カテゴリ:演劇
先日私も出演させて頂いた、『季節はずれのクリスマス』で共演した辰巳さんが、
大阪は富田林のすばるホールでの舞台に立たれる、ということで、行ってきました。 ---------- 『ハムレット』は、言わずと知れた、シェイクスピアの4大悲劇の一つ。 “生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ” (To be or not to be, that is the question.) に代表される、名セリフの数々。 権力欲、復讐、人間の業をこれでもかと詰め込み、 時に軽妙な、時に真実をつくセリフで、物語の歯車を回し、 「悲劇」の名にふさわしい、圧倒的なラストへと導かれます。 ---------- さて、この「新屋英子一座」ですが、市民から一般参加を募り、 芝居経験のある人もない人も、一緒に練習を重ねて舞台に立つというシステム。 なんと、役者総勢62名! 富田林の市議会議員が5人も特別出演されていたり、 まさに街をあげての一大イベント。 ========== 王の死を受け、悲嘆にくれるデンマークに漂う、亡霊の噂。 古城に夜な夜な姿を現す亡霊の姿は、死んだ前王、 すなわちハムレットの父の姿に似ているというのです。 前王の跡を継いで王となったのは、前王の弟クローディアス。 前王の妃、つまりハムレットの母ガートルードは、 前王の死後か月と経たぬうちに、クローディアスの妃となっていました。 父の亡霊から、死の真相を明かされ、「真犯人」への復讐を誓うハムレット。 己の身を守り、「真犯人」達の油断を誘うため、 狂人となったふりをして、奇行を繰り返します。 その犠牲となるのが、宰相ボローニアスの娘で、ハムレットの恋人オフィーリア。 それまで、ハムレットから甘い囁きを受けていたのに、 一転、呪いと侮蔑の言葉を続けざまに投げかけられ、 彼女自身も、己を見失ってしまい、さらなる悲劇に見舞われます。 そして、オフィーリアの父、宰相ボローニアスも、 悲劇の歯車に巻き込まれることになります。 父と妹の悲劇を知り、それを引き起こしたハムレットへの復讐を誓う オフィーリアの兄、レイアーティーズ。 一方で、ハムレットは、王によってイギリスへと留学させられることになります。 しかし、その旅路には、恐ろしい罠が仕掛けられていました。 かろうじて難を逃れ、デンマークへ舞い戻ったハムレットは、 「真犯人」との対決に臨みます。 「真犯人」が仕掛ける罠、ハムレットの策略、レイアーティーズの計略。 運命の歯車が噛み合った時、大いなる悲劇が産み落とされるのです。 ---------- 今回の、鶉野(うずの)版では、『ハムレット』の物語はそのままに、 ある老女が、夢の中で見た『ハムレット』を、付き添いの二人に物語る、 という形式を取ることで、芝居の展開にメリハリをもたせ、 途中、様々な音楽やダンスシーン、オペラ、演歌などの、 それぞれの持ち味を活かした、祝祭的なシーンを挿入し、 また、最後に、「夢」という設定を生かしたメッセージを込めて、 現代に対する風刺ともなる『ハムレット』となっていました。 ========== 上演時間、実に3時間!(休憩なし!) 少ない練習時間で、しかも舞台経験のない素人さんに稽古をつけて、 これだけの芝居を完成させるのは、本当に、すごいことだと思います。 途中に挿入された(原作にはない)祝祭のシーンは、 中弛みを吹き飛ばす勢いで、それぞれにとっての見せ場が用意され、 皆さん、気持ちよくのびのびと、素晴らしい舞台を披露して下さってました。 ---------- ぶっちゃけた話、お芝居として、あるいはシェイクスピア劇として 面白かったのか、素晴らしかったのか、すごかったのか、と問われれば、 黙して語らず、にならざるを得ないのですが、 これは、一種のお祭りであり、祝祭としてのお芝居という、 お芝居本来の役割、あり方を考えれば、 これだけの人数が参加し、これだけの観客がお芝居を楽しむ、 もう、十二分な大成功のお芝居と言えるでしょう。 こんなお芝居が、14回も続いてきた、そのことが、 本当に素晴らしく、脱帽の事実です。 出演者にとっても、知り合いの出演に駆け付けた観客にとっても、 素晴らしい経験であり、思い出となることでしょう。 ---------- 特に、苦悩の主人公ハムレットを演じられた小林育栄さんは、 宝塚的なかっこ良さで、観客を魅了してくれました。 そして、何より、この一座を率いる新屋英子さん(80歳!)の、 親しみやすい狂言廻し、というキャラクターは、味と品があって、笑いも取って、 この苦悩の物語に対する、素晴らしいアクセントになっていました。 ========== 個人的には、「夢」という設定を生かした、最後のどんでん返しについては (夢だから、みんな生き返って、仲直りしてハッピーエンド) 少々不満で、そのメッセージは分るのですが、それでは道理が通らない。 ひっくり返すのなら、最初に、そして途中で犠牲になった、 罪なき者たちから、だと思うのです。 ---------- やっぱり、私自身、どこかに「勧善懲悪」にほっとする、 そういう部分があるんですよね。 その意味で、原作では、罪なき者も多く犠牲になる代り、 罪を犯した者は全て死に絶える、という作劇は、 どこかしら、何かを満足させてくれるものではあるのです。 ハッピーエンドの『ロミオとジュリエット』はあり得ても、 『ハムレット』『マクベス』の登場人物達は、 それぞれが犯した罪の重さを背負わざるを得ないだろうと。 ---------- まぁ、とは言え、『ハムレット』のラストは血生臭くて、悲劇そのもので、 決して後味の良いものではありませんから、「お祭り」としては、 後味良く、狂言廻しのワガママで明るく、というのは正しい、とも思います。 てか、それなら、『テンペスト』とか『十二夜』とか、 最初から喜劇で良いのでは? なのですけど、ね。 ========== 作・演出の鶉野昭彦さんは、この一座の座長である新屋英子さんの旦那様。 そして、この「新屋英子一座」も、来年は15周年を迎えます。 お二人ともお元気で、15周年が素晴らしい祝祭劇になり、 大きな成功を収められますことを、心からお祈り申し上げます。 ========== 新屋英子一座2009演劇公演 『鶉野版・ハムレット』 ~或る永遠の愛と復讐の物語~ @すばるホール (大阪/富田林) 2009/08/09(日) 14:00-17:00 作・演出;鶉野昭彦 出演;新屋英子 / 小林育栄(劇団 野火の会) / 総勢62名 ★★★☆☆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
August 15, 2009 07:53:02 AM
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