新田先生ごめんなさい~(その3)こんなこと書いて大丈夫かな?
『い・・いや~~助けて~~~っ!』撮影助監督の女性は、銃口を押し付けられて、息を喘息のようにあえがせていた。次に起こった出来事は、後のマネージャ津田の証言によれば、まるですべてがスローモーションの様だった。男が、銃口を押し付けながらバス内部に踏み込もうとしたとき、バスの狭い入り口で抵抗する女性と押し合いになった、そして、入り口の最後のステップに足を取られた。その拍子に、男が僅かに体を泳がせた。押し付けていた銃口がずれ、女性の喉を外れた。同時に、女性を押さえ込む男の腕の力も一瞬緩まった。次の瞬間だった。女性が男を突き飛ばした。体をはじき出すように投げ出し、バス後部側の香籐と岩城の居るそばへと走りこんだ。『あああっ、う、動くなっていってんだろうぉうがぁちくしょおぉおお!』切れた男の怒声と同時、1発の銃声がバスの中にけたたましく響いた。耳をつんざく大音響に、その場の全員が身を竦ませた。男の手から逃れるようにして身を投げ出していた助監督の女性が、岩城の前でつんのめった。香籐は、飛び込んで来る女性を受け止めようと、とっさに立ち上がっていた。『ぎやぁあ・・・ひぃいいいいっ』銃声とほぼ同時に、女性が絶叫した。女性の上腕部から鮮血が飛んだ。弾が当ったか掠めたようだった。岩城が、香籐よりも入り口近くの位置に居たため、先にすでに女性をかばう姿勢で立ち上がっていた。女性が、鮮血飛び散る腕を抑えながら、岩城の側へのめりこんだ。『うぅ・・・』女性を受け止めた岩城の口から、うめきのような声が漏れた。それを聴いた香籐は悪寒とともに、ぞくりと全身に鳥肌が立った。香籐の目の前、右腕を血に染めた半狂乱の女性が岩城にしがみつくように覆い被さった。スローモーションの様に、岩城がよろけ、女性を抱きかかえる姿勢でその場にくず折れた。『だ、大丈夫か?あ、い、岩城、さ・・・』香籐は、目の前で起こっていることが理解できなかった。『だから動くんじゃねぇって、言ってんだよぉ~』銃を持つ男が、震えながらわめいていた。バスの内部は硝煙の匂いが立ち込めている。狭い内部に反響したすさまじい発射音が残響となって、そこに居るもの全員の体を竦ませたままでいた。助監督の女性は泣きじゃくりながらも、自分に体重を預けて倒れこもうとする岩城の体を抱きかかえ、二人はゆっくりバスの床に座り込んだ。岩城はずるずると床に座り込む形で、ソファーベッドの端に上体をもたれ掛けさせた。『い・・・・岩城さん?』香籐は、恐る恐る声をかけた。その白いランニングシャツに、見る見ると赤いシミが広がるのが見えた。最初それは助監督の女性の腕の血が飛んだだけなのかと思った。だがしかし、そのシミは見る間に岩城の左半身に広がり、左腕を伝って床に滴りはじめた。『岩城さん、う、撃たれたのかぁ!!!』香籐が絶叫し、岩城の元に飛びついた。女性の腕を貫通した弾丸が、至近距離に居た岩城の左肩に当って止まった様だった。『岩城さん、しっかり、しっかりしろよ、今、すぐに救急車呼ぶから、あああっこの・・・・・こ~の~や~ろ~ぅお~~てめぇ~~~岩城さんになんてことしやがる~~~!!!』香籐が怒りに我を忘れた形相で、銃口を向けたままの姿勢でこわばっている男に向いた。男は、銃口を向けたまま、眼を見開き、足を震わせている。『く、来るな、来たらおまえも、そいつも、み、みんな、う~撃ち殺してやる、俺に近寄るなぁ~~』『てやんでぇ~~』香籐が飛び掛らんばかりの勢いになっていきり立ったとき、その腕を引っ張る者があった。『岩城さん!?』『か、香籐、馬鹿なまねするな、おまえ、冷静にな、れ、おまえまで・・・何になる・・・・』香籐の腕をつかむ岩城の腕の力は最初は思いのほか強かったが、すぐにがっくりと抜けた。『れ・・・冷静になって状況に対応してくれ、俺は・・・う・・・』岩城は、苦痛に顔ゆがめ、言葉をとぎらした。左胸から溢れる血で、下半身も座っている床も赤く染まりつつあった。『ああっ、ど、どうしよう、血が、血が』泣きじゃくっていた女性が、自分の右腕を抑えながらも、岩城の状態に気がつき、声を振るわせた。『くっっそぉ、おい、おまえ、そこの拳銃やろう、すぐ今、医者を呼べ、救急車を呼ぶんだ、ばかやろう、判るだろう、二人もけが人が出てんだ!死人を出す気か?』香籐は、自分の言葉に戦慄した、死人、岩城さんが死ぬ、そんなこと、あってはならない、ありえない、起こっちゃいけないんだ。香籐が岩城に向かってかがみこみながら、男に向かって叫んだ。『手当てを急がないと、こんなに出血してる』香籐は、とっさに自分のシャツを脱ぎ、岩城の左肩に押し当てた。その手を押し戻し,岩城が眼を香籐に合わせた。『彼女の腕を、それで縛れ、おれの・は・どうにもならん』香籐は、とっさに岩城の指示に従った。泣くじゃくる女性は、そのままの姿勢で腕を抑え、岩城のそばに居て体を震わせて居る。岩城さんの傷もなんとか止血しないと、あ、そうだ、このテーブルクロスで体を縛ろう・・・香籐がテーブルクロスを剥ぎ取り、岩城の上半身に巻きつけ始めた。『岩城さん、怪我、されたんですか?』細い声で、マネージャの津田が前方から、おずおずと呼びかけた。男が、マネージャの存在を思い出したように気がついた。『おまえ、とにかくバスを出せ、バスを出して、ここからおれを逃がすんだ』そのとき、バスのドアの外で、声がした。『大丈夫ですか?何かありましたか?どうかしましたか?』駐車場側に隣接するコンビニエンスストアでは強盗があった。レジの金を奪って駐車場に逃げ込んだことを警察に通報し、店長が後を追っていた。駅前の駐在所から警官が走ってきていた。近隣のパトカーの数台集まりつつあった。駐車場はこの夜は特別で、TVドラマ撮影のスタッフや関係者車両が沢山駐車してあったし、このコンビニエンスストアにも多くの関係スタッフが食料などの調達に四六時中出入りしていた。駐車場の端、コンビニエンスストアから見える位置に、小型のバスが止まっていた。そのバスの外が今騒然となっていた、バスの外には、1発目の犯人の発射した弾で怪我をしたコンビニの店長が、鮮血に染まる足を抑えてうずくまっていた。撮影スタッフのうちの一人、助監督の女性が撮影再開時刻を知らせようと、香籐のドレッシングルームになっているバスのそばに居た、そしてコンビニの店長ともみ合う犯人と鉢合わせした。暗がりだったので、それ以外の関係者は、音が聞こえただけで、何が起きているのか知らなかった。そして程なく、バスからは再び銃声が響いた。そして、急にバスが走り出したため、関係者が何が起こったかわからず、呆然とバスを見ていた。またまたつづく~