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村井亮介の いまどきノベル

村井亮介の いまどきノベル

若君っ貴公子のご自覚をっっ 6

<若君っ貴公子のご自覚をっっ 6>


翌日、中杉本社へとやってきた孝太はブツブツと一人で文句を言っていた


「ちぇっ、土曜日は休みにしてくれるって言ってたのにハナっから土曜に仕事かよ」



「若様?」


その声が聞き取れなかった受付嬢は心配したようだ


「は」


「どうかなさいましたか?」



「いえ、なんでもありません」


一階の受付では特にこの前と違った点は見られなかった



「では、8階の会議室へ行かれませ。


一同の者、お待ちしておりまする」


「はい」


(やれやれ、この人達、どこまでが本気なんだろ、この妙な戦国ごっこは)


と一人呆れる孝太なのである





8階へとエレベーターで移動して会議室へ入ると、孝太はその異様な光景に圧倒された




みんな社長に相談役、宮瀬秘書のユリ姫まで、鎧兜を身につけているのだ



ユリ姫が駆け寄ってきた


「若様、お待ちしておりました」




「あ、いえ、遅れたのならすみません」


と謝る孝太にユリ姫は顔を近づけてきて耳打ちした


「いけませんよ、みんなここは雰囲気にひたって、


本気で戦国武将になりきってるのですから


あなたも、みんなに合わせて戦国の若君らしい口調で話してくださいね」




「あ、そうですか」


「ほら、だめだめ『承知つかまつった』とか言ってくださいね」



「承知つかまつった」


(ちぇっ、やっぱり戦国ごっこじゃねえか。


妙な大人の遊びに巻き込まれたな)



「若、そう妙なお顔をなさいますな、


その気になって参加すれば楽しめますわ。


勲功第一になれば豪華賞品ですわよ」




「豪華賞品?」


「はい、若ならそれも夢ではございませんわ」


「何がもらえるのでござるか?」


「ぷっ」


「はっ?」




ユリ姫はまた耳元で


「あなたも結構乗りやすいわね、その調子よ」


と笑いをこらえたように囁いたのだった



「姫っ」


とナカスギ社長はユリ姫を呼んだ


「はっ、ただいま」


「若に戦装束を整えてやりたまえ」


「は、承知つかまつりました


さ、若、隣の部屋へ」



「は!」


「ぷっ」


また、ユリ姫がこらえられない、といった風で吹き出す



(ちぇっ、自分が戦国言葉で話すように言ったくせに笑うのかよ)


「若、若がその気になってくださっているのが嬉しいのですわ、


・・・怒ってるのがもろに顔に出てるわよ」




「申し訳ござらん」


「きゃはは。・・・あら、ごめんなさい」


笑ってから、慌てて口元を押さえるユリ姫。



隣の部屋へ入ると孝太もシャツの上から鎧兜を着せられた


「似合うわね、さすが剣道四段ね、


あなたなら勲功第一の可能性はあるわね」



「あ、戦国言葉じゃないんですか?」


「二人きりの時にはいいじゃない。


あなたと私の仲よ。


昔は夫婦だったんだから・・・くすっ」



「・・・」



「あら、わかりやすい子ね、顔が真っ赤よ」



「夜討ちって何をするんですか?」


「くすっ、タケヤ・ソフトウェアの本社ビルを襲撃するのよ」


「えっ、襲撃?


マジで?」


「ううん、サバイバルゲームみたいなものよ。


向こうの参加者は20名、こちらも20名


そして、敵の大将を・・・両社の社長ね、討ち取ったら勝ちよ。」




「討ち取れるんですか??」



「そうね、夜明けまでに討ち取れなかったら引き分けね。


今までに9戦9分けよ」




「なるほど。


でも討ち取った判定はどうやるんですか?」


「そこに特製の刀があるわ、刃の部分に触ると赤いインクが出るような仕掛けになってるの」




「ああ、赤いインクをつけられたら戦死ですね」


「そうそう、頑張ってね」



「ふふふ、結構やる気になってるわね、


そういう乗りやすいあなたって好きよ」


と言ってユリ姫は孝太の頬に軽く唇をあてた



「あっ、なにを」


とムッとする孝太。赤面しつつだ


「合戦の景気づけよ。


いいじゃない夫婦なんだもの」


(やれやれ。嬉しいような気もするけど、


大丈夫なのかな)



「さ、若、まずは会議室へと戻りましょう」



「うむ」




会議室へ入ると総決起集会が始まった。


社長の


「いざ、憎き宿敵、竹屋を討ち取らん」


と言うかけ声に一同、刀のおもちゃを振り上げ、


「えいえいおう~~~」


と気合いを入れるのだ





移動のバスの中では皆、静まり返っていた。


孝太にはこの人達が痛いくらいに本気でやっているのがわかった。


(勲功第一とか目指してみるかな)


と、内心まんざらでもない孝太なのだ



つづく


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