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2017/12/03
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カテゴリ:醸造所訪問
もう2年以上前のことになるが、バーデン南部のツィアライゼン醸造所に行ったことがある。しばらく時間が経ってしまったけれど報告します。ご参考になれば幸いです。



ツィアライゼン醸造所は大学都市フライブルクの南約50kmのエフリンゲン・キルヒェンの町にある。駅から歩いて5分ほどで到着すると、道に面して中庭のある立派な農家で、農産物の直売所とワインの試飲所があり、前者には朝堀のホワイトアスパラガスが並んでいた。それは5月上旬のことだった。


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IMG_7603m posted by (C)Yutaka
醸造所の中庭で談笑するハンス=ペーター・ツィアライゼンと顧客。


・バーデン最南部の栽培条件

(1) 気候
醸造所が位置しているのはバーデン最南部のベライヒ・マルクグレーフラーラントだ。スイス国境に近く、晴れた日には葡萄畑からバーゼルの町並みが見える。また、ライン川を渡ればそこはフランスのアルザスだ。スイスアルプスが南から流れてくる雨雲を遮り、ヴォージュ山脈が太平洋からの雨雲を防ぎ、アルプスとヴォージュ山脈に挟まれた渓谷を雲や風が吹き渡る。

エフリンゲン・キルヒェンの村と葡萄畑は、日本語で黒い森という意味のシュヴァルツヴァルトとライン川に挟まれた標高270~380mに位置している。シュヴァルツヴァルトは森といっても実質山岳で、最高峰は1493m。ドナウ川やネッカー川の水源もここにある。

昼間はブルゴーニュから暖かい風が吹き込み、夜はシュヴァルツヴァルトの山から冷気が降りてくる。山々に雨雲は遮られても、この2つの風がぶつかって雲が出来て雨が降りやすいので、年間降水量は約1000mm前後に達する。


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IMG_7615m posted by (C)Yutaka
ツィアライゼンの葡萄畑。


(2) 土壌
バーデン南部の石灰質土壌は大抵三畳紀の貝殻石灰質土壌だが、ツィアライゼンの畑の土壌はジュラ紀の石灰岩質土壌で、ドイツの葡萄畑では珍しい。貝殻石灰質は微細な孔が開いていて黄色みを帯びているが、ジュラ紀の石灰岩はとても白い。「バーデン南部、ジュラ地方、そしてブルゴーニュと背骨のように同質の石灰質土壌が繋がっている。だからブルゴーニュはこのバーデンの南端から始まっているのだ」と醸造所オーナーのハンス=ペーター・ツィアライゼンは言う。大理石の層もあり、近郊の城の建築に使われていたそうだ。

(3) 品種
醸造所のあるマルクグレーフラーラント地区の伝統品種グートエーデルとシュペートブルグンダーが主要な葡萄品種だが、とりわけ後者は果粒が小粒でばらけた房になるクローンが向いている、とハンス=ペーターは言う。ドイツクローンとフレンチクローン、それにスイスクローンを栽培している。特にスイスで交配されたヴェーデンスヴィルWädenswil 242は房が小さく、果粒の間隔もあいていて傷みにくく、気に入っているそうだ。


エフリンゲン・キルヒェン村の葡萄畑はライン川に向かって下る斜面とその上の高台に広がっており、とある一角にアンフォラが埋めてある。容量500ℓのイタリア製のものだ。マンホールの下にあり、開口部のまわりにステンレスの枠をはめて蓋を取り付け、4つのネジで密閉出来るようになっている。埋めたのは2014年のことで、品種はグートエーデルだ。2016年に瓶詰めされたと聞いたが、市場にはまだ出していないようだ。


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IMG_7708m posted by (C)Yutaka
アンフォラから試飲用のワインを取り出す。


・家具職人だった醸造家

1991年に24歳の時に醸造所を設立したハンス=ぺーターは、もともと家具職人だった。実家は農家で、1734年から今の醸造所となっている家と畑を持っていたのだが、収穫した葡萄は醸造協同組合に納めていた。なぜ醸造と販売を始めたのかを聞いても、あまりはっきりした答えは返ってこなかった。「必要な時に必要な人に出会って、自然にそうなったのさ」と笑う。「他の醸造所で実習したこともない。いつも自分で試してみてワイン造りを学んだ。最高の料理人は人から教わってなるものではない。意思があれば道が開けるんだよ。孔子も言っているだろう。『好きなことを仕事にすれば、一生働かなくてすむ』とね」。

それにしても、どうやって醸造技術を学んだのかと聞くとこう答えた。「実践だよ。そして沢山飲んだ。気に入ったワインを見つけたら、これはどんな畑で育った葡萄なのか、どうやって醸造したのかといつも考える。収穫のタイミング、果梗の使い方、温度など色々なことをよく考えて試して見るんだ。良い同僚と話しあうことも大切だ。例えばベルンハルト・フーバー。2014年に他界した彼は偉大なヴィンツァーだった。あれほどの人物は、なかなかいない。思い出すだけで鳥肌ものだ」と語る。

ルフレーヴのようなワインを目指していて、コシュ・デュリも大好きな生産者だという彼の16haの畑の45%をシュペートブルグンダーが占める。25%がスイスでシャスラあるいはフォンダンと呼ばれるグートエーデルだ。ほかにヴァイスブルグンダ-、グラウブルグンダー、シャルドネ、シラー、ゲヴュルツトラミーナーも栽培しているが、いずれも品種の個性がとてもはっきり出ている。


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IMG_7730m posted by (C)Yutaka
ハンス=ペーター・ツィアライゼン。ワイン造りを語る時は少年のように嬉々としている。


・野生酵母と長期熟成

マルクグレーフラーラントの伝統品種であるグートエーデルは、普通は日常酒として醸造される。手頃な値段で手に入る肩肘のはらないシンプルなワインのことが多いが、この醸造所のグートエーデルは上質だ。最もベーシックな「ホイグンバー」Heugumberは木樽(生産年によってはステンレスタンクも使う)を使って野生酵母で発酵後、約半年間熟成してからフィルターをかけて瓶詰めする。日常消費用のワインとしては申し分ない辛口白だ。その上級キュベ「ヴィヴィサー」Viviserはバスケットプレスで圧搾してから容量1200ℓの木樽で発酵して1年間熟成し、「シュタイングリューブレ」Steingrübleは2年間熟成する。いずれも清澄剤を用いずに浮遊物が沈殿するのを待ち、上澄みを木樽かステンレスタンクに移して自然に発酵が始まるのを待ち、亜硫酸を添加せずに熟成する。「酵母はワインの活力だ。だからフィルターをかけずに澱が少し入った状態で熟成する。もしフィルターで滅菌されると、ワインは3、4年後には終わってしまう」と言う。亜硫酸塩は瓶詰めの前の一回だけ必要最低限の量を加え、ホイグンバー以外はノンフィルターで瓶詰めする。グートエーデルのフラッグシップは古木からの収穫を22ヵ月熟成した「ヤスピス・ツェン・ホッホ・フィア」Jaspis 104で、小売価格なんと一本125Euro(約16500円)。誇り高き価格である。

このほかにも2007年産のグートエーデルを1200ℓの大樽2つで熟成中で、50年後に瓶詰めする予定だという。「昔の本には、第一次大戦前は良年のグートエーデルは50~100年樽で熟成したと書いてある。その復刻版をつくろうと思った。1872年のミュルハイムのワイン市で一番高値をつけたのは1802年ものだった。つまり70年熟成させたワインだ。昔は良い年のグートエーデルは50~100年熟成したんだよ!」。


・DRCを目指すシュペートブルグンダー

一方、シュペートブルグンダーはベーシックな「シュペートブルグンダー」から「チュッペン」Tschuppen、「シューレン」Schulen、「ヤスピス」Jaspisと格が上がり、フラッグシップは「リニ」Riniと称する。ハンス=ペーターによれば「ヤスピス」の土壌はジュヴレイ・シャンベルタンに似ている。石灰質主体で粘土が少しと鉄分がわずかに混じり、土壌の要素がより多く感じられる「リニ」はヴォーヌ・ロマネに似た土壌だという。2013年から房をまるごと何パーセントか混ぜるようにしたところ、複雑さを増したそうだ。また、2000年から2006年まではシャプタリゼーションを行いアルコール濃度を13~14%にしていた。すると品評会で賞をとるようになったものの熟成しても重すぎて楽しめなかったので、2007年からは葡萄が自然に蓄えた糖分だけで発酵している。アルコール濃度は12~12.5%。


彼のシュペートブルグンダーは最初は大人しく、時間が経つにつれて次第に深みを増して複雑になっていく。そう伝えると、ハンス=ペーターは頷いてこう言った。「ここはバーゼルに近いが、バーゼルはカルヴァン派の本拠だ。厳格なプロテスタントのカルヴァン主義者は内面をすぐにはさらけださない。人もワインも」。特に「リニ」は開くまで時間が必要だ。逆にベーシックな「シュペートブルグンダー」「チュッペン」は最初から美味しい。


2011年にロンドンでドイツ産と世界のピノ・ノワールのブラインド品評会があった。20種類をドイツ、20種類を世界各地から集めて、ジャンシス・ロビンソンをはじめとする著名テイスターに評価してもらおうという企画で、その予選にはドイツ各地から約300本が集まった。その際、ツィアライゼンのワインは予選で3本が1, 4, 5位に入賞。ロンドンでも4位(2007 Jaspis Alte Reben)と6位(2008 Schulen)に入っている(参照:http://www.timatkin.com/articles?250)。


ツィアライゼンのワインがドイツのトップクラスであることは間違いない。だだ、彼はVDPに加盟していないのでグローセス・ゲヴェクスでもなく、クヴァリテーツヴァインでもない。全てラントヴァインとしてリリースしている。2004年に野生酵母のみで発酵するようにしたところ、公的審査に「典型的なバーデンのシュペートブルグンダーではない」として落とされた。そこで審査の不要な、一番下のカテゴリーであるターフェルヴァインとしてリリースした。だが2009年にEUの地理的呼称制度のワインへの導入でターフェルヴァインが廃止されたため、ラントヴァインにした。「私はシャプタリゼーションもしないし醸造添加物も使わないし、造りたいワインを造っている。審査委員会は画一化されたワインがいいのさ。ひどいもんさ。画一化されたワインなんてありえないよ」と言う。


ハンス=ペーターのモットーは「水源に至るには流れに逆らわなければならない」と「死んだ魚だけが流れに流される」である。優れた生産者の一人であることに間違いはない。


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IMG_7705m posted by (C)Yutaka





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Last updated  2017/12/03 11:20:55 PM
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pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その64(04/05) 「ムスカテラー辛口」は私も買おうかと思…
mosel2002@ Re[1]:ひさびさのドイツ・その54(03/14) pfaelzerweinさん >私の印象では2013年…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その54(03/14) 私の印象では2013年からは上の設備を上手…

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