テーマ:最近観た映画。(40124)
カテゴリ:映画
『殯の森』を観に、奈良へ行って来ました。
===== 前回の奈良旅行の際に、「一コマもがり」という サポーター制度に参加したのですが(経緯はこちら)、 これは、一口2千円で、映画のサポーターになれる制度で、 サポーターになると、 ・奈良での先行上映ご招待 ・フィルムを一コマ プレゼント ・パンフレットに名前が載る という特典があるのです。 ええ。 「奈良での」先行上映です。 というわけで、「関西お出かけパス」を使って、朝から奈良入り。 ===== 関西本線でウトウトして、目が覚めた時に「次は法隆寺」と聞こえたので、 夕方までの時間を「法隆寺」で過ごすことに決定。 斑鳩三塔を中心に、近辺をウロウロしていたら、あっという間に一日が過ぎてしまいました。 ----- さて、この映画が上映されるのは、なら100年会館。 JR奈良駅前すぐにある、大きな建物。 設計は、磯崎新設計事務所ですね。 ダイナミックで、面白い建物です。 (磯崎新先生の作品と言えば、去年は水戸芸術館を訪れています→こちら) ===== 会場入りした所に、グッズ販売が。 映画関連のグッズだけではなく、河瀬監督に関わっている人たちが 手作りした小物などが売られています。 どれも、温かみがある、シンプルなデザイン。 何だかホッとする雰囲気があります。 ----- 入り口のある2階に上がると、既に長蛇の列。 しかし、まだこれは序の口でした。 列が進み始めて、後ろを振り返ると、 長い階段を経由して、広いロビーも貫いて、 列は会館の外にまで! いったい、何人来ているのやら…? ----- サポーター制度に参加したのは、約2000人だそうです。 「認知症」や「介護」「命」など重いテーマを扱っているが故に、 企業の協賛などは難しく、その代替策として、 地元の方々に協力して頂く、この制度が立ち上げられたのだそうです。 ----- 私がこの制度を知ったのも、奈良の居酒屋さんで。 (その経緯はこちら) こういう地元に根付いた映画が、世界の賞を獲る、素晴らしいことです。 (会場に置かれていたカンヌの賞状) ----- そもそも、この映画の主役をされた、しげきさんも、地元の古書店主さん。 この映画作りには、多くの地元ボランティアスタッフが関っています。 ----- ボランティアのリーダーをされたお茶農家の方は、 「茶摘み」の最盛期だったため、カンヌには行けなかったとか。 何とも微笑ましいエピソードではありませんか。 ===== 舞台壇上にはピアノが置いてありました。 客席ざわめく中、河瀬監督のご挨拶。 ----- なにより、まず、日本での公開に当たって、 まず、奈良で公開出来ることが嬉しい、とのこと。 ----- カンヌ映画祭の授賞式の映像で見た時より、 ずっとリラックスしてらっしゃるように見受けられます。 ----- そう。 何となれば、この会場に集まっているメンバーは、 今回の作品が、カンヌで賞を獲る前から、河瀬監督を「応援」してきた人たち。 ----- ざっと会場を見渡しても、老若男女、様々な年齢層の人がいて、 どの顔も、何となく嬉しそうで、微笑ましい。 奈良で生まれ、奈良に育ち、奈良を舞台に、奈良の人達と、 映画を創り続けている河瀬監督にとって、奈良は、まさに「ホーム」。 ===== さて、上映に先立ってのピアノ演奏をつとめるのは、 12歳の天才少女、坂牧春佳さん。 彼女が、本編の演奏も担当しています。 本編の収録は、森の中に河瀬監督愛蔵のピアノを持ち込んで行われました。 ----- 「一度、森の中でピアノを弾いてみたいと思っていました。」 「実際に弾いてみて、どうだった?」と監督。 「実は、あまり憶えてないんです。」 木々のざわめき、風の囁き、生けとし生き物達の息遣い、 素直な魂の奏でる彼女の演奏は、それらと混然一体となって 森の中を流れたのでしょう。 それは、想像するだけでも幻想的な風景。 (上映後のサイン会にて) ----- 「彼女に初めて会って、演奏を聞いた時、オーラを感じた。」と監督。 この映画の主題曲は、スピード感のあるものでも、リズミカルなものでもありません。 サティのような、環境音楽に近い、だからこその難曲。 それを優雅に軽やかに弾きこなす彼女は、 音楽をよく知らない私の眼には、正に天界の住人。 心地良さに酔いしれました。 ----- ただ一つ残念だったのは、彼女の演奏中、遅刻してきた一人のおっさんが、 足音高く、最前列まで向かっていったこと。 あまりの非常識さに、誰も注意できませんでした。 (注意するのも、迷感行為になりますしね…) 彼女が何ら動揺せずに演奏を続けていたのは流石、ですが… 無礼にも程がある行為であることを、弁えて頂きたいものです。 ===== ピアノ演奏に続いて、本編上映が終わり(本編の内容についてはこちら) 河瀬監督と主人公を演じられたしげきさんの対談へ。 最初に出演依頼を受けた時、エキストラだと思って軽く引き受けたら、主役だと言われて驚いた話や、 食事がいわゆるロケ弁ではなく、ボランティアの方の手作りで、美味しかったこと、 何ともほのぼのとした話が続きます。 ----- しかし、監督の演出は、大変厳しかったそうで、 森の中をさ迷い歩くシーンでは、20分の山道を何往復もさせられ、 疲れ果てた所で、ようやくスター卜がかかったそうです。 「だから、山道で息を切らしているシーンは、本当なんですよ。」 というしげきさんに答えて 「だってね、すぐに、いらないセリフを喋ろうとするんですよ。 口がきけないくらい疲れてもらおうと思って。」 と即答する監督。 お互いの信頼があって成り立っている演技だったのだな、 ということが、良く伝わる会話でした。 ----- しげきさん、撮影開始直前に、歯が落ちてしまったのですが、 監督は、そのままで良いと撮影をされたそうです。 撮影後、歯を直したのですが、カンヌ出発直前に再びポロっと。 「映画と同じ顔で、かえって良かったのかも。」としげきさん。 ===== 対談の途中で、小さな子供が舞台袖から舞台上に出入りしていました。 実は、この子、監督の2歳になるお子様。 時々、監督がお子様を叱ったり、お子様がしげきさんの所へ行ったり、 それでも、それが、別に不自然ではなく、邪魔にならない。 なんだろう、この自然体なアットホームさは。 (終了後に舞台上を撮影。舞台上左に見える小さな影がお子様。) ----- そう思いながら、この「自然体」なリズムが、 映画の心地よさに繋がっているのだ、と気が付きました。 お仕着せの道徳でも、勧善懲悪でも、宗教観の押し付けでもなく、 ただ、そこにあることを、あるがままに認め、許容していく。 生命は尊いが故にこそ、死ぬことも生きることも、あるがまま。 ----- 会場を出たら、優しい月が出ていました。 命を軽んじることが、かっこ良いかのように、声高に叫ばれる今だからこそ。 失われ行くもの、見失いがちなものを、大切にしたい、そう思うのです。 ===== 『殯の森』 2007年 日本 97分 http://www.mogarinomori.com/ 監督: 河瀬直美 出演: うだ しげき/ 尾野 真千子 / 渡辺 真起子 / ますだ かなこ / 他 ★★★★☆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 20, 2007 01:31:00 AM
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