それは、美しい旋律だった。
ショパンコンクールに挑戦した、17歳の青年。彼は盲目だが、それを物ともせず、ピアノに打ち込んでいる。
私も、彼のようにピアノを愛していた。憎からず思っていた。
いつまでも弾き続けたかった。
異国の地での兄の病態の急変に気を揉んで、それを理由にしてピアノから遠ざかったのは自分の弱さだ。
わかっているはず、なのに。なのに、彼が羨ましい。
私にも、彼と同じだけの情熱があった。ピアノが弾ければ、それで良かった。幼稚園から続けてきた、プライドもあった。
なのに、離れてしまえばあっという間に月日が過ぎる。ピアノを止めて2年が経とうとしている。
どうして、止めたんだろう。自己嫌悪。
彼のように、ただ只管に我武者羅に、ピアノを追い求めれば良かったのかな。
現状を打破したいけど、もう手遅れ。もう私の手は、二度とあの頃のスピードで曲を奏でることはない。
手に入れることは難しいのに、手放すとあっという間に離れていく。
世の中は往々にしてそういう風に出来ているのだが、これ程までに切ない真実はない、と思う。
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Last updated
2005.11.02 23:09:23
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