2024/01/03(水)06:34
「知識ではなく物語を与えてあげて下さい」(物語が学びを深くするのです)
私はいつも「子どもの成長には多様な体験が必要だ」ということを言っていますが、でも実際には、子どもが体験から学ぶ仕組みはなかなか複雑で、「ただやらせれば体験し、そこから学べる」というわけではないのです。
映画などにもなっているような素晴らしい教育を実践している学校もありますが、だからといって、普通の学校に通っている子をいきなりそのような学校に連れて行っても、混乱するだけです。
「森の幼稚園が素晴らしそうだから」といって、お勉強に熱心な幼稚園に通っていた子をいきなり森の幼稚園に通わせても、子どもは混乱するだけです。「頭と心とからだの中の受け皿」が育っていないからです。そこに子どもに何かを体験させたり、学ばせたりするときの難しさがあるのです。
ジャンクフードばかり食べている子は、高級なお料理よりもジャンクフードの方が美味しく感じるのです。
自然について、草花について、何も知らないか全く興味を持っていない子を、草花や自然がいっぱいの野原に連れて行っても、何も気付かず、何も発見せず、何も感じず、ただ退屈するだけです。そのため、そのような状態の子に、そのような体験をいくら与えても、子どもの成長にはつながりません。
でも、(たとえば)「いわむらかずお」が描いた絵本「14ひきのシリーズ」を、毎晩お母さんと色々楽しいお話しをしながら読んでもらっている子は、野原に行ったら絵本に描かれている草花にすぐに気付くでしょう。絵本に脇役として登場している小さな虫たちにも気付くでしょう。
<b>子どもは「心の中の世界」を「現実の世界」の中にも発見してワクワクするからです。そしてそれが「学び」につながるのです。</b>
ただしこれは、「先に知識を与えておく」ということではないですからね。そこで必要なのは「知識」ではなく「物語」なんです。
絵本の中で草花が描かれたページだけを切り取り、「14ひきの家族」の話をせずに、単なる知識として、その絵に描かれている草花の説明をしても、子どもはそれほど強く草花に興味を持たないでしょう。
<b>その草花が「14ひきの家族の物語」や「絵本を読んでくれるお母さんと自分との楽しい記憶」とつながっているからこそ、その草花が「特別な存在」になっていくのです。そしてだからこそ、それを自然の中で発見すると嬉しくなるのです。</b>
自然に関心がない子にドングリを見せても目で見える以上のものを感じることはないでしょう。でも、「ドングリと森の物語」や、「ドングリと森の生き物の物語」や、「森と川や海との物語」などを楽しく聞いたことがある子にとっては、小さなドングリは「目で見ることが出来る以上のもの」になるでしょう。
自分でドングリを育てようとするかも知れません。
<b>子どもだけでなく人がそのものに強く興味を持つのは、そのものが「自分の心の中の物語」と強くつながっているからなんです。</b>
<b>「もの」自体が人を引きつけるのではなく、「ものと自分のつながりの物語」が、そのものへの興味を生み出すのです。</b>ただし、この場合の「もの」は物質とは限りません。歌や踊りに対しても同じです。だから「もの」とひらがなで書いています。
これは勉強でも同じです。歴史を楽しい物語として聞いて育った子は、その物語が学術的に正確なものでなくても「歴史」に興味を持つようになるでしょう。そして、9才を過ぎた頃から「本当はどうだったのか」と正確な知識を求め始めるでしょう。
大人は子ども用の物語を「荒唐無稽なもの」「正確ではないもの」「あり得ないもの」としてあまり価値を感じませんが、子どもの好奇心を目覚めさせるために必要なのは「正確な知識」ではなく「ワクワクする物語」なんです。
幼い子どもがまず知るべきことは「この世界の全てはつながり合っている」「自分と世界はつながっている」ということなんです。その事実を伝えるためには「物語」が必要になるのです。
幼い子どもに与えなければいけないのは、「つながりから切り離された知識」ではなく、「全てのものが意味のつながりの中に存在している物語」の方なんです。
その「意味」の部分が「客観的な事実」に置き換わればそれが科学になります。実は、荒唐無稽に見える「物語」と、客観的事実に基づく「科学」は兄弟なんです。「つながりを解き明かす」という点では物語も科学も同じなんです。
それが分からず、つながりから切り離された科学の知識だけを覚えさせるから、子どもは科学への興味を失ってしまうのです。
19世紀に活躍したSF作家、H・G・ウエルズやジュール・ヴェルヌの作品は、現代の科学から見たら馬鹿げた、あり得ないようなものばかりです。でも、彼らの作品を通して科学に興味を持った子は数知れないと思います。私自身もそうでしたから。
どうか、幼い子どもには「知識」や「体験」を押しつけるのではなく、まず「物語」を与えてあげて下さい。その物語の中での体験が現実世界への興味を目覚めさせ、現実世界の中での体験から学ぶ力や、知識への興味を与えてくれるのですから。
絵本だけでなく「昔話」もいっぱい聞かせてあげて下さい。
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