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monchihoshi

悪の華

 


 深淵

 

──ああ! すべて奈落だ──行為も、欲も、夢も、

言葉もが! 垂直に逆立つわが髪の上で、

何度も、恐怖ゆえ、風が過ぎていくのが感じられる。

上でも、下でも、また、深みでも、浅みでも、

静寂が、空間が、ぞっとするほど引き込もうとする。……

そして、夜という地に、神は巧みな手つきで、

描くのだ、悪夢を、何十枚も、休みなしに。

眠るのが怖い。まるで巨大な穴に落ちて、

漠とした不安のなかで、当てもないままのように。……

窓という窓から、いくら見ても、そこには無限だけ。

そしてわが精神は、たえず眩暈に襲われては、

羨望するのだ。あの無感覚のもの、虚無を。

 

 レテ

 

おいで、この胸に。むごくすげない魂よ、

鬱蒼と茂った、そのたてがみの中に、

私は、震える指を、いつまでも入れていたい。

おまえの匂いのしみた腰下着に、

頭を埋めて、悲しく嗅いでみたい。

花の萎れるようにすでに枯れた

わが恋の死骸の、甘くすえた遺香を!

眠りたい、生きるよりもむしろ眠りたい。

死と同じほど甘やかな眠りのなかで、

銅のように磨かれたおまえの美肌に、

口づけを、悔いることなくちりばめよう。

嗚咽をやわらげて、呑みくだすには、

何よりおまえの閨での、あの深み。……

没入の力はおまえの唇のうえに宿り、

忘れ河はその口づけのなかに流れる。

もはや私は、宿命づけられた者のように、

従おう。わが運命に、こののちは、わが悦楽に。

熱中のゆえにますます刑をかきたてる

忠誠なる殉教者、無実の罪人となって!

そうして、私は怨みをまぎらわすため、

かつて心を入れたことのないおまえの胸の

その先細の乳房の、魅惑の乳首に、

吸おう、忘憂の薬と、毒人参の成分を!

 

常時同様

 

「その異様な悲しみは」とあなたは問う。「どこから

寄せてくるの? 黒い巌に満ちてくる潮のように」

──私たちの心がひとたび収穫を済ませれば、

生きることは苦痛、これは誰もが知る秘密。……

この苦痛。それがあまりに単純で不思議もなく、

誰にも明らかなのは、あなたの歓びと同様。……

だから探るのはやめなさい、詮索好きの美女よ、

あなたの声は優しい、けれど黙っていて。……

黙っていて、無知のものよ、いつもはしゃぐ魂よ、

幼げに笑う口元よ! ……生よりもむしろ

死のほうが、精妙な絆で、人を捕らえるものだ。

私の心を、どうかこのまま、偽りのうちに酔わせ、

あなたの美しい瞳に、夢でのように沈ませ、

そしてあなたの睫毛の陰に、長らく眠らせて。……

 

深処絶叫

 

あなた、私の唯一愛する人、どうか、憐れみを!

私の心は、墜ちてしまった、この暗い深淵に。……

鉛色をした地平線の、陰鬱なる世界、

夜半には恐怖と冒涜とが漂う世界に!

ここは極地よりもさらに荒涼とした土地。

──獣はいない、小川、緑草、森林もない!

氷の太陽の、冷冽な酷薄さと、

太初の混沌にも似た、無際限の長夜。……

これにまさる恐怖が、人界にあるだろうか?

私には、卑しい動物たちの境遇さえ羨ましい、

愚かしい眠りのさなかに耽溺できるなら。……

かくも、時間の糸は、繰られるのも遅々として!

 


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