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あいすまん

あいすまん

(本)『テクノドン』

レビュー(BOOK)

『テクノドン YMO』
    編著:後藤繁雄
    発行:小学館(1993年)


 「あまりに失望させないであなたはカリスマ
なんだから」(「FOLLOWER」)というPIERROTの歌詞のフレーズをそのままぶつけたくな
るような内容。と言うと単なるリスナーの傲慢に聞こえるかも知れないが、イメージダウンが
嫌なら黙って作曲してろ、みたいな。
 読み始めるとまず著者に対してむかつきを覚える。「低気圧のエッジが東京を通過する」とい
う書き出しや、雨が降り始めたからと「ここは一体どこなのだろう?」と転じたりと、脈絡も無くキザだったり感傷たっぷりの困ったちゃんだったりで、付き合ってられない。さらに「ウイリアム・バロウズ」についての脚注に「『ネイキッド・ランチ』で知られる」とだけ書いてあり、「スティーブ・ライヒ」に至っては「現代音楽の作曲家」としか書かれていない。確かに間違ってはいないだろうが、不親切極まりなく、脚注の意味をなしていないのであり、無い方がマシである。もしやこれは「最低限のヒントを与えてやるから自分で調べろ」という著者の尊大な意思表示なのか、はたまた「この程度の音楽知識も無い者にこの本を読んで欲しくなどない」という尊大な意思表示なのか。だとすればこのライターは音楽を何か崇高な物と勘違いしているのではないか。バカめ。
 しかし読み進めていくと、むかつきが増幅していくのは言うまでもないが、その矛先は著者でなくYMOメンバーにシフトしてしまう。この類いの本が既存のファン向けに作られているために、執筆したライターの感傷や買いかぶりが咎められないというのは構造上仕方のないことなのかもしれないが、この『テクノドン』は対象とされているミュージシャン、即ちYMOの3人の言動にすこぶる共感し難いのだ。それは流行に乗っているだけのビジョンのない一発屋や、自意識過剰な某ビジュアル系バンドのような意味不明さではなく、何となく意味はわかるのだが、限りなくつまらないというものであり、先述の2者ほどウザくはないのだが、読んでいると時間を無駄に使っている気がして次第に腹が立ってくるのだ。この本には細野、坂本、高橋の3人で話し合っているもようをそのまま掲載したふうな鼎談形式の部分に大きく紙幅を裂いているのだが、ためしに引用してみると、「高橋 『テクノ丼』(爆笑)。/細野 面白いよ。意味なんていいんだよ。『テクノドン』って意味ない(笑)。『テクノザウルス』ってこと。/坂本 それじゃもう、みんな化石化してるようなもんじゃん(大爆笑)。/細野 いいじゃん。/坂本 俺たちは化石(笑)。/何かいいじゃん(笑)。『テクノ丼』一つ下さい。/坂本 大盛りで(笑)。/(ミーティングは大爆笑の渦に包まれる)」といったかんじなのである。ちなみにこれは再結成時のアルバム名を考えている場面なのだが、「(笑)」が多用され、3人の盛り上がりぶりが忠実に再現されている。楽しそうなのは伝わってくる。しかし、これを文字におこして出版し、不特定多数に伝達することに何の意味があるのか。ギャグとして面白いならともかく、ちっとも笑えないうえ、本人たちは大爆笑の渦中にあるという。著者の感傷丸出しの文で読み手に鳥肌を立たせ、さらに内輪ウケで読み手を全力で置いてけぼりにする。本人たちが笑っているのだから恐らく面白いことを言っているのだろうが、そこまで笑う内容には到底思えない。不可解極まる。細野が描いたらしい「てくの丼 380円」という、どんぶりの中に米と計算機と腕時計とネジと電球とアンテナなどがごちゃ混ぜになって湯気を立てている丼物の絵がそのページの挿絵となっているのも、不可解極まりない。わざわざ絵を描くほど、彼らにとって面白く、思いで深いひとときだったと言うのだろうか。だとすればいよいよ彼らの人間性について疑問が湧いてくる。あれほどいい曲を作り、世界でブレイクさせた彼らが、実はこんなに下らない、つまらない人間だったのか。
 しかし彼らの日常を切り取ってそれがつまらないからと、彼らを否定するわけにはいかない。それは飽くまで日常であり、いくらダメでも作品ではないのだから、ダメと判断する材料にはならないのだ。作品は良いものを作っているのだから、彼らそのものをダメと言うことはできない。ではこれを読んでしまったわたしのムカつきはどこにぶつけたらいいのか。それはやっぱり著者であり、この出版を企画したであろう発行元の小学館である。3人のイメージダウンはなはだしいこんなつまらない代物を世に出した著者及び出版社は3人から名誉毀損で訴えられるべきではないのか。しかし3人はこれをつまらないとは夢にも思っていないだろうから、全ては丸く収まっているのかもしれない。暗黒。巻末付録の「YMOクロニクル」という活動年表の方が資料として面白い。「細野インド旅行」とかいらないものも多いが。読んでしまって時間を無駄遣いしたのが悔しいので皆さんにもオススメします読め。


宮城隆尋


初出:「偽パンダつうしん」(沖縄国際大学文芸部 2002)


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