なだいなだ先生は夢の中で、どこかで見た覚えのある、十歳くらいの一人の少年と、一緒にテロ事件のテレビを見ていた。何年前だか分からないころに撮られたビンラディンのビデオが流され、アメリカがかれに報復を準備している、とレポーターしゃべっている。先生が少年にいった。「アフガニスタンて、どんな国か知っているかい」 「知っているよ。地図で見たもの。イラン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、パキスタンに囲まれた国。首都カブール。カブールの人口百万人以上」 「よくできた」 先生が褒めると、 「そんなことが答えられたって、何になるの。もっと大切なことがあるんじゃない」 という答えが戻ってきて、先生はぐっとつまった。 「もっと大切なこと?それってなんだ」 「だからさ、たとえば、ブッシュ大統領はほんとうにキリスト教徒かってことさ」 「だって、かれキリスト教徒じゃないの」 「でも、キリストが今、アメリカにいたとしたら、なんというと思う?《テロリストに報復を》なんていうかな。右の頬をぶたれたら、左の頬を出せ、といった人が」 「そりゃあ確かに、そっちの方が、アフガニスタンがどこにあるか、なんてことに正解するより大切だ」 先生がそう認めると、少年はニコッと笑った。 「じゃあ、どうして大人は、そうした大切なことを考えないの。どうして政府は報復が決まったことのように、自衛隊をどうするかなんて話ばっかりするの?」 「まいったな」と先生は答えてつぶやいた。「子どもにどう教えるべきかではなく、子どもから教わるべきだよ」 少年はいった。 「今いった以外のことで、たとえば、アメリカは民主主義の国なのかどうか、疑問だな」 「民主主義の国? そうではないかね」 「民主主義の国なら、復讐だ、テロ支援国の爆撃だ、などということを、自分ひとりで直ぐに決めないで、ほかの国の意見を聞いてから、決めるべきでしょう」 「なるほど」 「日本がテロを受けたら、どうします。きっと国連の安保理事会に提訴するでしょう。それとも自衛隊で復讐しますか」 先生は首を振った。 「それは絶対にない。世界のアメリカ以外の国は、みな国連に提訴し、そこで決められたことに従うだろうな」 「今のアメリカは、他の国のいうことは聞こうと考えない。でも、他の国に、自分のいうことは聞かせようとする。国連でみなできめたことも無視する。このあいだの地球温暖化防止のための京都議定書の無視もそうでしょう。そして、今回も安保理事会に、報復を認める決議をしろと、圧力をかけている」 「ま、それはそうだけれど、そんなこと学校でいったら、なんといわれる。やばいんじゃないか」 先生は、少年が学校でしゃべっていることを想像して心配になってきた。 「ええ、やばいです。なぜアメリカが狙われたのか。狙われる理由はどこにあるか考えよう、などといったら、周りから袋叩きに遭いそうな雰囲気です。日本でも」 「それなら、学校では少し言葉を慎んだ方がいいぞ」 先生が大人ぶって忠告すると、少年はじろりと先生を睨んだ。そしてニコッと笑っていった。 「それより小泉首相ですが、かれのやるべきことはなにか、考えましょう」 「かれは自衛隊を、米軍の後方支援、どう使うかばかり考えている」 少年は残念そうにうなずいた。 「そこで、たとえ話でいきましょう。クラス内で問題があったら、全体で討議して処分を決めるということにしている。ところが、一人とびきり強い奴がいて、自分を殴ったやつを、自分が殴って処罰する、といってきかない。その時、とびきり強い奴に、それはまずい、みなの意見を聞くべきではないか、と忠告するのがほんとうの友人というものじゃありませんか」 「そうだな。いくら強くてもクラスの一員。一人だけわがままを許すわけにはいかないな」 先生はそう答えた。 「強い奴が殴るのを助けるために、自分になにができるかと、手伝いの方法を探すのは、友人というより子分でしょう。親分を怒らせたら怖い、ひたすらそれだけを考えている」 少年の顔を先生はマジマジと見つめた。そしてついに発見した。どこかで見たことがあると思ったが、少年は六十数年前の生意気だといわれていた自分だったのだ。先生は、大人になるということは、何なんだろうと、悲しくなって目が覚めた。 目が覚めて先生は思った。今は世界の危機だ。人間はもう一度、子どものこころに帰って考えるべきだと。 素直に見よう。テロは犯罪だ。ブッシュ大統領は《これは戦争だ》といったが、戦争だったら、この攻撃はカミカゼ特攻隊と同じものになって許されてしまう。それどころか、小泉首相のような人に感激されてしまう。だが、これは戦争ではない。ブッシュ大統領は間違っている。戦争でないのに、自分たちの恨みを晴らすために、なにも関係のない一般市民を多数巻き込んだから許せないのだ。戦争だったら、アメリカは原爆を落とし、東京を焼き払い、一般市民をたくさん殺しても、《あれは戦争だったから》、といえるのだ。実際にアメリカは、そういって、罪の意識を持たないできた。アメリカはこれまで、本土を一度も外国から攻撃されたことがなかった。だから、戦争なら一般市民を殺しても仕方がないと考えてこられたのだろう。 今回の貿易センタービルの攻撃、これはテロだ。自分の命と引替えの自爆だ。だからアメリカはテロを根絶するためには、犯人たちから、自分がなぜそれほどまでの恨みを買ったのか、静かに考えるべきなのだ。 先生の耳に、BBCのレポーターがパレスチナでいった言葉が残っている。 「すべてはここから始まった。だから、すべてをここで終わらせなければいけない」 なだいなだ : つむじせんせいの処方箋 なだいなだ氏は日本で最初にアルコール開放治療を久里浜病院で行った 当時は彼が気狂い扱いされた アル中を開放病棟で?嘘でしょ?・・・狂犬を放し飼いにするみたいな事だ 世の中は常にそうで常識や思い込みに支配されると 支配されてるその事にすら気ずけなくなる 彼の行った方法・・・断酒会にAAの導入・・・抗酒剤・・・外来 この遣り方は今では全国的に当たり前になった だから今当たり前と思ってることでも 本当は何が当たり前か何てちょっとわからないのだ AAの創始者ビルWのどはユングにまで治療を受け匙を投げられた その位、重症だったのだ でもその後彼が始めた自助グループAAは今では世界で200万人の人間が通い 数億の命が救われる方法となった 人生何処でどうなるかわからないし だから面白いのだと思うのだ |