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鮭と町屋の暮らしブログ―味匠喜っ川便り

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朝の随想5 -勝負の時-

朝の随想5 「勝負の時」


村上で毎年行われる「町屋の人形さま巡り」では江戸から平成までの家に伝わるお雛様をはじめ、武者人形、土人形、市松人形など約4000体を70軒ほどの各町屋の中で展示します。
毎年3月1日から4月3日まで34日間の開催ですが、城下町の旧町人町で、生活空間である古い町屋の中に人形さまを飾り、一般の人に無料で公開するという、市民の力で始めた取り組みです。

実は、企画した私にとって、「人形さま巡り」は「たまたまこの企画が当たってくれたら」というような軽い気持ちでやったものではなく、「必ず成功させなければならない、成功させることが絶対の条件だ」という強い意志を持って臨んだことでした。



<新聞記事が大問題に>
第一回の「人形さま巡り」が始まる3ヶ月前のこと、新聞社から「村上の町屋を生かした取り組みについて書いてくれないか」と依頼されたのですが、その記事が大変問題となったのです。

その内容は「村上は全国的にも貴重な城下町、歴史文化を残し活かそうとするこの時代にあって、行政は活性化の可能性を秘めた貴重な町屋を壊し続けている。近代化ではなく、町屋を活かし、経済的にも、文化的にも村上が繁栄する計画に見直すべきだ」と商店街に浮上した大規模な近代化計画に異論を唱えたものでした。

私は行政に対して苦言を呈したつもりでしたが、これが町の人も激怒させてしまったのです。
商店街の人達が実現に向けて努力してきた計画を公の紙面で、否定してしまったことになったからです。

怒りの電話や手紙をもらい、まさかこの様な事態になるとは思わなかったのですが、町で物議をかもし、市会議員の人達まで騒がせてしまいました。
また抗議の電話が新聞社の村上支局ばかりでなく本社の担当部長にまで入り「村上は異常ですね」と言われたほど、この記事が波風を立ててしまったのです。


<背水の陣で臨む、まさに勝負の時>
この時、怒られながら私はじっとこらえました。「人形さま巡り」が始まれば、きっと町屋のもつ価値が分かってもらえると思ったからです。
町に大勢の人が訪れ、目に見える形で変化が起これば、必ず人は気付いてくれるはずと思ったのです。

しかし反対に町に変化が起こらず失敗したら、「そらみろ、町屋なんて駄目さ。
暗くて古いただのボロ家さ。」と思われてしまいます。
ですから「人形さま巡り」を絶対に成功させなければならない。
開催までの残り3ヶ月間、どうしたらより盛大に、より素晴らしく開催できるか寝ても覚めても考え、できうる限りのことを全てやり、まさに寝る間も惜しんで準備に当たったのです。

心の中で期待と不安が交錯する中、「人形さま巡り」は背水の陣で臨んだ、私にとってまさに村上の明日をかけた「勝負の時」だったのです。



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