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2006/10/31(火)04:07

ポピュラーだけれど気づかれない病気

医療(121)

私の専門は乳腺外科、しかし市民病院に勤めているとそればかりという訳には行かない。昨日も久し振りに大腸癌の手術をした。今日はポピュラーだけれど気づかれないで見過ごされている病気についてお話します。その病気の名はSMA症候群と言います。SMAとは superior mesenteric artery(上腸間膜動脈)、膵臓の裏で、大動脈から前方へ分枝し、主に小腸と大腸の半分を栄養する動脈です。SMA症候群とは、そのSMAと大動脈との間を通る十二指腸の水平脚が2つの血管に圧迫されて起こる病気です。この病気は人間が立位歩行を始めたために起こった病気、四足の動物では、SMAが大動脈から直角に出ているので、圧迫が起こらないのです。SMA症候群と痔は立位歩行をするようになった人間にしかない病気なのです。症状は上腹部の不定愁訴、食事を食べるといったん胃の中に貯まり、少しづつ十二指腸を通って小腸へ流されますが、そこでの流れが悪いということは、繰り返す腹痛と嘔気です。痩せると血管の周りの脂肪が取れて、クッションがなくなり、圧迫が強くなるため、痩せた人に多い病気です。診断してくれる医者が少ないので、ノイローゼとか拒食症として治療されている人も多い。誰もが持っている解剖学的欠陥、この病気はどこから病気でどこまでなら正常とするかが難しい。私はこれをアナログ疾患と呼んでいる。アナログ疾患をデジタル疾患にするには、診断基準を作らなければならない。以前この診断基準を作って日本外科学会で発表した。最初にSMA症候群でよく見られる症状を載せた20項目の問診表を作った。その問診表で10項目以上YESのある人は、上部消化管透視(バリウム検査)をする。透視をしながら見ていると、バリウムが十二指腸へ入ったところで、少し流れがおかしい。そうしたら、ブスコパンを1A注射して、低緊張性十二指腸造影にする。写真のような所見が得られる。十二指腸の水平脚でSMAの圧迫により流れが途切れている。最終的にCTで、十二指腸が横切る高さで、大動脈とSMAの隙間の幅を計り、これが8mm以下ならばSMA症候群と診断している。治療はまず食事指導と体重を増やすこと、発作時の体位の工夫、漆肘位(四つんばいになって、膝と肘をつく)で痛みが和らぐ。どうしてもよくならないときには、手術(十二指腸空腸バイパス術)を考える。今までに40人近く診断して、20人ほど手術している。多分日本(いや世界かな?)で一番たくさんの手術例を持っている。この病気に初めて出会ったのは、17年ほど前古い病院の時に、2階のソファーにうずくまっていた医療事務の女の子を副院長が見つけて私のところに連れて来たのがきっかけです。時々、症状が出ては休んでうずくまっていた。どこへ行っても診断がつかず、異常なしとされる。そのうちに同僚からは、ただの怠け者と白い眼で見られるようになる。手術をして長年悩んでいた症状が取れ、とても元気になり、性格も見違えるほど明るくなった。今年招待されて、結婚式に出た。外科医として至福の瞬間である。安い給料でも頑張ろうと思う。

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