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シルバーナの船室 (ペンギンの○○です!)

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2004.11.20
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(続きです)
ここから先、すこし長くなるが、私が少しだけ見知ったプロのギタリストの話をしたいと思う。
彼は12才の時にギターに取り憑かれ、以降41才になった今でも、眠るとき以外ほとんどギターを手放さない、毎日それこそ取り憑かれたようにギターを弾き続けている。彼は、そこそこ名が売れ、ヒット曲も数知れない。ライブステージは時勢に合わせて、武道館からライブハウスまで、数をこなしてきた。おそらく2000回以上の生のライブをこなしていると思う。
自ら生まれついてのライブパフォーマ、ステージをやることが生き甲斐と言って豪語する百戦錬磨の人である。
私は(馬鹿なので追い回した結果)数回バックステージで開演前に居合わせたことがある。ロックミュージシャンの裏の姿なんて、彼以外は全くと言って良いほど知らないが・・・
オフでのリラックスした顔がすこし変わって真剣になるのがリハーサル。時には怒声も飛び交うが、大半は真剣に淡々と手際よく確認作業が進む、時には笑い声はあったとしても、それは緊張感が早くから高まり過ぎないようにする潤滑剤みたいなもの。
リハーサルが終わったあとのバックステージはリハーサル前とは打って変わる。会場のドアが開く。その気配が伝わりはじめると、どんどんと周囲の空気が張りつめてくる。それは眼には決して見えないはずなのに、人々の動きの俊敏さと表情でひしひしと伝わって来る。緊張感が張りつめてくるという言葉の意味を、身をもって実感し理解する。
いつの間にか、彼(ギタリスト)の顔つきも変わっている。すこしずつ血の気がひいているのが判る。
もう、だれも不必要に笑わない。
通常、楽屋に個室がある場合、彼はこの段階で籠もってしまう。
高まる緊張感と興奮を、己自身で組み伏せコントロールし、これらのマイナス感情をプラスへ転じるべく、モチベーションを高め、コンセントレーションを高め、精神を戦闘態勢の別の次元へ持ち込む。プロにしか到達できない、プロしか知らない精神世界へと。
ある日、楽屋がとても狭い会場で、彼は開演前に一人に慣れる場所がなかった。
親しい人だけが、長年の友だけが彼の近くにいた、他は遠慮して通路で立っていた。たまに誰かの言葉に反応し、すこし笑ったが、顔はこわばったままだった。リハーサル前はあんなに率先してジョークを言いみんなを笑わせていたのに、今は彼の存在こそが爆弾のようで、みんな抜き足であるき、ぴりぴりとして彼の様子をさりげなく気づかっていた。
彼の動きはだんだんぎこちなくなって行った。緩慢になったとでも言うべきか・・・饒舌さが陰を潜め、たまにぽつりぽつりととってつけたように話すが、だんだんそれも減って、ついには黙り込んだ。手は休まず音の出ないギターでウォーミングアップを続け、眼がたまに宙をさまよう。開演5分前ぐらいは、周囲に人が存在しないかのような雰囲気であった。
突然、スタッフが走り込んできて告げた。
本番です。
彼は、すっくと立ち上がり、メンバーに目配せをして言った。
It's Show Time.
すたすたと私たちを置き去りにして先立って出てゆく彼。
私は必死になって後を追った。そして会場に滑り込んだ。
彼の緊張感にあてられているのか、会場の爆発寸前の緊張感と興奮のせいか、私も耳まで熱く、どくどくと自分の心臓の音が聞こえる。
プロのライブステージの緊張感がこれほどのものであったのかと、思い知った瞬間だった。
会場をつんざく大音響、そして暗闇から飛び出すミュージシャン達。
怒号ともとれそうな大歓声がステージを覆い隠し押し潰そうと襲いかかる。
怒濤の勢いで第1曲を始め、大歓声を爆音がはじき返す。
いきなりの痺れる爆音に、ひるむことなく雄叫び狂う観客と、爆音を背後に男達の戦闘が開始される。

私は彼と知己であること、個人的にカメラが趣味という事も合いまって、何回か彼のライブを公式に写真撮影させてもらった事がある。
望遠レンズをつけたカメラのファインダーを通すと、双眼鏡で観ているのと同じで、ステージで真剣勝負している彼の表情が手に取るように追える。
20年前最初に観た彼は、デビューしたて青二才の何の実績もなく、ただ才能だけが目立って騒がれた小生意気な若造だった。その彼も、とうに40才を超えた今では、外見はすっかり変わってしまったように見えるが、実際にファイダーを通して観る刹那の表情は、野心と闘志にあふれていた若獅子のような時代と全く変わらないことに気が付いて、実際心底驚いた。あのころ、あこがれて心臓が止まりそうになるぐらい痺れたあの表情と今見えている表情は実は何も変わりはしていなかったのだ。相変わらず観客を射抜くような虎の眼をして、拳を振りかざす坊や達をにらみつける。派手な出で立ちの女の子達の前では得意げな子供のような顔をする。そして渾身のソロが決まった瞬間の満面の笑顔。全身全霊を込めて演奏しているときの苦しそうなそれでいて陶酔した顔。すべて終わったときのすがすがしい笑顔。

真剣勝負をしている人間の眼は、異様なまでにぎらぎらと輝いている。それは決して照明のせいだけではない。命が輝くとき、その光は眼から強く放たれるのだ。そんな気がする。

終演後、興奮して熊のように歩き回り、だれかれかまわず話しかける彼が居た。
あまりの興奮に居ても立っても居られない様子で。とにかく話しかけ、話し続ける。楽屋の喧噪が一段落して、マネージャーがシャワーに行けと助言するまで、彼はうろうろし話続けていた。
彼は急に我に返ったように話をやめ、ちょっと失礼と言い残して消えた。
長いシャワータイムを終えて戻ってきたとき、彼はまるで、抜け殻だった。
体の中身を総てシャワーと一緒に流してきたのか、それともどこかへ置いてきてしまったのかと思いたくなるほどに、脱力していた。
動きが別人のようにスローになり、なにもやりたくなさそうにだらりと椅子に体を預け、ドリンクを手に取った。1時間ほどは、周囲も彼を放置し、彼は忙しそうに片づけをする周囲のスタッフをぼうっと眺めていた。やっぱりシャワー室に頭と体の中身を全部置いてきたに違いなかった。(笑)
帰り際。私はカメラ機材をしまいながら、今日は凄く良かったよとやっとの思いで声をかけた、彼は嬉しそうに笑いありがとうと言った後に、当然さという不敵なセリフを付け加えた。その表情は本当に満足そうだった。

嘘のような話で、作り話と思う方もいるかもしれないが、これは私の真実の体験談である。べつに自慢したくて公開したのではない。
ここまで長い文章につきあってくださった熱心な方なら、きっと私が何を言いたくて、この例を引き合いに出したか判っていただけると信じている。

私は、このあいだのアンジェリーク10周年のイベントで、昼の部のスタート、いちばん最初に出演の声優さんたちがずらっと舞台に並んで一斉に前に出てくる時、双眼鏡で森川さんを観ていた。その表情がとても硬くこわばっていて、それは第1声が始まる瞬間までずっと続いていたのを、どきどきして眺めていた。一声出したあとの彼は、もう、数回観た事があるステージでの彼の表情だったが、あの、最初の緊張しきった彼の表情はおそらく私は一生忘れられないと思う。
そしてセイントビーストのライブステージ、最後の最後に総てが終わった時の満面の笑顔。
なんとなく、私は自分の過去の経験から、裏で彼ら声優さんの心にどんなことが起きて、その後どうなっているかが、想像出来た。
だからこそ、あの最初の顔と終わりの顔を観たとき、私は何度でもあの顔を見たさに自分はこういう場に戻ってくるであろうと確信した。
森川さんはライブが好きだと思う。
そういう世界に身を置く事が好きな人だ。

男が仕事の場で真剣勝負している姿、顔、眼、そして流れる汗、勝負の瞬間の刹那の輝き、それは何者にも代え難く、美しい。
そして私は、そんな野郎どもを見るのが、ことのほか大好きだ。

これが体育会系の人間が考えるライブの世界だ。





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Last updated  2004.11.21 01:02:24
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