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崩れた安全神話

崩れた安全神話(全日本宮古島トライアスロン大会事故について思う)
 17年間無事故で続いていた、日本で最も人気のある全日本宮古島大会で水泳競技中に41才の男性が死亡し、71才の男性が意識不明の重体となるという痛ましい事故が起こってしまいました。一緒に参加していた私としても他人事では済まされないことと思い、ペンを執りました。過去に日本国内の大会で起こった水泳競技中の死亡事故は9件、10人が犠牲になっています。その原因は大きく分けると3つあります。第一は選手個人の健康状態、基礎疾患や体力、泳力など主として個人の問題であり、第二は当日の水温、風、波、潮流などの気象条件、第三は参加人数、コース設定、監視・救護体制など主催者側の条件であります。通常この3つの条件がいくつか重なって不幸な事故が起こるわけです。まず、わかりやすいところから申しますと、気象条件は水温は例年なみでした。私は2年前からウェットスーツなしで泳いでいますが、入ったときに少し冷たく感じる程度で泳ぎ出せば全く冷たくはありませんでした。ただ、風と波は例年より少し強いかなと感じました。でもうねりはありましたが白波が立つほどではありませんでした。潮流は東から西にいつもより強い流れがあり、第二コーナーを折り返してからなかなか前に進みませんでした。私はいつも底の砂の模様をみて泳ぐ方向を決めているので、ゴールに向かって泳いでいるつもりが、横向きに流されてゴールより手前で岸の方に寄ってしまい、10人くらいのダイバーに方向修正をされました。流れに向かって泳ぐ場合は特に泳力の差が大きくなり、遅い人ほど時間がかかり、体力を消耗してしまいます。また、第二コーナーを回ってから間隔がつまり、バトルがまた起こる原因となりました。通常は第一コーナーを回ると殆どバトルらしいバトルは起こらないのですが、今年は一緒に出た複数の選手から後半にバトルがあったという話をききました。
それでは、個人の条件はどうでしょうか?お二人とも4回の出場経験があり、大会前提出された健康診断書でも特に問題はなかったようです。今回年齢上限が撤廃されて、たまたま71才の方も事故にあわれたわけですが、年齢が事故の要因と考えるのはいささか短絡的であろうと思います。健康状態も問題なく、基礎疾患もなかったとなると、何故亡くなられたのでしょう。これは国内の事故では初めてのことだと思いますが、41才の男性は翌日死因を調べるために司法解剖をされ、その結果溺死であることが判明しました。溺死というのは、呼吸循環が停止する前に海水を肺の中に吸引し、そのために窒息を起こし、無酸素状態となり、意識を失い、その状態が継続することにより脳死となり、心肺停止にいたったものです。意識を失ってから脳死となるまでに約3分から5分あり、その間に心肺蘇生術を施せば助かる可能性があります。また、呼吸運動や水圧により耳管や外耳道から水が入り、頭蓋底の錐体内にうっ血や出血が起こり、そのために方向感覚を失うことがあり、異常な泳ぎ(蛇行、逆行)が見られたり、また意識を失った後も、痙攣様の呼吸運動がみられることがあります。この時点では循環は停止していないので、肺から吸引したプランクトンが血液に入って、腎臓などにみられ、溺死者と死後の死体投棄の鑑別点となります。
それでは第三の主催者側の条件に問題はなかったでしょうか。コース設定は例年通りです。参加人数も3年前から殆ど変わっていません。監視・救護体制も例年通りで、他の大会が羨ましがるほどの監視船とダイバーの数ですし、エメラルドグリーンの海はどこまでいっても透明で、泳いでいて底のダイバーが見えますし、ダイバーからは泳いでいる選手が逆光ではありますが、よく見えていたはずです。強いていえば、その配置に少し今年の気象条件に合わせた工夫が必要であったかなと思います。それと、17年間続いてきた無事故で安全な大会という油断が救助のタイミングの判断に若干の遅れを生んだかも知れません。これは後だからいえることかも知れませんが、蛇行・逆行など異常な泳ぎをする選手は溺死一歩前の状態である可能性もあるわけですから即座に近づいて声をかけ、返事がなければすぐ救助するということが、重要ですし、意識喪失から3分以内に蘇生術が施せるような体制を作らなければいけないと思います。もちろん、選手自身の自己管理責任が一番大きいわけですが、水の中では予想もしない出来事が起こる可能性もあり、自分だけで対処できないとすると、周囲がそれをバックアップできる体制をつくらなければいけません。むかし、わたしの馬鹿な長男がプールで友達とどれだけ長く潜れるか競争をして、25mプールを往復して、折り返しプールの中央まできて black out (意識を失う)の状態となってしまいました。たまたまそれを見ていた知多市民病院の産婦人科の先生がすぐに飛び込んで蘇生術を施してくれるという幸運がなければワールドカップにもでることはできなかったでしょう。運がよければ助かり、運が悪ければ助からないというのでは悲しすぎます。監視員、レスキュー隊員、ダイバーだけでなく、選手自身も含めてトライアスロンに関わる人たちは簡単な救急蘇生術についての知識と技術を習得して現場に一番近いものがすぐに始めるという環境をつくる必要があると思います。
今年度の初めを飾るべきこの宮古島大会で起こったこの痛ましい事故で犠牲になられた選手の方には心より哀悼の意を表するとともに、これを教訓として、今後このような事故が起きないような体制づくりに努力するとともに、全国の大会主催者にもう一度安全管理の総点検をお願いする次第です。



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