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Mizumizuのライフスタイル・ブログ

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Figure Skating

2008.03.25
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カテゴリ:Figure Skating
今季からジョニー・ウィアーの横に座っているコーチが誰かわかる人はかなりのフィギュア通だろう。答えはガリーナ・ズミエフスカヤ。全盛期のロシアスケート界でオクサナ・バイウル、ビクトール・ペトレンコというオリンピックチャンピオンを育てた名コーチで、本田武史選手が短期間ついていたこともある。

しかも、今回ウィアー選手の横にはガリーナコーチだけでなく、ペトレンコ自身の姿もあった。世界トップレベルの選手のコーチとして晴れの舞台に帰ってきたペトレンコの姿を見るのは初めてで、新鮮な驚きがあった。べトレンコはガリーナコーチの娘と結婚しているから、ガリーナファミリーでウィアーのコーチングをしているということだろう。

ウィアー選手はジュニアの世界王者になったこともあり、アメリカ選手権をかつては3連覇した。だがトリノオリンピックのあたりから伸び悩み、その後は怪我もあって低迷し始め、ライザチェックに全米王座を譲る格好になっていた。

年齢的にも23歳と微妙で、このまま消えていくか、復活できるか、今年は勝負の年だった。その年にウィアーが決断したのは、コーチを替え、ズミエフスカヤに師事する、ということだった。

世界から注目された10代後半のころのウィアー選手の持ち味は、細く長い四肢を使った繊細で華麗なスケーティング。少女漫画から抜け出たような、アンドロギュノス的な美貌にバレエを思わせる線の美しさで若い女性ファンを魅了してきた。だが、20歳を超え、男性的な筋肉を備えた身体を作る時期に自分のイメージが変わってしまうことを恐れ、ジャンプを跳ぶためのトレーニングを怠ったことがその後の低迷につながってしまう。

20歳を超えた男性はアンドロギュノスではいられない。今のウィアー選手はそれを自覚し、これから進むべき自分の世界をはっきりと自覚したようだ。それはこれまでのウィアー選手のイメージとはまったく違う、やや重い、ドラマチックな音楽を使ったフリープログラムに表れていた。

ぺトレンコがそばにいるということは、当然ペトレンコ風の表現になっていくことは想像に難くない。ペトレンコは重厚で風格のある表現力で、カナダのブラウニング選手と覇を競った選手だ。ウィアー選手はこれまでの華麗で繊細な表現ではなく、ロシア的な重厚感と深い叙情性をたたえる世界を作ろうとしているのだろう。

この戦略は今年の結果から言うと、大変にうまく行った。昨年は8位と低迷した世界選手権で今年はいきなり銅メダル。優勝候補筆頭だった高橋選手をかわしてのメダルは価値が高い。昨年までの調子だと、今年はもう10位にも入れずにそのまま消えていってしまうかもしれない危険性もあったのだ。それをここまで持ち直してきたのは立派。

これまで跳べなかった4回転もだいぶ決まるようになってきた。フリーでは両足着氷だったが、とりあえず降りたように見えた。プロトコルを見ると結局ダウングレード判定され、3回転の失敗として1.57点しかつかなかったが、中野選手のトリプルアクセルと同じく、ほぼ決めたといってもいい出来だったと思う。そのほかのジャンプもやや不安定で、GOEを見ても加点と減点が入り混じる評価だったが、ここ数シーズンのウィアー選手はフリーでことごとくジャンプを失敗してきたから、それから比べると段違いによくなった。

ウィアー選手をいきなりここまで立て直したことでガリーナコーチも再び脚光を浴びるだろう。母親的な包容力のあるガリーナさんにペトレンコのテクニックが加わればかなり強力なチームとなりそうだ。タワソワが健康問題で事実上コーチ業を引退し(振り付けはやっている)、その名声が高まることでモロゾフがあまりに多忙になった今、ガリーナ&ペトレンコチームが世界チャンピオンを育てる日も近いかもしれない。

ランビエール選手について

過去のエントリーをご覧いただけばわかるとおり、Mizumizuはランビエールの「ポエタ(フラメンコ)」を過剰なぐらい褒め称えてきた。フィギュアという概念をはるかに超えた、オリジナリティあふれる魅惑のダンス芸術。フラメンコダンサーと作ったというポエタの振り付けはまさしく不世出の名プログラムだった。同時に超絶技巧でもあった。最初から最後まで手の振りがほぼ休みなく入り、最初から最後までステップを踏む。通常大技のジャンプを決めるためには選手はかなり助走しなければならない。高橋選手は4回転を2度先に跳んでしまうプログラムを作ったが、見ての通り、最初はほとんどただ滑って勢いをつけているだけだ。

ランビエール選手のプログラムは単なる「助走」がほとんどない。細かく複雑なステップの合間にジャンプを入れていく。あまりの難しさに、ランビエール選手はとうとう、2ジーズン連続で滑ったにもかかわらず、ただの一度もミスなく演技することができなかった。今回は最後のチャンスだったから、ランビエール選手がこの試合にかける意気込みは人一倍だったはずだ。だが、フタをあけてみれば、出来は最低に近いもの。得意の4回転を2度入れたが、どちらも不完全、苦手のトリプルアクセルもダメ、それどころか普通は難なく決めているルッツさえ高さが出ずにきれいに着氷できなかった。

このプログラムは結局、超絶技巧すぎたということだ。難度の高いジャンプとは決して両立させることはできない「幻のプログラム」。誰も弾きこさせないピアノ曲のようなものだろう。同時にもう1つはっきりしたことがある。芸術性の高いダンスプログラムを作ってしまったら、今のフィギュアのルールではジャンパーには勝てないということだ。芸術性というのは要素と要素のつなぎの密度を濃くしてこそ高まる。だが、それによって運動量が増えれば、点数になる要素に気持ちを集中することは難しくなる。現行のルールのもとでは、決められた要素をきっちりとこなした選手が勝つ。もっといえば、ジャンプさえよければ勝てるのだ。

高橋選手は「銀河点」を叩き出した4大陸選手権のあと、「スピンの強化」を課題にあげた。確かに世界選手権では4大陸でレベル3だったスピンを1つレベル4に上げた。だが、点数の合計でみると、フリーのスピンの合計点は12.94点から13.09点になったにすぎない。スピンの点など3回転以上のジャンプにつく基礎点とGOEに比べたら微々たるものなのだ。

結局ジャンプがすべてといってもいい。ジャンプは難度が高いほうがいいが、高すぎると今度はリスクが高くていけない。そこそこの難度のジャンプをすべてきれいに決めることのできる選手が有利なシステムだ。ジャンプ大会にしないつもりで作った新採点システム、しかも今シーズン前に判定を厳密化したことが、フィギュアを完全にジャンプ大会に変えてしまった。

バトル選手は4回転を跳ばずに優勝したじゃないか、と言われるかもしれない。だが、それはあくまで他の選手がジャンプを失敗したからに過ぎない。もっといえば、4大陸での高橋選手の「4回転2回完璧」の衝撃が、他のトップ選手に「フリーでは自分も4回転2度入れなければいけない」というプレッシャーを生み、優勝候補が軒並み自滅するという結果を招いたともいえる。ベルネル選手など、ヨーロッパ選手権でのジャンプ構成を完全に捨てて、わざわざ高橋選手と同じ「最初に2回4回転を入れる」構成に変えて挑戦してきた。結果は完全に裏目に出たが。

ランビエール選手はどうするだろう。彼の目指した芸術性の高いフィギュアはもはや試合ではリスクを高めるだけだ。一度引退に傾いた彼の気持ちを再び駆り立てものは、誰も演じたことのないような芸術性の高いプログラムを演じて見せたいという情熱だった。その目標を犠牲にして、ジャンプを決めることだけに注力したプログラムを作り、再び試合に勝とうとすることがランビエール選手の中で意味をもつだろうか。すでに彼は世界選手権も連覇し、オリンピックでもメダルを獲っている。今後のランビエール選手にとっての一番の問題は、モチベーションの低下とどう闘うかということになってくると思う。

ちなみにランビエール選手がEXで滑った「ロミオとジュリエット」は作曲ニーノ・ロータ。今拙ブログで連載しているヴィスコンティ監督の助手だったゼフィレッリ監督の同名の出世作で使われた映画音楽。

<フィギュアネタは本日で終わりです。また来シーズンにお会いしましょう。明日からは、古い映画ネタの続きに戻ります>















最終更新日  2008.03.25 12:21:24


2008.03.24
カテゴリ:Figure Skating
2008年フィギュア世界選手権男子シングルを制したのは、カナダのジェフリー・バトル選手だった。これは本当に素晴らしいことだと思う。バトル選手はすでに25歳。解説をやっている本田武史と競ってきた選手で、フィギュア界では高橋選手より「ひと世代上」ということになる。ジャンプ重視の現在のフィギュアでは「そろそろ引退する時期」「もう終わってる選手」と見られてしまう年齢だ。

事実、ここ最近のバトル選手の成績は振るわなかった。今大会のカナダの国内大会ではチャンに負けて2位。それほどレベルの高くないカナダでタイトルが獲れなかったということは、「もう世代交代」だというという目で見られても仕方がない状況だった。

ところが、もっとも大事な世界大会でショートをノーミスで終えて1位。フリーでも4回転こそないもののジャンプをことごとくきれいに成功させ、スピンではすべてレベル4を並べた。プロトコルの得点を計算すると、バトル選手のスピンでの得点はランビエール選手より高かった。また、GOEで減点がほとんどない(「ほとんど」というのは1人だけルッツにマイナス1をつけた変わり者のジャッジがいたからだ)。すべての要素で加点をもらう超優等生のプロトコル。品行方正なバトル選手にふさわしい「成績表」になった。

バトル選手の持ち味はクリーンでシャープなスケーティング。清潔感あふれる表現力。軸がまったくぶれない驚異的な精度のスピン。そうした強みを全部出し切った。加えて、バトル選手の「お約束」になっていた最後のルッツでの失敗がなかった。いつも失敗しているフリー最後のジャンプ。これを跳ぶ前は見ていてこちらも緊張したが、根性で回って降りてきた。これがなんといっても一番賞賛すべき点だと思う。

フリーの総合点はなんと163.07。高橋選手の4大陸の175.84点には及ばないものの、同じく4大陸での自身のフリーの得点150.17を10点以上上回るハイスコアだった。ちなみに4回転を一度決めて優勝したランビエール選手のグランプリファイナルのフリーが155.30だったから、いかにバトル選手の得点が高かったかわかると思う。

これは4回転という大技がなくても、すべての要素を取りこぼしなくきちっとこなして加点をもらえば、勝てるという証明でもある。バトル選手はキム・ヨナ選手と同じ方向性で勝ったのだ。大会が大きくなればなるほど、「大技をもつ選手」ではなく、「失敗をしない選手」が勝つ傾向は高まる。一番よい例はトリノ五輪の荒川選手だろう。荒川選手は公式練習ではバンバン跳んでいた3+3を本番であえて回避し、完璧な演技を見せた。演技終了時点ではメダルの色は微妙だったが、後に続く金メダル候補のスルツカヤ選手もコーエン選手もジャンプで転倒した。スルツカヤがあんなところでコケるのなんて見たことない。こういうことが起こるのが大きな試合の特徴だ。

バトル選手の場合、最終グループの最終滑走で、優勝候補選手がバタバタ失敗して自滅していたから心理的に有利だったと考える人もいるかもしれない。だが、それはちょっと違うと思う。一番心理的に優位に立ったのは4回転が安定しているジュベール選手だったはずだ。事実、ジュベール選手は事前の申告では「3回跳ぶ」としていた4回転ジャンプを1度に抑えて、ジャンプミスのほとんどない演技を見せた。ジュベール選手がもし最終グループの最初のほうに滑っていたら、4回転を複数入れざるをえず、結果失敗してメダルはなかったかもしれない。ところが、ジュベール選手は最後から2人目。その前に滑った優勝候補が軒並み自滅した。

後ろにいるのは「たいしたことない」バトル選手だけ。バトル選手には4回転はないし、ジャンプもどこかで必ず失敗する。だとしたら4回転は1度で十分。そんな計算がジュベールのコーチにあっただろうと思う。事実ジュベール選手は演技が終わったとき優勝を確信しているように見えた。

最後に滑るバトル選手はジュベール選手よりずっと精神的にキツイ立場だったはずだ。ショートを1位で滑って、生涯初めての世界選手権での金メダルが目の前にぶら下がっている。なまじっかトップ選手が崩れたことで、ますますチャンスが高まった。そういう状況であれだけの完璧な演技をするのは並大抵のことではない。やはりバトル選手がこれまで積み上げてきた「経験」がものを言った。これまで何度もチャンスがありながら、ことごとく自分のミスでつぶしてきた過去の苦い思いがあってこその完璧な演技だったと思う。長い苦労が報われて、本当によかった。彼はインタビューや日ごろの態度も、素晴らしいとしかいいようのない青年だ。そうした選手が栄光を手にするのを見るのは嬉しい。

実はジュベール選手の得点がもう1つ伸びなかったのにはワケがある。ジュベールはフリップでwrong edge判定を受けている。ショートではボーカルを使ったということで「音楽の違反」で1点減点された。この音楽の違反はジュベール陣営には意外だったらしく、キス&クライでコーチとジュベール選手が猛烈に不審がっていた(ショートの録画をしてる人は見てください。転倒が1回なのに2点引かれ、驚いているジュベール選手とコーチの姿が映っています)。あの態度をみると同じ曲をヨーロッパ選手権で使って、そのときはボーカルと見なされなかったのかもしれない。だが、ボーカル禁止はルールなのだから、なぜわざわざボーカルに聞こえるような声(音?)を入れたのかちょっとわからない。

とはいえ、怪我があってシーズン途中でグランプリシリーズを離脱した世界チャンピオンがここで底力を見せたのはやはり素晴らしいことだ。今シーズン力を入れたというカート・ブラウニング振り付けのステップは期待したほどではなかったが、ここ一番でジャンプにミスがないというのは実力がある証拠だ。だが、フリーのとき、リンクに入ってから口にふくんだ水をそのままペッと吐き出したのはいただけない。フランス人選手のマナーの悪さ(特に気に入らないことがあったとき)はほとんど伝統だが、「ジュベールよ、お前もか」と思ってしまった。

<明日はウィアー選手が「復活できた理由」についてです>










最終更新日  2008.03.24 13:45:34
2008.03.23
カテゴリ:Figure Skating
誰がこんな結果を予想しただろう? 優勝候補の3人――四大陸で史上最高得点をたたき出して優勝した高橋選手、グランプリファイナルで高橋選手を破ったランビエール選手、ヨーロッパ選手権を制して波にのるベルネル選手――は誰もメダルを獲れなかった。優勝したのは4回転を跳ばず、ショートとフリーをミスなくまとめたカナダのバトル選手だった。

それについてはまた後日書くとして、テレビの解説でおそらく、一般の方が一番わからなかったであろう「高橋選手の最後のルッツが0点になった」ことについて説明しようと思う。本田武史は実に正確に説明していたが、あの話はフィギュアのジャンプに関する基本ルールを知っていないと理解できないと思う。

男子フリーの場合、連続ジャンプは3箇所(2連続・3連続という話ではなく、あくまで3箇所)で入れることができる。4箇所で連続ジャンプを入れてしまうと4つ目のジャンプは0点になってしまう。「高橋選手は4回も連続ジャンプを跳ばなかった」と言われるかもしれない。それはそのとおり。高橋選手が「実際に」跳んだ連続ジャンプは2回だけだった。だが、別のルールがからんでくるために、跳んでもいない連続ジャンプを跳んだとみなされるのだ。
その別のルールとは、「同じ種類の3回転以上のジャンプは、2回まで入れていいが、そのうち1回は必ず連続ジャンプにしなければならない」というルールだ。つまり単独で同じジャンプを2度跳んでしまう(つまり連続ジャンプにできない)と、2度目のジャンプは自動的に連続ジャンプの箇所としてカウントされる、ということだ。もちろん得点がのびるわけではない。ただ、連続ジャンプの箇所数としてカウントされるというだけのこと。

高橋選手のフリーのプロトコルのうち、ジャンプだけを抽出してみよう。
ジャンプの種類    GOE後の実際の得点
1) 4T   10.43点
2) 4T<+SEQ(<は回転不足によるダウングレード。SEQは本当は連続ジャンプにしなければいけなかったという意味だと考えるとよい) 0.20点
3) 3A 7.5点
4) 3A+SEQ(こちらはダウングレードなし。SEQは同じく本当は連続ジャンプにしなければいけなかった箇所) 4.17点
5) 3F+3T(これが高橋選手が実際に跳んだ連続ジャンプ)10.74点
6) 3S 5.24点
7) 3Lo 4.79点
8) 3Lz+2T 0点

このように2)と4)と5)と8)の4箇所で連続ジャンプを跳んだとみなされるため、最後の8)は0点となる。つまり8)で2Tさえ「つけなければ」3Lzの後半の基礎点6.6点はちゃんと加算されていた。きれいに跳んだからおそらく加点もついただろう。4大陸のときはちゃんと単独ルッツで加点をもらって7.6点も稼いでいる。つまり、2Tをつけてしまったがために、7点近い点を失ったのだ。アナウンサーが「最後に2Tをつけなければメダルに手が届いた」と言っていたのはそういうことだ。

高橋選手のジャンプの構成は4大陸と同じだった。4大陸でのジャンプは3LoのGOEで引かれた以外は完璧。
1) 4T 10.29
2) 4T+2T 10.73
3) 3A 9.5
4) 3A+2T+2Lo 12.9
5) 3F+3T 11.88
6) 3S 5.66
7) 3Lo 4.64
8) 3Lz  7.6

基本的にこの構成で、最後の8に2Tをつけてしまったと考えると「連続ジャンプが4箇所だった」ということに納得がいくだろうと思う。この構成で行くつもりが、2)と4)で転倒とお手つきがあり、連続ジャンプを入れられなかった。入れられなかったことで同じ種類の単独ジャンプを2度跳んだことになり、自動的にそれは「連続ジャンプの箇所」にカウントされたというわけ。

最後に高橋選手が2Tを回ったとき、テレビの前のMizumizuは信じられなかった。まさに悪夢。最後のルッツの点をモロに失うのは本当に大きい。モロゾフコーチも凍りついただろう。構成は4大陸と同じなのだから、決められた箇所での連続ジャンプで失敗してもほかの単独ジャンプを連続ジャンプにしてはいけない。モロゾフのジャンプ構成はそれを非常にわかりやすく選手に印象づけるようになっている。最初に2回の4T、次に2回の3Aを跳ぶのだから、連続ジャンプはもう1箇所でしか入れられない。

なのになぜ? 高橋選手に聞くほかないが、2)の4Tを自分の中で3Tのミスと勘違いしたのかもしれない。実はランビエールに負けたグランプリファイナルのときの高橋選手のジャンプ構成は、
1) 3T
2) 4T
3) 3A
4) 3A+2T+2Lo
5) 3F
6) 2S
7) 3Lo
8) 3Lz+2T
だった。つまりこのときは3回入れていい連続ジャンプを2箇所でしか入れず、損をしている。負けたランビエール選手との差は僅差だったから、どこかで2Tだけでも回っておけば勝ったのになあ、などと思ったものだ。

高橋選手にはこのときの構成が頭にあったのかもしれない。どちらにしろ、冷静ならばやるわけない失敗なのだが、案外このキックアウトでどど~んと減点される選手は多い。

拙ブログでは全日本選手権のときの太田選手に起こったこのキックアウトの悪夢を取り上げたが、織田選手も何度かやっている。これも考えてみれば不合理なのだ。今回の2)のジャンプは回転不足でダウングレードしている。つまり3回転トゥループの失敗と見なされている。ところが連続ジャンプの回数カウントでは4回転としてカウントするのだ。回転不足のダウングレード判定がいかに多くの矛盾を引き起こすかわかると思う。

高橋選手のフリーは2度目の4回転を失敗したのは仕方ないとしても、得意のトリプルアクセルが決まらず連続にできなかったこと、そのほかのジャンプにもミスが出たことが大きかった。これはやはり極度の緊張を強いられる世界選手権で大技を決めることがいかに難しいかを示した結果となった。大技は、決めたあとは集中力が切れて別のジャンプを失敗したり、決められなかったときは精神的にダメージを受けて次からのジャンプに精彩を欠いたりする。全日本、4大陸とほぼパーフェクトに決めてきて、実力はあることを証明した高橋選手だったが、やはり重要な試合になればなるほど、普段どおりにはできなくなる。

最初にトリプルアクセルを跳ぶ前にコケて、ほとんど演技が中断しそうになりながら、それ以降はほぼパーフェクトに跳んだ浅田選手とは対照的だった。これは精神力の違いだろうと思う。ただ、4回転1回でもメダルは獲れそうだった状態で、あえてモロゾフが4回転2度を認めたのは(モロゾフは直前に回避策を指示したが、けっきょく高橋選手が押し切った)、オリンピックまでに完成させようという気持ちからだと思う。何回やってもできるぐらいまでこのジャンプ構成を自分のものにすれば、また「銀河点」が出ることはわかっている。国際大会ですでに一度やっていることだから不可能ではないはずだし、今回の世界選手権でも4大陸の高橋選手をしのぐジャンプを見せた選手はいなかった。来シーズンに期待しよう。






最終更新日  2008.12.10 09:14:20
2008.03.22
カテゴリ:Figure Skating
トリプルアクセルでめったに見ないような大失敗をして、フリーではキム選手に続く2位だったものの、合計で逃げ切って1位に輝いた浅田真央選手。これまで大きな大会では浅田選手にはいろいろな不運が重なったが、今回の優勝は逆にかなりラッキーだった。

「キム選手がルッツで失敗してくれないと、浅田選手は勝てない」と過去のエントリーに書いたが、今回はズバリ、キム選手がショート、それにフリーの後半と2回も単独ルッツを失敗した。実はこの失敗が何よりもキム選手にとっては痛かった。フリーではキム選手は前半にトリプルルッツ+ダブルトゥループのコンビネーションを跳び、かつ後半で単独のルッツを跳ぶ。そしてキム選手のルッツにはとんでもない高得点が与えられる。

グランプリファイナルのときの浅田選手との直接対決を思い出してみよう。フリーで浅田選手はトリプルアクセルを見た目きれいに決めた。ところがこのジャンプは多少着氷がツーフットになった。そこで基礎点の7.5点から減点されて6.7点。キム選手が後半に跳んだトリプルルッツは10%増しの6.6点の基礎点に加点が加わってなんと7.8点。トリプルアクセルより高い点になっているのだ。繰り返すが、これはまったく不合理だ。いくら飛距離と高さがあるといってもルッツはルッツ。アクセルの難しさとは比較にならない。ところが、現行のルールにしたがうとこんな本末転倒な点数が出てしまう。トリプルルッツはキム選手にとって、浅田選手の不安定でなかなか決まらないトリプルアクセルより、ずっと確実に点を稼げる武器なのだ。

加えて今シーズンの浅田選手はエッジ問題で、ルッツを跳ぶたびに減点され、きれいに決めても4.7点程度にしかならない。着氷で乱れるとすぐに3点台に落とされる。このルッツでの点差はどうやっても埋めることはできないのだ。

ところが、今回のキム・ヨナ選手は後半にトリプルルッツを跳ぶ体力がなかった。ショートでの失敗も頭をよぎったかもしれない。無理に挑戦してコケてはいけない…… そんな気持ちからか、ルッツはすっぽ抜け、1回転のルッツになってしまった。この1回転ルッツに与えられた点は結局0.69点。実はショートでコケたトリプルルッツは、昨日も書いたように、2点になっている。コケたルッツのほうが、コケなかった1回転ジャンプより1点以上点が高い。こんなジョークみたいな点がつくから今の採点システムはわけわからないのだが、つまりは、フリー後半でキム選手は、このルッツが決まらなかったことでグランプリファイナルのときと比べて、7.11点も損をしたことになるのだ。このルッツ「さえ」決めていれば技術点は71.93点と70点台にのったのだ(今回64.82点)。

もう1つ、グランプリファイナルのときにキム選手はトリプルループ(基礎点5.5)で転倒している。そこで今回は苦手なトリプルループを回避して、得意なダブルアクセル(基礎点3.5)に変えてきた。これは決まったが、ダブルアクセルはダブルアクセル。点数は加点をもらっても4.07点にしかならなかった。

単独のトリプルループに関しては、浅田選手は絶対的な強さを持っている。失敗したことはほとんどないし、実際今回のフリーでも後半に入れて10%増しにし、さらに加点をもらって6.64点もの点を稼いでいる。キム選手がトリプルループを入れられないことで浅田選手が稼いだ点も隠された勝因の1つだ。

さらにキム選手はやはり後半に失速した。得意の腕の表現を抑制して体力を温存、ジャンプに集中し、前半に連続をかためて点を稼いだものの、後半の大事なトリプルルッツをシングルにしてしまい、トリプルサルコウも不完全な着氷で減点されて点がのびなかった。得意のCoSpでもレベル3で点数は2.64点。これまでレベル4を並べてきたキム選手としたら失敗だろう。ステップはレベル3でレベル自体は過去と変わらないが加点があまりつかずに3.39点。浅田選手は前半のCoSpで3.57点。後半のステップは非常に力強く魅せて4.03点

浅田選手も最初のトリプルアクセルの失敗でマイナス1点になっている。グランプリファイナルでは6.7点、4大陸ではこのトリプルアクセル1つだけで9.36点もの点数を稼ぎ出しているから、トリプルアクセルさえ決めれば同じく技術点を70点台にのせていた。

浅田選手のジャンプ以外の目立った失敗はスパイラル。これを危惧しているのはすでに述べたが、今回脚をあげている時間が足りずにレベル1に落とされて2.3点。4大陸ではレベル4で4.4点だったのだ。

では、試合前にあげたジャンプの課題はどうだったのだろう。

1 最初のトリプルアクセルを、着氷時の浮き足がこするツーフットなしで決めること。
これはダメだった。見たこともないような「跳ぶ前のコケ」。最悪の結果だった。今季のトリプルアクセルは結局、昨シーズンよりさらに悪くなったということになった。

2 前半に行う3回転フリップ+3回転トゥループのジャンプのトゥループを回転不足なしで決めるか、もしくは2回目のジャンプを別のジャンプにして完璧に決めること。
これは見事に決めて、加点までもらっている。10.93点。キム選手が同じジャンプで11.36点。飛距離に劣るせいか加点ではやや負けているが、それでもほぼ互角。これでセカンドにトリプルトゥループも跳べることを浅田選手は証明した。4大陸では5.51点にしかなっていなかったジャンプだ。

3 トリプルルッツの着氷で乱れないようにすること。
これもクリアした。5.5の基礎点に対して4.71点。今シーズンの目標としてはOKだろう。

4 後半に行うダブルアクセル+2ループ+2ループの3連続ジャンプで回転不足や着氷時のツーフットがないようにすること。
これも見事にクリア。加点は控えめだったが7.86点。

5 後半に行う3フリップ+3ループのループを回転不足にせずに決めること。
残念ながら、これは見た目にはきれいに決めたように見えたが2つ目のループをダウングレードされてしまった。やや回転不足だったかもしれない。6.7点にしかならなかった。4大陸では12.41点もの点を稼ぎ出した連続ジャンプ。5.71点も低い。見た目はほとんど変わらないのだが、やはりループは回転不足判定にされやすいという浅田選手の欠点は完全に克服できたとはいえない。
キム選手のトリプルルッツ+ダブルトゥループ(+ダブルループがつくこともある)に対抗するためには、このジャンプはやはり回転不足にならずに決めたい。

4大陸のときの浅田選手は技術点が71.91、今回は61.89点だから、やはり出来としてはよくない。演技・構成点(つまりは表現力)で60.57とキム・ヨナ選手(58.56)より高くもらったのも助かった。体力に不安のあるキム選手は得意の腕の表現も大きさがなかったし、いつものようなメリハリにも欠けた。後半は明らかに動きに精彩を欠いていて、ステップの印象も細ってしまった。浅田選手は逆に後半になるにしたがってぐいぐいと盛り上がり、華やかな躍動感が伝わってきた。これは2人の体力の差を示している。それが演技・構成点の違いとなって出たかもしれない。

コストナー選手の銀メダルに関してはセカンドのトリプルトゥループを一部不完全ながら決め、「お約束」のフリーでの転倒がなく、お手つきをしても回転不足と見なされずダウングレードされなかったことが大きい。キム選手の点の取りこぼしに助けられた部分もあるし、ヨーロッパ開催ということで、たとえばスパイラルの判定などは、明らかに甘かった。判定競技ではある程度は仕方がないことだろう。

浅田選手の優勝が他の選手の失敗に助けられたものであることは間違いないが、試合とは常にそういうものだ。トリプルアクセルでマイナス1になり、後半の3F+3Loをダウングレード判定されながら、一番点を取ったということは賞賛に値する。

だが、やはり課題も多い。トリプルアクセルは2年前のシーズンの調子には戻っていない。セカンドジャンプの回転不足も、こっちができればあっちができない。どこかでミスが出る。ルッツは矯正しなければならない(これは一番大変かもしれない)。スパイラルの取りこぼしはプログラムの構成で防いでいくようにするべきだろう。

だが、あれだけの難度のジャンプを全部完璧に決めるなど、ほとんど女子のレベルを超えてくる話だ。繰り返し強調するが、今もっているジャンプを浅田選手がミスなく決めることができれば、誰も浅田選手には歯が立たない。浅田選手が目指すべきは、「ステップからのトリプルアクセル」だとか「4回転ループ」だとかではなく、今もっているジャンプを「誰にも文句言わせないくらい」完全なものにすることだけだのだが、それはまた非常に難しいだろう。






最終更新日  2008.03.22 11:07:14
2008.03.21
カテゴリ:Figure Skating
浅田選手の優勝で終わった今回のフィギュア世界選手権女子シングル。結果は妥当だと思うが、最後の中野選手のフリー演技の低い点数には納得できない方も多いのではないだろうか。

最終滑走、(見た目)ノーミスできれいにまとまった中野選手の演技が終了、満場の拍手とスタンディングオベーション。ホームの日本ではない。北欧スウェーデンの観客が自然に立ち上がって中野選手をたたえたのだ。「ノーミスですね~」「素晴らしかったですね~」。解説者も興奮気味。これはメダル間違いなし? 金? 銀? 期待が盛り上がる。

ところが点が出て、「あれ~?」。フリーの得点は56.98+59.32で116.30。ちょっとフィギュアに詳しいファンなら「120点いってない?? うそ? なんで?」という反応だろう。

この低い点数、拙ブログを読んでいる方なら察しがつくだろうと思う。そう、中野選手の最大の武器であり、かつ一見「決めたように見えた」トリプルアクセルが点数上は「ダブルアクセルの失敗」とみなされたのだ。

つまり、回転不足によるダウングレードをくらったということだ。何度も説明しているが、初めてこのブログを読む方のためにもう一度簡単に説明すると、ジャンプで4分の1回転以上回転不足で降りてきたとみなされた場合、3回転なら2回転へ基礎点を下げられ、さらにGOEという複数のジャッジがジャンプの質を(マイナス3からプラス3までの間で)評価する加点・減点でも減点されてしまう。

トリプルアクセルの基礎点 7.5点
ダブルアクセルの基礎点  3.5点

こんなに違うのだ。今回のフリーで中野選手のトリプルアクセルは着氷が回転不足と判断された。そこで基礎点が3.5となった。次にGOEを見ると、12人のジャッジがそれぞれマイナス1とマイナス2をつけている。結果として中野選手が獲得したこの最初のトリプルアクセル(に見えたジャンプ)での点数はたったの

2.24点!

普通に跳んだダブルアクセル3.5点より低いのだ。さらに言えば、ダブルアクセルをきれいに決めればGOEで加点がつく。キム・ヨナ選手がフリーの最初のほうで入れた単独のダブルアクセルはこの加点をもらって4.07点になっている。トリプルアクセルをほんの少し回転不足にしてしまうと、とたんに普通にきれいに跳んだダブルアクセルよりずっと低い点になってしまう。これが今のフィギュアのルールなのだ。

ちなみにキム・ヨナ選手はショートのトリプルルッツで大オケした。で、あの点数、何点だと思いますか? 基礎点が6点。回転不足で降りてきてコケたと見なされ「なかった」ためにダウングレードなし。GOEでマイナス3。ここで得点が3点。別枠で「転倒でのマイナス1点」で減点されて、2点。中野選手のトリプルアクセルよりわずか0.24点低いだけ! こんな点のつけ方がまっとうだと思う人がいるだろうか? 転倒ジャンプは回転不足とか、GOEでマイナス3とか、別枠でマイナス1とか、わけのわからない引き方をせずに、一律で0点にする。それで何も問題ないはずだ。

中野選手のプロトコルをみると、後半に入れた単独のトリプルフリップでもダウングレードがある。トリプルフリップの基礎点は5.5点だが、後半だと10%増しの点数になる。ところが、回転不足で降りてきたとみなされたためにダウングレードされ、基礎点がたったの1.87(つまりダブルフリップの10%増しの基礎点)に下げられたうえ、GOEで減点されて1.48点。見た目は3回転フリップを決めたように見えるのに、たったの1.48点にしかなっていないのだ。

ノーミスに見えて、実はこれだけミスをしたと判定されれば、点がのびるわけがない。「あれ~?」という結果になるのは当然だ。回転不足というのは、これも何度も書いているが、素人目にはほとんどわからないことが多い。着氷の際の「お手つき」は明らかなミスで、誰でもわかる。コストナー選手は2度お手つきをしたから、印象としてはミスが多かったということになる。ところが回転不足で着氷したとは見なされなかった。だからダウングレードがなく、GOEだけの減点に留まり、結果点数がそれほど下がらなかったのだ。

加えて中野選手はセカンドジャンプに3回転がない。コストナー選手は2回セカンドジャンプにトリプルトゥループを入れた。コストナー選手は最初の3F+3T+2だけで基礎点11に対して12点もの点数を稼ぎ出している。セカンドジャンプにトリプルのない中野選手の場合は、後半に跳んだ3T+2T+2Loでの7.48点(これは加点も減点もされなかった)が最高だ。こんなに開いていてはどうやったって追いつけない。

きれいにまとまったノーミスのプログラム、観客のスタンディングオベーション。ところが結果はショートから順位を落として4位のメダルなし。こんなふうに一般のファンの印象と出てくる点数が極端に乖離してしまうのが現行の採点システムの大きな問題点なのだ。それぞれの要素を厳密にジャッジしようとするあまり「木を見て山を見ない」採点になってしまっている。

同じ木を見ても誰もが同じ判断をするわけではないというのが、また困ったところなのだ。「4分の1以上の回転不足判定(ダウングレード)」は、明らかに、判定をするジャッジによって試合のたびに甘かったり厳しかったりする。それがまたわかりにくさの原因になっている。解説者がよく「回転不足、かもしれない」「もしかしたら回転不足ととられるかも」と言っているのは、いかにその判断が曖昧かを示している。プロが見ていてもよくわらかないのだ。見る角度によっても違ってくる。そんな微妙な判断に非常に大きな点数がからんでくるのが一番の問題なのだ。

トリプルアクセルを回転不足で降りたといっても、当然ながらダブルアクセル以上には回っている。ところが、それをダブルアクセルの失敗だと見なすからこんな極端な低い点になる。回転不足はGOEで減点すればいいことだ。基礎点を下げたうえに、二重にGOEで減点するなんて不合理極まりない。

どうしてこんな不合理な規定を作ったのかといえば、それは「あまりに難度の高いジャンプへの挑戦」を抑制したかったのだ。特に男子は4回転に比重がいきすぎて、軒並み選手生命が短くなってしまった。4回転を跳ぶ有力選手はほとんど、若にころから怪我に悩まされ、引退を早めてきた。そうした状態に危機感をもった連盟が、「難しいジャンプをリスクをおかして跳ぶより、確実に跳べるジャンプをきれいに決めれば得点が出る」ようなシステムを作ろうとしたのだ。

だが、そのためにメチャクチャな理屈を作った(45度以上回転不足だとグレードの低いジャンプの失敗とみなす)ことが、公正なジャッジをゆがめる結果になり、さらに悪いことには、ジャンプの比重は低くなるどころか返って高まってしまっている。3回転以上のジャンプの基礎点の高さとGOEでの極端な加点・減点(3回転以上のジャンプ以外の要素の加点・減点はジャッジが1から3点をつけても、それがそのまま反映されるわけではなく、何掛けかに抑制されている)のために、結局はジャンプを決めなければ点が出ないシステムになってしまったためだ。

せめて回転不足判定でのダウングレードだけでも早めに撤廃すべきだ。ジャンプの質を評価することには賛成だが、現状は判断が曖昧なくせに、加えられる、あるいは減点される点数が極端すぎる。このままこの不毛なシステムを続けていくと、一般ファンは「まったく理解できない採点」に愛想をつかせて、フィギュアから離れてしまう。

XXXXX

安藤選手の途中棄権は残念という以上に心配。ショートでは「右脚で回るスピン」で多少ぐらついたが、左脚に問題があるようには見えなかった。安藤選手の説明では直前の公式練習のアップ時に肉離れを起こしたとか。試合前の合宿でも実は痛めていたという報道もある。左脚ということは、サルコウジャンプを踏み切るほうの脚だ。4回転サルコウをかなりハードに練習していたというし、その影響かもしれない。大技をもつ選手につきまとうリスクだ。

特に安藤選手は試合直前の怪我が多い。故障が度重なると精神的にも萎えてくる。すぐに脱臼する右肩も治らないようで、この肩の故障以来安藤選手はビールマンスピンができなくなり、スピンのレベルが取れなくなった。不運が重なっている。

ただ今は、怪我が軽いことを祈りたい。

<明日は、浅田選手のプロトコルを分析します>












最終更新日  2010.03.06 05:02:49
2008.03.20
カテゴリ:Figure Skating
イエーテボリ(スウェーデン)で行われたフィギュアスケート世界選手権女子ショートプログラム。浅田選手、中野選手が素晴らしい演技を見せた。安藤選手は言われているほど悪くはなかった。スピンで失敗があったが、ジャンプは無難に決めていた。あの出来で8位とは、モロゾフコーチとしてもやや想定外だったかもしれない。

ヨーロッパ選手に思わぬ高得点が与えられている。開催国がヨーロッパなので、これはある程度仕方がないかもしれない。ヨーロッパの選手はアジア系の選手にはない成熟した雰囲気をもつ芸術的な演技が魅力だが、ショートとフリーのジャンプを安定してすべて決めることのできる選手がほとんどいない。コストナー選手は、フリーでコケるのがお約束のような選手だ。もちろん今大会はそうした過去の失敗をふまえて、ジャンプのレベルを落としても確実な演技でくるかもしれない。だが、安藤選手とトップのコストナー選手の点差はわずかに5.07。スピンでのぐらつきを見ると脚の状態に不安があるが、フリーの出来次第では逆転も夢ではないので明日に期待しよう。

まだプロトコルは発表されていないが、上位の選手のショートの総合点と技術点+演技・構成点は以下のとおり。

1 Carolina KOSTNER ITA (64.28) 36.34+27.94
2 Mao ASADA JPN (64.10) 35.22+28.88
3 Yukari NAKANO JPN (61.10) 34.83+26.27
4 Kiira KORPI FIN (60.58) 34.22+26.36
5 Yu-Na KIM KOR (59.85) 32.71+28.14
6 Joannie ROCHETTE CAN (59.53) 32.99+26.54
7 Sarah MEIER SUI (59.49) 32.17+27.32
8 Miki ANDO JPN (59.21) 31.93+27.28
9 Kimmie MEISSNER USA (57.25) 30.54+26.71

浅田選手はスパイラルとスピンで狙ったレベルが取れなかったといっていたが、なんといっても最大の課題だった3+3の連続ジャンプを決めたことが大きい。4大陸では2回目のジャンプを回転不足判定にされてしまったが、今度は文句ないだろう(と思う)。今回の3+3は浅田選手のジャンプの魅力――軸が細く、高さがあり、回転が速い――がドンピシャで出ていた。これはかなり調子がいいということだろう。

ショートの連続ジャンプはミスってはいけない。これをミスして世界女王になった選手はいないからだ。キム・ヨナ選手はこの連続ジャンプは決めたが、もう1つの彼女の大きな武器であるルッツで転倒した。「浅田選手が優勝するためには、キム・ヨナ選手にルッツで失敗してもらうほかない」と過去のエントリーで書いたが、そのとおりになった。

今シーズン、ルッツに関しては、wrong edgeで必ず減点される浅田選手に対して、キム選手は決めさえすればほぼ確実に加点をもらう。その点差は平均して1回の3回転ルッツで3点だった。テレビでは「転倒したので1点減点されます」と解説で言っているが、これだけでは正しくないのはすでに過去のエントリーでしつこく書いたとおり。3回転ジャンプの転倒は降りてきたときに回転不足か回転しきっているかの判断で基礎点が大きくかわり、さらにGEOでも減点されるから、下手をするとマイナスになってしまう。キム選手の得点を見る限り、ルッツに回転不足判定はされていないと思う。

それにしても相変わらず、よくわからない順位だ。見た目の出来の印象と順位に乖離があると感じる観客も多いだろう。特にアメリカ勢はかわいそうだと思う。

さて、日本の新聞はさんざん「浅田選手の課題は表現力」と書いてきたが、これがいかに的外れな論評か点数を見ればわかると思う。表現力は「演技・構成点」で見るが、浅田選手の点は28.88。他のどの選手よりも高いのだ。

今シーズン、浅田選手はキム選手に勝てなかったが、これもすでに書いたように浅田選手のジャンプに問題があったからで、表現力の差では必ずしもない。この2人の表現力の持ち味が違うのだ。肩の可動域にまさるキム選手は腕の表現が美しい。脚の筋力と柔軟性にまさる浅田選手はステップの躍動感やエッジ遣いの深さに魅力がある。

2人の今シーズンの「演技・構成点」を全部見てみよう。

キム(ショート/フリー)
中国杯 27.92/56.80
ロシア 28.60/60.80
ファイナル 29.72/60.96

浅田(ショート/フリー)
カナダ 27.28/57.84
フランス 29.40/60.96
ファイナル 28.04/59.20
4大陸  29.05/60.40

単純に平均を出すと
キム選手(ショート/フリー) 28.75/59.52
浅田選手(ショート/フリー) 28.44/59.6

ほとんど点差がないことがわかる。どのジャッジの点を拾うかで違ってきてしまう程度、つまり誤差程度の点差しかなく、ほぼ互角の評価がされていることがはっきりすると思う。

ちなみに世界選手権のショートが終わったので、これを加えた今シーズンの2人のショートの演技・構成点の平均は
キム選手 28.60
浅田選手 28.53
という結果だ。わずかに点差は0.07。フリーでは逆にこれまでの平均では浅田選手が0.08勝っている。こんな差しかないのに、「キム選手に対抗するためには、浅田選手は表現力を磨くべき」などと言ってる新聞はちゃんちゃらおかしい。

3回転ルッツを(見た目)2人がきれいに決めた場合に3点前後も差がつく――それが浅田選手がキム選手に勝てない最大の原因だ。さらにトリプルアクセルも着氷でちょっと浮き足がついただけで減点され、下手をすると普通にきれいに跳んだキム選手のトリプルルッツより点が低くなる。こうした採点システムに苦しめられてきたのだ。

今シーズン、浅田選手がキム選手に勝てなかったのは、彼女のやや不完全なジャンプに対する減点が厳密にされてしまったことだ。それを浅田選手はショートで見事に克服した。wrong edgeについては仕方がない。それよりも、もっとも重要な3+3をきれいに決め、ルッツも着氷の乱れがなかった(wrong edgeを気にするあまり着氷で乱れるとさらに減点されてしまうからだ)。

拙ブログでの過去のエントリーで挙げたショートでの課題を浅田選手は見事にクリアした。素晴らしいとしかいいようがない。次はフリー。フリーの浅田選手の課題をもう1度挙げよう。

1 最初のトリプルアクセルを、着氷時の浮き足がこするツーフットなしで決めること。浅田選手の場合、完全に両足で着氷してしまうことはほとんどないのだが、そのかわり「ちょっとだけこすってしまう」ことが非常に多い。

2 前半に行う3回転フリップ+3回転トゥループのジャンプのトゥループを回転不足なしで決めるか、もしくは2回目のジャンプを別のジャンプにして完璧に決めること。
浅田選手は実は、2度目に跳ぶトリプルトゥループを本当の意味で完成させていない。このトゥループはシーズン途中で入れてきたもので、これまで必ず回転不足になっていた。45度以上の回転不足とみなされるとダウングレードといって基礎点がさがり、さらにGOE(減点・加点)でも減点される、つまり2回転ジャンプの失敗とみなされるから、まったく武器にならない。運良くダウングレードを免れても少し回転不足で降りてきただけで、GOEの減点があるので、きれいに決めた3+2よりも点が低くなるということもありえる。

3 トリプルルッツの着氷で乱れないようにすること。
すでに書いたように、エッジが最後に多少内側に入ってしまうのは、今シーズンはもう仕方がない。着氷をきれいに決めて、減点を低く抑えることだ。

4 後半に行うダブルアクセル+2ループ+2ループの3連続ジャンプで回転不足や着氷時のツーフットがないようにすること。
この3連続ジャンプの入り方は、ぜひご注目を。左右にエッジを深く倒しながら片足ですべってきてそのままダブルアクセル。こんなことを、しかも後半にできる選手は浅田選手しかいない。本当に、見ていて惚れ惚れする。

5 後半に行う3フリップ+3ループのループを回転不足にせずに決めること。
これは実は今シーズン、浅田選手のジャンプのなかではもっとも確率が高い連続ジャンプだ。普通はフリーの後半は体力が落ちてむずかしくなるのに、浅田選手はショートの最初ではさんざん失敗したが、フリーの後半ではなぜかうまく決めている。決めてはいるが、ほかのジャンプを決めることに集中すると、これまで決めていたジャンプをいきなり失敗することがあるので、やはり注意が必要だ。

この課題さえこなせば、ハッキリ言ってフリーでキム選手が彼女のもつすべてのジャンプを決めても、浅田選手にはもはや勝てない。ショートで4.25差があるから、ルッツで出る点差の平均3点をしのいでいるし、いくらキム選手のルッツが高評価だといっても、「きれいに決めたトリプルアクセル」より点が出ることはない。

フリーでもスパイラルのレベルの取りこぼしは多少気になる。浅田選手のフリーは非常に難度が高い。高すぎる。あらゆる難しい技を、まるで一陣の風があざやかに、そして軽やかに吹き抜けるようにこなすことを目指して作ったプログラムだ。

密度が濃く、スパイラルのあとにすぐトリプルループが来るような構成になっている(キム選手のプログラムは、スパイラルの脚をおろしてからジャンプに入るまで十分な助走時間がある)。シーズン途中で修正したが、ジャンプに集中しようとすると気になって規定よりはやく脚をおろしてしまうかもしれない。だが、スパイラルやスピンは実際には、ジャンプの点に比べたらたいしたことはないのだ。

すべてはジャンプの出来で決まる。浅田選手の場合はやはり、カギになるのは最初のトリプルアクセルだろう。これを4大陸のときのような素晴らしい完成度で決めることができれば、気持ちものってくる。

中野選手も今季最高の演技でメダル圏内にいる。ぜひとも頑張って欲しい。

キム選手は逆に得意のルッツで転倒したことがかなり精神的に響くはずだ。痛みをかかえた状態だと不安がつきまとい、ジャンプに集中できない。「転んでまた悪化したらどうしよう」といった思考を自分の中で消し去って演技するのは、若い選手には容易なことではない。ショートでの動きも全体的に悪く、印象も薄かった。インタビューでも「痛みが出た。痛かった」と何度も言っていた。ああいった言い訳のようなことを言うのは、怪我による調整不足の不安を自分自身コントロールできていないということだ。

本当に強い選手は「痛くて」などとは決して言わない。そう言ってしまえば、同情はしてもらえるかもしれないが、他の選手を精神的に「ラクな」状態にしてしまうからだ。ライバルには常に精神的な重圧を与えるように振舞わなければならない。フィギュアはメンタルな面が非常に大きく作用する競技なのだ。常識的に考えると、キム選手のあの状態では長いフリーはとてももたない。ただそれは一般論であって、強い精神力と集中力で乗り切ることのできる選手もいる。明日の演技に注目しよう。











最終更新日  2008.03.21 14:54:35
2008.02.29
カテゴリ:Figure Skating
映画『ラスト、コーション』は音楽も素晴らしかった。作曲はフランス人のアレクサンドル・デスプラ。いかにも洒脱なパリ生まれの音楽家が東洋をイメージして作ったといった雰囲気の旋律で、陰鬱でありながら洗練された雰囲気に満ち、曲が終わったあとも何か切ないような余韻が残る。

映画でこの東洋的な音楽を聴いているうちに、「これはフィギュアのキム・ヨナ選手が使ったら、とてもいいプログラムになるんじゃないか」と思った。キム・ヨナ選手の独特の憂いのある雰囲気や表現力、そしてまるが「蛇が吸い付いていくように」氷を滑っていく個性的なエッジ使い…… 実際に映画館から出るときは、キム・ヨナ選手がこの曲で氷上を舞う姿さえ見えていたかもしれない。

かつて中国の陳露(ルー・チェン)が映画音楽の『ラスト・エンペラー』を選び、彼女にピッタリの赤い衣装を身にまとい、独特な東洋的な振り付けで17歳にして一挙に世界女王にのぼりつめたが、あの名プログラムに匹敵するぐらいの傑作ができるかもしれない。

今年のプログラム構成の巧みさに関しては、高橋大輔選手の『ヒップホップ白鳥の湖』+『ロミオとジュリエット』が群を抜いて際立っている。高橋選手はもともと、男子フィギュアスケーターの王道をいく「正統派王子様」ではない。彼の魅力はどこかに「ヤバさ」があるところだ。だから、高橋選手は『オペラ座の怪人』や『ロクサーヌ(ムーランルージュ)』を演じさせると、誰も真似のできない世界を作り出す。

前者はオペラ座の暗闇に棲みついたこの世のものではない存在が歌姫に寄せる悲恋だし、後者は高級娼婦と売れない芸術家の許されざる愛を描いた物語だ。今シーズンのEX プログラム『バチェラレット』も、何かにとりつかれたような雰囲気を出した妖しいダンスだ。こうした音楽に向いているというのは、高橋選手の中に何か「バロック(歪んだ真珠)」のような魅力があることだ。モロゾフはそういった高橋選手の「バロックな魅力」を非常に、いやあまりにも、うまく引き出す。あのレイバックスピン1つをとっても、相当に「ヤバい」感じがする。腰を氷ギリギリまで落としたスピンについていえば、ヤバさを超えてサディスティックですらあった(実はやめてくれて結構ホッとした。あんなことを続けていたら膝が壊れてしまいそうだ)。ああいうポーズを高橋選手に取らせるところにモロゾフの「ヤバさ」もある。

だが、こうした高橋選手の個性は、ともすると清潔感に欠け、拒否反応を示す人もいる。だから、モロゾフはショートとフリー両方とも「ヤバそうな世界」に浸ってしまうことは決してない。今期のショートのヒップホップは「相当にヤバい」。対して「ロミジュリ」はかなりの正統派だ。とはいっても「ロミジュリ」も悲恋の物語だ。つまり、モロゾフは、高橋選手のもつ「陰の魅力」を両方のプログラムの底流に共通しておきながらも、超現代的な振り付けとクラシックな雰囲気との対比を鮮やかに描いてみせたのだ。そして、女子選手のプログラム構成で同等のレベルの評価ができるものといえば、(残念ながら)浅田選手のショート+フリーではなく、キム・ヨナ選手のそれだ。

キム選手は、ショートではオペレッタ『こうもり』を、フリーでは映画音楽から『ミス・サイゴン』をもってきた。『こうもり』である。鳥でもない、動物でもない、あのクラ~イこうもり。『ミス・サイゴン』も決して明るい話ではない。このように共通の「陰影」をもちながら、ヨーロッパ伝統のオペラとアジアを舞台にした映画音楽というコントラストもつけたプログラム構成。これは選手の個性を強調しつつ、対照的な曲を使うという非常にうまい手法だ。

浅田選手のショートは当初素晴らしい振り付けだったが、今はそのほとんどをそぎ落とし、エレメンツをしっかり決めることに集中せざるをえない状況になっている。フリーはショパンの『幻想即興曲』。実がこれがイケナイ、とMizumizuは思っている。『幻想即興曲』は誰からも好かれる人気のある美しい曲だが、フィギュアスケートの曲としてはあまりにありふれている。日本女子選手はこの曲を使いすぎる、というイメージもある。もちろん、演奏方法が違うし、ショートとフリーで構成は全然違うが、要するに曲に「新鮮味」がないのだ。

キム・ヨナ選手の『ミス・サイゴン』は映画音楽だから、ドラマ性をもたせやすい。クワンなど、過去に使った選手もいることはいるが、やはりアジアのイメージが強いから、フィギュアの世界では、ショパンほどありふれた感じはしない。キム選手には脚使いが弱く、細かいステップが長く踏めず、フリー後半になるとバテるという欠点があるが、ミス・サイゴンでは、途中にポーズを決めてみせながら、ちょっとお休みする部分もあり、最後のステップでもあまり体力を消耗しないよう、そのかわり彼女の正確なターンと深いエッジ使いを強調できるよう、うまく構成している。つまり、キム選手はショートとフリーの共通性と対比性を明らかにするよう配置し、かつ彼女の欠点をうまくカバーできるよう無理なくプログラムを組んでいるのだ。

対して、浅田選手のフリーは体力的に非常にキツい。最初から最後までほぼ切れ目なく走らなければならないし、スピードを強調するあまり、メリハリに欠ける。高難度のジャンプも次々入るし、最後のステップも相当動いている。にもかかわらず、平凡な曲と密度は濃いものの強弱に欠ける演技構成で、キム選手のフリーのような叙情性と強い印象を与えることができずにいる。

これは完全に浅田陣営の作戦の失敗だ。ジャンプにあれほど問題があるにもかかわらず、こんなに運動量の豊富なフリーを作ってしまって、一体どうするつもりなんだ、と言いたい。せめて武器であるスパイラルをもっとゆったりと見せるように作ってもよかったんじゃないか。スパイラルから次のジャンプへの間隔が短すぎないか。あれじゃ、次のジャンプが気になってスパイラルに集中できなさそうだ。つまり、密度が濃すぎて、何かの要素に集中すると別の要素を完璧にこなすのが難しくなる。これはランビエールのフリーにも言えることだ。だから、浅田選手はレベル取りに失敗しないよう、プログラムを少しいじって密度を薄くせざるを得なくなっている。

そのよい例が最初のスケートカナダ。このときのフリーで浅田選手はスパイラルでレベル1にされてしまった(あの美しいスパイラルが!)。脚上げ3秒キープができなかったのだ。この原因はハッキリしている。スパイラルの後すぐに3ループが来る。この間隔が短すぎて、次のジャンプが気になり、ついついスパイラルでの脚上げの時間が短くなったのだ。だから、次はからはそこを修正しなければいけなくなった。エリック杯では時間オーバーで1秒減点された。これも次から修正しなければならない。ジャンプに問題があるのに、同時に次々起こる別の問題にも対処し続けなければならなかったということだ。これらは要するにいろいろやることが多すぎる、密度の濃いプログラム作りに原因があるのだ。実力を超えたプログラムを作るのは、自殺行為だ。ただ、さすがというべきか、四大陸では他の問題を解決し、ほぼ、「ジャンプだけの問題」にまで集約ができてきている。だが、「スパイラルでレベル1」だの「タイムオーバーで減点1」だのは、最初から起こらないようにしておく問題だったはずだ。

安藤選手のショート『サムソンとデリラ』は相当曲を編集して、メリハリをつけている。スピンが始まると鈴の音が鳴り響く。スパイラルに入る直前に曲が劇的に盛り上がり、スパイラルの途中で曲調がいきなりしっとりと変わる。だから、安藤選手が脚を上げている時間が実際よりも長く感じるし、ただ脚をあげて滑っているだけなのに、メリハリが出るのだ。さすが、モロゾフだ。

キム選手がすでに東洋的で憂いのある表現、という独特の世界をほぼ完成させ、安藤選手が成熟したセクシーな魅力で年下の選手に対抗しようという路線をハッキリさせているのに対し、浅田選手は迷走してしまっている。今期は滑るたびに課題が出るので、それに対処するためにプログラムも相当いじっている。もはや何が何だかわからない。

ただ、世界選手権に向けての課題は昨日書いたようにハッキリしているので、とにかくジャンプの精度を上げることだ。そして、「浅田真央はもう跳べなくなってきた」という世間に一部にある論調を彼女自身の力で封じなければ、世界女王にはなれない。このままズルズル失敗を繰り返していると、圧倒的な身体能力をもちながらシルバーコレクターだったサーシャ・コーエンの二の舞になってしまう。

できれば山田コーチにそばにいてほしいと思う。高橋選手にはモロゾフと並んで、必ず母親のように長年高橋選手を見てきた長光コーチが寄り添っている。これが非常にいいと思うのだ。モロゾフも恩人だが、長光コーチは高橋選手にすべてを賭けてきたといってもいいくらいの存在だ。高橋大輔は、長光コーチが長年のコーチ人生の中で初めて出会った「圧倒的な才能」だったという。自分の才能を見出し、長年親代わりになってくれたコーチに恩返しをしたい、という気持ちが高橋選手にはあるはずだ。

浅田選手がそうした気持ちをもてるのは山田コーチをおいて他にはいない。そして、こうした気持ちこそ、大きなモチベーションになる。山田コーチは自分の個人的な野心のためではなく、本当に浅田選手のために一緒に戦うことのできる人だ。今後外国人コーチをつけるにしても、浅田選手には子供のころから見てくれていたコーチも精神的な支えになるためには必要ではないかと思うのだ。四大陸では浅田選手はアルトゥニアンなしで戦い、「影響はなかった」と言っていた。浅田選手の明るさで皆は気づかないでいるかもしれない。だが、わずか17歳の女の子が、コーチを精神的に見切り、1人で戦っているというのが異常事態なのだ。アルトゥニアンには、「いったいぜんたい、そんなコーチって何? コーチ料をいくらもらってたワケ?」と言ってやりたい。

浅田選手は本当に偉い。そうした自分の中にある辛さや不信感や不安感を決して他人にぶつけることがない。だいたい、あそこまで辛らつな判定で減点されたら、普通の神経だったら、とっくにふてくされている。努力し、自分なりに自信をもって臨んだ今シーズン。ショートでは2度続けて自己ワーストを更新し、決めたと思ったジャンプまで回転不足でダウングレードされる。こんな状況でも決して精神的にボロボロにならず、「今回減点された部分を次で修正していきたい」なんて言えるのは、並大抵の精神力ではない。山田コーチは、浅田選手が伊藤みどりに勝る部分として、「性格」を挙げていたが、そうかもしれない。

昨日書いたように、現状ではキム・ヨナ選手のミス待ちであることは、残念ながら間違いないが、フィギュアの試合は何が起こるかわからない。とにかく、ジャンプですべてが決まる。伊藤みどりに言わせれば、「ジャンプは跳んでみなければわからない」そうだ。100年に一度と言われたジャンプの天才が言うのだから、そういうものだのだろう。だから世界選手権で誰が優勝するか、今から予想することは不可能なのだ。






最終更新日  2008.03.01 23:18:16
2008.02.28
カテゴリ:Figure Skating
フィギュアスケートの世界選手権を間近に控えて、驚きのニュースが飛び込んできた。

浅田真央選手が、「練習の本拠地を日本に移し、アルトゥニアンコーチとの師弟関係を解消」というのだ。

地元の愛知県内に通年スケートリンクが新設され、練習環境が整ったことが大きいということだが、ある意味、この時期でのこの「振り」っぷりはスゴイ。世界選手権までもうあと数週間だ。そこに普通選手にとって大きな精神的な柱であるコーチを帯同しないということは、ごくありていに言えば、「あんたなんか要らない」というキョーレツな意思表示だからだ。

常識的には「非常識なタイミング」での師弟関係の解消だが、個人的には大いに大歓迎。すでに拙ブログでは、10月7日の記事で、「今季もトリプルアクセルの確率が昨シーズンのように悪いなら、本当にマズい。そのときはアルトゥニアンコーチはさっさと解任すべき」、12月29日の記事で、「こうなったのは、先シーズンに「ステップからのトリプルアクセル」などという無謀かつ無駄な挑戦をしたため」と書いた。

シーズン後半になって、浅田選手はトリプルアクセルに力を入れ、なんとか調子を取り戻してきたが、他の3+3の連続ジャンプの「回転不足問題」は解決されていないままだ。浅田選手の場合、今シーズンはジャンプに非常に多くの問題をかかえてしまった。

世界選手権での浅田選手の課題は、その優先順位もハッキリしている。

1 ショートでの3+3を回転不足、ツーフットなしで完璧に決めること。
2 フリーでのトリプルアクセルを成功させること
3 フリーで最初に跳ぶ予定の3フリップ+3トゥループを回転不足にせずに成功させること。あるいは別のジャンプで減点を回避すること。
4 ルッツではwrong edgeは仕方ないので、着氷で乱れないようにすること。

ハッキリはしているが、逆に言えば、ジャンプだけでこんなにたくさんの問題をかかえてしまったということだ。よく考えてほしい。15歳の浅田真央選手、つまりアルトゥニアンに師事する前の浅田選手は、ほぼすべての試合でトリプルアクセルを高い確率で決めていたのだ。

その調子を崩したのは、去年「ステップからのトリプルアクセル」を始めてからだ。今年になってステップはやめたが、調子はずっと悪く、トリプルアクセルに集中して練習しなければならなくなった。

またショートでの3+3の連続ジャンプの確率の悪さは、去年の世界選手権以降、眼を覆うばかりだ。ここまでショートの連続ジャンプを失敗する選手が、世界女王になった例はほとんどない。ショートの連続ジャンプが決まるか決まらないかは、非常に大事なポイントなのだ。

さらに今年のルール改正が浅田選手に追いうちをかけた。「wrong edgeの減点」「回転不足判定の厳密化」。これによって、浅田選手は、去年までは明らかに実力で凌駕していたキム・ヨナ選手に勝てなくなってしまった。

浅田陣営の失敗はこのルール改正での減点を非常に甘く見ていたことだ。wrong edgeについては、最初のうち浅田選手は「ジャンプの入り方をちょっと変えることで対応する」と言っていた。だが、助走の軌道を修正したぐらいで矯正できるほど、エッジ問題は簡単ではない。浅田選手はジュニア時代からずっと、「ルッツの軌道で助走してきて、最後にグッとエッジが内側に入る」という跳び方をしてきた。最後にエッジを内側にのせることで力を入れているのだから、ある意味、浅田選手は「ルッツは跳べない」選手なのだ。最近になって、解説者が浅田選手のルッツのあと、「ちょっとエッジが内側に入ってしまいましね~」と、まるで偶然そうなったかのように言っているが、浅田選手はもともと、こういう跳び方だったのだ。エッジが内側に入らずに3回転ルッツを跳んだことは、過去一度もないと言ってもいい。

また、エッジの矯正にはリスクが伴う。今シーズン女子のトップ選手で、ここまでで完全に矯正ができた、といえるのはフリップに問題のあった安藤選手だけ。マイズナー選手は矯正を試みて試合で転倒し続けている。その安藤選手でもNHK杯までは失敗を繰り返していた。

さらに言えば、フリップの矯正(安藤選手)とルッツの矯正(浅田選手)では、ルッツの矯正のほうが難しい。なぜか? それはルッツのほうが難度が高いからだ。なぜ難度が高いのだろう? それはルッツが「外側のエッジ」で踏み切らなければならないからだ。スケートリンクは楕円形だから、選手がリンクにそって滑る場合、運動の方向は内側に向いている。ところがルッツを跳ぶときは、一瞬その運動方向にさからって、外側に重心をかけなければならない。だから難しい。だから基礎点に6点という高得点が与えられている(フリップの基礎点は5.5点)。

浅田選手は今シーズン、ルッツを跳ぶたびに、ことごとく減点されている。その結果、悪ければ3点台、見た目をきれいに決めても4.8点ぐらいにしかならない。キム・ヨナ選手がルッツを決めた場合(それはほとんど「きれいに」決めているから)、加点がついて7.5点以上稼ぎ出す。ルッツ1つで3点の差がつくのだ。ショートとフリーで2回ずつ跳べば、6点の差が出ることになる。この差はどうやって埋めたらいいのだろう? どうにもならない。だから、キム選手にルッツをミスってもらうしかないのだ。

また、3+3の連続ジャンプでの回転不足判定も深刻だ。キム選手も浅田選手も3フリップ+3トゥループをもっており、浅田選手はフリーでのみ入れ、キム選手はショート、フリーで入れている。キム選手はトゥループが得意なので、この連続技は大きな武器になる。この連続ジャンプに関しては基礎点9.5点に対して、11点前後を稼ぎ出す。ところが、浅田選手の場合は、フリーで1回入れるこのジャンプのトゥループがほぼ毎回回転不足になる。規定角度(4分の1回転)以上の回転不足とみなされれば、ダウングレードで基礎点がさがり、GOEでも同時に引かれるから、4大陸では5.51点にしかならなかった。ダウングレードされなくても、若干回転不足で降りてくればGOEだけでの減点となり、グランプリファイナルでは8.9点だった。つまり平均して、キム選手が3フリップ+3トゥループを成功させた場合と、浅田選手が通常どおり若干回転不足で決めた場合、やはり2点の差がついてしまうということだ。

ジャンプに関して、キム選手が明確に浅田選手に勝っているのは、単にこのトゥループとルッツだけなのだ。あとは浅田選手のやらないサルコウがあるが、サルコウは基礎点があまり高くないので、問題にはならない。それに対して、浅田選手にはトリプルアクセルという大技があり、かつループに関してはキム選手よりはるかにうまい。セカンドジャンプに3回転ループを入れることは、キム選手には不可能だし、そもそも単独の3ループで転倒することもある。

ところが、この武器であるはずのセカンドジャンプのループが今期、絶望的なぐらい悪い。ショートでは失敗を繰り返し、フリーでもしばしば回転不足判定をされる。4大陸での後半、3フリップ+3ループをきれいに成功させた… と思ったら、GOEでマイナスをつけてる審判が2人いた。プラスをつけてる審判のが多いので、結果(基礎点は10%増しで11.55)12.41という高得点を稼いだが、これだって、ちょっとでも回転不足で降りてくれば、減点されるから、すぐに2、3点下がってしまう可能性もある。

あとはトリプルアクセル。トリプルアクセルは武器にもなるが、失敗するとダメージも大きい。また、ちょっとでも着氷で乱れれば、また減点だから、キム選手の後半に跳ぶルッツの点のが高くなる、なんてことにもなる。

つまり、ルッツとトゥループで浅田選手に勝っているだけのキム選手が、その安定度で高得点を稼いでいるのに対し、浅田選手は常に、多彩だけれどもやや不完全なジャンプでどんどん減点されているのだ。こんなジャッジをされて、勝てというほうが無理な話だ。浅田選手はもともと回転不足や着氷のちょっとした乱れが多い選手だった。ただ、そんなものは全体の流れからするとたいしたことはないし、そもそも肉眼で見えないことも多い。ところが、今期からは1つ1つのジャンプをスロー再生するなどして厳密に減点している。

浅田選手が連続ジャンプで減点されないためには、文句なくキッチリ回って降りてくるしかないが、これまでのスケート人生でほとんど一回もできていないことを、次の世界選手権でいきなりやれといっても無理な話だ。トリプルアクセルを軽々と決めていた15歳のころとは違うのだ。トリプルアクセルも決まるかどうかわからないのに、他のジャンプにも課題があるとなれば、どこかでミスが出るのは仕方がない。

ほかにもキム選手に勝てない理由がある。それは今期力を入れたステップで、たいした点差が出ないことだ。ステップでキム選手より点を稼げるとしても、せいぜい1回につき0.2点。ショートで2回、フリーで1回で、0.6点だけなのだ。ところが、スピンに関しては、キム選手のほうが点が高い。ショートの1度のレイバックスピンだけで0.6点差がつく、なんてこともある。ステップで稼いだ点を全部取り返されているということだ。

だから、現状では完全にキム選手のミス待ちなのだ。とはいっても、キム選手の最大の弱点は怪我の多さと体力のなさ。フリー後半になると、明らかにバテてくる。そもそもキム選手自身も今シーズン、ショートとフリーを完全にミスなく滑ったことはない。それでも点は浅田選手より出ている。

スケーターとしての天賦の才能では、キム選手より浅田選手のほうが上だ。それに対抗するために、キム選手がどれほど無理を重ねているかは、あの怪我の多さが物語っている。

世界選手権まであとわずか。浅田選手がどこまでジャンプの精度を上げられるか、そしてキム選手の体力がもつか。見所はそこだが、これまでの実績を見ると、キム選手が明らかなミスをし、浅田選手がほぼ完璧な演技をしなければ、浅田選手の優勝はない。

こんな状況に、あれほど才能のある選手を追い込んだコーチが解任されるのは、当然のことだ。

もちろん、まだ報道が誤報である可能性もある。どちらにしろ、世界選手権にアルトゥニアンが来るかどうかだ。






最終更新日  2008.11.29 02:10:30
2008.02.21
カテゴリ:Figure Skating
世界歴代最高得点で四大陸選手権を制した高橋大輔選手。全日本に続き4回転を2回を入れ、そのほかのジャンプも、多少のミスはあったものの、ほぼ全部決めた。この安定感を見ると、3月の世界選手権王者にもっとも近い選手だということが言える。

フィギュアではオリンピックについでグレードが高いのが世界選手権。グランプリファイナルの比ではない。世界選手権を制したものが、そのシーズンの本当の王者なのだ。去年の男子王者はフランスのジュベール選手。彼は「ジャンパー」だが、昨シーズンは高い確率で4回転を決め、抜群の安定感で世界選手権も制した。去年のジュベール選手のような勢いが今年の高橋選手にはある。

だが、やはりライバルの動向も気になるところだ。今シーズンは後半になって、ジュベール選手は怪我をして精彩を欠いている。となると、やはり一番のライバルは、直接対決で唯一高橋選手が負けているランビエールだということになるだろう。

だが、ヨーロッパ選手権でそのランビエールを破った選手がいる。チェコのベルネル選手だ。この2人の戦いはどうだったのだろう。プロトコル(詳細な成績表)を見れば、ある程度のことはわかる。

現在フィギュアは「技術点」「演技・構成点」の2つの大きなカテゴリーで点数が出るシステムになっている。ヨーロッパ選手権でのフリーのスコアを見ると、

ベルネル選手 技術点75.92+演技点77.72=153.64、
ランビエール選手 技術点73.46+演技点80.00=153.43

非常に僅差でベルネル選手が勝ったことがわかる。ランビエールは演技点で上回りながらも、技術点の差で負けた。そして、この技術点をもっと細かく分類すると、勝敗を分けたものがもっとハッキリ見えてくる。

技術点はジャンプ、スピン、ステップの3つの要素に大きく分類できる。この3つの2人のスコアを見ると、

ベルネル選手 ジャンプ55.36+スピンとステップ20.56=75.92
ランビエール選手  ジャンプ50.17+スピンとステップ23.29=73.46

お分かりだろうか? ベルネル選手はなんと、ジャンプの要素で「しか」ランビエール選手に勝っていない。他の要素、スピン+ステップも、演技・構成点も全部ランビエールのほうが上なのだ。しかも、演技・構成点の5つのコンポーネンツを見ても、「スケートの技術」でランビエール選手と同点だっただけで、ほかの4つのコンポーネンツではすべて負けている。ちなみに、スケートの技術は多分にジャンプに準じて点数がつけられる。

つまり、ベルネル選手は「ジャンプだけでランビエールに勝った」ということができる。ベルネル選手自身もジャンプに関しては会心の出来ではなかったはずだ。1Aというのが1つある。一方のランビエール選手はもっとひどい。2Aが2つだけで3Aがない。つまり、トリプルアクセルを全部失敗したということだ。もう1つ大きな失敗として、3LZ+3Tで、2つ目の3Tが回転不足によるダウングレードになっている。これも痛かったと思う。ちなみに、4回転は2人とも1回ずつ決めており、ベルネル選手は単独、ランビエール選手は4T+2T+2Lになっている。

ランビエール選手はなんといっても、3Aが決まらなかったのが響いたということだ。3Aは彼の弱点でもある。3Aが1つも入らず2Aが2つでは点はのびない。4回転も今シーズン前半では2度入れを試みて失敗しており、グランプリファイナル、ヨーロッパ選手権ともに1回におさえている。

さて、では高橋選手の四大陸でのスコアはどうだったかのだろうか。

技術点 93.98(ジャンプ73.2+スピンとステップ20.78)
演技・構成点 81.86

ランビエール選手と比べると、ジャンプの点は傑出しているが、意外なことにスピンとステップの点では負けている。演技・構成点では若干勝っているが、技術点の高さに比べると、その差は拍子抜けするぐらい小さい。たったの1.98点だ。

これはランビエールのフリーのプログラム「ポエタ(フラメンコ)」の芸術性に対する評価がいかに高いかということの証左でもある。ちなみに、スピンとステップに分けて点数を見ると、

高橋選手 ステップ7.86 スピン12.94
ランビエール選手 ステップ8.06、スピン15.23

なんと、実はステップでもランビエール選手が高橋選手を凌駕しているのだ。これはグランプリファイナルでもそうだった。今シーズンのフリーに関しては、ステップの王者は天才高橋ではなく、ランビエールなのだ。

だが、それだからこそ、ランビエール選手は、ジャンプに精彩を欠いている。ヨーロッパ選手権でも3Aが入らず、4回転は1回、連続ジャンプでも回転不足… ステップやスピン、その他上半身の振り付けに比重が行き過ぎて、ジャンプをきれいに決められないのだ。逆に言えば、ジャンプをもう少し、いつものように決めさえすれば、ベルネル選手には十分勝てたはずで、やはり世界選手権で怖いのは、ジャンプだけのベルネル選手ではなく、ジャンプをもう少し成功すれば、ほかは高橋選手と遜色のないランビエール選手だということになる。

高橋選手の今年のフリーはジャンプに非常に力が入っている。去年の「オペラ座の怪人」に比べると、曲のもつドラマ性の表現は明らかにものたりない。高橋選手はエッジの使い方が超一級だから、単に滑っているだけでもうっとりさせるほど美しいが、それにしても、今年のプログラムがジャンプを跳ぶことに主眼が置かれていることは間違いない。その分を、ダンサブルなショートプログラムの圧倒的運動量でバランスを取っている感じだ。本当にモロゾフは巧みにプログラムを構成して配置する。

モロゾフは完全に、ジャンプで「ポエタ(フラメンコ)」の芸術性に勝つつもりでいる。ステップやスピンなんて、3回転以上のジャンプの基礎点や加点に比べたら微々たるものだ。現在のルールでは結局、ジャンプを正確に決めた選手が勝つのだ。ジャンプの難度は高いほうがもちろんいい。だが、高すぎてもダメなのだ。その大技に集中するあまり他のジャンプにミスが出てしまっては意味がない。難しいジャンプで失敗すれば四大陸フリーの安藤選手のような大幅な減点をくらうことになる。その意味では、高橋選手が4回転からの連続ジャンプを4+3ではなく4+2にしているのは、非常に賢い作戦だと思う。

ランビエールも高橋選手に勝つためには3Aを成功させなければならないし、かつ4回転を2度入れる決断をするかもしれない。今年のランビール選手はフリー後半に2度目の4回転を入れようとして、ことごとく失敗したが、世界選手権では高橋選手のように前半に2度4回転を入れてくるかもしれない。手の振りやステップの複雑さを多少犠牲にしても、ジャンプを決めるように振り付けを多少変えてくるかもしれない。

確かに「ポエタ(フラメンコ)」の振り付けは不世出の傑作だが、ランビエールは過去一度もこのプログラムを完璧に滑ったことがない。難しすぎるのだ。それはちょうど、浅田真央選手が今シーズンの初めに、あまりに密度の濃いプログラムを作りすぎて、肝心のジャンプを失敗し続けた状況に似ている。ランビエールがフラメンコの高い芸術性にこだわり、理想のダンスを追求し続ければし続けるほど、皮肉なことに、試合で勝てなくなってくる。それでなくても、ランビエール選手は全盛期ほどジャンプが決まらなくなってきている。

高橋選手のジャンプのハイスコアは当然最初の2つの4回転によるところが多い。この2回の単独4回転と4+2の連続で21.02点もの点を稼ぎ出している。逆に言えば、ここで失敗すると大きく点が下がるということだ。今回の四大陸で「銀河点」が出たからといって、最初のジャンプで失敗すれば、心理的な動揺も含めて、どういう展開になるかわからない。

世界選手権の男子フリー、今期2度目のランビエール選手との直接対決。本当に楽しみだ。もちろん、ジュベール選手の復調具合、シーズン後半になって調子を上げてきたベルネル選手の出来、ライザチェックの4+3が決まるかといった点も気になるポイントではある。

















最終更新日  2008.02.22 05:37:11
2008.02.19
カテゴリ:Figure Skating
四大陸選手権で優勝した浅田真央選手の最大の収穫はなんといっても、今シーズンなかなか決められなかったトリプルアクセルを見事に決めたことだ。着氷で浮き足が氷をこすってツーフットを取られることもなく、この1つのジャンプで基礎点7.5に対してGOEでの加点をもらって9.36という高得点を稼ぎ出している。

また、目立たないことだが、スピンやスパイラルでの取りこぼしがなかった。実は浅田選手はスピンやスパイラルでときどき規定の「ポジションに入ってから3回回る」「脚を3秒以上あげる」という条件を満たすことができず、何度かレベルを落とされてきた。それは浅田選手のプログラムがあまりにいろいろな要素を詰め込みすぎていたことが原因だった。シーズン後半に入って、プログラムの密度や1つ1つのポーズを短く、軽くするなどして、プログラムに余裕をつくり、こうした取りこぼしを修正してきた。その分、プログラム全体の重さというか、見ごたえは後退してしまったと思う。だが、現状のルールでは仕方ないのだ。

さて、浅田選手の最大のライバルは、やはり韓国のキム・ヨナ選手ということになるが、四大陸選手権での出来で、キム選手に勝てるか、というと、正直「勝てない」ということになる。これはある意味信じられないことだ。浅田選手にはキム選手が絶対に跳べないトリプルアクセルと2つ目のトリプルループがある。キム選手の武器は高さと幅のある大きなトリプルルッツ、それに2度目に跳ぶことのできるトリプルトゥループの確率の高さ。だが、いずれも、アクセルや2度目のループに比べると難度はぐっと落ちる。

浅田選手はトリプルアクセルに加え、トリプルフリップ+トリプルトゥループ、トリプルフリップ+トリプルループの連続技ももっている。トリプルフリップ+トリプルトゥループはシーズン途中から入れてきたものだ。こんなことができる人は浅田選手以外には考えられない。

にもかかわらず、なぜキム選手に勝てないかといえば、それは、キム選手の3回転ジャンプに与えられる過剰な加点、スピンに対する(よくわらかないのだが)高評価に原因がある。ジャンプとスピン以外の要素、ステップとスパイラルに関しては、明らかに浅田選手のほうが上だ。浅田選手のような華麗で動的なステップはキム選手にはないし、スパイラルの脚の上がり方も、特に後ろに脚をもってきたときの浅田選手のやわらかな美しさはキム選手の比ではない。

ところが、ステップとスパイラルに関しては、この2人の得点に見た目ほど大きな差はでないのだ。差がついてたとしても、せいぜいショートでそれぞれ0.2点程度。なんでこれっぽっちの差にしかならないのかわからない、などというのは身びいきだろうか? 何にせよ、これは、万が一浅田選手はステップでちょっとつまずいたり、脚上げの時間が短かったりすると簡単にひっくり返ってしまう点数だ。

一方でスピンは見た目以上の差がついている。特に大きいのはレイバックスピンの評価。グランプリファイナルのショートではキム選手はレベル4に加点ももらって(しかも、「2」という加点をつけているジャッジが多かった。スピンはそのまま2点が加点されるわけではないが、ジャン選手のパールスピンに近い加点が与えられているということになる)、3.5点、このときの浅田選手のレイバックスピンはレベル3にちょっと加点がついて2.8点。ちなみにあの驚異的なパールスピンのジャン選手ですら、4点だ。そういわれてキム選手のレイバックスピンを見てみると確かにポジションやエッジの使い方が巧みかもしれない。ビールマンは相当「やっとこさ」であるにもかかわらず、なぜかレベル取りに成功し、かつ加点も多くもらっているのだ。このあたりの評価はよくわからないが、とにかくこれだけで0.7の差がつく。他のスピンでも多少キム選手のほうが点を稼ぐので、現状のままなら、ショートでは、スピンで1点近く差をつけられるということになる。ジャン選手にしてみれば、「誰もできないパールスピン」がキム選手のレイバックとたった0.5点の差しかないとは、落胆ものだろう。見てるほうとしても、信じられないことだ。

もっとも痛いのが、トリプルルッツ。キム選手はいつのまにやら「ルッツのお手本」にされているようで、成功すれば2点ぐらいの加点がつく。確かにキム選手のルッツは大きさのある素晴らしいジャンプだ。ジャンプは高さに加えて距離が出る、つまり放物線を描く流れのあるジャンプが理想とされる。キム選手のルッツは、女子選手の中でも傑出して大きさがある。だが、着氷したときの「流れ」があまりないことが多い。大きな放物線を描いたあと、着氷して「すうっ~」と流れているようなジャンプが理想なのだが、キム選手のルッツは着氷があまり流れない。跳ぶ直前に「だけ」外側のエッジにのるというルッツジャンプのスタイルに原因があるような気がするのだが、どちらというと、着氷のときに氷の削りかすが飛ぶような降りかたも多い。だが、なぜかそれはいつの間にやら、ジャッジはあまり気にしなくなったらしい(苦笑)。

これはキム選手だけではなく、われらが高橋大輔選手にも言えることだ。着氷のスムーズさだったら、トリプルアクセル以外はすべて織田選手のほうがずっときれいに、やわらかく降りる。織田選手はアクセルは苦手だが、そのほかのトリプルジャンプでは、着氷のときにほとんど氷の削りかすが飛ぶことはない。非常に流れのある美しい着氷のできる選手だ。高橋選手はキム選手同様、大きさと高さのあるジャンプを跳ぶが、着氷は「ガタッ」となることも多い。ところが、今回の四大陸のプロトコルを見ると、高橋選手も着氷がそんなに流れなくてもジャンプで加点をもらっている。つまり、ジャンプの加点はその大きさ、つまりは高さと飛距離に重点が置かれているということだろう。

これは、ジャンプに飛距離のない浅田選手にとっては非常に不利な状況だ。浅田選手はコーエン選手と似たジャンプで、どちらかというと回転の速さで跳ぶ選手だ。その細い回転軸は非常に玄人好みで、以前佐野稔氏も、こうした軸の細いジャンプの美しさについて褒めていた。だが、軸の細いジャンプを跳ぶ選手は飛距離はないことが多い。また飛距離がない分、ジャンプに高さがでないと、すぐに転倒したり、回転不足で降りてきてしまうことになる。コーエン選手がついに世界女王になれなかったのは、ジャンプが常に不安定で、肝心のところで転倒してきたためだ。回転という動作は、当然、非常に不安定だ。だから、速い回転で回るジャンプを跳ぶ選手は、体が細く軽い時代はジャンプが得意だが、成長するにしたがって精度が落ちている。

トリプルルッツに関しては、今年からエッジの間違いが厳しく減点されることになったため、浅田選手はどうしても点がのびないでいる。ショートで浅田選手、キム選手ともにルッツを跳ぶが、成功した場合、キム選手は、基礎点6に対して、7.8点などというとんでもない点をもらう。この7.8点というのは、トリプルアクセルの基礎点7.5点よりも高いのだ。一体なんで、そんなバカな点がつくのかまったくわからない。ルッツはどこまでいったってルッツだ。ほとんどの女子のトップ選手は誰でもルッツを跳ぶ。だが、トリプルアクセルを跳べる選手はほとんどいない。歴史的にみても、ほんの数人の女子選手しか成功していないのだ。それほど難しい技をやっているのに、高く大きくトリプルルッツを跳べば、トリプルアクセルよりも高い点がもらえるなんて、「ありえない」話だ。

一方、浅田選手はエッジの間違いで必ずルッツでは減点される。減点はその試合によって(なぜか)違うが、きれいに跳んだ場合でも4.5点ぐらいにしかならない。今回の四大陸のように、着氷がうまくいかないと、3点ぐらいになってしまう。つまり、ルッツ1つでキム選手と3点以上、ときに5点近く差がついてしまうということだ(本当に信じられない点差だ。だが現行ルールではそうなってしまう)。

だから、スピンとジャンプ1つだけで、ショートでは4点から6点の差をつけられるということだ。ステップとスパイラルで盛り返せるのはせいぜい0.5点。となれば、最初の2回連続ジャンプは絶対に失敗できない。キム選手がこの2連続ジャンプを成功させれば、それだけで11点などという点がつく。浅田選手もきれいに成功させれば、同程度かそれ以上の点が期待できないでもないのだが、今回の四大陸のように、回転不足を取られては、さらに7点ぐらいの差をキム選手につけられてしまうことになる。しかも今シーズン、最初の2連続のジャンプの成功率は周知のとおり、とても低い。

繰り返すが、ジャンプの質を評価するGOE自体は否定しない。1つ1つのジャンプの質はきちんと評価すべきだ。だが、3回転に与えられるGOEはそのほかの要素と比べて明らかに過剰だ。成功ジャンプとなるとほとんど自動的に1点とか2点とか加点され、ちょっと着氷のときに浮き足がこすったといって、マイナス1にしたり、回転不足だとダウングレードしたうえに、マイナス1とかマイナス2とかやっているから、見た目の印象と全然違う点になるのだ。

キム選手が高さと幅のバランスの取れたジャンプを跳ぶことから、回転不足がほとんどないのに比べ、浅田選手の回転不足(気味)の多さは、大きな欠点だ。回転力で跳ぶジャンプである以上は、どうしてもついてまわる弱さでもある。特に2度目に跳ぶトリプルトゥループとトリプルループが回転不足になることが非常に多い。

四大陸ではフリーの2連続ジャンプのトリプルトゥループで回転不足を取られた。だが、グランプリファイナルだって全日本だって回転不足気味だったのだ。フリー後半で跳ぶ2A+2L+2Lもどこかで回転不足になったり、着氷が乱れたりしがちだ。今回の四大陸でも2Aのあと足先で氷をこすっていたようだったが、プロトコルを見るとGOEで減点してるジャッジはおらず、とりあえずホッとしたのだが、意地悪なジャッジなら減点するかもしれない。しかし、今回のこの3連続に入る前の片足での軌道は見事だった。以前よりさらに深いエッジを使い、片足のままきれいに弧を描いて、そのままダブルアクセル。瞬発力の強さがなければできない技だ。本当に凄い選手だと思う。

意地悪といえば、フリーの後半に決めた3F+3LのGOE。ほとんどのジャッジがプラス1からプラス2の加点をしているのに、中にはマイナス1とかマイナス2(!)の減点をしているジャッジもいた。なぜあのきれいに決めた連続ジャンプに「マイナス2」などという点をつけるのかわからない。だが、それは何とでもいえるのだ。「ほんの少し回転不足に見えた(ダウングレードされるほどではなくても)」「ツーフットに見えた」「幅がなかった」「高さがなかった」などなど。GOEはジャッジが勝手につけていい点だ。こうした不明瞭な加点や減点が多いことも、新採点システムの欠点だ。

浅田選手に回転不足(気味)のジャンプが多く、しかもその減点が過剰な現行のルールでは、やはり世界選手権ではキム選手がよほど調子が悪くない限り、浅田選手の優勝は難しいということになる。とはいっても、文句なくジャンプをすべてきちんと回って降りてくれば、当然浅田選手に勝てる選手は世界中どこにもいない。トリプルアクセル、トリプルフリップ+トリプルトゥループ、トリプルフリップ+トリプルループ。こんなに難度の高い、多彩なジャンプを跳べる選手はいないからだ。だが、逆にその多彩さと難度が、浅田選手を「常に完璧に滑れない選手」にしているのも確かだ。ハッキリ言って、あれだけの難しいジャンプを全部、ほんの少しのミスもなく降りるなんてのは、人間技を超えてくる話だ。






最終更新日  2008.02.20 11:12:37

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