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「生活保護」が真のセーフティ・ネットとなる社会とは? 深刻な世界の経済危機によって、急速に信用収縮がおき、日本の製造現場を中心に非正規雇用の派遣労働者が理不尽な首切りに遭遇し、一夜にして、職を失い、住むところまで失うという事が日常茶飯に起きている。その派遣切りにあい、路頭に迷う労働者が、生活を再建するための一時的なセーフティネットとして、生活保護を申請し、受給者となっている事例が各地に起きている。
この本の著者・大山典宏さんは埼玉県所沢児童相談所に勤務する傍ら、ボランティアでウェブサイト「生活保護110番」を運営しておられる。 この本の中で、サイトにアクセスし、相談した人の内訳について、驚くべき結果を載せている。 役所の生活保護行政は、このような若い人たちは、働ける現役世代として「生活保護」受給者から排除している。 しかし、よくよく今の社会を眺めてみると、 このように「将来にたいして不安をかかえた若者」は、私たちの周りにも多々おり、社会的には層となって存在している。この若者たちが紙一重のところで、社会から排除されたまま、「貧困」状態に陥ることがあっても不思議ではない。 しかし、98年以降の日本の社会の変わりようは、このような若者を犠牲にして、経済を成り立たせてきた。 幼い時から効率よく成長することを急き立てられてきた若者が、社会でも、又、同じ目にあっている。社会は、もっと厳しく効率よく生きることを求めている。 このような若者たちが「層」となって歳をとり、老いて行き、ボロボロになるまで、放置されたら社会はどうなるのか。 仮にワーキングプア、ニートと呼ばれる人がすべて生活保護を受けるようになると、10兆1500万円の費用となる。2006年度の国家予算の自由に使える予算の6分の1のあたる額が生活保護費に消えることになる。無駄使いが指摘される公共事業費が6.9兆円であることに比べても、この金額は大きい。 しかも、お金だけの問題ではなく、そのような社会は生気なく犯罪が蔓延するだろう。住みやすい安全な国とは程遠い。 この本の著者は、ボロボロになるまで追い詰められ、社会で自立不能になってはじめて、生活保護が認められる現在の福祉行政の運用の仕方ではなく、貧困に陥り、自力では自立不可能ではあるが、支援の手をさし伸べれば自立可能な若者にあらゆるネットワークを使って支援し、社会へと復帰して自立できるようにしてゆくことが、社会をより建設的に構築しなおしていく為にも必要であると言っている。 生活保護から自立できなかった時の見込み支給額-実際の生活保護支給額+自立した人の納税額=投資効果 40歳から70歳までの生活保護の見込み支給額 30歳から35歳まで生活保護を利用したが、その後は経済的に自立。その後は年収300万円(税年額20万円) 以上のような基準で算定すると、一人当たりの投資効果は 5200万円 となる。 このように「生活保護」を単なる、可哀そうな人、生活困窮者を救うための「お情け」から、積極的に「未来の社会を作る」ための投資と考えて使うなら、納税者も納得できるし、何よりもその支援により、社会で自立して人として生きることが出来た人の喜びや生きがいは大きい。手助けする福祉に携わる人々にとってもやりがいのある仕事となる。 「福祉」の仕事が 現在の役所の「生活保護」行政は、いかに「生活保護」を受けさせないようにするかと、いうことばかりに目を奪われ、本来の「福祉」の仕事はなおざりにしている。暗い後ろ向きばかりでは、福祉に携わる人々も嫌気がさしてしまう。やりがいがなくなる。支出をいかに削減するかだけに目を奪われている今の地方や国のやり方。これでは明るい建設的な社会など作ることできないのではないか。 以前に紹介した湯浅誠著「反貧困」の中でも、「貧困」に陥り、追い詰められている若者に、人間としての生きる「溜め」を作る支援に力をいれ、さまざまな支援のネットワークを使って、「社会へ自立して生活できる」若者にしていくことに重要な意義を見出して「反貧困」の闘いを組織していくさまが描かれていた。 これらの若者の貧困問題の根底には、本来なら「生活保護」 によってではなく、教育や家庭の子育て、社会的雇用の中で、もっと取り組まなければならない問題が多く含まれている。それを社会の最底辺のセーフティ・ネットの「生活保護」のところで、解決を迫られている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.02.10 12:43:50
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