季節を味わう旅(23)
季節を味わう旅(23) 去る8月23日は旧暦の7月4日、第40候綿の花がはじける候。また、処暑、猛暑がやわらぎ、朝夕が過ごし易くなる頃とある。 今日8月28日は旧暦7月9日、第41候天地の暑さ、ようやく鎮まるとある。 温暖化現象の影響であろう、今夏は雨天や雨が多く気温も比較的低めであったようである。 一昨日の休日は、ボロ自転車の助けを借りながら自宅周辺を散策した。 田園は、すっかり趣を変え、見渡す限り黄色の世界となっていた。 黄色ではない、まさに黄金の色の世界である。 思わず自転車のペタルを踏むのを止めて、その美しさに見入ってしまった。 両側を小高い緑の山に囲まれ、その間に果てしなくつづく田園が黄金色に光り輝き、青い空はその向こうから真っ白い雲を引き連れて迫ってくる。 日本の最も美しく、ありがたい風景のひとつである。 こんな好き勝手な人間どもにも、今年も豊かな実りを与えてくれた大きな存在に、ただ頭を垂れ合掌する。 来年も、さらい年も、そしてズ-トその先まで、この美しい世界が訪れますことを・・・。 幼き頃のこの時期、亡父は晴天の休日を選んで、家族全員を引き連れて山の神社の礼拝に向かったものだ。 周囲の盆地よりせり立つ山を5キロほど登ると、その神社の小さな祠に辿り着く。 山の角度は50度を越えるところもあるから、そう簡単な山登りとはいかない。 祭事道具やゴザや食糧・水等を家族全員で手分けして背負いながら、ハーハ-と息を切らしながら片道たっぷり2時間ほどかけて登り切る。 その途中、深い松林の途切れた辺りから視界に突如飛び込んでくる色がある。 それが山吹色、黄金色の稲の実りの色なのである。 信州松本平一杯にひろがるその色は、まさに圧巻である。 家族はそこで必ず一服して、一息入れたものだ。 何はさて置き子供たちは、家で取れたトマトや、祖母が朝早く起きて蒸かしてくれたトウモロコシを口いっぱい放り込む。 これが実に美味い。 それは例えようのない美味さである。 誰の顔にも汗が噴出し、飛び切りの満足した笑顔がそこには必ずあったものだ。 それに記憶の中には、ようやく辿り着いた神社の石垣に、必ず迎えてくれた一匹のトカゲのこと。 その実に見事な瑠璃色。 真っ青な秋の空にも決して負けていない。 それどころか、天空一杯の色がこのトカゲに吸いよされているような、それともまた、このトカゲから青い空が染められているような・・・。 そんな空想をその頃の私はよくしていたものである。 老いた今、祖母や父母が黄金色に広がる眼下に向かって、一心に手を合わせていた姿が思い浮かぶ。 トマトとトウモロコシの味、そして瑠璃色のトカゲに会いたいだけで登った幼き日。 いま黄金色を見ると思わず手を合わせたくなる。 ようやく父母や祖母の心が分かる年になったということであろうか。 それにしても頬を撫でる風の心地よいこと!