が生前に収集した美術品・工芸品を展示しているプライベート美術館。メトロポリタン美術館からさほど遠くない、NYの一等地に建つ(住所:1 East 70th Street)。 日本人には、フェルメールを3点所蔵していることで知られているのだが(フェルメールの絵の画像はこちらから引用)、 行ってみて驚愕。個人のコレクションとしては、その質、幅広さともに空前絶後。世界でも指折りだと言って過言ではないだろう。 クリック氏の財力はもちろん、その審美眼の確かさに感服した。ヌードや戦争をモチーフにした作品がないことにも、コレクターとしての一定のこだわりを感じる。 そして、この邸宅そのものがもつ美的価値も見逃せない。豪華な調度品や細部まで意匠を凝らした部屋の内装は、それだけで高価な芸術品なのだが、ガーデンコートと呼ばれる噴水つきの池のある中庭空間が特に素晴らしい。心地よい水の音がマンハッタンのど真ん中だということを忘れさせてくれる。半透明のガラスで覆われた天井から間接的に採りこまれる外光が不思議に暖かい。 邸宅内には、ルードヴィッヒ2世の作ったリンダーホフ城内の居室を思い起こさせるような、白と黄色を基調にしたロココ風の内装を施した部屋もあった。こうした趣味は、ヨーロッパの絶対君主に対する憧れの表われだろうが、クリック氏の作ったロココ風居室は、ハッキリ言って、かのバイエルンの狂王に負けてない。さすがにアメリカ、個人実業家の身で、ここまでの富を蓄えられるとは。 そして、フリック氏が過ぎ去った昔の貴族文化全盛期の美術様式に非常に強い思い入れをもっていたことに、ルードヴィッヒ2世にも通じる人間の業を感じた。 収蔵品の中で特に名高いのは、ブロンズ小像のコレクションということなのだが、残念ながらこの分野の知識がないMizumizuには猫に小判(苦笑)。それよりも、絵画コレクションを重点的に見た。 ヨーロッパの絵画史に燦然と輝くビッグネームがずらりで、さながらプチ・メトロポリタンという様相。中には、メトロポリタン所蔵作品をしのぐ傑作もある。 中でも最も心惹かれたのが、ティツィアーノの『赤い帽子の男の肖像』。 写真では見たことがあったが、実物は写真からは想像できないぐらい素晴らしいもの。展示の仕方にも工夫があり、個々の作品に、近距離からスポットライトを直接当てている。絵画の保存という観点では、もしかしたら危険な照明手法かもしれないが、実際目の当たりにすると、このスポットライトが実に効いている。 ティツィアーノのこの作品には、ちょうどモデルの男性の顔にスポットライトが一番強くあたり、ヴェネツィア派画家の宝石のような色彩を輝かせていた。 写真ではわからないが、遠くを見つめる、半ば夢見るような彼のまなざしが実にロマンチックなのだ。 ちょうど同年代に描かれたフィレンツェ派のレオナルドの『白テンを抱く貴婦人』(1485-1490年、所蔵はポーランド、クラクフのツァルトリスキー美術館)と比較してみると… 何かに驚いて身を起こした白テンを貴婦人がぎゅっと押さえていることから考えても、この女性はふいに部屋に入ってきた「誰か」に目をやっているよう。 対して、ティツィアーノが描いた青年は、どこか遠く――おそらくは、光の入ってくる窓の外――を見つめているように思える。視線の先にあるのは、「誰か」ではなく、「どこか」。 ヴェネツィアの裕福な青年だろうから、その邸宅の窓の向こうには、眺めのいいラグーナ(潟)が広がっているのかもしれない。そこには遠くへ行く船が浮かんでいるのかもしれない。痩せ気味の青年は、それほど若くはない。といって、年でもない。青春を終えかけた男性が心に秘めた「ここではないどこか」への消せない憧憬。そんなものを秘めた視線のように見える。青年が屈強でないがゆえに、その印象はなおさら強まる。 ふわふわした豪華な毛皮、硬い剣の柄、ざらっとした皮革の手袋の質感も実にリアル。 メトロポリタンにもティツィアーノの類似の肖像画がある。 だが、フリック・コレクションの肖像画のほうが、より視線が何かを物語り、肌や毛皮や剣といった異なるモチーフの質感もより生き生きとしている。 フリック・コレクションは故人の遺言により門外不出。実物を見たいと思ったら、NYのこの邸宅に足を運ぶしかない。 その価値は十分にある。 例によって、日本人はとても少なく、邸宅内では1人も会わなかった。そもそもアジア系の観光客が来ていない。知る人ぞ知る美術館なのだろうか。だが、白人の見学者は非常に多かった。 ティツィアーノと言えば、『ウルビーノのヴィーナス』(16世紀。所蔵はフィレンツェのウフィッツィ美術館)のように豊穣な女性美のイメージが強かった。 このウルビーノのヴィーナスはゴヤの『裸のマハ』(1797-1800年。所蔵はマドリッドのプラド美術館)の源流とも言われている。 ティツィアーノの肖像画に関しては、レンブラントに影響を与えたということぐらいしか知識としてなかったのだが、『赤い帽子の男の肖像』で、これまでに見たティツィアーノ作品の中で最高の感動を味わった。 こうした思いがけない感動との出会いこそ、美術館見学の醍醐味。見る側にも心の余裕がないと、こうした出会いは起こらない。だがら、あまり1日にいくつも見て回らないことが、感動するための秘訣かもしれない。 そこにあるとあらかじめ知っているお目当ての有名作品を、ただ確認しに行くだけではつまらない。予想もしなかった新たな出会いがあってこそ、美術鑑賞の歓びは高まる。そういう意味でも、行ってよかった、フリック・コレクション! こんな美女もいた。フリック・コレクション一の美女と認定(笑)。 ティツィアーノの肖像画にある精神的深みは感じられなかったが、肌のつややかな美しさなど、後のルノワールに通じる魅力があった。

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