|
カテゴリ:ユーラシアの歴史
先日、日本政府が観光誘致支援のために「中央アジア一括ビザを支援する」という記事が出ていました。モンゴル観光振興の立場からも、ちょっと気になるニュースです。
記事によると「日本政府は中央アジア各国が外国人観光客を誘致する取り組みを支援する。観光客が域内5カ国を自由に行き来できる周遊ビザ「シルクロードビザ」導入を呼びかけ、年内にも一部の国との合意をめざす。」とあります。 これは外国人観光客がどこか一つの国のビザを取れれば、域内5か国を自由に移動できるというものです。ヨーロッパのシェンゲンビザみたいなものでしょう。 この5つの国とはどこか?記事には書かれていませんが、恐らくカザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギス、タジキスタンのことでしょう。 これらは地理的に言えば概ね、中国やモンゴルよりも西で、カスピ海よりも東のエリアといえます。 歴史的には遊牧民が多く、言葉もテュルク系が多い地域です。(もちろん、細かく言えばイラン系とか多様ではありますが)またオアシスがあった場所でも有名ですから、「シルクロードの中心地」とも言えるでしょう。 この5か国の一括ビザを可能にするという案です。日本人にとっては、これらの国への訪問にはビザはどうなんでしょうか?調べてみました。 調べたのは民間のビザ専門会社のHPです。まず気になったのは「アジア」のパートに載っていなかったということです。 この会社のHPは日本人向けの「ビザ要否一覧」を載せているのですが、それが地域別に載っています。アジア、中近東、東欧、西欧・・・とあるのですが、なぜかアジアには載っていません。モンゴルはもちろんアジアに載っています。 どこにあるかと言えば東欧です。これは「旧ソ連国は全部東欧」と見なしているんじゃないかと思います。で、結果を見てみましょう。(基本は観光客です) カザフスタン 不要。ウズベキスタン 不要。キルギス 不要。タジキスタン 必要。トルクメニスタン 必要。 という結果でした。 ビザなし国が世界一多い日本人にとっても、タジキスタンとトルクメニスタンは必要なんですね。このシルクロードビザ制度ができたら、これらの国へも自由に移動できるということになります。 この制度を導入すれば、「日本政府は域内各国と日本をつなぐチャーター便の増設を呼びかける。観光分野での人材育成を強化するため専門家を現地に派遣し、日本で研修を開く。水洗トイレの普及や公共交通機関の外国人対応などでも日本のノウハウを伝える。」と言ってます。 これは意外と、観光無策のモンゴルにとっては大きな脅威になるかもしれません。そもそも今も、モンゴルへの日本人旅行者は数は少ないですし、モンゴル国としても大した振興策はやってません。 モンゴル人は「この素晴らしい自然が売り物です」と言いますが、裏を返せば「特に何もしないので、興味があれば来てください」的対応です。 私が長年日本人観光客を観察してきた感想を申し上げれば、モンゴルは日本人にとってはあくまでも非メジャーな、秘境とは言いませんが、優先順位の高い観光目的地ではないように見えます。 一般的な日本人観光客にとっては、通常観光地を考えるときは「素敵で憧れのヨーロッパ」「身近でグルメも楽しめるアジア」「世界の大国アメリカ」などがまず浮かびます。 地域でない切り口としては、「南の島でのんびり」とか「世界遺産を求めて(南米や中東など)もあるでしょう。 モンゴルは残念ながら、少なくとも旅行初心者にはこれらのキーワードはひっかかりません。 アジアなのに、ヨーロッパみたいに航空運賃が高いとか、アジアなのにグルメ目的とは言えない、有名な世界遺産と言える建造物がほとんどない、などがその理由と言えます。 ではどういう人たちが来るのか?それは「既に世界中、いろんなところを回った。まだ行ったところに行ってみたい人」「アジアの歴史、大草原に触れてみたい」などが多いように見えます。 日本人にとってのファーストチョイスではないけど、面白そうな国、未知の世界といったところじゃないでしょう。そうなるとこのシルクロード5か国ビザは強敵になるかもしれません。 「遊牧民」や「大草原」という売り物は、モンゴルの専売特許ではなく、この5か国にも当てはまります。もちろんモンゴル人は「自分たちとは違う」と主張するでしょうが、日本人にとっては似たようなもんです。 ネーミングの「シルクロード」もアピール抜群です。講演会などでも、地味なモンゴルの歴史話よりも、シルクロードと名付けた講演の方が圧倒的に集客がいいのは経験済みです。 更にこの5か国にはイスラム系の宗教的建造物がたくさんあります。オアシスには文化の多様性を示すものも多いことでしょう。モンゴルに明確に劣るのは「知名度」くらいでしょう。 このシルクロードビザにモンゴルも入れてもらう(日本人には関係ありませんが、モンゴルのビザが必要な国のために)とか、5か国内の移動の自由(今はモンゴルからは飛行機で直接行けません)のための交通網など、いろいろ考えた方が良いかもしれません。 「いやいや、モンゴルはモンゴルの魅力だけで十分だ」なんて意地はっていると、新潟県みたいになってしまうでしょう。 以前、本ブログ2014年2月16日付け、「モンゴルと新潟県の共通点」(https://plaza.rakuten.co.jp/mongolmasami/diary/201402160000/)にも書いたように、どっちつかずで孤立化するということです。 「北陸新幹線記念北陸旅行!」とか「東北グルメの旅」なんてタイトルの旅行プランがあっても、新潟県はどっちにも含まれていないのです。新潟県は「北陸三県」でもなければ「東北路六県」でもない、孤高の県なのです。 なので、観光庁が訪日外国人向けに設定した「昇龍道」(中部・北陸)コースにも「東北探訪ルート」にも載っていません。もちろん単独なんてあり得ません。 モンゴルは政治面だけでなく、観光や人的交流面でももっと中央アジアと接近した方がいいと思います。新潟県を反面教師に。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[ユーラシアの歴史] カテゴリの最新記事
|