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2009.02.05
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カテゴリ:本の紹介

 「生活保護」が真のセーフティ・ネットとなる社会とは?

 深刻な世界の経済危機によって、急速に信用収縮がおき、日本の製造現場を中心に非正規雇用の派遣労働者が理不尽な首切りに遭遇し、一夜にして、職を失い、住むところまで失うという事が日常茶飯に起きている。その派遣切りにあい、路頭に迷う労働者が、生活を再建するための一時的なセーフティネットとして、生活保護を申請し、受給者となっている事例が各地に起きている。

生活保護とは何か? どうあるべきか?
この問いに答えるにふさわしい本として次の大山典宏さんのものを挙げたい。
この本によって、私自身も生活保護に関する見方、解釈の仕方が、旧弊な偏見に満ちていたものであったことに気付かされた。


    大山典宏 著  『生活保護VSワーキングプア』   PHP新書(504)
                

 この本の著者・大山典宏さんは埼玉県所沢児童相談所に勤務する傍ら、ボランティアでウェブサイト「生活保護110番」を運営しておられる。
このサイトは、累計アクセス165万件以上、相談件数3500件以上、会員数2000名以上、専門家267名が参加する生活保護問題に関して、最も、規模が大きく本格的に現代の貧困問題と対峙しているサイトでもある。

 この本の中で、サイトにアクセスし、相談した人の内訳について、驚くべき結果を載せている。
サイトの相談者(3500件以上)の実際は、20代、30代が中心で、なかでも女性の相談者が半数以上(50.4%)を占めていることである。同年代の男性に比べても、約3倍の相談者が女性なのである。
「えっ、どうして?」
この年代の若い女の子たちは、稼いだお金で気楽に買い物し、優雅に海外旅行したり、おけいこに通ったりと、独身を謳歌しているけっこうなご身分ではなかったのか。
「生活保護」のもつイメージとは最も遠いところにいる人たちではなかったのか。
「パラサイト・シングル」の典型的な年代ではなかったのか。

その女の子たちが、生活保護相談にアクセスしている。
とても信じ難い現象が起きている。
相談事例を詳しく検討してみれば、たしかに、30代の女性たちが陥っている実態は深刻で悲惨なものである。もろに社会の矛盾を集中的に浴びている。

役所の生活保護行政は、このような若い人たちは、働ける現役世代として「生活保護」受給者から排除している。
役所が「生活保護」受給者として認めるのは、病気や身寄りのない高齢者・障害者、母子家庭などであり、世間から見れば、とことん追い詰められ生きる術のない人たちというのが「生活保護」受給者なのである。
福祉事務所もそのような人以外は「水際作戦」という戦術で追い返すことになっているという。

 しかし、よくよく今の社会を眺めてみると、
中学時代から不登校のまま卒業してしまい、やることなくぶらぶらしている若者。
高校で中退して、アルバイトをし始めたが、ひとつの仕事が長続きしないで、次々に仕事を変える若者。
職場のトラブルでうつ病になり、ひきこもりのまま社会に出られない若者。
派遣社員として働いているが30歳をすぎて、そろそろ契約更新が危うい若者。
非正規雇用として、働いてはいるが、年収が200万円以下で、将来の生計の見通しがたたない若者。
性的暴力にぼろぼろにされて、社会に投げ出されている若い女性。
仕事を辞めたのと同時に寮を追い出され、仕方なくまんが喫茶などに寝泊りしている若者。などなど、、、

このように「将来にたいして不安をかかえた若者」は、私たちの周りにも多々おり、社会的には層となって存在している。この若者たちが紙一重のところで、社会から排除されたまま、「貧困」状態に陥ることがあっても不思議ではない。

自分自身で選び取った道なのだから、頑張って自分で切り拓けよ、と「自己責任」にすることもできる。
自己責任が全くないともいえない。困難を切り拓く「力強い」身体や精神をささえる人間関係を幼い時代から築いてこなかったともいえる。
その意味では社会だけの責任ではない。

しかし、98年以降の日本の社会の変わりようは、このような若者を犠牲にして、経済を成り立たせてきた。
若者たちに、放浪して学ぶゆとりを認めていない。若者が失敗を重ねて大人へと成長して行けるゆとりを認めていない。
(私たちの若いときには、道に迷って横道にそれていても、引き返すことを認めるゆとりが社会にはあった。それだけのんびりしていたのかも知れないが。)

幼い時から効率よく成長することを急き立てられてきた若者が、社会でも、又、同じ目にあっている。社会は、もっと厳しく効率よく生きることを求めている。
努力だけでは解決できない人生に出会って、もろく潰されている。

このような若者たちが「層」となって歳をとり、老いて行き、ボロボロになるまで、放置されたら社会はどうなるのか。
この人々が、50歳ぐらいになったとき、すべての者が「生活保護」を受けたらどうなるか。

この本の中で、大山典宏さんは、そのような社会を想定して次のような試算をしている。
現在の生活保護受給者の年額180万円を基に試算すると、
ワーキングプア500万人×180万円=9兆円
ニート64万人×180万円=1兆1500万円

仮にワーキングプア、ニートと呼ばれる人がすべて生活保護を受けるようになると、10兆1500万円の費用となる。2006年度の国家予算の自由に使える予算の6分の1のあたる額が生活保護費に消えることになる。無駄使いが指摘される公共事業費が6.9兆円であることに比べても、この金額は大きい。

しかも、お金だけの問題ではなく、そのような社会は生気なく犯罪が蔓延するだろう。住みやすい安全な国とは程遠い。

この本の著者は、ボロボロになるまで追い詰められ、社会で自立不能になってはじめて、生活保護が認められる現在の福祉行政の運用の仕方ではなく、貧困に陥り、自力では自立不可能ではあるが、支援の手をさし伸べれば自立可能な若者にあらゆるネットワークを使って支援し、社会へと復帰して自立できるようにしてゆくことが、社会をより建設的に構築しなおしていく為にも必要であると言っている。

経済コストとしても、一度生活保護を受給したら、死ぬまで支給し続ける、現在の運用の仕方よりも、短期間生活保護を受給して自立支援をする方が、次のような投資効果を生み出すと試算をしている。

生活保護から自立できなかった時の見込み支給額-実際の生活保護支給額+自立した人の納税額=投資効果

40歳から70歳までの生活保護の見込み支給額 
30年×180万円=5400万円

30歳から35歳まで生活保護を利用したが、その後は経済的に自立。その後は年収300万円(税年額20万円)
 支出 5年×180万円=900万円 
 収入 35年×20万円=700万円

投資効果は

5400万円-900万円+700万円=5200万円

以上のような基準で算定すると、一人当たりの投資効果は 5200万円 となる。

 このように「生活保護」を単なる、可哀そうな人、生活困窮者を救うための「お情け」から、積極的に「未来の社会を作る」ための投資と考えて使うなら、納税者も納得できるし、何よりもその支援により、社会で自立して人として生きることが出来た人の喜びや生きがいは大きい。手助けする福祉に携わる人々にとってもやりがいのある仕事となる。

「福祉」の仕事が
単なる「お情けの人助け」ボランティアではない、
あるべき未来の社会建設に参加する仕事となる。

 現在の役所の「生活保護」行政は、いかに「生活保護」を受けさせないようにするかと、いうことばかりに目を奪われ、本来の「福祉」の仕事はなおざりにしている。暗い後ろ向きばかりでは、福祉に携わる人々も嫌気がさしてしまう。やりがいがなくなる。支出をいかに削減するかだけに目を奪われている今の地方や国のやり方。これでは明るい建設的な社会など作ることできないのではないか。

 以前に紹介した湯浅誠著「反貧困」の中でも、「貧困」に陥り、追い詰められている若者に、人間としての生きる「溜め」を作る支援に力をいれ、さまざまな支援のネットワークを使って、「社会へ自立して生活できる」若者にしていくことに重要な意義を見出して「反貧困」の闘いを組織していくさまが描かれていた。
この大山典宏さんの「生活保護110番」の取り組みも、その裾野のひとつである。

これらの若者の貧困問題の根底には、本来なら「生活保護」 によってではなく、教育や家庭の子育て、社会的雇用の中で、もっと取り組まなければならない問題が多く含まれている。それを社会の最底辺のセーフティ・ネットの「生活保護」のところで、解決を迫られている。
これが日本の現状である。
これは余りにも日本の教育が偏っている、どこか変な証拠でもある。
子育てがどこか狂っている証左でもある






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最終更新日  2009.02.10 12:43:50
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