モンゴル交通網は、超中央集権?
先月、先生ツアーで世界のエネルギーの中心に行ったことを、モンゴル人の英語の先生であるAさんと話していた時のことです。世界のエネルギーの中心はサエンシャンドという街の近くにあるので、Aさんが「私の妹がサエンシャンドに住んでます。なので前に遊びに行きました。」と言いました。今年大学を卒業したAさんの妹さんは、サエンシャンドの総合病院で医者の見習い中だそうです。サエンシャンドはウランバートルから500kmほど離れた街で、ドルノゴビ(東ゴビ)県にあります。確かAさんの出身地(田舎)がお隣のスフバートル県でしたので、なんとなく「ああ、やっぱり実家に近い県にある病院を選んだのかな?」と自然に思いました。「秋田出身の人が岩手の病院で働いている」と聞けば、自然にそう思うように。ですが、そこはモンゴル、当然隣の県と言ってもサエンシャンドからは優に2-300kmはあります。「そっか、妹さんはやっぱり実家の近くがいいんだね。Aさんの実家まではどのくらいの時間がかかるの?」と聞きました。ですが、なんとなく質問の趣旨が伝わりません。私は単純に、妹さんのいるドルノゴビ県は、ウランバートルからは遠く離れているけど、お隣のスフバートル県は実家にも近くて、ご両親にもちょくちょく顔を出せるのではないかと思って聞いたのです。Aさんはなんか計算しているみたいで、24時間とか1日半とか言ってます。「そんなに離れてるの?隣でしょ?スフバートルって、スフバートル市じゃないよね?県だよね?」と確認しました。ウランバートルで「スフバートル」というと3つの可能性があります。一つは、国会前の一番大きな広場の名前で「スフバートル広場」と言います。さすがにこれではないでしょう。次は、スフバートル市といって、ロシアとの国境の街で、税関もあります。旅行客がスフバートルという時は、この国境の市を指すことが多いです。そして、今確認したスフバートル県です。ですが、やはりなかなか話が噛み合いません。「妹さんがサエンシャンドから実家のあるスフバートル県に帰る時は、何で行くのですか?大きなバス?ミニバス?」と聞くと「鉄道とバスです」と答えます。サエンシャンドから鉄道?ドルノゴビに向かって将来鉄道が計画されているのは知ってますが、今はないはずです。で、最終的にわかったことは・・・サエンシャンドから11時間かけて鉄道に乗ってウランバートルに来ます。そして、ウランバートルから5-600kmかけてスフバートル県へ長距離バスで行くのだそうです。多分、その実家はまた地元のバスに乗り換えて、実家のある地方まで行くのでしょう。実際に妹さんはその経路でこの春に帰郷したそうです。隣の県、2-300km隣の県に行くのに、ウランバートルまで戻らないと交通機関はないのです。結局、1000kmくらいを大回りをしながら、鉄道とバスの乗り継ぎで行くしかないということです。なんという不便さ!岩手から鉄道で東京に出て、東京から秋田までバスで行く・・・すごいです。もちろん、新幹線も高速道路もありません。あるのは、低速単線列車と未舗装の道なき草原です。サエンシャンドからスフバートル県にはバスはないのかと聞いたら、1本もないそうです。人口密度の薄い国の問題とも言えるでしょう。首都は100万都市ですが、第二位と第三位の都市が、10万人程度で、あとはほとんどが日本でいえば町村のようなものです。ですから、確かに人口1万人もいない街から、2-300km離れた隣の県の1万人もいない街への直行バスは難しいのでしょう。サエンシャンドから隣の県に移動したい人は、週に10人もいないのかもしれません。しかしこれでは、ウランバートルの一極集中はどんどん進む一方でしょう。ただでさえ、全人口の半分近くがウランバートルに集まろうとしているのに、地域間には何の連携もできないのでしょう。とはいえ、何でも便利なはずの日本でも似たようなことはあります。例えば、四国の松山から高知や徳島へ急ぐ時は、大阪伊丹空港経由で行くのが一番便利と聞いたことがあります。首都圏だって似たようなものです。埼玉県は、草加市から旧与野市や旧蕨市に行くには、バス便もなかなかなく、電車で東京経由で行くのが一番便利だった経験があります。意識してモンゴルの他の地方のことを聞いてみたら、やはり同じような話でした。国土が日本の4倍で人口が50分の1ですから、交通網の整備どころか、隣の県と行き来すら難しいのです。いくら遊牧民が多いと言っても、今では定住している人も多いです。これだけの大きな国土がありながら、ほとんどの地方の人は首都との往復以外に移動する手段がないのが実情のようです。一層、人々の目は首都に向き、結果として一層の中央集権が進んでいくことになるのです。そして、これだけ広い国土を持ちながら、狭っ苦しい首都に今も過剰な人口集中が続き、狭い土地を奪い合うようにしているのは、なんとも残念な光景です。