バンコクにて~夢追う日々
2000年1月18日日本を発ってずいぶんと時間がたってしまったような気がしていた。バンコクに戻り、次の目的地であるアフリカへのチケットを手にしたとき、まだ僕は旅の途上にあることを身にしみて感じていた。まだ旅は終わりではない。まだ見果てぬ先がある。そんな現実がほんの半月前に発った日本を随分と過去のものにしてしまっていたのだろう。そしてそんな思いは彼女に対しても同じだった。プラナンからクラビーに出て、窮屈な夜行バスでバンコクに戻った僕がとるものもとりあえず向かったのはバンコクの日本大使館である。そこに行けば間違いなく彼女からの手紙がある。そう約束したわけではない。けれどそこにあることを信じ、そしてそれを裏切ることなく、大使館のお姉さんは僕宛の手紙を5通ほど渡してくれた。1/1 1/3 1/5 1/7 1/9・・・・手紙の裏にはきちんとその手紙を書いた日付が書かれていて、それは今までとまるで変わらず、すべては前回の旅の続きを見ているようだった。1/3の手紙「日記、もう読んでしまったよ。7月25日の日記は私の心も不安やひとりぼっちとかいう感情でいっぱいになってなんだか泣きそうになった。なんだかそのときの君を抱きしめたくなったよ。ごめんね。結局何も役にたつことができなかった・・・」1/9の手紙「お誕生日おめでとう!君にとっては今日はこの世に生まれた奇跡に感謝する日。そして私は君がこの世に生まれ私と出会わせてくれた大きな力に感謝する日。今日という日が君にとって最高の日でありますように・・・」手紙に込められた一字一句が心の奥底までしみこんで心のエンジンに火をともす。そうなんだ。南米を旅した時は彼女の存在にほだされて後ろを向いてばかりだった。でも今は違うんだ。今は力の限り、前を向いて進みたいと思うんだ。思う存分に夢に向かってみたいと思うんだ。だってそうだろう。彼女から病気のことを告白された時に思っただろう。自分にできることは、山に登ること。夢に向かうこと。そんな生き方が人に感動を与えることができるのならば、僕が彼女にできることはそれだけなんだって。彼女にプロポーズしてふられた時に思っただろう。今の自分は弱すぎるんだって。だからもっと彼女のことを守れるくらいに強くなりたいんだって。強くなるために今自分ができることは未来に向かって走り続けることだけなんだ。だからもう悲しい過去は振り返らないんだ。手紙を読み返すたびに熱い感情が流れてくる。空白の未来が輝きを増してゆく。そしてそんな感情が僕の背中をぐいぐいと押してゆく。この半月の南の島での葛藤の中でまたひとつ彼女とのことに区切りをつけ、未来へと向かう自分がいた。アフリカにわたる最後の準備をしながらまたひとつ新たな期待と不安がわいてくる。そんなバンコクの夜であった。