2012/03/25(日)08:14
in 『生活と芸術-アーツ&クラフツ』展 @京都国立近代美術館
楽しみにしていたのですが、期待以上に素晴らしい展覧会でした。
別の機会に行った、父や友人から
「期待してなかったのに、素晴らしかった」
という評価を耳にしていたので、是非とも、と。
ちょうど京都は紅葉がはじまるシーズンで、
まだ「見頃」には遠かったものの、夜間拝観も始まり、
素晴らしい行楽になりました。
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さて、アーツ&クラフツ運動は、なんと言ってもウィリアム・モリスなしには語れません。
2005年に汐留ミュージアムで「ウィリアム・モリス」展に行きましたが、
その時は、あくまで、「モリスのデザイン」が中心だったので、
その後の展開、系譜をたどれるというのは、なかなか興味深い体験でした。
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最初の部屋で目に付くのは、大きな大きなタペストリー。
堂々たる獅子を真ん中に、その姿を見返る狐、警戒と畏怖をもって背中を向ける兎。
背景には、生命力溢れる緑の木々と、カラフルなのに控えめな色彩の花々。
その背景に溶け込むように、左右のそれぞれの端には、立派な孔雀と、烏。
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私自身は、その視点には気付いていなかったのですが、
モリスの功績として挙げられるのは、「アーツ&クラフツ運動」を通じて、
工業化が進む中で、手仕事の良さを見直したこと」だけでなく、
それによって、「工業化の中で失われつつあった、手仕事による伝統技法を
復活させ、新しい息吹を与えたこと」という指摘には、はっとさせられました。
もしかしたら、私がモリスに惹かれる根本にも、
この「伝統への眼差し」という意識はあるのかも知れません。
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モリスの住んでいた「レッド・ハウス」そして「ケルムスコット・マナーの家」。
写真や、調度品の展示から伺われる、モリス・センスの生活。
それは、例えば、一時期流行ったデザイナーズマンションなどがもっていた「クールさ」とは対極の、
温かみのある、家自体が息づいているかのような、居心地良い空間演出。
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アーツ&クラフツ運動は、時代も国境も越えて、広がりを見せます。
都市に展開した例として挙げられるのが、「アーツ&クラフツ展協会」の活動。
協会は、装飾芸術を対象とした展覧会を開き、担い手たちに活躍の舞台を与え、
また、その成果を商業と結びつける役割を果たしました。
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例えば、ベンソンの暖炉用衝立は、幾何学的なデザインが、面白い一品。
自らの工房で扱うだけでなく、モリス商会を通じて、販売されました。
あるいは、第一回の展覧会で出品されたルイス・F・デイのキャビネット。
「家具にデザイナーの名前を入れる」方針に、
大手家具メーカーは当初難色を示していたそうですが、
第3回を迎える頃には、参加するメーカーも増えて行ったそうです。
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本の飾り文字に見られるカリグラフィ(西洋書道)。
これも、アーツ&クラフツ運動が復興させた「デザイン」の一つです。
文字の装飾、本の装丁、文字組みのデザイン、
それらは確かに、渾然一体となって、一つの芸術世界を提示します。
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商業化と共に、運動は、美術学校としても結実していきます。
レニー・マッキントッシュを輩出したグラスゴー美術学校。
洗練されたデザインの椅子や家具の数々。
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そう、こうやって時代を下ると、段々、デザインが洗練されていき、
気がつけば、それは、モリスのデザインよりお洒落でありながら、
何か完成されてしまったような寂しさを感じさせないでもありません。
それは、アール・ヌーヴォーそしてアール・デコへと繋がる、デザインの萌芽。
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さて、目を田園地方に転じると、アーツ&クラフツ運動は、別の力を持ちます。
それは「地域伝統技術の再発見と再興」という役割であり、力です。
C.R.アシュビーは「アーツ&クラフツの本来の場所は田園」として、
工房をチッピング・キャムデンに移し、自身のデザインと、伝統技術の融合した、
ギルド作品を世に出していきます。
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アーツ&クラフツ運動の影響は、イギリス国内のみにとどまるものではありませんでした。
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当時の文化の都の一つであったウィーンでは、
クリムトなどが所属するウィーン分離派が装飾芸術を礼賛し、
グラスゴー美術学校のメンバーの作品を集めた展覧会が開かれ、
C.R.アシュビーの影響を受けて、ウィーン工房が設立されました。
このメンバーの中には、「芸術は必要にのみ従う」と語った
建築家オットー・ワーグナーも含まれています。
展覧会では、彼がデザインした椅子などが展示され、
その主張の通り、機能性とデザイン性が融合した、美しい姿を見せてくれています。
ウィーン美術工芸学校で教鞭をとっていたヨーゼフ・ホフマンがデザインした
カトラリー(フォーク・スプーン・ナイフなど)の洗練されたフォルムも、
息をのむほど美しい。
あるいは、ウィーン工房が成功した部門の一つである、ファッション部門。
モリス調のデザインが、プリントされた生地で作られた洋服のお洒落なこと。
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ロシアやデンマーク、ノルウェーにも、運動は波及します。
もともと、「安くて品質もデザインも悪い大量生産」へのアンチテーゼとして始まった
アーツ&クラフツ運動は、しかし、まだ手工業が中心だったこれらの地方では、
ナショナリズム=自分たちの足元の文化の見直し、として作用しました。
伝統のデザインを見直し、今のセンスにマッチさせて、世界に問う、
アーツ&クラフツ運動はそういう意味を担っていたのです。
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さて、目をドイツに向けると、ドイツでは、工業へのアンチテーゼではなく、
うまく工業と連携する形で、工業デザインとしてのアーツ&クラフツの展開がありました。
一連の「製品」のセンスを見ていると、思い出すのは、そう、バウハウス。
この展覧会の中では触れられていませんでしたが、
「最終的に建築を目指す姿勢」や「芸術は必要にのみ従う」という思想、
それに加えて、この工業との連携、工業にデザインを取り戻す姿勢は、
まさにバウハウスの姿勢そのものです。
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ここまででも、十分に満足のいく内容だったのに、
この先にもすごいのが待っていました。
日本のアーツ&クラフツとして、「民藝運動」が紹介されているのですが、
この質も量も、共に素晴らしくて、これだけでも十分に美術展が開けるほど。
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出迎えは、木喰作の地蔵菩薩像。
「柔和」を体現したような丸く優しい笑顔は、心を和ませてくれます。
大胆な大津絵。
雷様が落とした太鼓を拾おうとするユーモラスな画題は、
日本における、神様と民衆のかかわりの一端を感じさせてくれます。
刺し子に片口、霰釜、お盆に背負子。
生活に根付いたデザインの豊かで温かなこと。
今なお語り継がれる「YANAGI」柳宗悦の眼の鋭どさ、ではなく、
温かさと確かさが偲ばれます。
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そしてそして、再現された三國荘の十全なる美しさ。
華美ではない、質素ではない、心を満たす豊かさに充ちた贅沢な空間。
その空間を充たすのは、河井寛次郎、富本憲吉、バーナード・リーチといった
温故知新の体現者達の陶芸作品。
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紅型に触発された染織作家、芹沢けい介の「沖縄絵図六曲屏風」は、
ようやく沖縄へと渡り、過ごした時期の作品。
沖縄の地図の上に、風景と文物を文字通り「織り込んだ」この作品は、
朱が目を引く島の彩り、鮮やかな青の海の色、紅型特有の味わいが、
沖縄の地図に収斂されていく、なんとも不思議な魅力があります。
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そして、この展覧会の最後を飾るのは、棟方志功の「十大第子」です。
この素朴さと大胆さが一体となった迫力。
しかも、この大作が1週間で仕上られたという伝説。
すごい、の一言に尽きます。
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いやはや、楽しませて頂きました。
見事で素晴らしい、この秋の大収穫、な展覧会でした。
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『生活と芸術-アーツ&クラフツ展 ウィリアム・モリスから民芸まで』展
@京都国立近代美術館 (京都)
[会期]2008.09/13(土)~2008.11/09(日)
[開館]10:30-17:00
[料金] 一般 1,300円 / 大学生 1,000円 / 高校生 500円 / 中学生以下無料
作者:
ウィリアム・モリス [William Morris] (1834-1896)
レニー・マッキントッシュ [Charles Rennie Mackintosh] (1868-1928)
C.R.アシュビー [C.R.Ashbee] (1863-1942)
オットー・ワーグナー [Otto Wagner] (1841-1918)
柳宗悦 [YANAGI Muneyoshi] (1889-1961)
河井寛次郎 [KAWAI Kanjoro] (1890-1966)
富本憲吉 [TOMIMOTO Kenkichi] (1886-1963)
バーナード・リーチ [Bernard Howell Leach] (1887-1979)
芹沢けい介 [SERIZAWA Keisuke] (1895-1984)
棟方志功 [MUNAKATA Shiko] (1903-1975)
この展覧会、次は東京!
東京都美術館で、2009年 01/24-04/05開催。
そして愛知県美術館へと回りますので、お楽しみに♪