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土曜日の書斎 別室

土曜日の書斎 別室

金閣寺

【土曜日の書斎】  名作断章


 
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  京都府京都市。

  室町期の最高権力者 ・ 足利義満の造営に成る 鹿苑寺舎利殿 ・・・通称 金閣寺 は、 是の日未明・・・1950 (昭和25) 年7月2日。
  一学僧の放火 によって、 焼亡した。

  警察の取調に対し、 青年僧は、 美に対する反感 から・・・と動機を供述している。



金閣寺

(1950 (昭和25) 年7月2日)




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(市川崑監督 『炎上』 )

  日本の伝統美の象徴・・・。
  戦災をも免れた重要文化財の、 突然の滅失は、 世に異常な衝撃をもたらした。
  数年を経て、 作家 ・ 三島由紀夫 は、 同事件を題材とした小説 『金閣寺』 の執筆に着手する。
  今日に至るも、 “金閣炎上” が多くの人々の関心を惹起して已まないのは、 同作品の影響による面が大きい。


  私が明瞭な意識を取戻したのは、 おどろかされた鳥の叫喚のためである。
  或る鳥は私の顔の目近に、 大仰な羽搏きを辷らせて翔った。
  あおのけに倒れた私の目は夜空を見ていた。
  おびただしい鳥が、 鳴き叫んで赤松の梢をすぎ、 すでにまばらな火の粉が頭上の空にも浮遊していた。
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  身を起して、 はるか谷間の金閣のほうを眺め下ろした。
  異様な音がそこからひびいて来た。
  爆竹のような音でもある。
  無数の人間の関節が一せいに鳴るような音でもある。
  ここからは金閣の形は見えない。
  渦巻いている煙と、 天に沖している火が見えるだけである。
  木の間をおびただしい火の粉が飛び、 金閣の空は金砂子を撒いたようである。
  私は膝を組んで永いことそれを眺めた。


(三島由紀夫 『金閣寺』 )










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