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シルバーナの船室 (ペンギンの○○です!)

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まいける2004

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2005.01.13
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カテゴリ:BL
走り出したバスは、コンビニ側の駐車場を抜け、狭い駅前通りを通って、駅と反対の方向へ走り始めた。
駅前の交番から走って来た警察官が、駐車場出入り口近くで勢い良く発信して出て行く不審なバスと鉢合わせした。その、ただならぬ状況に気がつき、ナンバーを記憶して無線連絡をしたが、とっさの事で彼らには後を追う体勢も車両の準備も無かった。バスはどんどん遠ざかっていった。
バスの居た後地では、取り残されたけが人と、数名の撮影スタッフが、口々に違うことを喚いていた。
誰も正確な状況を把握しては居なかった。
ケガ人に走り寄った巡査に、撮影スタッフの一人が声を掛けた。
『ついさっき携帯で救急車呼びましたが』
『ご苦労様です、あのバスには誰か?』
『強盗だよ、そこのコンビニ襲ったんだ、その人店長さんだよ、もみ合って撃たれて・・・』
そこへ、撮影監督と名乗る男が数人を引き連れて走り込んできた。
『うちのドラマの主演俳優の香籐洋二のバスだ、誘拐だ、あのバスは控え室で今の時間はあそこで休憩していたはずなんだ、マネージャも一緒だ』
『じゃあ、バスにはその俳優さんとマネージャの2名ですね』
そのとき、最初のスタッフが口を挟んだ
『いや、助監督の小川さんが時間の打ち合わせで香籐さんのバスに行くって言ってて、居ないんですよ』
『じゃあ、早苗ちゃんも一緒か?』
『あと、岩城京介さんが、さっきランニングの格好で入って行きましたよ、私、バスをお教えしたんで。』
証言する女性の声は震えていた。
『銃声しましたよね、まさか・・・』
『まさか誰か撃たれて・・そんな・・・』
警官の顔も緊張した
『すでに1名撃たれてますから、なんとも、今、緊急手配をかけております、状況が判ればお知らせします』
そのとき、救急車が直前でサイレンを止め、人ごみを避けるように止まった。救急隊員が一人助手席から駆け下り、警官目指して人ごみを掻き分け入って来た。
警官が救急隊員の通路を確保すべくその場の人間の整理を始めた。
監督が、スタッフの男性に向かって大声を出した。
『携帯だ、携帯で香籐さんかマネージャの津田さんに電話してみろ、無事なら出るかもしれない』
スタッフとそばにいた別のスタッフがびっくりして監督を見た。
『でも、そんなことして犯人怒らせたらどうします!!』
『うーん、だが、犯人が一人なら、今は車を運転させるのに忙しいはずだ』
『でも、どっちが運転しているのか?どちらに電話するんですか、だいたい勝手なことして、警察に怒られませんか?』
全員が考えこんで黙ってしまった。
そのとき、監督の携帯電話が鳴った。発信者を告げる液晶が香籐の名前を表示していた。
『巡査、巡査ぁ、たぶん、バスから電話がかかって来ました。』

深夜のため、道は空いていた。猛スピードで疾走するバスの行く手を遮る車は、ほとんど無かった。
『まっすぐ、いけ』
犯人が、拳銃を運転する津田に向け、頭の付近に銃口を押し付けていた。
香籐は、助監督と岩城のそばに居た。
外が暗いため、警察が追ってきているのかどうかもまったく様子がつかなかった。
バス内部も、車両の発車とともに室内灯が消え、常備灯の明かりだけの薄暗がり状態になっていた。
小型のバスのため、前後の距離は5メートルほどだった。
運転席近くに陣取る男は、香籐の気配を気にしながら、何度も何度も振り返っていた。
『まがれ、そこだ!よ~横浜方面、横浜だ、信号は無視しろ、とにかくアクセルを踏みつづけろ』
交差点で犯人が行き先の指示を急に変えたため、バスはタイヤのスリップ音を立てながら急旋回した。
バスが、カーブの外側へ向かって大きく振れた。
急な横Gに体勢を崩した岩城が、痛みに低くうめいた。
『岩城さん、大丈夫?』
『か・・・香籐、その携帯・・・・』
テーブルにおいてあった香籐の携帯電話が、バスの横揺れのために転がって岩城と香籐のそばまで来た。
傍らにうずくまる助監督の女性も、顔を上げ腕を抑えてうめいたが、それ以上の声は出さなかった。
岩城はさらに低い聞き取れないほどの声で囁いた
『香籐、監督か誰かに電話』
(そうか、逆探知か、確かこいつはGPSも搭載している最新機種だ。状況は伝えられないが、発信から場所を探知してもらえるかもしれない。)
香籐は、岩城のとっさの判断に目が醒めた。
香籐はうなずき、岩城に向かって目配せをした。
(音でない設定に変えるから、ちょっとあいつの動きを見ててください、岩城さん)
香籐は心の中で囁いた。岩城は、香籐の表情と目線から頼みごとを理解した。
しかし、すでにその視界はぼやけ、痛みに目がかすんでいた。
(香籐急いでくれ)
香籐は、体の前で電話を隠しながら操作し、発信音も先方の通話音も出ない設定に切換えてから、すぐさま監督の番号へ発信した。
何回か呼び出しコールをしていた、それは香籐には恐ろしく長い時間のように感じた、そしてついに、先方が出たのを確認して、携帯を開いたままズボンの後ろポケットに押し込み、男に向いた。
『おい、俺達をどこへ連れてゆくつもりだ、岩城さんも助監督さんも、おまえの撃った弾で怪我をしているんだ、一刻も速く手当てをしないと死んでしまうぞ、どうしてくれるんだ、おまえは人殺しになるんだぞ。』
急に勢い良く香籐が話し掛けて来たのに驚き、男は、銃口をかざした手を動かさないように固定しながら、体半分だけ振り向いた。
『なんだとぉ~いまさら、俺はコンビニの店長もぶっ殺してきた、いまさら一人だろうが二人だろうが、殺した事にはかわりない、一緒だ』
男も居直ったように喚いた。体格は良かったが、まだ本当に子供の雰囲気が残る青年、その顔は土気色で、痩せていた。まるで今度のドラマで自分が演じている役から抜け出てきたような青年だった。
香籐は立ち上がり、すこし前に出て、バスの揺れでも転倒しないように天井の手すりをつかみ、足を仁王立ちにした。
『一人つったって、おまえ、その人が死んだかどうかなんて、見ちゃ居ないだろ、もしかしたら死んでないかもしれないじゃないか、例えその人が死んだとしても、とっさの事故だって言い張ればいいんだ、殺す気がなかったって言えば刑はものすごく軽くなるんだ』
香籐は、自分がドラマの後半、裁判になるシーンでの弁護士に言われるセリフを思い出し、男に向かってしゃべった。不思議な気分だった。
『・・・あんた、なんなんだよ、刑事か?』
『お、俺は・・・俺は銀行を襲ったんだ、それで、え・・・と、警察に囲まれて、とっつかまって、裁判になるんだよ、俺は警官を2人撃ち殺したんだけど、本来なら死刑になるところ、弁護士さんの力で無期懲役にしてもらうんだ』
『なんだよ、なんでそんな奴がこのバスに乗ってんだよ』
男はまじまじと香籐を見た。
『ありえねぇ・・・あんた・・・香籐洋二じゃねぇか・・うーそーだろう・・・本物の香籐洋二なのか?』
香籐はどきりとした、こういうとき、有名なのも考え物だった。
『そうだ、今話したのは、俺の役だ、そういう役のドラマを今撮影してんだ、あんたの状況があんまり似てたから・・・』
男が、急に津田に向いた。
『おい、おまえは何だ。言え、何だ。で、俺の撃ったあいつは何者だ、あいつもしかして岩城京介か?まさかそうじゃないだろうな、あの女は何者だ。おまえらいったい何者なんだぁ?』
返事をする津田の声は恐怖でかすれていた。
『あの、その、岩城さんです、だから早く車を止めて、救急車を、呼びましょう。女の方は助監督の小川さんです、私はただのマネージャです。』
男がかんしゃくを起こすように、体をのけぞらせた。
『畜生、なんだってんだ、畜生、畜生・・・・・あううう、運転してろよ、そのまま、いいな、さもないとおまえの大事な香籐洋二もぶっ殺すぞ、いいな、そのまま横浜へ向かってぶっ走れよ、妙な気起こすなよ。いいな』
そして、男は香籐の方へ向いた、銃口を香籐に向けながら、岩城の様子を見に歩み寄って来た。
『こいつ、本当に岩城京介なのか?』
男の声はこころなしか震えていた。
『そうだよ、良く見ろよ』
男は、岩城を覗き込み、大きく息を吸った。そして1歩2歩とあとずさった。
岩城は目を閉じていた、浅い息をしている、一緒に岩城の様子を見た香籐は不安のどん底の気分になった。(岩城さん・・・・がんばってくれ、ああ、岩城さん・・・)
『ふ、ファンだよ・・・・・・い、岩城京介、香籐洋二、おれはあんたらのファンだよ、俺も役者やりたかった、暴力団の親父に無理やりシャブ撃たれてやくざにされてなきゃ、役者やってみたかったんだよぉ・・・・・』
『おまえ・・』
そのときだった、遠くでパトカーのサイレンの音がした。
そして、バスが体勢を激しく揺らしながら交差点を強引に曲がった。香籐は体勢を崩しかけ、踏ん張った、しかし、尻ポケットに挿していた携帯電話が勢いで床に落ちた。
携帯が転がるのが、男の視界に入った。
『畜生、てめぇ~らぁ~みんな死んじまえぇぇ!!』
男は半分やけくそのように、いきり立って、香籐に向かって勢い良く迫ってきた。
香籐は、とっさには男の意図が読めなかった、とびかかってくるのか、それとも銃を撃とうとしているのか?身構えるのが精一杯だった。
ところが、男は香籐を銃の尻で思い切り殴った。
香籐は側頭部を殴打され、のけぞり倒れた。
『きゃーぁあああ』
助監督の女性が、昏倒する香籐を見て悲鳴をあげた。
香籐は、頭の中で割れ鐘が鳴っているようだった。頭を抑えて床を転がり、岩城のすぐそばでうずくまってうめいた。意識が朦朧とし、視界がぼやけた。
『香籐、しっかりしろ、香籐』
はるか遠く、川の向こうから岩城が呼んでいるようだった。何が起きてたかもすっかりわからなくなり、ただ除夜の鐘のような残響が頭のなかで共鳴しつづけるのを聞いていた、耳鳴りと頭痛が一度に襲ってきた、左の側頭が猛烈に痛んだ。
『マネージャ、車止めんなって言ってんだよ、走らせろ、みんなぶっ殺すぞ』
香籐を殴り倒したあと、男は運転席に走り寄った。
途中、香籐が落とした携帯を足で踏みつけ、ついには銃の尻で叩き潰した。
『ざまぁみやがれ』

あとすこしつづく~~





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Last updated  2005.01.14 00:56:50
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