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2018/07/25(水)20:27

監察医ドクターTの事件簿10─のぞみに大穴

監察医(67)

のぞみに大穴 posted by (C)ドクターT 博多発の新幹線が小倉駅手前の石坂トンネルあたりで、ドーンと言う音がしてボンネットに穴が開いた事件、今日になってぶつかった人の遺体の一部が見つかったとの報道がありました。このような事例は私も2004年に蒲郡で経験しています。​​ 2004年2月9日午前9時9分蒲郡市三谷町星越トンネルの名古屋側の新幹線軌道敷内を歩いている男の姿が監視カメラで確認されました。9時29分現場付近を通過した下り博多行きののぞみにはねられて隣を丁度走っていたJR東海道線下り大垣行きの前面窓ガラスに体の一部が当たり、窓ガラスにひびが入った。在来線4本が運休しましたが、新幹線は前面の強化プラスチック製の風防に穴が開きました。三河安城駅に臨時停車して調べ走行には支障がないと言う事でそのまま博多まで運行されました。飛び込んだのは郵便局の非常勤職員でしたが、仕事のことで悩んでいたとのことでした。この事例については第10回の日本警察医会で発表しました。新幹線の前頭オオイについては次のような強度計算をしました。 前頭オオイ1)材質:C-GハイブリッドFRP  (炭素、ガラス繊維強化プラスチック)2)強度:先頭連結器のカバーであり、  走行抵抗、空力騒音の低減目的に   設置しているものだが、強度としては、  異常時に簡単に取り外せる構造とす  るため軽量化を行っているが、小石や  鳥などでは破壊しない程度の強度を確  保している。3)強度検討  歪エネルギーEs = 1/2*Fλ(J)  λ:強制変位     運動エネルギー減少量  Ec = 1/2*mV2{1-(e2sinθ2+cosθ2)}  Es = Ec としてλを求め、強度計算ソフト  に入力して、各入力部の主応力を許容  応力と比較した結果、1.8kgの物体が  衝突しても破損しないが、約2.5kg以  上の物体が衝突すれば破損することが  十分考えられる。考察1通常新幹線は高架部分が多く、容易には軌道敷内へ入り込めない構造になっているが、場所によっては道路や在来線と同じ高さになっており、金網のフェンスと鉄条網が設けられているが、金網をよじ登れば道具を使わなくても、侵入は可能である。そのような箇所は金網でなく、コンクリート塀など容易によじ登れない構造にする必要があると思われる。考察2新幹線にはねられる20分前に、東京の新幹線管制室で、監視カメラに目撃されており、その間にとるべき措置はなかったか。なかなか新幹線を止めることは難しいかも知れないが、結果としてのぞみに穴を開けて、大幅に運転の遅れを出し、在来線の運休も出してしまったことを考えると、新幹線を止めて地元警察の協力で現場を捜索すれば、未然に防げたかも知れない。考察3新幹線の飛び込みはその侵入が容易ではないことからまず死因の種類は自殺としてよいと思われる。 新幹線への飛び込みは遺体の損傷が激しく、また数百メートルにわたって散乱することもあり、遺体の回収作業にも時間がかかり、列車の運休など交通機関に与える影響は大きく、賠償金も高額となり、とても遺族が払えない金額となると思われる。まとめ1.新幹線への飛び込みは殆ど自殺目的の軌道敷内侵入で起こり、それを防ぐには物理的に侵入できる箇所を減らす努力が必要である。2.もし、監視カメラで不審者を発見した場合、新幹線を止めて、警察の協力を得て排除するなどの措置が必要である。3.実際に起こってしまうと遺体が広範囲に散乱し、回収作業に時間を要し交通に与える影響は大である。​​

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