カテゴリ:美術
「天才は一日にしてならず」
今回の『夏目漱石展』で、強く思ったのは、そのことでした。 ----- ふんだんな資料から、夏目漱石の足跡を追った、今回の展覧会。 朝10時半に着いたにも関わらず、人がいっぱいで、盛況ぶりを物語っていました。 ===== おそらく、「日本人」に最も愛されている作家であり、誰もが認める大作家。 ノーベル賞こそ取っていませんが、国民的人気から言えば、そんな賞すら不要。 明治日本の重要な立役者の一人でもあります。 ----- 1867年、夏目漱石、本名・夏目金之助は、江戸に生まれました。 時は、まさに江戸時代が終焉を迎え、明治が始まろうとする時代。 塩原家への養子縁組など、複雑な事情を経て、21歳の時に夏目姓に戻ります。 大学に進学にあたって、漱石は、建築家を夢見ますが、 友人米山保三郎の「文学にこそ可能性がある」という言葉を受けて、英文科に進学します。 大学予備門では、「寄席通い」の趣味で親しくなった正岡子規との出会いがあり、 また、大学での猛勉強がありました。院に進み、教師としての職を得るも、結局大学を辞め、 1895年、松山中学校の教師として松山に赴任。 ----- 1896年、熊本第5高等学校に転任。同年結婚。 この地で4年を過ごした後、文部省より、英語研究のため、英国留学を命じられ、 1900年、イギリスへ。「尤も不愉快の2年間」を過ごすことになります。 1903年、第一高等学校並びに東京帝国大学講師として着任。 難解な授業は、当初不人気だったものの、次第に盛況になりました。 1904年、講師業の傍ら、『吾輩は猫である』執筆「ホトトギス」連載。 1905年から1907年にかけて『吾輩は猫である』刊行、ベストセラーに。 ----- 1907年、大学の職を辞し、朝日新聞に入社。40歳。 『虞美人草』『三四郎』『それから』『門』等を執筆します。 1906年、「木曜会」開始。 寺田寅彦、鈴木三重吉、森田草平、後には芥川龍之介らが、漱石を慕い、集いました。 1910年、修善寺の大患。 1911年、博士号辞退。 1916年、死去。享年49歳。 意外と、というより、あまりにも若い。 しかし、今なお、語り継がれるに足る、十二分の生涯でありました。 (リンク画像は岩波版) ===== この展覧会の、何に圧倒されたって、その膨大な読書量です。 特に、洋書のコーナーはすごい。 倫敦時代の漱石について、勝手に「引きこもり」的なイメージを持っていましたが、とんでもない。 恐らくは、当時英国の一線の学者と同等、それ以上の質と量、密度を読破しています。 しかも、それぞれの本について、各章ごとに、端的にかつ詳細に、細かな英文でびっしりとまとめられ、 これらに対する理解も並大抵ではなかったことが伺えます。 ----- 他の言語について、漱石がどこまで出来たのか分かりませんが、 少なくとも、英訳された最先端の文献を通して、 独逸や仏蘭西の「理論」「議論」についても精通していたようです。 正直、私ごときなんて、日本語に翻訳されていたとしても、 この厚さだと、一年に一冊読むのがせいぜい…。 ===== 正岡子規との交流、死別-若き親友の訃報を、遠い異国の地で聞くのは、 いかなる心持でありましょうや。 帰国後は、帝大の教え子であった藤村操の自殺事件にも影響を受けます。 ----- そんな中、戯れに書いた『我輩は猫である』が評判を呼び、 連載中から単行本にまとめられていきます。 面白いなぁ、と思ったのが、この頃から、夏目漱石がブックデザイン、 すなはち、本の装丁にも力を入れていたこと。 『こころ』などでは、自分自身でデザインもしています。 ===== そして、『虞美人草』ブームの紹介では、夏目漱石が、いかに 当時の風俗を採り入れるに敏な、「現代作家」であったかが示されます。 風俗を採り入れるばかりか、ブームまで起こしてしまうわけですし。 今風に言えば、メディアミックスとでも言うべきかも知れません。 漱石の書いた、絵や書なども展示されていましたが、これについては割愛。 ----- そして、漱石のすごさとしては、「木曜会」に代表される、 後進を育てる-共に育とうという心意気も挙げなければいけません。 漱石の弟子、孫弟子達が、日本に与えた影響の大きさを考えると、 漱石自身の大きさが、見えてくる気がします。 ===== これまで知識として知っていた以上に、「文豪」の生涯を多角的に見せてくれた展覧会。 見応え十分、でした。 ===== 『文豪・夏目漱石 -そのこころとまなざし-』展 @江戸東京博物館 (両国) [会期]2007.09/26(水)~11/18(日) [開館]09:30-17:30(土曜日は19:30まで) [休館] 月曜日 [料金] 一般 1100円 / 大学生 880円 / 高校生以下 550円 ★★★★☆ 【公式ガイドブック】 文豪・夏目漱石 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
December 24, 2007 06:20:22 PM
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