カテゴリ:パレスチナ・中東問題
たったひとりの聖戦(1)
たったひとりの聖戦(2) たったひとりの聖戦(3) たったひとりの聖戦(4) たったひとりの聖戦(5) たったひとりの聖戦(6) たったひとりの聖戦(7) たったひとりの聖戦(8) たったひとりの聖戦(9) たったひとりの聖戦(10) たったひとりの聖戦(11) オサマ・ビンラディン アフガンの荒野から孤独の荒野へ ロバート・フィスク著 安濃一樹訳 . ──オサマ・ビンラディンは、ムジャヒディーン聖戦士たちの前で、ジャーナリスト、ロバート・フィスクを勧誘した。ムスリムとなって、ともに戦わないかと・・・ . ▽ たったひとりの聖戦(11) . 私が何か勘違いしているのだろうか? ひょっとすると、これはアラブに古くから伝わる作法で、念入りに言葉を飾り立てて客人に敬意を表しているだけなのか? いや、もうはっきりと言おう。ビンラディンは真剣に私をスカウトしているのか? 恐ろしいことに、彼は本気だった。 . とっさに私は彼の狙いを読みとった。私は西洋人だ。イギリス国籍の白人男性で、有力紙のジャーナリストでもある。アラブ系やアジア系のイギリス人ではないし、イスラム教に改宗してもいない。またとない人材じゃないか。だれにも疑われずに、政府の役人となり、軍人にもなれる。そして、これは四年後に考えたことだが、飛行機の操縦を学ぶこともできる。ここはなんとしても切り抜けなければならなかった。それも早く。私は知恵を絞って抜け道を探した。頭に火がつくほど必死になって考えた。 . 「シャイフ・オサマ」。次の言葉が見つかる前に私は話し出した。 . 「オサマ師、私はムスリムではありません」。テントに沈黙が流れた。「私はジャーナリストです」。これは誰も否定できない。「ジャーナリストの務めは真実を伝えることです」。これも否定できないだろう。「真実を語ること。それが私の使命だと考えています」。 . 鷹のような目が私を見据えていた。そしてビンラディンは理解した。私は彼の誘いを断ろうとしている。男たちを前にして、今度は彼が栄誉の撤退を演ずる番になった。「真実を語り続けるなら、あなたはりっぱなムスリムです」と彼はいった。戦闘服を着た髭の男たちは、この聡明な言葉に深く頷いた。私は救われた。月並みな言い方になるが、「息を吹き返した」思いだ。駆け引きは終わった。 . ビンラディンは突然、カメラの横に置いた私の学生鞄からレバノン新聞の端が出ているのに気がつくと、それを手に取った。その仕草がどこか芝居じみていた。少しばかり面目を失ったと感じて、話をやりすごそうとしたのかもしれない。 . いま読まないと気が済まないようだった。見守る男たちをかき分けて、炎をゆらす石油ランプまでにじり寄っていった。それから三〇分かけて、アラビア語の新聞を読み耽っていた。私たちのことはもう目に入っていない。ただ時折、エジプト人の筆記者を手招きして記事を読ませたり、戦士のひとりに新聞を広げて見せたりしていた。 . 私は不思議な気がした。ここが本当に「世界テロリズム」の本拠地なのだろうか。ビンラディンは、何台ものコンピュータにデジタル化された攻撃計画を入力し、最先端の近代技術を駆使した地下要塞から「テロ組織網」を操り、スイッチをひとつ指で弾くだけで、同志たちに西側の標的を攻撃するよう指令できるはずではなかったか。 米国務省の報道官の話を聞いて、ニューヨークタイムズ紙やワシントンポスト紙の社説を読んでいると、そう考えるようになってもしかたがない。しかし、この男は外の世界から隔離されていた。ラジオもテレビも持っていないのだろうか。 . * . 岩波『世界』誌、〇五年一二月号掲載。 . Extracted from The Great War for Civilisation: the Conquest of the Middle East by Robert Fisk. . ロバート・フィスク。英『インディペンデント』紙中東特派員。ベイルート在住。北アイルランド紛争、イスラエルのレバノン侵攻、イラン革命、イラン・イラク戦争、ソ連のアフガン侵攻、湾岸戦争、ボスニア戦争、アルジェリア内戦、NATO軍のユーゴ空爆、イラク戦争などを取材。著書にPity the Nation: Lebanon at War (1990.1992)など。最新刊にThe Great War for Civilization: The Conquest of the Middle East がある。 . * . 写真は、2010年、ヘルマンド州のハンセン米軍キャンプから見上げるアフガンの星空。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015年02月22日 21時00分15秒
コメント(0) | コメントを書く
[パレスチナ・中東問題] カテゴリの最新記事
|
|