インサイド・マン(公式サイト)(映画紹介)
2006年 アメリカ 128分
監督 スパイク・リー
出演 デンゼル・ワシントン
クライヴ・オーウェン
ジョディ・フォスター
クリストファー・プラマー
ウィレム・デフォー
ストーリー: NYのマンハッタンのど真ん中の銀行にペンキ屋を装った数人の武装強盗が侵入、行内に居あわせた全従業員と客のすべてを人質に取り立てこもる事件が発生。犯人グループのリーダー、ダルトン(クライブ・オーウェン)。犯人グループは銀行に立てこもるばかりでなかなか要求などの行動を起こさない。このため、現場に急行した警官隊やSWATそして交渉担当の捜査官フレイジャー(デンゼル・ワシントン)は、はじめ事件の規模がまったく見えず動きが取れない。やがて秘密を抱える銀行会長(クリストファー・プラマー)が焦って派遣した謎を秘めた交渉人(ジョディ・フォスター)が接触したことで、事態がすこしづつ動き始める。
オープニングとエンディングにはけたたましいインド音楽。交渉にあたる刑事は陽気で楽天的、早く帰って彼女(婚約者)に求婚セックスをしたくて仕方がない男。一方、完全犯罪を計画し、自分の知性と行動力に絶対に自信がある男(主犯)が立てた完全犯罪。銀行を日中堂々と襲い、人質を大量にとってたてこもり、人質全員に犯人と同じ服装のつなぎにマスクめがねをつけさせ、犯人グループと同化させることで、同じく白昼堂々と正面から歩いて出て逃亡してみせると豪語する。(Vフォーバンデッタでも同じアイデアが採用されていましたが、流行ですか?実際の犯罪では模倣はできそうにないですが・・・)そして実行される完全犯罪。警察は如何にして彼の計画を暴くのか・・・
久しぶりに面白い犯罪アクション映画。ドキュメンタリー風の演出が今っぽいし、意表をつく演出やアイデアがちりばめられていて、昔のスパイ大作戦のお株を取るような、そんなお話であった。ただ、どちらかといえば尻つぼみ傾向の演出で、最後に向かうほどアクションや展開に派手さがなくなる、ドカーンボカーンの好きなハリウッド映画にしてはめずらしいかな?何しろ人が死なないし・・・主人公が目的を達成できるのかどうかという部分での、はらはらどきどきは最後まで引っ張ってくれるが、それでも、そういう結末でいいの?っていう結末が、かなり意外だった。雰囲気的には、イタリアンジョブ(ミニミニ大作戦)とスパイ大作戦とを足して、狼達の午後で味付けしたあとに半分にちぎった感じ。そんなクライムアクションムービーなのかな?勧善懲悪なし、いわゆる正義に命を掛ける善人はどこにも居ないぞ、という点がニヤリとしてしまう。
いつのまにかJr.が取れてしまっていたディンゼル・ワシントン、なんとなくスラムや犯罪とはあまり縁がない世界で生きている雰囲気の整った風貌で、誠実かつ頭脳派の黒人男性を演じさせると右に出る人が居なくて、個人的には灰汁の強い(ウィレム・デフォーみたいな)俳優さんの方がより好きなので、若いころはあまり注目していなかったのだが、数年前に飛行機で観て(私ってこればっかりですねぇ、一時期海外出張や旅行が多かったので、飛行機で年間観る映画の半分近くの数を見ていた気がします)印象深かった作品マイ・ボディガードでこの人の評価が一転。宇宙戦争でトムと共演したりハイドアンドシークでは曲者俳優ロバート・デ・ニーロを手玉にとった、曲者名子役女優のダコタ・ファニングとガチンコ共演して、心が傷ついたストイックな男をカッコよく演じてくれて、高感度が当社比150%upしてしまっていました。
本作インサイド・マンは、監督がスパイク・リーというとで(最近とんと名前を眼にすることがなかったのでびっくりだったのですが・・・)マルコムXに代表される、人種差別を正面から捉えたような社会メッセージ色が強いドキュメンタリータッチな作品が連想されて、重たい話だったらどうしようと不安を抱えつつも・・・・
共演があの、クローサーでの濃くて暑苦しくてスケベな中年男、一転して天下一品のクールでやんちゃでへたれなタフガイをシン・シティで魅せてくれた今売り出し中のクライヴ・オーエン(この人の007が見てみたい、でもクライブの初見はアーサー王物語でして、どうしましょうかというぐらいタフで誠実で骨太なのにぶきっちょでかたくなな王でした、この人は本当に遅咲きの櫻という感じで、不器用な男が一番似合いますが、昨年見たシン・シティでのストイックでダーティな雰囲気がいいなぁ・・)
これらの、油が乗った中年俳優で、しかもそのつど変貌する演技力に魅了されてしまうと、その二人がガチンコで対決する作品はわくわくしてしまって、人の評価が下される前に見たいと思い、初日に映画館へ足を運んでしまった。(笑)
つい最近フライトプランを観たばかりだったので、ジョディ・フォスターに関しては強い母のイメージが売りみたいになっている部分があるが、元来彼女は、どちらかといえば知性を売りにしたいけ好かない女や、頭脳戦で男をやりこめる役が似合いそうな意地悪女なんかが似合っているので、今回の正義か悪かなんだかよくわからないポジションで現れる彼女は、物語をかき回すのにはいい役目を果たしていた。さすがの存在感。
出演した役者さん全員にすごく存在感があって、そこが一番よかったかな・・・
以下ネタばれあり、
まずはじまってすぐに驚いたのは、顔をみれば必ずプラトーンでの忘れられない演技やスピード2で見せてくれた悪漢ぶりを思い出すウィレム・デフォー、印象的な悪役が多いのだが、たまにスパイダーマンでのちゃちい緑色の怪人なんかもやってみせる大好きな大好きな曲者俳優さんの一人なんだが、今回はなんとも渋い脇の役。この方が居るだけで、渋さと厚みを醸し出してくれてますが、どうしてもバットマンビギンスでのゲイリー・オールドマンと同じで、物語の途中までは、絶対にこの人は犯人と一枚咬んでるのではとか、実はこの人は・・・などどいろいろ思ってしまうほどに彼の過去の作品での実績からくる存在感が、物語背景の素直な理解にじゃまだった。今回だけは、彼の起用は豪華以外には何の効果もなく、個人的にはノイズになってマイナスだった感じがする、どうせなら、もっと活躍させてあげてほしかったよう。
そして、ジョディフォスターの役どころ。彼女は銀行頭取の秘密を守るために狩り出された交渉人なんだけど・・・実際、一人で颯爽と中に入って犯人と正面から交渉をするんだけど・・・、彼女の役割がこの作品で一番いただけないというか、見終わったあとに結局は彼女の存在がそれほど大きな意味を示していないという点で、(見ているときには、どうなるのかわからないので、どきどきですが)使いきれなかったキャラという気がします。脚本の練りこみ不足に繋がった部分のひとつかな。
あと、前半から、ちらちらと挟まれる、後々の取調べや証言のシーンが、物語の謎ときのヒントや謎を深める効果を果たすのだが、実質この演出は失敗だったのではないかと思う、語り部が語るに落ちた感じがした。
全体を通して、前半がめちゃくちゃ面白かっただけに、どんどん種明かしのネタばれになってゆく後半がすこし冗長だった。とくに最後、結局は解決しないで人任せにしてしまった、あれ、あの品物が狙いだったのでしょう犯人さん、なのになぜあの状態で放置して、あそこでお話が終わるの???、実は、物語は全部完結しているが、犯人の目的遂行にははなはだ中途半端な結末で、謎が全部残ってしまうオチには疑問がある。続編つくるの?DVDではディレクターカットで追加シーンがあるの?