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土曜日の書斎 別室

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December 31, 2011
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  東日本大震災 を始め悲惨な出来事が重なり、 海外でも重大事件が相次いだ2011年は、 復興 という重い課題を我々に残し、 歩み去ろうとしています。
  来たる2012年が、 力強さと希望に満ちた良き年と成ります様、 心から祈念する次第です。

  さて、 今更ですが・・・。
  特定の 日付 を手掛かりにして、 歴史上の出来事物語の中の出来事 にアプローチを試みる・・・というコンセプトで運営しているのが 【土曜日の書斎 別室】 です。
  その当室が、 年の瀬に御紹介するのは、 日本映画の超大作 『二百三高地』 (’80年度作品 ・ 東映) (^.^)

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(舛田利雄監督作品 『二百三高地』 )

  同作品の主要登場人物である二人の男女。
  小賀武志 (あおい輝彦) と、 その婚約者となる女性 ・ 松尾佐知 (夏目雅子) が出逢い、 急速に親交を深め合っていったのが、 日露開戦前夜・・・1903 (明治36) 年末の数日間の出来事となっています。
  映画の脚本を担当した 笠原和夫 が書き下ろした小説版の 『二百三高地』 によると、 二人が出逢ったのは、 12月27日。
  極めて異常な状況下に於いてでした。
  激烈な開戦論で民衆を煽動する 対露同志会 の壮士達と、 戦争反対を叫ぶ 平民社 の運動員達が街頭で衝突。
  偶然、 その場に居合わせた小賀は、 壮士達に小突き回されている、 一人の女性運動員を救うのですが、 それが佐知であった・・・という定石通りの設定です。
  二人が、 神田ニコライ堂で偶然再会したのが、 その翌日・・・12月28日。
  そして、 急速に絆を深めた佐知に見送られ、 小賀が帰郷 (金沢へ) の途に着いたのが、 是の日・・・1903 (明治36) 年12月31日の事です。

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(舛田利雄監督作品 『二百三高地』 )

  帰郷するまでの三日間、 小賀と佐知は毎日のように会った。
  佐知との会話は楽しかった。
  しかし、 彼は佐知に自分の胸のうちを語り、 愛を語ったわけではなかった。
  この三日間のほとんどを彼は書籍あさりに費した。
  佐知は神保町界隈の新興古本屋街から本郷や池の端、 三田あたりまで彼を案内して、 彼の書籍あさりを手伝った。
  平民社にも佐知は小賀をつれて行った。
  ここで彼は社会主義者の領袖幸徳秋水にも会った。
  しかし彼は、 幸徳の人間には好意を持ったが、 社会主義には共鳴できなかった。
  佐知との偶然の出会いが彼にもたらしたものは、 男と女の心の触れ合いが生む微妙な感情の陶酔だけだった。
  たしかに、 この三日間、 彼はしあわせだった。
  佐知と会っていると、 戦争のことも、 戦争が始まれば、 たちまち召集されるだろう自分の運命のことも忘れていられた。
  しかし、 三日間はまたたく間に過ぎた。
  三十一日に、 彼は佐知に見送られて、 上野駅から金沢に向かって汽車に乗った。

(笠原和夫著 『二百三高地』 から)


  小賀は、 小学校教師であるとともに 陸軍予備少尉 でもある。
  彼の生家は、 百万石の大藩 ・ 前田家に上士として仕えた家柄でしたが、 維新後は、 両親が早世した事も有って、 経済的不遇に見舞われていました。
  その境涯の中で身を立てる方途として、 小賀は、 全額官費給付で高等教育の受けられる 陸軍士官学校 へ進学する道を選択したのです。
  無論、 日露開戦と成れば、 勇躍応召し、 将校として最前線に立つ覚悟は不動のものと成っていますが、 本来の姿は、 理想主義者で、 知的向上心に溢れた 文学青年 です。
  温厚篤実で、 殺伐を忌む性質は、 旧藩時代から流れている金沢の駘蕩とした空気の中で育まれたものでしょう。
  春夏冬の三回、 学校の休みを利用して上京し、 神田ニコライ堂で開かれているロシア語講座に出席するのを、 何よりの愉しみとしていました。


  ・・・彼のロシア語は講義録を取っての独学だったが、 今はもうロシア人司祭と会話ができるほど上達していた。
  原書でトルストイを読み、 ツルゲーネフを読破し、 ドストエフスキーを理解することが彼の夢だった。

(笠原和夫著 『二百三高地』 から)


  前述の対露同志会と平民社の争いに遭遇したのも、 ロシア語講座へ通う道すがらに於いてでした。
  因みに、 同作品中で描かれる反戦運動は、 飽くまでも借り物の反戦運動でしかなく、 如何にも浅薄で、 類型的で、 皮相そのものの印象をしか与えていません。
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  要は、 佐知を、 封建の遺制に束縛されない、 近代的自我 を有する女性像に仕立てたかったのでしょうが、 それとても、 物語が進むうちに余り意味を持たなくなっていく。
  出征した小賀の身を案じ、 その写真の前で、 ひたすら無事の帰還を祈り続ける戦時下の女性像 (詰まり・・・典型的メロドラマのヒロイン像) に落ち着いてしまうのですが・・・。






Last updated  December 31, 2011 11:00:17 PM
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