カテゴリ:美術
2006年の美術展めぐりの幕開けは、この展覧会から。
いや、通勤経路途上にあったので…というのが本音ですが、思うところありまして。 -------------------- 1922年。 アインシュタイン博士は「改造社」(雑誌社です)社長山本氏からの招聘を受け、40日強 日本に滞在しました。 この日本訪問の際に博士が書いていた手記を軸に展覧会は展開されます。 ---------- 展示の始めは、日本に向かう船上から。 この船中で、博士にノーベル賞受賞のニュースが伝えられます。 ただし、この受賞は、有名な相対性理論に向けて贈られたものではありませんでした。 この事実は知っていたのですが、その事情についてはさすがに…。 もちろん、相対性理論そのものが途方もなかったため、「旧来の」物理学者に受け入れられなかった、というのも事実なのですが、それと同時に、彼がユダヤ人であるが故の差別、偏見もあったそうです。 ---------- さて。 日本ではこの報を受けて、この有名な物理学者を一目見ようと、たくさんの人々が集まりました。 そして各地で講演し、また観光も楽しみました。 岡本太郎先生の父、岡本一平先生や、『荒城の月』の作詞で有名な土井晩翠先生などが、博士を囲んだりしています。 ---------- 展覧会場で貸し出されるイヤホンガイドは、ラジオドラマ仕立てで、10件しがないのにやたら長いのが玉に瑕ですが、その分充実した内容。 というより、むしろ、展示よりもこっちに力が入っている感じです。 展示が日本語と英語併記でされているのも、ちょっと面白かったです。 いわゆる「モノ」の展示は少ないですけど、手記を壁一面に掲示することで、狭い会場ながら詰め込んだ感じのある展覧会になっています。 正直、ちょっと眼と耳が疲れましたが…。 ---------- 博士は、日本という国に対し、非常に温かく好意的なメッセージを寄せてくださっています。 あえて、「古き良き」と言いましょう。 大正デモクラシーの最後の輝きの一瞬の時代でした。 ---------- 一方で、不穏な空気が、軍靴の足音が、高まっていく時代でもありました。 それは、日本に限った話ではなく、博士と交流のあったワイマール共和国外相が極右団体に暗殺されたのは、博士の日本滞在中の出来事でした。 -------------------- そして、日本は、この後、激動の時代を迎えることになります。 1923年 関東大震災。 1925年 普通選挙法ならびに治安維持法制定。 1928年 パリ不戦条約に調印。 同年 満州にて張作霖爆殺事件。 時代の空気は重みを増し、まるで何かに憑かれたように、悪夢の30年代が始まります。 1931年 満州事変 1932年 満州国建国。五・一五事件 ---------- 同年 アインシュタイン博士は、ドイツからアメリカに亡命します。 その翌年、 1933年 ヒトラー、ドイツ首相に就任 同年 日本、国際連盟脱退 世界は、閉塞感から脱出するための、はけ口を求めて蠢きます。 1936年 二・二六事件 1937年 日中戦争開始 1938年 ドイツ、オーストリア併合 1939年 ポーランド侵攻を受け、第2次世界大戦勃発 ドイツの快進撃は、日本の軍部を刺激し、40年代にいよいよ戦争が激しさを増します。 1940年 日独伊三国同盟締結 1941年 日本、真珠湾攻撃 「ドイツの核兵器開発に先手を打つ」という大義名分をかざし、 1942年 アメリカでマンハッタン計画が始動します。 ---------- アインシュタイン博士自身はこの計画自体には参画はしませんでしたが、ルーズベルト大統領に対して、進言を行っていました。 そして、マンハッタン計画は、日本で「実を結び」ます。 1945年 8/6に広島、8/9に長崎へと原子爆弾が連続投下。8/15に終戦。 戦後、冷戦の時代に、核は世界へと拡散されます。 一方で、現代のパレスチナ問題への萌芽も、この時代に芽生えていました。 1948年 イスラエル、独立を宣言 ---------- アインシュタイン博士自身もこれらの問題に無関係だったわけではありません。 実は、日本からの帰路、イスラエル地域の「ユダヤ人入植者」達を訪れて、講演もしています。 1952年 イスラエル政府による第2代大統領への就任要請を拒否 1955年 核兵器廃絶を訴えるラッセル=アインシュタイン宣言を発表 同年、76歳で亡くなられました。 -------------------- 歴史は繰り返す。何だか嫌な言葉です。 デモクラシーの空気に満ちていたはずの日本が、ちょっとしたきっかけで変容していく様は、どこかの時代に似ている気がしてなりません。 しかし、歴史が繰り返すというのなら、歴史にifを投げかけることも出来るはず。 繰り返そうとしている歴史のどこに、ifの楔を打てるのか。 私は「不偏不党中立」の立場から、ノンポリ平和主義者として、考えを深めたいと思っています。 それも今年の自分に課した宿題の一つ。 -------------------- 物理学に興味がなくても知っている、世界で最も有名な博士の、あまり知られざる一面を見ることの出来る展覧会でした。 ---------- 特別展『アインシュタイン博士日本見聞録』 @相田みつを美術館第2ホール [会期]2005.12/20(火)~2006.02/26(日) 作者:------- ★★★★☆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 6, 2006 02:35:31 AM
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