|
カテゴリ:日本とモンゴル(文化・交流)
日経新聞の首都圏版に五反田バレーのことが書かれていました。
五反田バレーというのは、渋谷がビットバレーと呼ばれたように、五反田や大崎駅付近に多いスタートアップ企業群のことを指しています。もちろん元祖はシリコンバレーですけど。 五反田付近にスタートアップ企業が多いのは、一に家賃や生活費が安いからです。実はビットバレーと呼ばれた渋谷も、当初は家賃の安さで起業家に人気を得ていたのです。再開発前の渋谷は古い中小ビルが多く、それ故都心に近いのに結構家賃が安かったのです。 ですが東急が大規模な再開発をここ何年もやっているので、そうした安いビルはどんどん減っていって、当の東急本社自体が「このままでは渋谷からITベンチャーが消えるのでは?」と危機感を持つほどになっています。 そうした背景もあり、渋谷と品川の2大ターミナルに挟まれた五反田や大崎がその家賃の安さで人気を博しているのでしょう。記事では、品川区がこの五反田バレーのベンチャー系を支援しているとあります。 その一環で、ものつくり企業に対しては、モンゴル高専生の中小企業への就職を支援するとあります。 19年は6月に卒業する高専生を1社に1人、全部で5人の採用を目指すとあります。今月14日にはウランバートルで現地説明会を開き、品川区の企業8社が参加したそうです。 この背景としては、モンゴルの高専ができたのが2014年で今年が初の卒業生が出るということがあります。そして現在工場などの現場での人手不足もあり、日本の高専生は起業に引く手あまたなんだそうです。 東京高専の場合は、19年3月卒の実績で求人倍率はなんと22倍だそうです!22倍はすごいです。1人に対して22社もの求人が平均してあるということなんですから。 それゆえに、日本の高専生は大企業に行く傾向が強く、中小企業にはなかなか来ないということなんです。 この両方の事情が重なって、今回のモンゴル高専生の就職紹介になったというわけです。で、これだけなら、「めでたしめでたし」なんです。 これが可能なら問題はないのですが、私はこれが本当に実現できるのか疑問です。少なくとも、表面的に書かれているようにはスムースにはいかないでしょう。 なぜなら、それは就労ビザの問題があるからです。日本の就労ビザでは、モンゴルの高校や高専を出たばかりの若者は通常は就労ビザは取得できません。大卒だってまず無理です、モンゴルからは。 高専ですから技術者ということになりますが、これは相当高度な技術を持ち(最低限大学、大学院卒業)、10年以上のその分野での就業経験が必要となります。 そうだとしても審査を通るかどうかはわかりません。日本にとって相当有意義な技術であることも必要になってくるからです。 もしアジア各国の大学や短大(高専は短大と見なされる)卒業生がすんなりと日本の就労ビザが取れるなら、ものすごい数の労働者がやってくることでしょう。ですが、日本政府はそこはまだ門戸を開いていません。 となると、一体どういう名目なのか?日経新聞ともあろうものがその一番大事な問題をスルーして書いているので、推測するしかありませんが、いくつかの方法は考えられます。 1つは、例の悪評高い「技能実習生制度」を使って呼び寄せる。これなら確かにできそうですが、これであるなら何も高専生である必要はなく、はっきり言ってだれでも大丈夫です。 現にモンゴルからたくさん来ていますし、特段技術などなくても採用されます。が、その分、問題は多く、日本国内でも一種の奴隷制度みたいなもんだと批判されています。 低賃金で、その会社が嫌になっても転職の自由はなく、そもそも研修生ですので、日本の労働者と同じ保護があるわけではないのです。これがあまりにひどいので、今年から「特定技能ビザ」なるものができたのです。 なので、この「技能実習生制度」であるなら、日経新聞が大々的に報じるようなものではなく、どちらかといえば「恥ずかしい話」的に扱うべき事案です。 2つめは、その「技能実習生制度」ではなく、今年からできた「特定技能就労ビザ」なのかも。ですが、これも基本的には単純労働者受け入れビザです。 しかもこれはモンゴルでの日本語試験を受けるとか、全体では定員があるとか、簡単に品川区が「はい」と言えば簡単に実現できるものではありません。 現実には単純労働受け入れなんだけど、受け入れ企業だってどうせならモンゴルで「日本式高専」の教育を受けた人がいいに決まっていますから、途中のプロセスの問題がなければこれのほうが、技能実習生よりはいいでしょう。 3つめは、ちょっと考えられませんが、例えば日本の夜間大学に通わせてあげながら、社員として雇用するというのはあります。日本の大学へ学士入学(3年生から入学)して卒業まで会社が面倒を見るという形です。 ですがこれだと週28時間しか働けませんから、純粋な労働力が欲しい中小企業には負担が大きすぎるでしょう。 こう見てみると、今年からできた特定技能就労ビザが有力ですが、会社側と学生側が同意すれば簡単に取れるというわけではないので、もしあるとしたら、品川区が何らかのサポートができるということなんでしょうか? 恐らくモンゴル側は大いに誤解していることでしょう。 「日本は高専の卒業生が引く手あまたで、モンゴルの高専卒業生も欲しがっている。日本側の協力で、高専卒業生は正規の日本での就労ビザを取得できる。」 これを宣伝すれば、もっと学生が集まってくるだろうと。 残念ながら就労ビザは出ないのが現実です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2019.05.17 16:23:54
コメント(0) | コメントを書く
[日本とモンゴル(文化・交流)] カテゴリの最新記事
|