ウィリアム・モリスを追って

やっと図書館から借りられて、『民衆の芸術』を読みました。そして少なからず衝撃を受けました。
時代や語られた状況もあって、必ずしも読みやすい文章ではないのですが、非常にシンプルでインパクトのある論理が展開されています。私自身の心に強烈に刻印された言葉を引用すると、次のようです。

「なお、進んで、実際的な忠告の言葉といったようなものをいわなければならないとするならば、私の仕事はむずかしくなるとおもう。そして何といっても諸君のうちのある人々を怒らせることになるだろう。というのは、それは所謂芸術と言うよりは、むしろ道徳の問題だからだ。しかし、私の心では、芸術を道徳、政治、宗教から引き離すことは不可能だということを私は忘れることができない」

そして、
「民衆により、民衆のために作られるべき芸術の種をまくに際して、この二つの徳は絶対に必要であると信ずる。それは誠実と簡素な生活とである。意味をはっきりさせるために、この第二の徳に対立する悪徳の名をあげれば、奢侈である」と言いきっています。
これにはまいりました。装飾と言うと、とかく「飾り立てる」というイメージになりがちですが、モリスははっきりとその意味と敵対しているのです。
モリスにとっての装飾やデザインの本質は、簡素さでした。抽象化していうならば、モリスは我とわが身にまとわりついた余剰な奢侈や装飾を切り落としていったのです。あまりにも多様なデザインや装飾物の中に身を置いている現代のわれわれにとって、そのモリスのラジカルさがきちんと見えにくくなっているのかもしれません。私自身、モリスのデザインが簡素である、と今の時点で素直に肯定できるとは言えないように思います。
ただ、「飾り立てている」ように見えたとしても、何よりも奢侈を嫌ったモリスだったこと。画面いっぱいに繁茂するデザインに見えても、彼が見つめるは「美」は、徹頭徹尾簡素さに基づいて企てられたデザインだったことをもう一度，見つめなおすべきなのかもしれません。
そして、彼が求めた芸術は、政治や宗教や道徳と不即不離のものであったということもきわめて特徴的なことでしょう。
ストイックなほど奢侈を嫌った、彼のデザインの背景には、生涯簡素さを求め続けた、道徳的、政治的、宗教的、そして芸術的な倫理的潔癖さが貫かれていたのかもしれません。

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