483232 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

ももも。のおスイス暮らし

奇跡の人

奇跡の人



バックパッカーに住み込んでいて、本当にいろいろな人に会った。
その中で、とても印象に残っている人がいる。
オーストリア人でドイツに住んでいるマンフレッド。
彼は分厚いメガネをかけていて、いつも笑顔でよくしゃべる人だった。


彼はエイベル・タズマンにトレッキングに行って、迷子になった。
エイベル・タズマンを歩くのは、とてもラク。
案内もしっかり出ている。それを見落とすのは、相当な不注意と思われる。
帰りのバスに乗り遅れ、彼はヒッチハイクでネルソンまで戻ってきた。
その夜は迷子になった彼が戻ってくるまで、宿のみんながそわそわした。

不注意と言ったが、彼の視力はそれを見落とすほど悪かったのだ。
メガネをかけていても。


一度ネルソンを旅立った彼が3週間後くらいに、また宿に戻ってきた。
旅の途中でメガネがこわれてしまい、メガネがないと、とても不自由。
彼のメガネは特殊で、それを作るために、
ある程度の街であるネルソンに戻ってきたわけだ。




翌朝、ボスがマンフレッドを眼科まで送って戻ってきて、言った。

「マンフレッドがなんであんなに眼が悪いか、知っているか?」

ボスは続けた。


「彼は小さな頃から糖尿病で、そのせいで視力も悪いんだ。
 そして、少し前腎臓の移植手術を受けたんだ。
 それはそれは難しい手術だったそうで、
 医者から彼が術後に目を開けることは『奇跡』とまで言われた。

 手術が成功して、今こうやって旅をしていることは
 世界で2,3人に一人の『奇跡の人』だって。

 彼は毎朝目が覚めると、手を動かし、それを見て
 『今日も生きていた。』って思う。
 

 そして彼は『Every moment is important.』
 と一時一時を大切に生きて、息をしているんだ…。」



私はこれを聞いて、鳥肌がたった。
健康でいるのが当たり前で、周りと比較したりして、
不平不満を言っている自分が情けなくなった。



これはNZ滞在最後の日に聞いた話。
心の奥に響いた。ずーとずーと忘れない。いや忘れちゃいけない。

Every moment is important.




あれから日本に帰り、マンフレッドもドイツに帰った。
彼はドイツから、そして故郷のオーストリアから絵葉書をくれた。
そして「この夏ヨーロッパに行くよ。」と伝えると、
それはそれは喜んでくれて、
「この辺りには歩くのにいい森があるから、歩こう!」
と言ってくれた。

その後、具体的な日程が決まりだしたので、彼にメールをすると、
あんなに喜んでくれていた彼からの返事がなかった。

結局会えなかった。

あれから、もう3年近く、彼の消息は未だにわからない。
ただただ生きていてほしい。そう願う。




「旅~ヨーロッパ~」へ


© Rakuten Group, Inc.