今夜も空の下～世界放浪浪漫譚～

[ヨーロッパアルプス編] カテゴリの記事

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• さよならアルプス

  1999年9月24日（金）寒さもなく湿気もなく柔らかいベッドの上で毛布にくるまって大の字になって眠るなんて何日ぶりのことだろう？やっとヨーロッパから脱出して次の道が開けた安堵感もあってベッドの上で眠りをむさぼった。朝７時に起床して、気がつけばドミトリーの１室にはベッドというベッドが人で埋まって満員御礼。昨夜９時頃に眠りにつく頃には例のすけべなおっさんしかいなかったのだが、人の出入りに気がつかないほど熟睡していたようだ。しかしこの時間になっても誰も起きてこないし、皆当夜遊びしてたのか？確かにパリに来て夜９時に眠ってしまう僕の方が珍しいのかもしれなかった。コーヒーとパンの簡単な朝食をとった後、シャルルドゴール空港に向かう。街からほぼ１時間程度でアクセスは良いし、日本の成田空港ももうすこしアクセスの便を考えて欲しい。やっぱりここも日本人が多いロビーにて搭乗を待つ間、ゴミ箱に落ちている日経新聞を拾って読んだ。為替レートが１ドル１０５円の円高にぶれているようで、海外旅行には幸いんなんだろうけどあいにくと３ヶ月前に１ドル１２５円で買った米ドルばかり持っていたので残念・・・新聞にはIT革命が日本を救う！とかソリューションビジネスがどうのこうのとかよくわかなんことが書かれていたが、まったく遠い国のニュースのようにしか感じない。実際に遠い国なんだけどね。日本をたってそろそろ３ヶ月か。情報が入ってこないということで取り残されたような気持ちになった。パリ発フランクフルト行きのフライトは４０分遅れて出発。１時間でフランクフルトへ。ここで最終のEU圏出国手続きをして、15:05発のタイ航空バンコク行きに乗り込んだ。乗り込めばそこはすっかりアジアの空気で懐かしい。インドというでかい壁を乗り越えてバンコクに向かえばもう気分はすっかり旅の終末ムード。タイと日本の時差はたった２時間だから別に遠い空でもないし、何よりもここからはかつて知ったる土地ばかり。昨日までの不安から一転楽観お気楽気分ではあるが、反面それが寂しくもある。飛行機が飛び立つとヨーロッパの大地が次第に遠くなっていく。眼下にアルプスは見えないか、見えたら敬礼でもしたかったが機体はすぐに雲に突入してしまった。思えばヨーロッパ滞在はかっきり１ヶ月。振りかえってみれば金ばかり出て、思うほど山にも登れず怠惰な日々となってしまったがそれももはや楽しい思い出だ。倦怠感につつまされたとはいえアルプスがいやだったわけではない。アルプスに未練がないわけではない。思い描けば登りたい山はたくさん脳裏に浮かんでくる。その山のことを思うだけでドキドキするような山はまだまだ沢山ある。ただ、生半可な気持ちでぶらりと来て登れるほどアルプスの山々は甘くない。それがわかったからこそ、また来るときの糧となる。だから来年もまた来よう。そう思う自分がいた。今度こそ、グランドジョラスの北壁ソロを目指して、１年間修練を積んで来るんだ。アイガーにも絶対に登りたい。余裕があればマッターホルンやドリューにも登りたい。そしてこれからのことがいっぱい頭をめぐってくる。次の世界がたくさん目の前に思い浮かんでくる。ヒマラヤに登ってから日本に帰って、さあそこから次はどこに行こうか？アフリカの山に行きたいニュージーランドの山にも行きたいニューギニアの山も行きたいパタゴニアにも行きたい東南アジアで沢登り三昧の旅がしたい。行きたい国はいっぱいあるやりたいこともいっぱいある金はあんまりないけれど時間だけはいっぱいあるそしてあふれるほどの情熱だけはたくさんあるそんな気持ちを心に抱きながらさあ次の世界へ！

  2006.02.10

• パリの憂鬱

  1999年9月23日（木）晴れ前へ前へと進んできた旅も再びパリに逆戻りとは何てこった。この前の南米の時には、目的をすでて果たして、南米で旅を続けることに疲れて一刻も早く次の目的地であるアルプスに行きたがっていたことを思い出す。あの時と同じように今は一刻も早くヨーロッパを抜け出して次の目的地であるヒマラヤに向かいたい。しかしの前に立ちはだかる「インド」という壁は何てでかいのだろうか。もしパリでインドのビザを取れなかったらルートを変更するしかない。いっそヒマラヤ以前にもっと登りたかったアフリカの山に行ってしまうという手もあるがちょっと情報が乏しいかな。ともあれ早朝６：４５にパリ東駅到着である。顔を洗おうと思って１フラン払って駅のトイレに入ったらトイレ番のおばはんに「ここはトイレだよ！」とたしなめられた。まったくヨーロッパはいけすかん。とにかくロッカーに重いザックを預けたら久々のパリの街へ！９月下旬のパリはそこかしこに秋の気配で、先月の暑さが嘘のようだ。地下鉄料金ケチって歩いて移動。Ｔシャツでは少々肌寒い中１時間歩いて凱旋門近くのインフォメーションで情報を得、それからさらに１時間歩いて毎度恒例のインド大使館へ。さて天下の大都市パリの大使館である。よもやビザ発給できませんとは言うまい。日本でさえインドビザは翌日発給だから、明日にで発給してもらえばすぐにでも飛び立てる。さんざんたらいまわしにされながらもわずかな望みをかけてのインド大使館詣で。まずは正面玄関から入って受付にてビザは発給してくれるのかと聞くと「Yes! Of cours!」と心強い答え。「でもビザ受付は裏口だからそっちに行ってね」と言われ、仕方なくも２００ｍほど歩いて裏に回った。この辺もインドらしい。裏口のビザ受付にて書類を書いて発給はいつになるの？と聞いてみたら、受付のおばさんは指を５本立てて「Thursday!」と言った。木曜って今日じゃん。えっ即日発給なの？なんてインドがそんな甘いはずがない。発酵には５日かかり土日はさむから発給は来週の木曜とのこと。もうあいた口がふさがりません。たかがはんこ押すだけの仕事に１週間もかかるとはもうお前らもうすこし仕事しろよ・・・ジュネーブ、ベルン、パリとたらい回しにされてつくづくインド不信だ。もういい！もうインドなんかやめた！もうてめえらの国にビタ１ドルおとしてやるもんか！しかし憤ってもしかたない。とにかく目的もなく１週間も足止めくらうのはまっぴら気持ちはぜったいだったので、ルート変更を余儀なくされる。でルフトハンザ航空オフィスへと出向き、つたない英語を駆使して事情を説明し、今後の全区間のルート変更を試みた。いっそアフリカへの気持ちはあったが、さすがにそんな大きな変更はできなかったが、とにかくパリ～フランクフルト～バンコク～東京に変更してもらう。ヒマラヤにはバンコクから往復したがったがマイルが足りなかったので、その部分はバンコクで買い足すことにする。全体ルートではマイルがあまったので、おまけでバンコクからカンボジア往復をくっつけた。とにかく決まった。１時間半もつきあってくれたルフトハンザ航空パリオフィスの美人のお姉さんには感謝である！これでとにかく明日朝にはパリを発って、巣にはバンコクに着くことになった。目の前にそびえていたインドが急にいなくなると何と心は軽くなるんだろう。必然的に今日はヨーロッパ最後の夜になって、今夜の宿はモンマルトルのドミトリーにとった。最後の夜に相応しくもなく夕食はあいかわらずパンとチーズとワインなのだが、でもヨーロッパで本当に庶民的で美味しい物はやっぱりパンとチーズとワインなのかもしれないなあ。最後の夜だからと、モンマルトル近くのピガール広場を探検してみた。ここはパリで一番、人間的？なエリアなのである。しかし散策してると客引きが鬱陶しくてネオンがぎらぎらとまぶしいこの界隈は、日本でいえば歌舞伎町そのまんで、田舎物には刺激が強すぎる。特に何をどうするというわけではなかったが、何となくうろうろして帰ってきた。長旅が続いて人が恋しいということもあるのだけど。宿に戻ると、同室部屋には教師やってるというアメリカのおっさんがいていろいろ旅の話をした。「ヨーロッパは物価高いね。やっぱり俺はアジアがいいよ。物価は安いし、それに女は抱き放題だしね」すけべそうなおっさんはすっぽんぽんでベッドにはいりながら嬉しそうにそう言った。「俺も明日バンコクに行くんだよ」僕はそう言うとおっさんは急に目を輝かせた「バンコクはいいぞ～　バンコクの女はいい。そうか君は明日から素敵な日々だな。Have a good trip!」眠かったので適当に話をきってベッドにもぐった。でももしかして僕もまた人恋しそうな（女恋しそうな）顔をしていたのかもしれない。日本を出て３ヶ月。彼女からの手紙はほぼ毎週どこかしらに届いていたが、僕からはもう彼女に限らず誰かしらに手紙や葉書をかくこともしなくなっていた。それは何よりも旅が日常的になっていてしまったことによるのだ。明日にまた旅は新たなステージを迎えるのだが、さてそこにはどんな気持ちが待っているのだろうか・・・

  2006.02.09

• 北帰行

  1999年9月22日（水）雨のち曇りテントは昨日日本に送り返してしまったからかわりにツエルトをピンと張った。目一杯張られたツエルトの中はテントの中よりも広いくらい。秋の夜は暑くもなく寒くもなく、虫もいなくて、何よりも久々の雨の降っていない乾いた夜に快適に眠れる期待をこめてシュラフにもぐった。しかしなんということか夜１０時頃には無情の雨音。一転不快な夜になる。雨はぽつぽつと降ったり止んだりのくりかえし。せめて防水貧弱なこのツエルト内部に浸水してこないことを祈りながら次第に眠りにおちていった。明けて朝７時。雨は止んでいたが、やっぱり外は湿地帯。浸水してこなかったのは幸いだが、さすがにこの１週間最後の最後まで雨が降り続いてうんざりだ。一体のこの雨水はどこから供給されてくるのだろう？ともかくこんな雨の町とは今日でおさらば。濡れた装備をザックに突っ込んで１０：５０発のインターラーケン行きの列車に乗り込んだ。１週間もいたってあまり美しい思い出もないものだから、去りゆく気持ちは寂しさよりもどちらかと言えば「来るんじゃなかった」の感が強いが、それはそれ。スイスには来たくないがアイガーにはまたいずれアタックすることになろう。その日まであさらばだ。行き着く先はとりあえずスイスの首都ベルン。そこでインドのビザをあたってから次の作戦を練ろうかというところ。荷物を送り返した分ザックは一つに減って、体は身軽になったものの、心は今ひとつ重いまま。この後フランクフルトからデリーまでルフトハンザのチケットを持っていて、フランクフルトは目と鼻の先ではあるが、インドはビザがないと入国できない。インドのビザはいまだ取れていなかったし、何となればインドの出方次第では大幅な予定変更も余儀なくされそうだった。１２：３０頃に無事ベルン到着。スイスの首都であるという以外は特に特徴のない町だ。およそ観光客には縁のない町ではあるが、いまはともあれインドビザ。インフォメーションでインド大使館の所在地を確認。よ～しさあ行くぞとザックを背負ったら、インフォメーションのお姉さんが「インド大使館て今日はもうやっていないですよ」と一言。「？？？？」「インド大使館は午前中しか開館していませんよ」「！！！！」確かに大使館リストを見ると開館時間は9:30～12:00と記載してあった。１日２時間半である。「ああもうお前らちゃんと働けよ」よしみじみとがっかりとしてしまった。とにかくルート変更の可能性が高くなってきたところでルフトハンザのオフィスのありかを聞いたらこの町にはないとのこと。全く首都のくせに役にたたない町だ。さあどうする。明日になってインド大使館が開くのを待つか？それともフランクフルトに行くか？それともパリにでも戻るか？いずれにしても気持ちが先へ先へと行きたがっているときに、ましてやこんな物価の高い町で足止めされるのはやりきれない思いであることは確かだった。何もないベルンの町をぶらぶらと散歩しながらいろいろと作戦を考えた。考えあぐねてパリに戻ることにした。ヨーロッパのハブ都市パリならばそこからどうにでもなるような気がしたのだ。宿代を節約して夜行列車でパリに戻ることにして、それまで町をぶらぶら。しかし僕には観光は性に合わない。川縁の公園でパンやワイン飲んで簡単な夕食を済ませ、夜１０時発のバーゼル乗り換えパリ行きの列車に乗りこんだ。この辺の列車はインターシティと違っていかにも日本の普通列車っぽくて旅情が高まった。列車の中はがらがらで闇夜にほのかなあかりが車窓をぽつぽつと流れていく。窓は夜露に濡れてスイスすでに遠のく。さらば異国　はかなき想い明日はいずこの国か♪

  2006.02.09

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  雨のち秋

  1999年9月21日（火）　晴れ昨夜１０時頃にシュラフに入った時はまだテントを叩く雨音が激しく、なかなか止まない雨に気は重いし、それにテント場のすぐそばを流れる川の水が増水してごろごろと石がぶつかる音が聞こえて気が気ではなく憂鬱な眠りに沈んだ。そんなひどい雨も夜中ふと目が覚めたおりには止んでいた。静寂。テントのあちこちから染み渡ってくる湿気が鬱陶しい。そして若干の肌寒さ。考えてみれば日本だって朝晩は肌寒い。ましてやここは北海道より北のヨーロッパの山の麓である。寒いのは当然であった。朝８時にテントの外に顔を出すと青空が・・・というわけにはいかないがとりあえず雨は止んで空には雲が忙しく流れて、北西面からゆっくりと青空ｇが広がってきているようだった。足下に目を転じてみればキャンプサイトは湿地帯と化していて、わがテントの中にも四方から染みてきた水がひたひた。あたかじめ防水対策は厳重にやったはずなのにまあそれだけひどい雨だったということか。太陽はまだ姿を見せない。何しろここは谷底中の谷底。目の前に大きくそびえる山々が邪魔して太陽は一向にその姿を見せやしない。今日は晴れるぞをと湿ったシュラフを外に干しても意味はない。仕方ない。ゆっくりと朝食をとってのんびりしている内に西からだんだんと明るくなって太陽の日差しが段々と山から降りてきた。さあまもなく陽が射すぞ！キャンプ場に太陽が現れたのは何と午前１１時であった。しかしつかの間の太陽が心に体に眩しい。空はすっかり晴れ上がって、見渡す限りの青空が頭上にさんぜんとそびえている。ただの青空が何と美しいのだろう。とりあえずテントからシュラフから山道具から本からちり紙まで湿ったもの全部外に並べて乾燥させる。同じようにあちこちのテントからも他のキャンパーがぞくぞくと現れて、皆同じようにテントやシュラフを乾かしていた。 まるで春を迎えた蛙のようだ。心なしか皆の顔も明るい。太陽はほんとにえらい。ふと気がつけば１週間の雨に降られて山々はすっかり真っ白になっていた。 新雪に輝くアイガーはそれはそれで登行意欲をそそるもののもはやあそこまで登る財力はない。久々の晴天に若干の心残りを感じながらも今日はとにかく出発の準備を整えることに専念する。荷物が乾いた午後に日本に送り返すいらない道具を荷造りする。何せこの後にはインドが控えているのでとにかく身軽になりたかった。この後のヒマラヤではテントは使わないからいらない。今夜はツエルト（簡易テント）でしのごう。マットもいらないや。今日は段ボールでいいや。ザイルももういい。ネパールでまた買おう。ピッケルもいらない。アイスバイル１本で十分。カラビナも３枚くらいでいい。彼女から届いた手紙の束もちょっと迷って日本に送ることにした。午後から郵便局にでかけ送り返した荷物はざっと１３キロ。だいぶ軽くなったように感じるがそれでもまだ２０キロ近くあって重い。ネパールまでの道のりは険しい。夕方には洗濯物もすっかり乾いて久々に乾いた夜を遅れそうだった。明日はとにかく出発である。今夜は雨ばかりの思い出となったグリンデルワルトを去る最後の日。夜は奮発してステーキを食べた。さあ明日は一体どこで寝ているのだろうかな・・・

  2006.02.07

• スイスは今日も雨だった。

  1999年9月20日（月）雨昨夕からまたもや降り出した雨は夜半にはいよいよ激しく、今朝になってみれば本格的な大雨。テントの周りは雨がたまって湿地帯のようである。山はガスにけぶってまったく見えやしない。昨日、アイガーに入ってなくてよかったとほっとする。もし昨夜山の中に泊まっていたら荒れ狂う風雪に停滞を余儀なくされ、停滞中に降り積もった新雪に退路まで断たれるところだった。そう思えば少しは気は楽になるが、それにしてもこおに来てから６日間、一向にすっきりしない天気に心まで湿り気味である。ともあれ今日はトイレに行くのも億劫なほどの大雨の中、何をするも起きやしない。もうヨーロッパを発つことを決めて、今日は出発の準備をしようと思っていたのにこんな形で足止めくらうとは何てこった。狭苦しく息苦しいテントの中でじめじめしたまま時は過ぎていく。気圧計を見れば確実に気圧があがって、天候は確実に回復しているようだ。そういえば昨日の天気図では北海のあたりに大きな低気圧があった。それが通過中ということはやはりヨーロッパでも天候は西から東に移動するのだろうか？ともあれ雨足は確実に弱くなってきているようなので、このチャンスにカッパを着て町へ買い出しに出かけた（傘はもちろんもっていない）。１番近いスーパーでいろいろ購入。しめて１３Ｓフランなり。この物価の高いスイスで何とか日々2000円でやってるなあ・・・と思いつつずぶぬれになってキャンプ場に戻ると、何と酒を買い忘れたことに気がついた。どうりで安いはずではあるが、ショックはでかい。しかし、もはやもう一度この雨の中を町に出向く気力はなくて、今日も昨日に続いて休肝日とあいなった。夕方以降も何をするでもなく、時間をつぶして過ごす。酒のない夜は時間が長く、そして寒い。９月下旬のアルプスの雨の夜はそりゃあ寒くって、足先がじんじんと冷たい。シャワーを浴びると瞬間あったまってほっとする。ああこんな日は日本の温泉が恋しいな。夕食にハンバーグを焼いて食べた。日本ではそろそろ秋刀魚の美味しい季節だろうか。ああおろしののった秋刀魚が食べたい。こんな日もまた日本への郷愁がそこはかとなく漂う。次の目的地であるインド、ネパールを飛び越えて気持ちは日本を思っている日々。さあ明日は何をしているのだろう。雨はまだ降り続いている。

  2006.02.06

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  アイガーを目指して

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　左からアイガー(3970m）メンヒ(4099m）1999年9月19日（日）　雨／雪連日の悪天にさすがに待ちくたびれた。もう今日はどんな天気だろうがとにかく山に行くつもりで朝５時に起きた。日程的にもこれが最後のチャンスだから、とにかく山に行きたい。それで駄目ならば自分に対しても納得がいく。今はそれでいい。コーヒーとパンだけの朝食をとって暗闇の中まずは登山鉄道の駅まで歩いていく。予定では7:19発の始発に乗って、３５００ｍだかのユングフラウヨッホ駅まで上がり、本日はまずはユングフラウ（4158m）を登頂した後、アイスメールに下って、さらにアイガー東稜にあるミッテルレギヒュッテにあがる予定である。そして明日はアイガーに登って下山。さて気がかりな天候であるが、とりあえず朝の段階ではいつも通りの曇天である。曇天の空の下、それなりに明るくなって視界が開けると目の前には日本人の渦が広がっていた。始発列車の乗客の９割はは日本人であった。何をか思わん。だがいい。山に入れば観光客なんか１人たりともいない。そう、山屋だけの世界なのだ。そこに入ればまた気持ちもうってかわって自動的に体が動く。登山電車の車窓に風景が広がるたびに乗客に歓声とカメラのシャッター音が響く。薄明るい空はほとんど雲に覆われているが、もはや晴天など望むまい。雨雪ふらなきゃなんでもいいさ。日本人を１００人ほど載せた登山電車は一旦100ｍ程下降した後、信じられないほどの急勾配を一路ヨッホへと登っていく。こんなとこ歩いたってきついぞ。よくもまあ戦前にこんな電車通したもんだ。アイガー北壁を回り込んでクライネシャデックで乗り換え、アイガーの西稜に向かって次の駅アイガーグレッチャーへ。ここからのアイガーは手に取るように近い。アイガー登った後の下山路はこの西壁とるのが普通だが、どこを降りるの？って思うくらい急峻で早くも不安になる。そして天気も追い打ちをかけて、ユングフラウもメンヒもアイガーもすべて深い霧に覆われて山の上の方はさっぱりわからない状況だった。登山電車はトンネルに入り、まもなくトンネル内のアイガーバンド～アイスメールを通り過ぎ、８：５０の終点ユングフラウヨッホ到着である。所用１時間半。料金片道８６ｓフラン（6200円）で世界一高いところにあるという駅までの行程は世界一高い料金を支払わなければたどりつかないらしい。しかしそんなことはどうでもいい。山にさえ入れば金のことも雑踏のことももはやどうでもいい。山は金や俗の入り込まない聖地なんだもの。よ～し山に行くぞ出口はどこだ？観光客と一緒になって駅の中をうろうろするとまもなくユングフラウ方面の出口を見つけた。さあ！と出口を開けた途端に一寸先も見えない猛吹雪が体にぶちあたってきた。一瞬で体は雪まみれになって気持ちも凍り付いた足下さえ見えやしない。荒れ狂う雪片が顔にびしばしとあたって、目を開けていることもできやしない。駄目だこりゃ。とすぐに建物の中に逃げ込んだユングフラウが駄目ならば反対側の初心者向けの山メンヒ（4099m）はどうだ？ここなら吹雪ついてでも登れるかもしれんと、反対側の出口から出て、少しばかりつっこんで見たがすぐに吹雪に押し戻された。１００ｍも歩いていないぞ。折角馬鹿高い料金を払って登りにきて１００ｍも登れないとはなんたることぞ！いくら僕でもこんな日に山に登ることの愚かさは知っている。ましてや情熱を傾けているわけでもない。だからユングフラウやメンヒをあきらめることはまったく抵抗はなかった。でもアイガーには登りたい。アイガーに登るために最低条件は今日中にミッテルレギヒュッテに入ること。最悪夕方までに出発すればヒュッテまでは間に合うから、天候急回復への一縷の望みを託して、しばらくこの駅でなつことにする。そうはいってもこの日本人観光客まみれの駅で時間をつぶすことは僕にとっては拷問に近しいことだった。出口近辺は寒いので中央ホールに行ってみる。そして驚いた。ホールにあふれるのは日本人。日本人。日本人。駅の売店には日本語の渦。「これいくら？」「この絵はがきちょうだい」よせばいいのになぜか売店の脇には日本製の例の真っ赤なポストが立っていて、「ここから日本に送れますよ」と日本語で主張。ここは一体どこなんだ！大混雑の日本人の渦の中に数人の白人を見つけると「ああ外人（！）もいるんだ」とほっとしてしまう。そんな（僕にとっては）耐え難い環境の中、とにかく天候が回復するのを期待して待った。とにかく待った。しかし奇跡は起きなかった。吹雪はますます悪化してくるようだった。そしてもうあきらめた。アイガーはあきらめた。これというのも自分の気持ちがのらないせいだ。だから気持ちを立てなおした後でなければたとえ天候が晴れても登れないんだと自分に言い聞かせた。とにかく気持ちが割り切れたのでもうグリンデルワルトに下山することにする。帰りはせめて山の空気感じようと途中のアイガーグレッチャーからハイキングルートを歩いて下山しようとキップを買った。しかし細切れで買ったため町からの往復料金よりも高くなった。何だかついてない。山では吹雪でも下に降りれば少しは晴れてるかもと淡い期待を抱いたが、トンネルを抜けるとそこは横殴りの大雨だった。ついてない。仕方なくアイガーグレッチャー駅で降りて、大雨の中カッパ着て歩き出す。何かスイスに来てから不愉快なことばかりだなあ。そう思いつつ歩き出すと、いきなるすべってこけてしまった。ああついてない。 だが幸い雨は止んでガスも晴れてきた。こんな道に観光客はいないし、久々に山の空気を吸ってのんびりと歩けるさ。黙々と歩いて１６：３０に町に着いた。今日は久々に運動したしスーパーでビールでも買ってこうと思ったら今日は日曜のためスーパーも売店もすべてお休みだった。ついてない。仕方なくキャンプ場に戻り、重い荷を降ろしやれやれ。喉が乾いたけどビールは飲めないのでせめて自販機でジュースでも買って飲もうと思ったら小銭がなくって買うこともできなかった。ついてない。夕方になると雨風が一層強まってテントの中には雨や砂や葉っぱが舞い込んできわめて不愉快。おまけにテントは浸水するし、鍋釜食器は吹っ飛んで行くし、おまけにちょいと外に出たときに頭上にぶっとい樹の枝が落ちてくる始末。何だかもうこんな日もあるさなんて行っていられない！これはもう「早いとこここを出て次の目的地に向かいなさい！」というお告げであるのかもしれなかった・・・

  2006.02.05

• スイスの憂鬱その４

  1999年9月18日（土）雨昨夜から降り続いている雨に今日ものっけから出発を見送っているのだが、それでも朝４時半に起きて空を眺めてみる。この頃には雨は止んでいたものの、やはり山々は分厚い雲のなか。たまには満天の星空でも出て欲しい。やることなしに二度寝して起きるともう９時だった。雨の日は本当にやることない。やることのない日は夢を思い描くに限る。そしてこれからの旅のことをいろいろと考える。この後のチケットの目的地はインドのデリーである。そしてデリーからえんえん陸路で移動してネパールに入国。１月ほどヒマラヤの山を登る予定ではある。しかしインドのビザはいまだ取れないまま。ジュネーブの一件があってすっかりインド不信になってしまった僕には、ビザをとるために奔走することも、ましてやインドに行って陸路で移動するのもすっかり憂鬱になってしまっていた。モチベーションが低下した今だからこそ、早く次の目的地ヒマラヤに飛びたい一心なのであるが、その前に立ちはだかるインドという壁はなんてでかいのだろう。ただインドのせいだけじゃないことも確かだった。正直、今日本に帰りたい気持ちでいっぱいなのだ。でもそれは、ホームシックであるとか、疲れたとか彼女に会いたいからとかそういうことではない。そういうことではないんだ。ただ歩きだしたいんだ。もう一度スタートラインに戻って、そこから次の夢にむかって走り出したいんだ・・・死んだっていいそんな想いでアンデスの夢を果たし、そして僕の気持ちが次にむかったのは、モンブランでもないし、ヒマラヤの山でもない。今本当に自分のやりたいこと、今本当に自分の登りたい山は実はここではない。次に登りたい山が明確に心の中にあるのに、そこにむかって新しい１歩を踏み出せずに停滞している自分がたまらなくもどかしかった。出発当初は帰国したらもとの職場に戻って何事もなかったように現実に帰るつもりでいたが、今となってはそんな気持ちもみじんもない。ないからこそ、日本で待っている空白の時間が恋しい。「～しなければならない」ではなく「～したい～やりたい」と思うことその情熱のおもむくままに、何もかも捨てて邁進できる時間が恋しいもしかすると今回の僕の旅はアンデスに登った時に終わっていたのかもしれない。その後の時間はすべて惰性だったのかもしれない。そして惰性と思える今の時間は次の夢への助走期間なのかもしれないと考えてみる。いずれにしても、とっとと今後の日程片づけてとっとと日本に帰って、体制を立て直して、次の一歩を踏み出そう。そんなこと考えて、今日は無性に世界地図が見たくなって、午後から町に出かけたが観光都市グリンデルワルトにはそんなものは置いてなかった。夕方頃には雨もあがって青空ものぞきアイガーも良く見える。明日の天気はわからないが、我慢も限界だ。いずれにしても明日山に向かおう・・・

  2006.02.04

• スイスの憂鬱その３

  1999年9月17日（金）夜半にいつしか雨音が聞こえ、ああやっぱり駄目かと思いながら午前４時に起きて空を見るとアイガーは分厚い雲の中。やっぱり駄目だと再度寝込んで、次に起きたのは朝７時。空は少しだけ青空がのぞいているが、上空には雲が西から東へものすごい勢いで流れている。アルプスでは西風は荒天の兆し。ここは無理せず今日は様子を見ることにする。コーヒーを沸かしたり、手紙を書いたりのんびりするだけではあまりにも暇を持て余す。暇だ。たまっていた日記をつける。まだ暇だ。外は小雨が降ったり止んだりの繰り返し。こんな時こそ室内壁でも登って発散させたいが、昨日のおばはんのとこにはたとえロープ持参でも行きたくはない。やることないままに何とかかんとか時間はつぶれいつものようにゆうげの時間がやってくる頃には、にわかに風が強くなって大粒の雨が降ってきた。山の上は大荒れだろう。今日登らなくて良かった。明日以降の雪の状態が気にかかるが気にしていても仕方ない。考えても仕方がない。雨の中狭いキャンプ生活は不愉快だがまあこんな日もある。雨は一晩中降り続いていた。

  2006.02.04

• スイスの憂鬱その２

  1999年9月16日（木）昨日夕遅くまで、重い荷を背負って移動していたから今日はぐっすりと眠って遅めの８時起床である。目が覚めればそこには朝もやに包まれたアイガーの姿・・・は分厚い雲のため見えやしない。久しぶりの曇り空の下。陽がささないアルプスの麓は寒くて寒くて、山々は雪が少なく黒々としているが、もうじき冬が近づいているのだろう。だが今日は明日からの山行にそなえて準備の予定。悪天はむしろ都合良い。ここグリンデルワルトはスイスアルプスベルナーオーバーラント山群の登山基地。この小さな町の目の前にはアイガー、メンヒ、ユングフラウのベルナーオーバーラント三山がど～んとそびえ、かつて多くのクライマーがこの山々で数々のドラマを演じた由緒ある山の町なのだ。それらの山の中で僕が目指すのはアイガーである。「魔の山」「人喰い山」と呼ばれ、アルプスで最も危険な山と呼ばれるアイガーはグリンデルワルトを見下ろすように威圧的にそびえてみえる。数々の生と死のドラマを産んだ北壁は近寄りがたく圧倒的にそびえているが、僕が今回挑むのはミッテルレギ稜というまあ中級者向けのルートであるが、歩いて登れるようなルートではないので十分な情報が必要だ。そんな情報をまずは得ようととりあえず町に出て案内所に出向く。他に案内所がないので日本語観光案内所に行くが、ここは観光客相手なのでまったく要領を得ない。そりゃそうだよな。まちのホテルとかレストランとかの情報扱ってるとこ行って「今年の氷河の後退状況はどうですか？」とか聞いてもわかるわけないよな。それでもシャモニなら案内所で山の情報をきちんと教えてくれた。同じアルプスだし山の町ならば多少の情報は得られると思っていた自分が馬鹿だった。日本語観光案内所の中は日本なのだ。海外の常識は通用しないのだ。それでも登山ガイド組合の場所を教えてもらいそこで多少の情報を得ることはできた。あとは山に持っていく食料の買い出しにスーパーで手早く買い物をすませ、いつでも出発できる体制を整えた。ただ明日からも天候が回復しないかもとの情報がやや憂鬱だ。気分転換に午後から町のスポーツセンターにでかけてみた。ここには室内のクライミングボードがあるという。高さは４ｍ程度とボルダリングの域を出ないが天候悪い時には重宝しそうだ。しかし常識が通用しないのはここでも一緒だった。「クライミングボード使用したいんですけど」窓口でそう言った僕に対し、受付のおばはんはめんどくさそうに僕をじろりと見回し、「あんた岩登り用の靴もってるの？それからロープも持ってるんだろうね？」と公務員のような口調で言った（公営なので実際、公務員みたいなもの）「靴は持ってるよ。でも４ｍ壁だし、ロープは置いてきたよ。ボルダリングだから必要ないでしょ」「ふざけちゃいけないよ。ロープなくって登れるわけないだろ。事故でも起こったらどうしてくれるんだい！だめだめ、そんなのに使わせられないね。」「でも４ｍ壁で事故なんんて起こるわけが・・・」「ピシャ！」おばはんは目の前にそれこそ公務員のような態度で受付の窓をおろした。はらわた煮えくりかえる思いだが仕方ない。ただ山の町なのに山の常識が通用しないのが無性に悲しかった。かつてこの町ではアイガーに登る登山者は無条件に尊敬されたと言われるが、今ではその面影は感じられない。この町はシャモニのような山好きが集まる町なのではなく、ただ山を見せ物に観光客を誘導しているだけの町なのかもしれないな。そう思うと何だか無性に寂しさがつきあげてきた。夕食に明日からの山を祝って大金はたいて牛肉でごちそうとしたが、どうにも固くてうまくない。ワインはワインで美味しいがフランスに比べるとかなり高い。なんだかうまく気持ちがかみあわない。唯一のなぐさめのアイガーの眺めさえ今は分厚い雲の中。ああ明日はきれいに秋晴れが広がって最高のクライミングでアルプスをしめくくりたい。そうして早くこの町から離れたい・・・さあ明日の天気はどうだろうか・・・

  2006.02.03

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  スイスの憂鬱

  1999年9月15日（水）シャモニからジュネーブまでのバスは１日２本。その１本、早朝７時発のに乗るために今朝はまだ真っ暗闇の朝５時に起床し、まるで夜逃げのごとくこそこそと出発準備。タープにマットと枕をくるんでダストボックスに捨てる。まだまだ使える物を捨てるのは忍びない。願わくば誰か拾ってくれ・・・だいぶ整理して軽くなったとはいえそれでも前と後ろに合わせて３０キロもあるザックにひいひい言いながら駅までの道を歩く。駅に着く頃にはすっかり空も明るくなって、バスは定刻にジュネーブに向けて出発する。途中で制服を着た少年少女たちが乗り降り。まさに通学バスのよう。バスはきれいだが飲み食い禁止だし、トイレもついていないので快適とも言えない。あっけなく国境を越えてさジュネーブ到着は９時４０分。さあだれもが憧れるスイスの旅の始まりだ！しかし田舎ぼけした体は久々の大都会にとまどう。とりあえずこのクソ思い荷物をコインロッカーにぶちこもうと駅へ。しかしコインロッカーには当然コインが必要だ。そうだ両替だ。駅の両替所にて２００フランを差し出すと丁度５０スイスフラン札１枚になった。何てこった。コインロッカーを前にコインがない！あわてて手持ちの１０００円札を再度両替して小銭をいただいた。物価感覚はつかめないが大体１Ｓフランで７０円くらいか。まずは荷物を無事ロッカーにぶちこんで一安心。さて本来ならジュネーブなんかに用はなく、本来の目的地であるアルプスにむかいたいところだが、ジュネーブでの大きな用事がふたつ。ひとつは日本領事館にて彼女からの手紙を受け取ること。もうひとつはこの後の目的地であるインドのビザの申請をすることである。まずは領事館へ。っていってもどこにあるの？駅のツーリストインフォメーションで教えてもらい検討つけて歩く。歩いていると、シャモニでお世話になった神田さんにばったりあった。バスなら遠いが、マイカーならばここジュネーブがちょっと来られるような近い都市らしい。ちょうどよいやとばかりに領事館の正確な位置を教えてもらい、神田さんと別れた。領事館は「～館」と名乗るほどのものでもない、雑居ビルの１室にあった。日本語の発音を少し忘れてしまったようなおじさんが丁寧に僕宛の手紙を出してきてくれた。 レマン湖のほとりのベンチで、昨夜余った米で作ったおかかのおにぎりをほおばりながら彼女からの手紙を読む。「ヨーロッパは南米よりも近くなったはずなのに何だかさらに遠くなった気がするよ」と書いてあったがその気持ちは正に僕も同じであって、何だか地球１周する間にお互いの距離が遠く離れて行くような気がしていた。それは時間のせいか距離のせいかはわからないけれど・・・それから次にさんざん迷いながらインド領事館へ向かった。「すいません。インドのビザとりたいんですけど」そう言って、何日くらいで取れるのかな？もしかして即日薄給してくれるのなら、すぐにでも、そう今夜にでもインドからヒマラヤを目指せるんだな。なんて考えていると、受付のいかにもこうかつそうなおっさんがめがねのおくの目をひからせてじろりとにらみつけて言った。「ここはビザはとれないよ」「だって領事館でしょう」「ビザは外国では取れないんだよ。おまえは日本人だろ。日本に戻ってとってきな」おっさんの横柄な態度にむかつきながらそれでもこちらも主張する。「そんなことあるか！バンコクやネパールでインドのビザ取れるじゃないか！」「バンコクなら取れるのか？ならバンコクで取ってくればいいだろ」売り言葉に買い言葉だ「日本のインド大使館に照会したらフランクフルトのインド大使館ではビザ発給してるって言ってたぞ！」そうなのだ、一応こんな事態も想定してあらかじめビザ発給情報を日本で確かめていたのだ。しかしおっさんは１歩もひかない。「フランクフルトでは取れるんだよ。でもここでは取れない。」「ベルンでは取れないのか？」「知らん」後ろで書き物をしていた女性の係員が言い合いに見かねてきちんと説明してくれた。とにかくここでは取れないがベルンならば確実に取れるとのこと。そうやってきちんと説明してくれりゃいいんだよ。まったくクソおやじが！しかしそれでも「これがインドか！」と今後の旅に身が引き締まる思いであった。場合によっては都市で１泊と考えていたが、これでジュネーブにいる意味がなくなったので、ビザの件はあとで考えるとしてとにかく目的地であるスイスアルプスの麓グリンデルワルトに向かう事にする。インターシティを乗り継いでインターラーケンへ。スイスの鉄道は２等でも１等なみに快適だ。しかし、スイスの物価は想像以上に高く、うかつにジュース１本飲めやしない。パンもコーラも３００円くらいで何もかも高い。公衆便所が1.5フラン（１０５円）でうかつに便所にも行けやしない。何だかぎすぎすした気持ちであるが次第に山が近づいてくれば心も高ぶってくる。インターラーケンから登山鉄道にてグリンデルワルトへ。走る列車の車窓からは波打つ草原の彼方にベッターホルンが大きくそびえまさにアルプスの少女ハイジの世界！１８：２０にグリンデルワルト到着。駅前には何故は「日本語観光案内所」がど～んと大きくそびえていて、日本人多いのいやだな～と思いつつ他に案内所がなかったのでそこで、地図をもらいキャンプ場の場所を聞いた。「キャンプですか？寝袋とか必要ですよ。ホテルとりましょうか？」と受付のお姉さんが見当違いな心配をしてくれた。いや見当違いなのは俺の方か！町を歩き、スーパーで買い物をしてるととてつもなく異常なことに気がつき始めた。「ねえ今夜はどこの店行く？」「わ～このＴシャツおしゃれ。買っちゃおうかな」などなど町の四方八方から日本語が聞こえてくるのだ。ふと狭いスーパーを見渡せば、周りにいるのはほとんど日本人。道を歩いていても、そこかしこに日本人、日本語、日本の文字！おそらく今この町の人口の半分は日本人だろう。一体この町はどうなっているのか！スイス観光の最大のお得意さんが日本人というのは聞いてしたがこんなにひどい状況になっているとは・・・しかも山の町だというのに、山の恰好してるのなんてもちろん俺だけ。何なんだこの町は？海外で出会う日本人の群ほど気持ち悪いものはない。一刻もこの場所を離れたくて足早にキャンプ場へと下っていく。喧噪から離れて路地裏の小道を歩いていると、そこにいた女の子が「こんにちは！」と日本語で挨拶してくれて、これには何て答えてよいのか嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになって「グーテンターグ」と答えて笑い返した。キャンプ場に着くと当たり前だが日本人も日本語もまったくなく心底ほっとした。 このキャンプ場は町から遠いがそれでかえって良い。目の前にアイガーがど～んとそびえる素敵なロケーションで１４フランはスイスにしてはお得だろう。今日１日いろいろあって心が疲れてしまったな。今夜は昨日までとはうってかわってパンとソーセージだけの質素な夕食をワイン１リットルで祝う。さあ明日からどんなドラマが待っているだろうか・・・

  2006.02.03

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  シャモニ最後の夜

  1999年9月14日（火）晴れ次の目的地はスイスアルプスだ！そう決断したことで日常生活に溺れるような閉塞感からは解き放たれ、新たなモチベーションが沸いてはくるものの、体の方は身一つですぐには動けないほどの荷物を抱えてしまっていた。今シーズンシャモニに来た日本人登山者の僕は最後の一人である。サロン丸ごと譲り受け、その豊富な家財道具に「やった」と内心喜んでいたものの、それは最後に残る人がすべてしかるべき処分をしてねというババ抜きでもあったのだ。このばかでかいタープにマットに、シュラフいくつかにこたつに毛布に枕に本棚。おまけに数え切れないほどの鍋釜食器に、とうてい使い切れない調味料の数々。しかもアルプスのガイドブックやら、３流推理小説やら数十冊の日本の本。ちょっとしたフリーマーケットが開けるぞ。貧乏性なので捨てるのもしのびないし誰かもらってくれないかな。キャンプ場にいた他のキャンパーに声かけるが「今必要な物はすべて持っている。なのでいらないものはもらわない」ともっともな反応。なるほど旅の合間にいらないものはもらわない。乞食根性の貧乏旅行者も身につけたい美学ではある。こんなの南米あたりならみんな喜んでもらって行くし、某治安の悪い国ならばあげると言わなくても無くなってしまうものなのに。アンデスの山の麓でよく「レガロノス（何かちょうだい）」と寄ってきた子供達を思い出した。家財道具の他にもこれから先の旅で不必要と思われる物を日本に送り返したり、免税関係の手続きしたり、そんなこんなでちょっとした引っ越しの様相でばたばたと時間がすぎて、やっと明日出発の段取りとあいなった。今日は今日でシャモニ滞在中お世話になった人たちに挨拶に行き、ほんと引っ越しみたいだと思いながら、今夜はお祝いにステーキといつもより高い（といっても５００円くらい）ワインで乾杯する。南米の時もそうだけど最後は倦怠感に追われるように次の目的地を目指す。でもだからといってその土地がいやになったわけでもない。倦怠感と言うよりは、次の夢への衝動なのかもしれない。目の前にモンブランが夕陽に真っ赤に染まっている。その手前にすでに陽にかげったプチドリュ針峰が暗くなった空にそびえて見える。 何て荘厳な光景なんだろう・・・今日はシャモニ最後の日ともあってちょっとばかし感傷的になってるのかな。またたくまにワイン１本あけてしまい、荷物を軽くするためと言い訳しながらもう１本のワインのコルクをぬく。倦怠感に背中を押され、次の夢に腕を引かれ、しかし去り際のその刹那にたとえようもない懐かしさを感じるのは旅そのものが人生の縮図であるからののかもしれない。やがて周囲は完全に闇に包まれた。山々が視界から消えると、想いは自己の内面へと向かう。どうして僕は旅をしているのだろう？何故なにもかも捨ててまで山に登ろうとしているのだろう？この先に一体何が待っているのだろう？誰が待っていてくれるのだろう？そして彼女は今頃日本で何をしているのだろう？ペルーで日本人からもらったミュージックテープをかけてみた。宇多田ヒカルの「FIRST LOVE」だ。何だかこの今の気持ちにぴったりで何度も聞き直していた。「明日の今頃にはあなたはどこにいるんだろう？何を想ってるんだろう♪」ワインはさらにすすんでシャモニの夜は本格的に更けてゆく。明日はどこでどんな気持ちでいるのだろう？

  2006.02.02

• シャペル・ド・ラ・グリエール再挑戦

  1999年9月11日（土）晴れスイスに行くんだと決めてから何だかもうシャモニにいる気がなくなっていまったが、今日は最後の心残りである、前回敗退したシャペルへのリターンマッチに赴く予定で、朝７時に起きた。今日も快晴。アルプスの天気は周期的だと聞いたが、この時期は比較的天候が安定しているらしく連日の快晴が続いている。今回３度目となる赤い針峰群を目指すべくキャンプ場からロープウェイ乗り場へ。あっという間にランデックスに到着し、そこから前回たどったルートを迷うことなくシャペルの取り付きに至る。前回の敗退の原因は、天候が悪くルート選びが難しかったことと、何よりもあまりにも貧弱な装備に寄るところが大きい。しかし今回は天気はいい！そしてまだ十分といえないが、一応一通りのクライミングギアを揃えた。カラビナは１５枚くらいある。ハーケンも４枚ほど増やした。足下にはクライミングシューズも用意したぞ！そして怪しげなウクライナの出稼ぎ商人から買ったチタン製のフレンズも２個ほどあるんだ。って数え上げてもやっぱりまだまだ装備は不十分か・・・ともかく足りないところは技術でカバーすればいい。楽勝楽勝。そう想って早速岩場を登り出す。１ピッチ目。あれ。やけに難しいぞ。おかしいな、前回はこんなとこよくスニーカーで登ったもんだな。４ピッチ目。稜に出て凹角をたどり、クラックをレイバックで登っていく。しかしピナクル手前のクラックがえらい難しい。これでほんとに４級かよ！ふたつしかないフレンズをかけかえながらじわじわ登って行くが、あともう少しというところまで登って、さらにクラックが続いてフレンズがなくなりにっちもさっちもいかない状態。残置ハーケンはぐらぐらだし、ここからランナウトで登る根性も無し！「駄目だこりゃ。こんなとこフレンズ１式ないと登れねえ・・」登れない原因をやはり道具のせいにしてあっけなく敗退を決意する。こんな岩場の途中から後戻りするのは普通は大変なんだけど、僕はいつも退却のことを考えて登っているから大丈夫なのである。何とかするのである。その辺の岩角にスリングを引っかけて、それに全体重預けて懸垂下降。あっというまに取り付きに戻る。まさかこんな敗退路を二度通るとは思わなかったよ。でも残念でも悔しくもない。元々情熱をかけたルートでもない。やっぱり俺はもうシャモニにいるべきではないのかもとその時思った。何だか一刻も早く麓に降りたい気分。でも折角来たのだからとハイキングしながらのんびり下山する。湖の美しい散策路を通り、さらに下っていくと「Danger!」の看板。どうせ日本でよくあるようにちょっとした岩場でもあるのだろうとたかをくくっていたら、まもなく道は崩れた崖の上で途切れ、下半分消滅した壊れた梯子の上半分だけがぶら～んとぶらさがっていた。う～ん。外国の「立入禁止」の標識は日本と違って真剣みが強いのね。でも元来た道を引き返すのがいやだったので、その崖を何とかかんとか降りてしまう俺も俺だね。あとは２時間ほど穏やかな道を歩いてキャンプ場に戻ったのはまだ陽の高い午後５時だった。何だかかんだか今回もまた燃えない山に時間をついやしてしまったなあ。でももうこれで吹っ切れた。明日から荷物の整理して早いとこスイスに向かうんだ！

  2006.01.31

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  シャモニの日々

  1999年9月10日（金）晴れ昨日は何だか飲み過ぎてしまったかな？昨夜一緒に飲んだ日本人夫婦は今朝未明にここを立つ予定でいたから見送ろうと思っていたが、早起きはできず「じゃあ私たち出発します」という声に起こされる。「あっ、昨日はありがとうございました。気をつけて帰って下さいね」と寝ぼけ頭で答える僕「そちらこそまだまだ旅が長いんだから気をつけてくださいね」彼らはそう言って闇の中に消えていった。去り際に余り物ですといってこたつの上にインスタントラーメンを置いていってくれた。こたつの上にぽつんと残された塩ラーメンの袋が、何だか取り残された自分の心境を表しているようで寂しくなった。朝起きて目の前に広がる山々にため息をつく。さあ今日は何をしようかなと考える。とりあえずコーヒーでも飲みながら、だいぶ肌寒くなった山の空気を吸い込み、よし今日は洗濯をしようかななどど考える。山から降りてきて、先代から引き継いだ日本人サロンは快適であったが、ただそこにいる理由を見つけられない僕にとっては日々の生活が苦痛になっていたおりである。そろそろ移動の時期かもしれない。このアルプスの後はヒマラヤに向かう予定で、日本を発つ前にインド、デリーまでのチケットは取ってあった。しかしインドに渡るにはビザを取らねばならないし、デリーから目的のネパールまでの移動は相当大変な感じがした。そのめんどくささが僕の足を鈍らせているのも確かではある。だからとりあえずスイスに行ってみようと思い立った。スイスはヨーロッパの中でも相当に物価が高いので敬遠していたのだが、いざ行こうかという気持ちになれば、スイスアルプスの山々が神々しく脳裏に浮かんでくる。憧れのアイガー、マッターホルン、ユングフラウやメンヒ、ベッターホルンやシュレックホルン・・・そんな山のことを想い浮かべたらすぐにでもスイスに行きたくなった。そうだスイスに行こう！以前から登りたかったアイガーのミッテルレギ稜に登ろう！長期間だらだらいるのではなく、目的を絞って短期決戦でいけば、滞在費もかからない。それに何より、ジュネーブの日本領事館には彼女からの手紙が来ているにちがいないのだ。そんなふとした思いつきが旅を続ける原動力になることがある。とりあえず前月に敗退しているシャペルドラグリエールにもう１度挑んで、リベンジ果たしてから、スイスに向かうことにしよう！そうだそうしよう！方向性が決まれば閉塞気味だった心も前向きになってそのために必要な行動にうつることができるのだ。とにかくは、登山協会に行ってスイスの山岳情報を得、午後からガイアンの岩場で少しばかりクライミングの練習に励んだ。夜はカレーライスを作ってひとりこたつに入って食べる。 日が暮れるとすっかり肌寒くなった空気が身の回りにまとわりついて、異郷の寂しさを募らせる。明日はまたクライミングである。そしてその後も旅は続いていく・・・行き着く先に何があるんだろうと思いつつ・・・

  2006.01.30

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  ツール針峰登頂記

  1999年9月9日（木）、４時間くらい眠れただろうか。午前２時に起床し、朝食におじやを作って（やっぱり米かよ・・・）午前３：３０にシャルドネに向けて出発する。雲一つない闇の中に星空が見事。気温は不気味なほど高く、シャツ１枚で十分だ。月は出ていないのでヘッドライトの明かりだけを頼りに氷河上へと分け入って行く。かなり先の方に先行するパーティーの明かりが見え、それを追随するように、サイドモレーン上を歩いていく。やがてモレーンは氷河へとつらなり、そこでアイゼンを装着する。氷河は氷が露出していて、クレバスの危険は少ないがトレースが着かないからルート探しに骨が折れる。先行パーティーはいつしか消え失せ僕は僕で気がつけばクレバスの縦列地帯に迷い込んでしまっていた。「？？？」クレバスに沿って歩いていくとさらにでっかいクレバスが進路を遮り、思い切りよくそれをジャンプして飛び越えると氷河が終わり大小の岩が堆積したガリー（岩の堆積した急な岩溝）に出た。このガリーは何だ！？今俺はどこにいるんだ？暗闇の中で自分の居場所さえつかめない。ガリーの上方であかりがちらちらして見えたので、とりあえずガリーをつめてみるが登るほどにぼろぼろですぐに引き返す。引き返してさらに下っていくと今度は雪の上に出た。正しいルートはもっと下か？とさらに氷河の方に下って行くと今度は、大クレバス地帯で身動き取れなくなる。「ここは一体どこなんだ？」山に登るどころではない。こんな程度の山でルートを間違うとは何という失態だ！ともかくわかるところまで引き返そうとガリーを避けて上の方に登っていくと雪面に出た。今朝出発して小屋の方からあかりが近づいてくる。さらに登ると、ツール針峰に向かうトレースにぶちあたる。どこでどう間違えたのか知らないが、とりあえずほっとする。時計はすでに午前６時を指している。氷河の上を実に２時間以上さまよっていたことになるが、とにもかくにも、この時間からではシャルドネに登るには遅すぎる。仕方ないので目標をツール針峰に変更するが心のどこかではそれでほっとしていた。シャルドネに比べればツール針峰はハイキングのようなものだ。なだらかな登りからツールのコルを目指して、ガリー状の雪面をつめる、傾斜は３０°くらいで怖いこともない。ツールのコルに立つと目の前にトリノ氷河の大氷原が広がった。氷河なんてクレバスやセラックがなければただの平野なんだけどなあ。氷河のふちをトレースに沿って歩く。 東から昇る太陽が山々を茜色に染めて美しい。登攀意欲はさしてわかないままだが、こんなのハイキングだと思って黙々と歩く。でっかいクレバスをひとつ飛び越え、ツール南峰・北峰のコルにあがり、そこでアイゼンをはずして岩稜を１００ｍほどでツール針峰３５４２ｍの頂上であった。午前８時ちょうどである。達成感は全然ないが、誰もいない頂上からの眺めは最高だ。最高だといいつつも、頂上には長居せず、後続の登山者がぞくぞくと上がってきたので早々と立ち去ってしまう。下山は全く問題なく１０：００には小屋に戻ってきてしまった。「シャルドネ登ったのか？」小屋の兄ちゃんが着くなりそう尋ねてくるが「それにしちゃ早いな」というニュアンスでもある。もう１晩ここで１泊して明日シャルドネにアタックするという選択肢も会ったはずだが、とにかくもツールを登れたことで、僕の頭は下界に降りたい気持ちで一杯である。モチベーションが沸かないときはすべてがかみあわない今はとにかくどこかで気持ちを立て直さないと駄目だろう。迷うことなく今日はシャモニに戻ることにして、重いままのザックを背に昨日来た道を駆け下る。下りは早くて午後１時過ぎにはシャモニのキャンプ場に戻ってきてしまった。夕食にご飯を炊き、いかの天ぷらと大根の煮物を作っていると、隣にテントを張っていた若い日本人夫婦に「一緒にいかがですか」と誘われサロンで夕食をご一緒した。彼ら持参の新潟産コシヒカリやきゅうりにＱちゃんが食卓をさらに輝かせる。話し相手がいるだけでビールやワインがひときわ美味しい。彼らは先週モンブランに無事登頂し、明日には日本に帰るとのこと。夫婦そろって、世界あちこちの山を歩き回っているということで、話を聞いていてほのぼのと暖かくなった。今の僕にはそんな安らぎは縁のない世界だが、ただ「日本」や「日常」というものを身にまとわりながら旅をする彼らに、正直ある種のうらやましさを感じるのもまた事実だった。僕はそういったものを旅立ちの前に捨ててきてしまっていたから。日常を捨てた旅であるにも関わらず、旅が続く中で旅が日常になる。そこに倦怠が産まれる。今回の山だってそうだ。天候には恵まれたがとにかく心に何も充実感が残らない。山に登る上で、旅を続けるうえで、登ろう登りたいという気持ちを持ち続けることがこんなにも難しいということを今更ながらに痛感する。ホームシック？そうかもしれないがでも違う。時間つぶしでもなく、コレクションでもない。「あの山に登れたら死んだっていい」ってそう思えるくらいの熱い気持ちが今はここに見つからないだけなんだ。ならばこの場所を変えたら違う気持ちが見えるかな？とにかくシャモニでの登山活動に限界を感じた今回の山。さあこれからどうするか・・・

  2006.01.29

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  シャルドネ針峰へ

  1999年9月8日（水）晴れキャンプ場を発つ人の朝は早い。今朝早朝にここをたつと言っていた小河原さん達のテントは朝、気がつくと無くなっていた。タープを含めたサロンはそのまま僕が継承することになっていたので、今朝もそのままの姿で残っていたが、主人を失ってぽつんと残された大荷物がかえって寂しさを引き立てるものである。 そして僕も寂しさを紛らわせるように山に向かう。今回目指すシャルドネ針峰はシャモニからツールという町までバスに乗り、そこからロープウェイに乗り、終点から歩いて２時間くらいのところにある「アルベール１世小屋」が起点となる。本日はその小山での予定であるが、貧乏なのでロープウェイは使わず標高差１２５０ｍを自力で歩くことにする。昼過ぎにはツール到着。草原を横切り急な尾根に取り付く。空は秋晴れ目の前に白き山々そして背中には２０キロの荷物山に相まみえてさえも一向にモチベーションが乗ってこない。その分だけ、足も心も重くなる。ばてばてで小屋に到着したのはまだ陽の高い午後４時過ぎであった。ひとまず小屋に荷物を置きテラスにて眺望を楽しむ。テラスからはシャルドネの白き姿が写真で見たとおりにそびえているが「針峰」とは名ばかりの台形の山だ。北側稜は正面の顕著なアレートで一人で登るには少々大変そうだ。シャルドネの隣にはアルプスでモンブランの次に人気の山「ツール針峰」が少々とんがってそびえているが技術的にはツールの方がずっと易しい。小屋は予約をしてなかったことをとがめられたことをのぞけば、ベッドも毛布もまあまあ快適。値段は素泊まりで約１６００円で、調理場も売店もあって、日本のそれに比べればはるかに充実している。調理場の窓から暮れゆく山々を眺めながら夕食の準備に取りかかる。キャンプ場でもパンやパスタばかりの他のキャンパーを横目にひたすら毎日米を炊き続けた僕はこんな場所にまで生米を持参し、美味しいご飯と牛肉の味噌焼きとワインで今夜も山に乾杯である。明日は午前２時に起きての出発なので今夜は明るいうちに眠ってしまう。先週モンブランに登った時は前の晩に、惨めなビバークの最中にもさあ行くぞという気持ちではいたが、今回はどうにもこうにもモチベーションが沸いてこない。モンブランに登った時点でもうすでに僕のシャモニでの滞在目的は終わってしまったいたのかもしれないな。今はただそこに山があるから登っているだけ。そんなのほんとの山登りではないと思いつつ・・・

  2006.01.29

• アルプスの秋

  1999年9月7日（火）アルプスにも秋が近づいていた。空気が一段と澄んできてキャンプ場から見上げる山々は濃紺の青空をバックに、一段と白くなってきているようだ。夏の間は夜１０時頃まで明るかったという昼間ももはや８時で真っ暗になってしまう。そして何よりほんの数日前までにぎわうような人混みだったキャンプ場は一人去り２人去り、すっかり閑散となった場に何よりも物寂しい秋の予感を感じていた。ここで会った日本人達ももうすっかり去っていってしまって、明日には小河原さんとみきちゃんがスペイン方面の岩場に向かってしまう。自分もどこかに行かなければと焦る。しかしどこに向かえばいいのか？寂しさが募って離れたい心を引き留めるのは夢や目標に他ならないが、今年のアルプスのシーズンはすでに終わろうとしている。そんな中で自分のモチベーションをみなぎらせるような目標はここにはもうみつからない状態であった。モンブランは登ってしまったし。グランドジョラスは今年は無理だ。他に登りたい山がない中で、ただ時間をつぶすようにキャンプ生活を送っているのは少々苦痛だった。苦痛から離れるように、明日から山に行くことにした。目指すは小河原さんに勧められたシャルドネ針峰北側稜。ワインみたいな名前だ。日本では聞いたことのない山だが、そこそこのレベルらしい。写真で見る山の姿にもあんまり興味はわかないがとにかく手頃な山というとその辺しか思い浮かばなかったのだ。今日は午後から町に買い出しに行き、帰りにガイアンの岩場で少々クライミングを楽しんできた。登り着いた岩場のてっぺんからはモンブランが大きく目の前に大きく見えるのだが、今はここに来たときほどの感慨もない。キャンプ場に戻ると、レセプション脇のメールボックスに自分宛の手紙を見つけた。寂しい気持ちでいるときほど、友人からの手紙は嬉しい。少しばかり元気をもらって、今夜は小河原さんとのお別れ会でいつもより豪勢な食事とワインを囲んで暗くなるまで飲んでいた。さあ明日は山に行くぞ～

  2006.01.28

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  アルプスの易しい岩登り

  1999年9月4日　アルプスを巡る山のガイドブックに有名な「レビュファの１００選」というものがある。　フランスが誇る有名な登山家ガストン・レビュファがアルプスの代表的なルートを１００紹介したもので、日本なら深田久弥の「日本百名山」のアルプスバリエーションバージョンとも言えるのだ。　登る詩人レビュファの文章はガイドブックというよりは、叙情詩であって「登山者は日の出までにはこの頂に達せねばならない。なぜならば、この頂から望みうるモルゲンロートの美しい輝きに身をゆだねる必要があるからだ」とか「この絶壁上にわずかに腰掛けるだけの夜が、星を岩を友としたどれほどまでに素敵なホテルであることだろう・・・」とかなんとかかんとか書いてあって、ガイドとして読むと読みにくいことこのうえない。　そんな本を、実は僕もここでもらって読んでいたのだが、その本の一番最初に紹介してあるルート「ランデックス南稜」に今日は行ってみることにした。　　一番最初に乗ってるルートなんて一番易しいルートじゃんということでこちらとしてもなめきって、朝からのんびりスーパーなんかに行ったあと、１０：４５にキャンプ場を出る。　ランデックスまではロープウェイを使うのが便利だが、今回は費用削減と鍛錬のためすべて徒歩で行くことにする。　ランデックスは、前回挑んだ、シャペルの隣の山。そこまで１４００ｍ程のんびり歩くと、次第に視界が開けて目の前にグランドジョラスがよく見える。　　　　　　　　ランデックス南陵は左のスカイライン　１４：００にランデックスの駅に到着。ここか見えるランデックス針峰は身近すぎてわざわざという感はなくもない。　駅からガレ場をつめて一投足で南陵の取り付きに至る。　時間が遅いのでもう他に登山者はいないと思っていたが上方に先行パーティーが苦戦中。初心者じゃないといいのだけど・・・　こちらは一人なので、すこしばかり気合いを入れて行くが、とりあえず様子見でノーザイルで登り出す。　足下には昨日買ったばかりのクライミングシューズが新品の輝きで心強い。　まずは３級の凹角を４０ｍ。さらに稜線を行き、岩峰を右から巻いて行く。ここまでは簡単でロープは全く必要なし。その後の４級程度のフェースに少々手こずるが結局すべてノーザイルで頂上に着いてしまった。所用わずか４０分。岩登りと言えば岩登りだったような・・・　頂上からはロープを使用した懸垂下降で降りるのだが、あいにくここで初心者様の先行パーティーが詰まっていて、３０分ほど待たされた。　よく本などではヨーロッパのクライマーと日本のクライマーとを比較して、日本人の遅さを批判しているが、事実は全く逆だ。　どんなところでもいちいちロープで確保するヨーロッパのクライマーよりも、融通のきく日本人のクライマーの方が一般的に登攀スピードは速い。　懸垂下降し、安全地帯にたどり着いた後は皆がロープウェイで下山していく中こちらは徒歩にて下山する。　めんどくさい部分をカットしてお手軽に岩登りを楽しむのがヨーロッパ的スタンスならば、初めから終わりまで自分の力で登ろうというのが日本人のスタンスなのだ・・　欧米人はスマートに登るのだが、日本人は根性で登るのだ。　もっとも金がないだけなのかもしれないが・とはいえ、わずか２時間、明るいうちにキャンプ場に戻ることができた。ハイキングにクライミングも楽しんで、所用８時間。かかったお金は何とゼロだ。アルプスとは何と楽しいところだろう。　テントに戻るとペルラン針峰に行っていた小河原さんとみきちゃんがばてばてで帰ってきた。　今夜ｈはみんなで夕食を囲む。　夕食のメニューは白身魚のフライとパスタスープである。　夜は少しばかり肌寒く、８時には日も沈んでしまう。　もう秋なのである。　今日ランデックスに登ったし、モンブランも登れたことで少しばかり目標を見失って、生活に埋没してしまっている自分がいる。　明日　明日は何をしようか・・・

  2005.12.17

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  フランスシャモニのアウトドアライフ

  1999年9月2日（木）　晴れ　山から降りてきた翌日というのは、ひとつ物事を成し遂げた充実感から実にすがすがしく過ごせるものだ。体の節々に心地よい筋肉痛を感じつつ、洗濯物を干す彼方の空に、昨日登ったばかりのモンブランが大きくそびえて見える。紺碧の空にはパラグライダーが思い思いに舞って、鮮やかなコントラストが秋の訪れを教えてくれた。　ここのシャモニのロジェールキャンプ場は長逗留の日本人が多いことで有名で、シーズン中に引き継がれたテントやキャンプ用具や山の装備や食材がひとつの所有者のもとに集結してサロンを構築している。　巨大なタープの下には、シートが敷かれ、その上に誰が持ってきたのかこたつが置かれ、こたつの上には花が飾られ、その脇には本棚と、いつでも昼寝できるような枕に毛布まで常備されているのだ。　現在の所有者は小河原さんだ。　午前中は暇なので、サロンにてお茶しながら山の話に盛り上がる。　昼まで暇なので、山々を眺めながら木陰で読書。　気が向くと日本の友人への手紙を書く。　このままでは何だかあまり怠惰ではないのか？　そう感じた時にはキャンプ場から歩いて４０分ほどの所にある「ガイアンの岩場」にフリークライミングを楽しみに行く。　ガイアンの岩場はそこそこスケールが大きく、何よりアルプスの山々を見渡せる最高のロケーションが素敵なところ。　フリークライミングの岩場と言うと日本なんかだと森の中に草と泥と湿気だらけの岩場を無理矢理こさえて、「ほらボルト踏むなよ。フリーじゃなくなっちゃうぞ」とか「ほら右足をあとすこし上げて５センチ上のカチをとれ！」とかなんとかかんとか、山屋とは思えない神経質な会話が繰り広げられていて僕はとても嫌いなのだ。　　しかし、ここはお弁当をもった仲間連れや家族連れが沢山、思い思いに楽しんでいてヨーロッパのクライミングの裾野の広さを感じて好感が持てる。　今日も5.9～10aクラスの岩場を２時間ほど楽しみ、「ああ何か今日も充実した１日だったなあ」と自分を納得させて帰り際に町のスーパーで今夜の食材とワインを買って帰り、キャンプ場に戻ったら戻ったで日本人仲間と夕食を食べ、無茶苦茶美味しいワインを空ける。　今夜のメニューはご飯と、牛肉とたまねぎの卵とじ煮とムール貝のバター炒め。そして前職シェフ小河原さんのレバーの煮物を加えて最高のごちそうだ。　気がつくとそろそろ陽も短くなって午後７時頃にはキャンプ場前にいつもそびえているシャモニ針峰群が茜色に輝き出す。　山に登るプレッシャーの合間に訪れる、こんな穏やかな日々が好きだ。

  2005.12.10

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  モンブラン登頂記～三山縦走にへばる

  　　　　　　　　　　　　　　　　　モンブラン・ドュ・タキュル。このクレバス斜面を登っていく1999年9月1日（水）快晴　標高4000m近い雪の上にビバーク（というか野宿）しているというのに寒くもなく、風もなく静寂の夜・・・夜１１時過ぎになると氷河の彼方にそびえるグランドジョラスの脇から月が上がりこうこうと照らす月明かりは眠るのに眩しすぎるくらいだ。雲ひとつない空は星あかりもまた眩しく、北極星が天高くそびえ輝く。　久々の山で多少緊張しているのか、寝付くに寝付けずほとんど一睡もできずに午前１時にシュラフを抜け出し、午前2:23にモンブランに向けて出発した。　今いる場所の標高が3800mでモンブランの標高が4800m何だ標高差1000mしかないじゃん。楽勝じゃん。と思うのは大間違いで、ここからミディのコルに下り、モンブランドュタキュルの崩れかけた懸垂氷河を登り、モンモディ北東壁を登り、最後にモンブランまで500ｍの登りが待ちかまえる超ハードコース。しかもそのルートを今日中に降りてこなければならないのだ。　昨夜コスミック小屋に泊まった登山者のものらしい明かりが暗闇の中ちらちらと動き出し、早くもモンブランドュタキュルに向かって動き出している。こちらも遅れじとミディのコルまで下り、タキュルへの大斜面に取り付いた。　氷河の上はどこにクレバスがあるかわからないからトレースをはずさないように慎重に歩く。タキュルへの斜面は氷河の状態が末期症状で、いつ崩れてもおかしくないほどのクレバスやセラックスを回り込んで複雑に登っていく。　ふとアルパマヨの時の雪崩事故の現場を思い出す。　恐怖で心臓がどきどきする。　しかし高峰に比べれば体力的には楽だ。　　まもなくモンブラン三山の最初のひとつモンブランドュタキュル（4035m）の肩である。　時刻は4:30でまだ頂は暗闇の中だ。　ふたつめのピークモンモディとのコルまではだらだらと下り、急峻な北東斜面に取り付く。　部分的に氷化した雪壁の傾斜は40～50°くらいか。頭上の氷塊がぐらぐら揺れて今にも落ちてきそうだ。最後の50mが急峻で緊張したがアルパマヨに比べれば楽勝である。　午前6:40にモンモディの肩へ。　ようやく東の空が明るくなってきた。　思ったほど寒くはないがこの頃から風が強くなる。　一旦コルに下ってここからは危険地帯もなく、あとはだらだらとモンブランまでの標高差500mを登るだけである。　しかし毎度のことながらここが一番辛いんだよな～　たかが500m下界なら１時間強で登れる標高差だが、でも前半とばしすぎたせいか、足に力が入らなくなってきた。　力つきてきた。　足が上がらなくなってきた。　頑張って登って１時間に200mしか上がらない。　あと300mがきついんだ。　まあいいや安全地帯だしのんびり行こうとザックをおろして休んでいると、あとから来たスペイン人の兄ちゃんが「これ食わないか」とクッキーとジュースをくれた。ぼりぼりとむさぼり食う。　すると不思議なことにそれで再び足に力が戻りスピードもあがる。　グリコーゲンの偉大さを知る。　最後に踏ん張って9:03モンブラン頂上到着！　モンブラン三山単独縦走完成なのだ！　　登頂！というほどの大げさな気持ちでもないが、最高峰からの眺めは気持ちよく、ビールを忘れてしまったのが悔やまれる。グーテ小屋の方からぞくぞくと登山者が登ってきて頂上は白山の人だかり。先のスペイン人パーティーといろいろ懐かしいスペイン語でおしゃべりしながらのんびり過ごす。そんな緊張感のない頂はまるで日本の山のようだ。　下山はほとんどすべての人がグーテ小屋方向に降りていく。　困難なルートを登り切ったら一番易しいルートから降りるのが当然と言えば当然なのだが、そんな行列に背を向けて僕は再度元来たルートを引き返した。　あえて困難に立ち向かったわけではない。ただ単純に往復で買ったロープウェイの帰りのキップが勿体なかったからなのだ。　貧乏者魂はどんなもうちかつのである。　9:43に下山開始する。　モンモディまでは調子よくサクサク下る。　モンモディ北東面の急雪壁は通常ロープを使っての懸垂下降となるがめんどくさいのでノーザイルで下降。適当に雪が腐って下りやすい。　モンブランドュタキュルには12:40着。もうすっかり陽が高くなって、上昇した気温がいつ雪崩を誘発してもおかしくない状態だ。　ここはスピードが要求されるところであるから最後の力を振り絞って、走るようにして30分で危険地帯を駆け下りた。　そして安全地帯であるミディのコルに着いた途端もう１歩も歩けないほどに疲れ切って氷河の上にへたり込んだ。　14:10である。　しかしここでまだ終わりではない。コルから大雪原を行き、ロープウェイ駅までの200ｍの地獄のような登りが待ちかまえる。嗚呼・・・　15:40に山頂駅到着。　これにてモンブラン三山縦走は終了！　しかし先月のワスカランよりははるかに楽なはずなのに体はぼろぼろだ。　やはり旅行だけしていると体がなまると言うことか・・・　下りもやはり超満員のロープウェイに揺られシャモニの町に降り立つともうそこはまだ夏の香残る町の空気があった。　ほんの数時間前まで氷河と格闘していたのが嘘のようだ。　駅前のスーパーでビールと桃を買い、広場で飲み食いした。　見上げた晩夏の空にモンブランが高く白くそびえている。　あの山に登ったんだという実感がじわじわと沸いてきて久々に山の幸福感に身をゆだねていた。

  2005.12.08

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  モンブラン登頂記１

  1999年8月31日（火）　モンブランに行くことにした　モンブラン（4808m）はヨーロッパアルプスの最高峰なのである。どこぞの最高峰というものは富士山しかり、キリマンジャロしかり、南米のアコンカグアしかり、ほんと言うとエベレストしかり、そしてペルー最高峰のワスカランもそうであったのだけど、実は人気ばかり先行して山としてはあんまり難しくないことが非常に多い。モンブランもしかりである。　だから真性のクライマーならば「最高峰」なんか見向きもしないのであるのだろうが、真性のクライマーになりきれず多少の見栄もある僕だから、多少の「けっ、こんな山のぼってもしょうがないぜ」なんていう気持ちを抱きつつも「まっせっかくだし」という妥協でとりあえずモンブランに登ってみることにした。　事前の下調べをしてこなかったのでよくわからないんだが、モンブラン登頂は一般的にはテートルースという登山電車の駅から歩き出し、途中グーテ小屋というとこに泊まって翌日登頂下山するそうなのだ。　しかし、そのルートはとても混雑して、小屋の予約も大変そうだし、みんなとあからさまに同じのもいやだったので別のルートを採用した。　すなわち、シャモニからミディまでロープウェイであがり、そこのビバークして翌日、モンブランデュタキュル～モンモディ～モンブランの３山を一気に往復するちょっぴり苦労人向けのルートである。　体力的には相当しんどいが１日で３つの4000m峰を登れるお得なプラン。　しかも今日はミディの駅でビバークする予定なので、早めに出発して、今日もミディ近辺でクライミングを楽しめば１粒で３度美味しいプランニングだ。　かくして、久々の雪山にうきうきしながらキャンプ場を発った。　素晴らしい快晴の空の下、モンブランが高く白くそびえている。　ミディ行きのロープウェイ乗り場から超満員のゴンドラに揺られること１０分。あっという間に白銀の世界、標高3800mのエギーユドュミディの頂上駅であった。　この駅は、山男にとっての山の入り口であると同時に、一大観光地でもあるのだ。そしてアルプス観光のお得意さま「日本人」はここにもうんざりするほど沢山いる。　駅にて山の準備をしていると日本人のおばさまが「まああの人山にいくのかしらすごいわねえ」「どこの国の人かしらね？」　などと僕の方をあからさまに見ながら話していた日本語がわからないとでも思われているのか？　別の展望台では日本人のカップルから「Would you mind taking us a picture?」などと英語で話しかけられた「ああいいですよ」と答えると彼らはびっくりしたように「あっ日本の方だったんですか」と言った。　俺って一体何人に見えるのか？？日本人としてのアイデンティティがゆらぐような心境だった。　しかしとにかくここから氷河に下ってしまえばもうそこは山屋だけに許された世界である。　駅から通路を抜けるとそこは氷の世界。　そこから細い雪稜をバレブランシュに下っていく。他のヨーロッパ系クライマーはこんな駅の出口からすでにロープで結びあっている。彼らは氷雪の上では必ず仲間とロープで結び会うから、一人で登ってる自分が何だかとても大きな間違いをしているような気分になる。　本日はミディのコルからミディコスミック山稜というクライミングルートを登り、駅にもう一度戻ってビバークする予定である。コルまでは１投足に降り、コスミック山稜のとりつきへと至る。ここも人気ルートだから先行パーティーがいたがこちらは単独だし、急ぐこともないとのんびり登攀。　ジャンダルムを越え、第１のツルムを右から怖々トラバース。　この上の３級程度の簡単な岩場を越すのに先行の初心者風パーティーが手こずってその後ろで４０分も待たされた。　岩場から雪壁第２のツルムを右から巻いて最後の岩場。アイゼンだとちと難しそうだ。自分に対してではない。前を行く初心者パーティーに対してだ。案の定。ここでさらに１時間もまたされて、いくら眺めよいとはいえさすがにうんざり。どうもアルプスのクライマーって意外とスピードがかなり遅いようだ。やっと自分の番が来て、そこの４級上のフェースをあぶみ様シュリンゲのA１で越えてあとはのんびりと簡単な岩場を登っていくとミディ駅の展望台に飛び出た。人は多く難しくもないルートだったが展望は素晴らしくなかなか面白いルートだった。さてさてミディの駅はもうシャモニへの終電が行ってしまってすでに静寂の中にあった。今夜はここに泊まって、明日未明にモンブランを目指すつもりなのだが、どうも駅は「宿泊禁止」らしい。泊まるに泊まれないこともないのだろうが、人に気兼ねするのがいやだったのでミディのコルにてビバークすることにした。ミディのコルには新しいコスミック小屋があるが、アルプスの小屋は完全予約制なのだ。予約してない客は大抵怒られるのだ。　何か山にいるときぐらい誰にもきがねせずに泊まりたかったので、今夜はコルから少し離れたシモン小屋の跡（ほとんどがれきの山）でビバークすることにした。　雪に埋もれた小屋跡を見つけ、そこにあったトタン板で屋根を作り、その下に潜り込む。まるでホームレスのねぐらのようではあるが、標高3600mの雪と氷の世界はそれにしては過酷だ。　やがて陽が落ちて遠くコスミック小屋のあかりが自分を惨めに照らすが、目の前には月明かりに照らされた4000m峰の数々。その中にひとり包まれて眠るというのは何と贅沢なことだろう。　夕食に山の定番具沢山スープを飲んで夜９時にまるでがれきの下のシュラフ人潜り込んだ。

  2005.12.06

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  シャモニ的食卓事情

  1999年8月30日（月）　山から降りてきた次の日はたとえ天気が良かろうが悪かろうがのんびりと英気を養う。　朝ご飯を食べ、洗濯をして、手紙を書いて、郵便局に出しにいって、昼ご飯を食べて昼寝をして読書して・・・日頃日本では仕事の合間の全休日をハードな山に費やしていたのだから、長期旅行は本当にお気楽なものなのである。明日からはモンブランに行くつもりでいる。そんなに難しい山ではないし、天候も良さそうなのでお気楽お気楽暇ついでに食事には凝る。小河原さん達からいらない鍋や食器やフライパンをもらったし、昨夜は去っていくハンガリー人がワイングラスとタイ米を恵んでくれた。タイ米はヨーロッパでは高いのだ。ちなみに一番安い米はジャポニカ米で１キロ１００円くらいで買える。コンロも手軽なガスコンロを買ったのでガソリンと併せて２口使え、料理には十分なものなのだ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　お手軽にスパゲッティ　　　　　　　　　　　　　　オムライスも作ってみました　　　　　　おかずの品数も増えていきます。ワイングラスが素敵

  2005.12.04

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  アルプスの岩登り

  1999年8月29日（日）曇り　朝６時半に起きると外はまだ相当薄暗かった。　日が出るまでのこの町は相当寒い。　コンロをたいて、ライトをつけて暖かいコーヒーを飲みながら山の準備をする。　結局は朝方に資源を浪費するのだから、サマータイムもあんまり意味のない気がするのだが。　天候は今いちだが、シーズンも残り少ないことだし、今日は予定通り、赤い針峰群のクライミングルート「シャペル・ド・ラ。グリエールに行く予定である。　赤い針峰群とはいかなるところであるのか？　そこは万年氷河をいだくシャモニ針峰群の対岸にあり、夏の間は雪もつかずに赤々とした岩肌でそびえる純然としたロッククライミングルートが居並ぶ山々なのである。　シャペルドラグリエールはそんな中の、中級者向に人気のクライミングルートである　キャンプ場から２０分ほど歩いて、ロープウェイ乗り場へ。ここから１５分であっというまに高山に草花たなびくアルプスの少女的世界。　対岸にシャモニへり峰群が居並び、メール・ド・グラスぼ奥には憧れの山グランドジョラスが鎮座している。　早くもそこに登りたい衝動にかられつつ、まずは目の前のシャペルへをめざし歩いていく。　ガスの中ルート選びが難しい。　ケルンに導かれつつガリーをつめて、ルートの取り付きに達する。ここからクライミングの準備をしてさあという気にはなるもののいかんせん装備が貧弱に過ぎる。まるで洗濯ひものような８．１ミリ×５０ｍのロープカラビナは単独登攀の時は普通３０枚は持っていくが今回はたった９枚。シュリンゲは３本ハーケンは４枚フレンズは持ってないクライミングシューズもなく、足下には穴のあいたスニーカーこんなんで、おそれおおくもアルプスの岩肌にさわろうとはさんとばちあたりなことか。まあたかが４級ルートだしいざｔｐなればノーザイルで行けばいいと気楽に考える僕はすぐにアルプスの岩場は日本とちがうことに気づくのだった。１ピッチ目は４級２５ｍのクラックきかないフリクションをきかせレイバックでいきなりしんどい日本とちがって残置ハーケンも少ないからその辺の岩角にシュリンゲかけて越える２ピッチ目で３級のリッジで容易こここからルートは右に出るのだが濃い霧のなかで間違えてそのまま稜をつめてしまう。もろいぼろぼろのリッジをノーザイルで登り４級上の逆層のフェースを越えて正規ルートの合流する。見上げるつガスの合間に先行パーティーが岩と格闘している姿が浮かんでくる。ピナクル直下の５級５ｍのクラックは、このルートの核心部。足下はつるつるでスニーカーではおぼつかないので力づくに登る。終了点まであと少し。あと少しというところですさまじいい難所が現れた。長さ１０ｍ位の、両側が見事なまでにすっぱりと切れ落ちたナイフリッジだ！左右には見事なまでの高度感。うひゃ～！とだらしのない声をあげる。足下を見れば穴のあいたつるつるのスニーカー肩には頼りないロープが１本そして霧に中にひとりここを突破するのは相当の勇気が必要だったが、この程度のルートに勇気を振り絞るつもりもなく、ここから敗退下山することにした。この装備でここまで来ただけでもすごいじゃないかすごいぞ俺！そう言い聞かせながらも敗退というのは気分悪い。苦労して登ったルートを数回の懸垂下降で取り付きに戻った。戻ったところで登り切ったら飲もうと思っていたビールを空けた。そうだ今日はハイキングにきたんだ。そういうことにしておこう草原の彼方にグランドジョラスを眺めながら、かの山との距離をはてしなく感じる気分ではあった。のんびり下山し夕方にはキャンプ場に戻った。

  2005.12.04

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  シャモニの日々

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ロジェールキャンプ場1999年8月28日（土）曇りこの２０日間の移動に継ぐ移動を終えてやっと本来の目的荷にやってきた。そんな安心感から久々にぐっすりと眠れた。１２時間眠って９時起床。空はどんよりとしていたが、どのみち今日は装備や日用品の買い出しにあてるつもりだったから、好天が長続きしないというこのアルプスでは都合いい。ブランチにコーヒーとゆで卵とパンとジャガ芋とフルーツ・・・昨日と変わらないじゃん。それから町に繰り出しスネルスポーツに出向いた。スネルスポーツはシャモニ一番の登山用品店。特に日本人店員の神田さんは有名で、ルートの情報や必要な装備のアドバイスや、遭難時にの連絡先にもなってくれるので日本人登山者は必ず立ち寄るところだ。「もうシーズン終わりだそうだけどまだ大丈夫ですかね？」そう尋ねた僕に神田さんは「ルートによるね。それと君の実力にもよるね」とぶっきらぼうに言った。50mのロープ１本スパッツガスコンロロックハーケン２本を購入し、山岳保険（カルトネージュ２５０フラン）に加入する。それからスーパーで買い物。鍋とかフライパンとかワイングラスとか無性に欲しかったが、どのうち誰かくれそうなので我慢して食材だけ買って帰った。午後はルート研究して過ごす。本当に登りたかった山はグランドジョラス北壁であったんだが、さすがに何の準備もなくいきなり来て単独で登れるような山ではない。今回は下見ということにして、とりあえずは明日、天気が良かったら赤い針峰群に行くことにする。　買い出ししたものや、もらった調味料等で食料事情がよくなってきたので拾った段ボール箱で格納庫を造った。ついでに拾った板でまな板を作ってみた。夕食はご飯と、牛肉のバジル漬けステーキ、ジャガ芋のみそ汁と、そしてワイン。ああ何て贅沢そうして今日も遅い夜が更けていく・・・

  2005.12.03

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  フランスシャモニにて～新しい旅の始まりなのだ～

  1999年8月27日（金）結構よく眠れたみたい。気がつくと車窓には山の光景が広がっていた。久しぶりにかぐ山の空気が心地よいサンジェルベという街で乗り換えしばらくでシャモニ到着。朝９時のまだ覚めやらない街に出てみる駅を出ると背後にモンブランがどーんと広がりそこからおちるボッソン氷河がすぐそこまで迫っていた。その脇にはまさに針のようなシャモニ針峰群が幾重にも連なり大迫力だ！一目であいまみえただけで僕はその迫力と美しさに感動してしまった。そして気持ちが久々に高ぶってくるのを感じていた。そして街の雰囲気もまたいい。シャモニはフランス最大の山岳リゾートリゾートという言葉にたとえば清里とか白馬といった軽薄なイメージを抱いていのだが、街を見渡せば、タンクトップの観光客も、どでかいザックを背負ったクライマーも同様に街にとけ込んでいるのだ。山屋と観光客がこれほどまでにかち合わずに風景にとけ込んでる街を僕は他にみたことがない。そんな風にして第一印象的には上々の滑り出しのシャモニとの出会いである。街に出たところでとにかく右も左もわからないのは一緒。とりあえずはツーリストインフォメーションを尋ね、ロジェールキャンプ場の位置を聞いた。ロジェールキャンプ場はシャモニを訪れる日本人クライマーならば必ず行くところ、このキャンプ場には1960年代から脈々と続く日本人の歴史があるのである。ということなのである。　キャンプ場までは街の中心部から２０分ほどの距離である。川沿いの散策路が好ましい。　緑の匂い、川の瀬音が何て心地よいのだろう。そして森の上にそびえるのは白き山々。白いドームはモンブラン！左手の尖峰はドリュー！グランドジョラスは見えないが名も知らぬ鋭い山の数々・・・ここは正にアルプス！アンデスから心機一転気持ちいいくらいに気分は晴れやかになる。　しかし季節はすでにオフを告げていた。そりゃそうだ。アルプスの登山シーズンは６月～８月。山にはもう９月の声が聞こえようとしていた。ロジェールキャンプ場にいた日本人はテント１張り３名のみ。アンデスと同様に仕事を辞めて来ている人が多かったが、それでもアンデスとはにおいが違う人たちだ。「まさかこんな時期に日本人が来るとは思わなかったよ」６月からいるという小河原さんという日本人が話しかけてきてくれた。「ええちょっと南米から流れてきたんで時間がかかっちゃて・・・」となんか恥ずかしいような曖昧な返事をした。しかし日本人というのはありがたいもので山のこと、町のことなどいろいろためになる情報を教えてくれた。それからもう自分は使わないからと山のルート図集をくれた。クライミング用のヘルメットももらった包丁ももらった。「私もまだしばらくいるんでよろしくお願いします」みきちゃんという女の子がそう言ってテント設営を手伝ってくれた。シャモニにはしばらく滞在するので念入りにテントを張った。その後シャワーを浴びてコインランドリーにて２ヶ月ぶりにべたべたのジーパンを洗った。さっぱり～自炊場も洗濯場も完備しているし、キャンプ場の裏手にはコンビニもあるし、それに何より、キャンプ場からはシャモニ針峰群がどか～んとそびえて素晴らしい眺め。キャンプとはいえこれで１泊３８フラン（７６０円）は夢のように安い。小河原さんから自転車を借りて町に買い出しに行く。米も野菜も果物もワインも夢のように安い。夕食は久々の自炊。ポーク照り焼きとじゃがバターとゆで卵とパン、そしてワインしめて400円くらい。こんなに素敵な宿で食材も安くてもういうことはなしだ！　１本百円くらいなのに、日本で飲んできたワインがばかみたいに思えるほど美味しいワインを今日も１本あけながら、久々の山にいる幸福をかみしめる夜だった。

  2005.12.02

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  パリの休日

  1999年8月26日（木）　パリはなかなかにしてよい街ではあるのだが、山男のとってはほとんど見るところはない。女性とふたり連れとかだとまた見る風景もちがってくるのだろうが、山目当てできた男ひとりの身にとってはおしゃれな風景も猫に小判なのだ。　なのでとにかく早くヨーロッパの目的地であるシャモニを目指すことにして、早くもパリの宿を出た。ホテルのレセプションでシャモニへの行き方をきき、その通りにリヨン駅へとでむいた。　今日は多少曇っていてしのぎやすいが、それでもこの３０キロの荷は相変わらずうっとうしい。　駅で時刻表を調べるとTGVを乗り継げば今日中にシャモニにつけるのだが費用削減のため今夜の夜行に乗ることにした。　大抵の山屋はどこでも眠れることを特技としていて、夜行列車の中でも駅の待合室でもどこでもシートしいて眠ってしまう。だから寝台もクシェットも不必要。座席だけのキップを357フランで買ったのだ。　列車は今夜の１０時半発でそれまでは暇。暇なので仕方なく観光する。興味はないが暇なので仕方ないのだ。コインロッカーに重荷を預けて、ポン・ヌフへと渡りノートルダム大聖堂へ行ってみた。日本人の観光客がうじゃうじゃ。気持ち悪くなってすぐに観光をあきらめた。やることないのでセーヌ川の川縁で昼寝をする。川面ではどこかのマドモアゼルが犬とたわむれていた。パリにはこんな光景がよく似合う。　名所旧跡よりも、現にそこで生きて生活している人たちの姿の方が印象深く思えるのは自分だけだろうか？　駅に戻って夜行列車に乗り込んだ。今時夜行列車なんて使わないのか２等車両はがらがら、日本ならグリーン車波の快適なシートをひとりでいくつも独占し、買い込んだビールを飲み、車窓を流れ行く満月下の光景など眺めながらいよいよ目的地へと近づいていく興奮を感じ取るのだった。

  2005.12.02

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  パリの来々軒

  1999年8月25日続き　とりあえず、ルーブル美術館を目指してみた。美術や芸術方面にはまったくわからない僕ではあるがこれも観光ノルマみたいなもの。ルーブルはでかい。とりあえず入り口がどこかわからずさんざん迷う。迷って人の流れについて行ってみたら、中庭のガラスのピラミッドの下に向かうエスカレーターが入り口だった。ルーブルもなかなかやりおるわい。あんまりにも広い美術館だなので、僕のような無知な観光客はとにかくテーマを絞って見る。「モナリザ」「サモトラケのニケ」「ミロのビーナス」「勝利に導く女神」　　自分が知ってるのはそれくらいだったので、その４つを探して歩いてそれで２時間かかってしまったが、それでもう芸術は十分だった。　外に出るとすでに午後６時半であったが夏のヨーロッパはまだまだ十分に陽は高い。　コンコルド広場からシャンゼリゼ大通りを通って、凱旋門を眺め満足。エッフェル塔も遠くから眺めるだけで十分だ。パリに至っても観光に無関心な自分に気づく。　そろそろ夕食にしようかとうろうろするが外食できそうなところは数もすくないし、あってもかなり高そうだ。　スーパーでもないかと街をぶらついてみるが、スーパーどころかコンビニもマクドナルドさえ見つからない。　これは美観の問題なのか？　視点をかえて、大通りのデパートみたいな所の地下に下ってみると、ほらあったよこんな目立たない所にスーパーが！しかも安い！駅や空港じゃ20フラン（400円）のコーラがここじゃ６フランだ。おおしかも果物が安い！桃が２つで３フラン牛乳１リットル４フランヨーグルト４つパックが５フランおおしかもワインが安いよ！僕の大好きなシャルドネがフルボトル５フランから売っているよ！結局50フランほど買い物してほくほく。ルーブルには感動しないのにスーパーに感動する俺って・・・　しかしもうすっかり遅くなってお腹がすいたので、オペラ通り近くに偶然みつけた日本人横町の「来々軒」でラーメンとギョウザと、あとラーメン屋のくせになぜかワインがおいてあったので、ボトル１本頼んでなかなか素敵なパリの外食を楽しんだのだった。気温は夜になっても２８℃のまま。久々の熱帯夜は気持ちよくもあり悪くもあった。

  2005.12.01

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  南米からパリへ飛ぶ！

  1999年8月25日（水）朝７：００時差ボケした頭を抱えて、パリのシャルルドゴール空港に降り立った。ここは一体どこなのか？空気のあまりの変化にとまどう23日の夜にペルーのリマを発ち、マイアミ～ワシントンと乗り継いで、ざっと27時間後に着いた、初めてのヨーロッパであった。ユーラシア大陸の西のはずれに着いたことで気分的に随分と日本が近くなった気がするな。でも、事前に何の情報も得ず、右も左もフランス語もわからない土地に不安もつのる。しかもここは先進国。交渉やわいろがまかり通る他の土地とはちがい、金でなんとかなるような土地でもない。もっともなんとかなるほどの金ももともとないのだが・・・入国審査をあっけなくすませ、あっというまに外に放り出される。さてどこに行こう・・・30キロもある重い荷物とともに途方にくれる。ヨーロッパアルプスの登山基地シャモニはパリから行けるはずなのだが、どう行っていいのかわからない。情報収集をかねて、今日はパリに１泊しよう。そう決めると、ツーリストインフォメーションに足を運んだ。無料の地図をもらい、片言のフランス語で話しかけてみると幸い英語が通じたので助かった。市内のオペラ通りという所の近くに200フラン（4000円）の安宿を予約してもらい、マップで丁寧に地下鉄の乗り方を教わって街に出たのだ。４０分ほどでバスは花の都のどまんなかへ。世界各国の旅行者が思い思いに歩いている。そんな中、前と後ろにでっかいザックを歩いてとぼとぼと歩いていく。８月のパリは暑い街角表示板には２８℃と表示してあるが、大都市特有の蒸し暑さがあって久々の夏日に目がくらみそうだ。洗濯していないジーパンが気持ち悪い。２夜行の頭が重いふらふらしてたどりついたホテルは街の中心からほどよい近さにあった。値段からボロホテルを想像していたがとんでもい。クラシックなエレベーターに乗って６階の部屋に入ると、中は狭いながらも機能的にして美しいさすがパリと思わせるルームであった。ちょっとひろいものをした気分で嬉しくなる。初めて訪れた国で最初の宿が素敵なところならその旅も素敵なものになるものなのだ。部屋ににつかわしくない重い荷物を部屋に放り投げ、シャワーを浴びたあと仮眠するのももったいなく、とりあえず観光に出かけてみた。

  2005.12.01

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