旅立ちの季~その7~朝
1999年6月28日昨日は比較的ぐっすりと眠れた。今日は旅立ちの朝。ロサンゼルス行きの出発は16:35なのでのんびりと身支度をした。出発前に昨日のお礼を言っておこうと彼女に電話した。「気をつけて行って来てね」受話器に出るなり彼女はそう強く言った。「大丈夫。とにかく目標の山にに登れたら、いや登れても登れなくても降りてきたら電話するから。心配しないで」彼女の声かけに強がって答える。でもそんな言葉とは裏腹に心の中では後ろ髪引かれる思いでいっぱいだった。本当にこれでよかったのか?これで後悔はしないのか?夢を叶えるために多くのものを捨ててきて、大切なものを大切にできなくて、それで傷つけ傷ついて、そしてもう夢にしか居場所がなくなった現状・・・その先にどんな未来があるというのか?「登れなくったていいんだから。また何度でも行けるんだから、絶対に帰ってきて」彼女はそう言ってくれた。 自分の山や夢に対する思いを全部わかってくれて、そのうえで言ってくれる言葉だからこそ自分の胸に響いた。 そんな彼女にずっとそばにいてほしかった。 もしかしたらそんな未来の選択肢もあったはずだ。 でもそんな想いとは裏腹にもう旅立たねばならない。旅の間中、ずっと後ろ髪をひかれているのに違いないのだろうけど。だからこそ今は、この旅が自分が強くなって大きくなって、そして地球を1周して彼女に会うための大きな旅なんだって想うんだ。10:00頃、母の見送りを受けて家をでる。「気をつけて行ってきなさい」という母の言葉に、自分勝手に生きて、親に心配かけてばかりの自分にがうしろめたく思えた。何だか戦場にでも行くみたいな気分だな・・・空はどんより曇り空で、梅雨らしい天気。最後くらい晴れてほしかったが。13:38に成田に着くと、見送りにきた友人達が僕を出迎えてくれた。こんなに嬉しいことはない。旅立ちを見送ってくれる人がいるってことが心に染みいるほどに嬉しい。旅だってしまえばもう知った存在がゼロになるから。と同時に、ここから一人で未知の世界に旅立っていくことにたまらない不安と心細さが去来する。「今夜はどこに泊まるの?」見送りに来てくれた友人の言葉でふと我に返る。「今日の朝にロスにつく予定だから、そのままレンタカー借りてヨセミテかジョシュアにでも行くよ。夜は野宿かも」僕はこれからのことに不安などないよといった表情で答えた。そうなのだ。今日から、今夜はどこで眠るのかもわからない日々が始まるのだ。みんなと別れて、搭乗ゲートをくぐり、そこから彼女に最後の電話をした。「これから出発だよ。いろいろとありがとう。じゃあ行って来ます!」最後の言葉は自分に対する言い聞かせだったのかもしれない。成田発UA733便は定刻通りロスに向けて離陸していった。「今夜は空の下かもしれないなあ」もう一度そんな言葉をつぶやきながら僕の旅は幕を開けたのだった。