はかせのブログ

2009/11/26(木)09:00

盲点

解剖学(254)

  目には盲点というものがある。上の図のような図形を紙に書いて実験してみるとよい。十字を書き、その中心から5cm離れた場所に小さな別の図形でも文字でもよいから書く。右目を覆って、十字を見つめてみよう。紙を近づけていくと、あるところで左側の文字が消える。字からの光がちょうど網膜の盲点に入るような位置関係になったので、見えない。  眼球の網膜には視細胞といって、光を感じて神経活動に変換する細胞がある。この細胞に光が当たると興奮する。視細胞は光を受容するのだから網膜の中で一番前にあるだろと思うのが自然だが、実際にはそうなっていない。網膜の数層の細胞層の一番後ろに視細胞がある。光を受けて視細胞が興奮すると、その信号はいくつかの細胞を経て神経節細胞に伝わる。この神経節細胞一個から一本ずつ突起が出て脳を目指す。この突起の束が視神経だ。図のように視細胞より神経節細胞は前にあり、それから出る突起はさらに前を走る。視細胞は視神経や神経節細胞を通り抜けた光を受け取る。  網膜の前側を走った神経節細胞の突起は網膜の一点でもぐり、網膜を貫通して後方の視神経に入るから、この点にはどうやっても視細胞を配置できない。つまりここに光が入っても感じる細胞がないから見えない。ここが盲点になる。  光を感じないのだからその視野が黒いと感じそうな気がするがそうならない。白い紙にこの図形を書いて実験すると文字が消えるだけでそこを白いと感じる。もし赤い紙に書けば字が消えたところは赤く感じる。和紙のように細かい質感のある紙に書けば、字が消えたところは同じ質感になっているだろう。網膜の一点と脳の大脳皮質の視覚領の一点とは一対一対応をしていて、盲点からは入力がないので視覚領にも対応する点が無いから、その部分の情報は意識されない。  上に書いたような手を使わないと盲点が存在することを気づかないのは、反対側の目で補っているからというのも一つの理由だがもう一つ大きな理由がある。 人間の網膜はかなり広い面積を持つが、注視するのに用いられているのは非常に狭い領域だ。黄斑という直径5ミリもない場所がそれで、さらに本気で視力が高 いのはその真ん中の中心窩だ。ここで捕らえた解像度の高い像を脳に保存し、眼球を動かして視野をスキャンする。狭い範囲の高解像度の像を脳の中でつなぎ合 わせてパノラマ写真のような全体像を意識の中に作り出している。盲点の部分の情報はこの過程で補われている。

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