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サマルカンドで朝食

全7件 (7件中 1-7件目)

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雪舟庭

2020.02.19
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カテゴリ:雪舟庭
作品番号2番
 「雪舟庭」 最終話




(雪舟「四季山水図」(一部))




 雪舟は大人だから腹を立てたりはしない。
 だが、すっかりやる気をなくしてしまった。 

 丘に芝生で中国大陸を形作り、三山五獄のモニュメントに組石を配置した。
 そして芝生の中央に、絶望的な池を掘って、絶望的な緋鯉を放した。

「禅師、この辺りが広くあいてしまうんですが、どうしましょう」

 庭師の一人が芝生の一角を指差した。雪舟は輝きのない目をそちらへ向けた。

「富士山でも置いとけ」

「禅師、この万才松はどうしますか」

「そう、そいつじゃ」

 雪舟は横倒しになった万才松へ歩み寄ると、その幹に手を置き、庭園をかこむ丘のいちばん高いところを指差した。

「あそこに植えてくれ。庭の外に植えるのがよい。もっとも優れたものをもっとも無価値な場所に置く。そこにわしの心がある」

 命じられた場所に万才松は植えられた。
 万才松は江戸幕府の崩壊頃まで、そこに根を張りつづけた。

 庭園が出来上がった翌朝、雪舟は無言で立ち去った。
 ひと仕事終えてしまえば、大内政弘の顔も池の緋鯉も、すでにその心にはない。

 居場所のない孤独を軽々と背に負い、
 鏡に映したような静かな夜明けの原野を一人、

 雪舟が行く。
                  (了)



(雪舟「破墨山水図」)

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最終更新日  2020.02.19 04:00:07
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2020.02.18
カテゴリ:雪舟庭
作品番号2番
 「雪舟庭」 その六





 なにもなくなった庭を眺めながら、建立したての本堂の濡れ縁に坐る雪舟。
 五時間も坐った後、静かに膝を打った。

「血の池地獄を作ろう」

 さっそく寺の境内を掘り進め、地球の中心近くまで掘削したところでマグマが噴き出した。
 黒煙を上げ、まっ赤な溶岩が寺の境内から流れ出し、

 近隣の民家をみんな飲み込んでしまった。
 寺は高熱で赤く染まり、本尊も溶けはじめた。

 大内政弘の使いが飛んできた。

「あかんですか」

 眉をひそめる雪舟。使いはひれ伏した。

「これでは住職も近寄れません」

 とうとう大内政弘の館に呼び出された雪舟。
 政弘はやれやれという表情で雪舟の前に腰をおろした。

「等楊よ、贅を凝らしたなかにもマモトな庭を造ってくれ。明国っぽいやつな。これ、大内の面目に関わる築庭だし。頼むわ」

「かしこまりました」
        (つづく)


 
(雪舟「秋冬山水図(秋景図)」)


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最終更新日  2020.02.18 04:00:07
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2020.02.17
カテゴリ:雪舟庭
作品番号2番
 「雪舟庭」 その五





 帰りの列車に揺られながら、
 私は築庭事業を拝命した雪舟を思い描いた。

 日本各地から、選び抜かれた置き石が持ち込まれ、
 見事な枝振りの木々が持ち込まれ、
 そして一本の松が運び込まれる。

「なんという見事な松だ。こんなん一生に一ぺんもお目にかかれんわ」

 創作意欲をかき立てられた雪舟は、その松を万才松と名付けた。

 さて雪舟、
 いつもの烏沙帽をかぶり禅僧の衣をまとった姿で、
 建立したての本堂の濡れ縁に坐り、まだ何もない庭をじっと眺める。

 五時間も坐っていた雪舟、
 やがて静かに膝を打った。

「バベルの塔を作ろう」

 さっそく日本中から石が運び込まれ、積み上げられて、寺の境内に巨大な塔の建築が始まった。

 塔はエルサレム神殿を超え、ピラミッドを超え、雲を突き抜け、ヒマラヤ山脈を眼下に見下ろし、
 いよいよ大気圏を突き抜けようとするところで難工事になった。

 大内政弘の使いが寺に飛んできた。

「なに、中止ですと?」

 眉をひそめる雪舟。使いはひれ伏した。

「もし倒壊したら北半球全体が大惨事になります」

 塔はすみやかに取り壊された。
            (つづく)


(雪舟「倣夏珪山水図」)


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最終更新日  2020.02.17 04:00:07
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2020.02.16
カテゴリ:雪舟庭
作品番号2番
 「雪舟庭」 その四





「中国大陸を象徴するといわれる芝生に、蓬莱山水様式の石組みが高々と聳えております。お分かりのとおり富士山でございます。中国と日本のよい部分を融合させた雪舟の偉大な功績を、ここにも見ることができます」

 やっぱり――私は目を伏せた。
「きれいでこぢんまりと、よくまとまった庭だわ」
「石にも深い意味づけをしてるのねえ」
「さすがは雪舟よねえ」

 参拝客が感心して賞賛する言葉を聞きながら、私は群れから離れた。

 どうしたんだ、何があったんだ雪舟。

 私は目まいをおぼえていた。
 大内家の貿易船で明国へ渡っておきながら、「大唐国裏に絵師なし」と大言壮語して帰ってきたパンキーが、
 円錐形に石を組んで「富士山でございます」はないだろう。

 峨眉山でも天童山でもピラミッドでもエッフェル塔でもいい。
 でも富士山はいけない。
 パンキーなものならほかにあるじゃないか。

 この庭、本当は雪舟の作ではないのかもしれないと疑いもしたが、
 もともと大内政弘の別邸跡に建立した寺院であったことを思えば、
 大内文化の象徴ともいえる後庭の造園事業を任せる絵師は、雪舟をおいてほかに考え難い。

 やはり雪舟の作と考えるべきなのだ。
                  (つづく)


(雪舟「倣梁楷 黄初平図」)

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最終更新日  2020.02.16 04:00:06
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2020.02.15
カテゴリ:雪舟庭
作品番号2番
 「雪舟庭」 その三



 そもそも、絵のわからない私に、庭のことなどわかるはずがない。

 本堂のそばに参拝客の一群があり、女性ガイドが庭園の説明をしていた。
 やや肥満ぎみのガイドだった。
 四十過ぎか五十を超えているか。
 女性の年齢を当てるのは、私は昔から苦手だ。

「この庭園の様式は、枯山水を用いた池泉回遊式庭園と申します。寺に面する南側以外の三方を林地で囲んだ小谷地に築造され、前に心字池、東北には枯滝がそれぞれ設けられております」

 ガイドの言葉には、少し関西アクセントがあった。
 私は庭園の説明を聞くために、参拝客の一群に近寄った。

「正面の石組みは三山五獄になぞらえております。雪舟が明の国から得た構図といわれております」

 私と違ってガイドはよく勉強していた。石の配置一つにも深い意味があることを流暢に説明していく。

「庭石の配置は五行石の様式にしたがっておりまして、霊象石、心体石、体胴石、寄脚石、枝形石と、二つから三つ、あるいは五つの石を巧みに組み合わせて置かれております。あちらをご覧下さい」

ガイドが池のそばにある石組みを示した。
 私が先ほどから気にしていた石である。
 ちょうど握り飯のような形をしていて、その裾をつつじの植込みが覆っている。

 私はいやな予感がした。
          (つづく)


(雪舟「秋冬山水図(冬景図)」)



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最終更新日  2020.02.15 04:00:06
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2020.02.14
カテゴリ:雪舟庭
作品番号2番
 「雪舟庭」 その二




(雪舟「天橋立図」)



 その夏、私は中国路(日本の中国地方だ)に、とある臨済宗東福寺派寺院を訪れた。
 その後庭は、画聖雪舟が築庭したということで全国に名を知られている。

 いわゆる雪舟庭だ。

 私がそこを訪ねた目的は、いうまでもない、雪舟が造園したパンキーな庭を楽しむことにあった。
 だが、その期待は見事に裏切られた。
 国の史跡に指定されたこの庭は、名勝地とされるにふさわしく、
 くそまじめでおとなしかった。
 酒を飲み、窓に向かって尺八を吹き歌をうたってから絵筆をとったという雪舟を、その庭から感じ取るのは難しかった。

 たとえば、心字池の鯉である。
 池の中の緋鯉を、庭園を囲む丘の上から眺めたのだが、私には、雪舟の庭に緋鯉はふさわしくないと思えてならない。
 イカでもスッポンでもタツノオトシゴでも構わない。
 だが、鯉は雪舟じゃない。

 この池に泳いでいるのがトビウオであれば、これは雪舟だ
  (ちょっと飛ぶには庭が狭すぎるけど)。

 この池に泳いでいるのが獰猛なホオジロザメであれば、これは徹底的に雪舟だ
  (池の大きさがサメの体より小さいのが難題だけど)。

 この池に泳いでいるのが無数のピラニアであれば、これは徹頭徹尾雪舟だ
  (アマゾン川から運んでくるのはたいへんだけど)。

 しかし、雪舟を庇護していた大内政弘の財力も無限ではないので、
 現実的なところで鯉に落ち着かざるをえなかったのかもしれない。
 大人の事情というやつだ。

 築庭は、そういう現実にも顔色を窺わなければならないのだろう。
                             (つづく)


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最終更新日  2020.02.14 04:00:09
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2020.02.13
カテゴリ:雪舟庭
本日から、原稿用紙10枚の掌編小説を連載しようと思います。作品番号2番。残念なことに、とある文学賞に落選してしまったものですが、自分では大好きな作品で、落選したら「サマルカンドで朝食」に連載しようと決めていました。
楽しんでいただければ幸いです。

では、どうぞ。タイトルは「雪舟庭」と申します。



作品番号2番
 「雪舟庭」 その一





 雪舟をパンキーだというと、笑われるだろうか。

「天橋立図」が高度約八〇〇メートルの上空から写生されたものだと、ある解説書で読んだとき、私は言葉を失った。
 もちろん天橋立の周辺に一〇〇〇メートル級の山などないから、
 この風景全体を精密に写生するために雪舟は、八〇〇メートルの空中に浮き上がって描いたことになる。
「天橋立図」の制作期間は三年間だそうだから、三年間空中に浮いて絵を描いていたわけだ。

 その解説書にはこうあった。
「雪舟は架空の視点から写生する技を持っていたと思われる」
 しかし、いったいそれは人間技だろうか。

 ぶっ飛んでいるのは「天橋立図」だけではない。

「慧可断臂図」では、慧可の中国風の袈裟がリアルなのに対し、
 達磨がまとっている大僧正の衣は、ひどく大雑把だ。
 このインド人の達磨太師の顔が私の目には、アラビア半島のアラブ人に見えてならない。
 そう思って見ると、衣も含めて、
 達磨が、カンドゥーラを着て、クーフィーヤをかぶった、アラブ人に見えてくる。
 実際、長安の町で見かけたアラブ人を、雪舟は面白がって達磨のモデルにしたのではないかと、つい勘ぐってしまうのだ。

「秋冬山水図」の「冬景図」のまんなかに引かれた太い縦線については
「中国の山水画によく使われる、オーバーハングする断崖の輪郭線を極度に強調したもの」
 と、どの解説書にもあって、
 絵のわからない私などは、そういうもんかと受け入れるしかないのだけれど、
 そういうぶっ飛んだ技法を抵抗なく取り入れて、大胆に用いるのが雪舟であり、
 このぶっ飛んだ絵師の、ぶっ飛んだ山水画のうち、先に挙げた三点含めて六点までもが、国宝に指定されているという事実もまた、ぶっ飛んでいる。

 私には絵のことはわからない。
 でもこれだけはわかる。
 雪舟はパンキーだ。
                 (つづく)


(雪舟「慧可断臂図」)



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最終更新日  2020.02.13 04:00:06
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