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カテゴリ:モンゴルの生活(イベント、季節)
今年のゾドは相当厳しそうです。
モンゴルの遊牧民にとっての最大の危機であるゾド、最近多くなっているように感じますが、どうも今冬のゾドは相当深刻な被害をもたらしそうです。 ゾドというのは、モンゴル語で「寒さが厳しい状態」のことを言いますが、実際には放牧されている家畜が大量に餓死する原因となる、極度の寒さ・雪害を指します。 雪害というのは、草原の牧草地を雪が覆い、家畜が牧草を食べられなくなる状態を言います。草原の地表が、雪や氷などで覆われてしまい、家畜が何日間も草も水も接取できなくなるのです。 そしてそういう時は、当然ですが極寒の状態ですから、あっという間に家畜の体力が奪われてしまい、死んでしまうのです。 私も真冬に訪れた遊牧民のゲルで多くの家畜が死骸の山となっているのを見たことがありますが、それはそれは悲惨なものです。とても写真を載せようという気にはなりません。 遊牧民にとって何よりも大切な財産であり、日々の生活基盤である家畜が場合によっては数百頭もわずか数日で失ってしまうのです。 日本でいえば、収穫したお米が突然すべて天災で失ってしまうとか、もっと現代人的にいえば「ある日突然、銀行預金残高が9割方消えてしまい、誰も補てんしてくれない状態」とでも言えるかもしれません。 遊牧民にとっては、消費財が欲しい時の預金のような性格もあり(例えば、テレビを買うときに、羊6頭を売って買うとか)、日々のチーズや牛乳はもちろん、生きるための食糧でもあるわけです。遊牧民は死んだ家畜の肉は食べませんから、すべて捨てるしかないのです。 大規模なゾドが起こると、当然ですが精神的に参ってしまう遊牧民が出てしまいます。そりゃあそうです。何年もかけて丹精込めて育て上げた牛や羊たちがあっという間に死んでしまうのですから。 日本の現代人に例えれば「単に銀行預金残高が突然消えただけでなく、失業もしてしまった」「お米が無くなっただけでなく、田んぼも使えなくなってしまった」状態といえます。 場合によっては、精神的だけでなく、肉体的にも大変危険な状態になります。 ゾドは、極寒の状態の時に起こります。遊牧民たちは、ゾドになりそうだとわかると、必死で家畜たちを守ろうとします。 場合によっては、森の近くや谷間など、もっと安全そうな場所に移動させないといけません。ですが、急激に襲ってくるゾドに対しては時間がありませんから、場合によっては夜を徹してマイナス30度、40度の中数十キロも移動させなければなりません。 いくら寒さに強いモンゴル人でも、真夜中の馬上は生死にかかわる場所となってしまいます。何よりも大事な家畜たちを守ろうとする遊牧民が亡くなることだってあるのです。 ある意味、二次災害といえますが、そこまでして家畜を守りたいのが遊牧民です。 こうした惨事は、過去にも数年ごとに起こったりしていますが、「さる年のゾド」は有名だそうです。今年はそのさる年です。 普通のゾドは大体1月以降に発生する冬のゾドと3-4月に発生する春のゾドがあります。前者は当然ですが、非常に寒い時であり、後者は気候が少しずつ暖かくなり始めた時に突然の寒さと突風を伴う嵐に襲われたときに起こるようです。 1月以降の場合は、もちろん大変ですが、「なんとかツァガンサル(旧正月)まで持ちこたえれば」と踏ん張りも効きますが、今年はその踏ん張りもわかりません。 なんせ11月中旬から相当ひどいゾドが始まっているのです。この状態で「あと3か月踏ん張れ」と言われても、持ちこたえられない遊牧民が多く出てくるでしょう。 先週まで訪日していたモンゴル人の友人のUさんは、ウランバートルに着くなり「マイナス20度はさすがに寒いです」とメールしてきました。 Uさんによれば、今年は過去のさる年の中でもかなりひどいゾドになる可能性があるとのことです。 今年の1-3月の冬のゾドも悲惨でした。40万頭ともいわれる家畜が失われました。モンゴル全体では4000万頭以上の家畜がいますから、そうでもないように見えるかもしれませんが、ゾドは「平均的に襲ってくる」わけではありません。 ある地域では一家で500頭いるうちの400頭を失うとか、90%以上を失うという遊牧民も出てきます。 こうして財産と職と希望を失った遊牧民らが、あてもなくウランバートルに流れ込み、ゲル地区を構成しているという報告もあります。 ゾドは個別の遊牧民の問題だけではなく、モンゴルの社会問題でもあるのです。長年遊牧民で過ごしてきた人々を、簡単に「都市生活に適した人」に変えるなんてできっこないでしょう。 私はモンゴル政府はもっと遊牧民を大切にする政策をとってほしいと思います。それは単なる感情論だけではなく、実利としても必要だからです。 モンゴルは日本の4倍もの面積を持ちますが、人口は極端に少ないです。自国防衛という視点で考えても、全国的に遊牧民が散らばって存在しているから、国境や領土を維持できているのです。 巨大な国境線を軍が全部監視できるはずありません。異変があれば、まずは遊牧民が気付きます。 つまり遊牧民は単にそこで生活しているだけではなく、巨大な国境線を監視している人たちでもあるのです。これを全部政府が自前でやろうとしたら、一体いくらかかるかわかりません。 日本の場合は戦後、農村部から都会の工業地帯へ来て、優秀な労働者になったという形で産業構造の転換に貢献しました。 ですがモンゴルの場合は、田舎から首都に来ても仕事がないのです。鉱山労働者の労働者吸収力は大して高くないのです。なので、首都には来るけど、仕事がない状態が続いてしまうのです。 政府としては、首都に労働力を生かせる場がないのであれば、苦しくとも遊牧民を続けた方がいいと思えるような政策を実施しないと、いろんな問題が未解決のままになります。 風が吹けば・・・ではありませんが、こうしたことの積み重ねがウランバートルのゲル地区問題、更にはばい煙問題、環境汚染問題につながっているのです。政府には根本的な解決策を考えてほしいです。 自然との共生がいかに難しいか、厳しい現実がモンゴルにはあります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.11.24 23:06:56
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